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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
24/66

episode:02-11










 その淡い緑の瞳はうつろだった。いつも強い光を宿しているその瞳の不気味さに、アレックは震えた。すぐに青年の攻撃が襲ってきてアレックは後ろに飛びのいた。

 魔導師はわかっているのだろう。ウィルはリリアンを攻撃できない。実際に彼は動きを止めた。


「リリアン……! エリザベス!」


 ウィルがリリアンに向かって叫ぶが、彼女のうつろな瞳は何も映していない。青年と剣を交えながらちらちらと目をやるが、リリアンが正気であるとは思えなかった。ただ、その銃口をウィルの方に向けている。


「……一つ問う。お前がリリアンを洗脳したのか」


 ウィルが低い声で尋ねた。これは本気で怒っている。魔導師はそれに気づいたのか、気づかないのか、にやりと笑った。


「ああ。その通りだ。七年前、私が当時のカーライル侯爵夫妻を殺した時、その娘に目撃された」


 アレックが繰り出した回し蹴りが青年のわき腹にヒットしたが、青年はぐっと腹に力を入れて耐えた。アレックはちっと舌打ちしつつ距離をとり、ウィルの様子をうかがった。


「殺してしまおうかとも思ったよ。だが、利用することに決めた。私には軽いより能力があってね。完全ではないから確実とは言えないのだが、この娘が将来、ブルターニュ王に接近することになることはわかった」


 ブルターニュ王……あいまいな言い方だと思った。現在のブルターニュ王は女王アーサーであるが、そうでない可能性だってあった。内戦時の国王は、アーサーの父から王位を簒奪したアーサーの従兄であった。アーサーが王位を簒奪し返さなければ、その従兄が今、ブルターニュ王だった可能性だってある。

「王の近くにいる人間だ。利用しない手はないだろう?」

 魔導師が目を細め、あくどい表情で笑った。アレックは青年に視線を戻し、違和感に気付いた。そう言えば、さっきから攻撃がない。むしろ心配になってきて、アレックは青年の顔を覗き込んだ。

「!?」

 びっくりした。突然、青年が頽れたのだ。

「何っ!?」

 魔導師が驚きの声をあげていることから、彼がやったことではないのだろう。アレックはとっさに青年の息があるか確認した。よし、大丈夫。


「何をしている、エリザベス! 撃て!」


 焦ったように、魔導師は残っているリリアンに向かって叫んだ。そして、彼女は確かに発砲した。言われたとおりに、撃った。

 ただ、撃ちぬいたのは兄ウィルではなく、魔導師の肩だった。

「な……っ。お前……!」

「次は頭を撃ちぬく」

 それ、死ぬやつ。うろたえる魔導師に向かって銃口を突きつけるリリアンに、驚きを通り越して冷静につっこんでしまうアレックだった。心の中で、だけど。

「リリアン、お前、洗脳されてたんじゃ……」

 ウィルがうれしいやら戸惑いやらで震えた声を上げる。リリアンはしれっと言った。

「ああ、まだ解けていない」

「……じゃあ何で動けてるんだ……」

 アレックも思わず口に出していた。リリアンは冷静に言う。


「そもそも、私もあなたと同じ力を持っているんだ。あなたがかけた精神干渉魔法に絡ませるように、魔法を上掛けするのは難しくなかった」


 時間はあったからな、とリリアン。いや、普通そんなことはできないだろう。確かにリリアンは精神干渉系魔法を使用できるが、実際に使ったところはほとんど見たことがない。一時的なマインドコントロールがせいぜいだった。

 後から説明してもらったところによると、もともとかかっていた精神干渉魔法の魔法式をわずかに書き換え、それを一時的に魔法として上掛けすることで自分のコントロールを取り戻した、らしい。うん。意味がわからない。同じような方法で、操られている青年の意識を奪ったのもリリアンだった。

「あなたが何をしようとしていたのか知らないが、あなたが私の両親を殺したのは事実だ。望むなら、一番苦しい方法で殺してやろう」

「お、落ち着け。な?」

 さすがにウィルが止めに入った。リリアンは兄に視線をくれもしない。

「さあ、覚悟はいいか?」

 アレックとウィルからは、魔導師の顔が恐怖に歪むのが見えた。いったいリリアンはどんな表情をしているのだと思うが、怖くて見られない。

 リリアンの指が引き金を引く。銃撃音が響き、魔導師が倒れた。が。


「……死んでない?」


 ウィルが覗き込んで言った。リリアンは拳銃を降ろして静かに言う。

「精神干渉魔法をかけただけだ」

「……だけだ、じゃねぇだろ……」

「私の精神干渉能力は低いから、動揺させる必要があった」

「にしても、もっとやり方が……いや、もういいけど」

 ウィルがはあ、とため息をついた。リリアンが拳銃のセーフティロックをかける。ウィルは魔導師を、アレックは青年を担ぎ上げた。

「頼むからリリアン。実は洗脳されてました、とか言って後ろから撃たないでくれよ」

「階段から蹴り落としてもいいか?」

 なぜこの兄妹はこんなにも暢気なのだろうか。やり取りが軽すぎる。ウィルは「やめてください」と騒いだ。

「陛下!」

「あ、ウィル! 突然みんな気を失って……って、リリアン!?」

 アーサーがウィルと一緒に出てきたリリアンを見て驚きの声をあげた。リリアンが目を細め、距離をとるようにアレックの陰に隠れた。

「なんでお前がここに」

「成り行きで」

 セオドールの疑問にリリアンは適当に答えた。まあ、説明はどう考えても後だ。

「アレック、リリアン見張ってろ。エイミーとマティは俺と一緒に屋敷の中の確認に行くぞ」

「りょ、了解」

 エイミーとマティアスがウィルに呼ばれて彼の方に走っていく。他にも敵、もしくは操られているものがいないか確認しに行くのだ。そこそこ広い屋敷ではあるが、確認にそれほどかからないだろう。


 アレックは自分が担いできた青年と、ウィルが連れてきた魔導師を念のため縛り上げる。屋敷の使用人を順番に寝かせていたクライドとアーサー、セオドールが駆け寄ってくる。

「リリアン、大丈夫なのか?」

「っていうか、どうしてここに?」

「操られていたのでは?」

「一度に質問するな」

 リリアンがきっぱりと言った。一時的に操られていたとはいえ、その内面は変わっていないらしい。

「まだ洗脳は解けていないから、アーサーは近づくな。アレックは私が妙な動きをしたら取り押さえろ」

「承知している」

 アレックが深くうなずいた。アーサーが不服そうにしながらもリリアンから少し距離をとる。まあ、セオドールがかばうように後ろに下げたからだけど。


 広いエントランスで離れて待機しながら会話すると言う妙な状況である。アレックはリリアンと、アーサーはクライド、セオドールと一緒に待機していた。

「え、なんでそんなに離れてるんですか」

 ぱたぱたと戻ってきたのはエイミーだった。その後からマティアスとウィルが続く。

「ここにいる使用人で全部みたいだな。……というか、リリアンは自分を警戒しすぎだろ。アレックの気持ちも考えろ」

 ウィルはこの配置がリリアンの指示であると見抜いたようだ。呆れたようにそう言った。

「女王陛下を危険な目に遭わせるわけにはいかない。私を無条件で止めてくれそうなのがアレックしかいなかった」

「じゃあセオドールとか」

 と、マティアスが提案した。そこで自分を上げない辺り、彼もリリアンを止められる気がしないのだろう。彼も昔からの付き合いで、リリアンのことは妹のようにかわいがっているから。

「セオドール様だと、おそらく私が伸しちゃう」

「リリアン、貴様……っ」

 セオドールは怒りに肩を震わせたが、ありえないことではないのでそれ以上は自制したようだった。腕力だけならともかく、本格的に戦闘となれば、経験値的にもリリアンに分があるだろう。


「で、どうしますか、陛下。ウィルによると、もう敵はいなさそうですが」


 クライドが強制的に話を戻した。そう言えば、今日は晩餐会のためにここに来たのだった。

「……いや。招待客の安全のために、取りやめにしよう。今年は別の日に宮殿で開くことにする。一時的に、この屋敷は閉鎖しよう」

「御意に」

 クライドがうなずいた。てきぱきと指示を出すのは、やはりウィルだった。セオドール、がんばれ。

「とりあえず今日は! リリアンの話を聞く!」

 力を入れて叫んだアーサーだが、リリアンにさらりといなされる。

「一緒には寝ないからな」

「……つれない」

「エイミーを連れ込め」

「巻き込まないで!」

 女性陣がとても楽しそうである。というか、リリアンはどう見ても操られているように見えなかった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


第2章も次で終わりです。


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