episode:02-1
今日から第二章!
今更な事実かもしれないが、リリアンとブルターニュ女王アーサーは友人である。アーサーに言わせると『親友』なのだそうだ。女王に親友と言ってもらえるのはとても名誉なことではあるが、リリアンとしては自分が友人でいいのだろうか、という思いもある。
だから、こんなお願いをされるのも初めてではない。
「なあ、頼む!」
目の前でお願いのポーズをしている女王に、リリアンはどうツッコミを入れたものか迷った。いや、そのお願いポーズ自体は可愛らしいのだが。
女王の要求としては、「一緒に街に買い物に行かないか?」ということである。リリアンはいつも通りアーサーの隣にいるクライドを見上げた。
「……まあ、サー・クライドが一緒では目立ちますからね」
「リリアン。前から思っていたが、お前、俺に対してきつくないか?」
クライドがショックを受けつつも言った。リリアンは何も言わずに肩をすくめるが、その肩をガッと強引に抱かれた。
「このちょっと毒舌なところが可愛いんだろ。心の中ではフォロー入れてるんだよ、こいつも」
と、肩を抱いてきた相手、ウィルがリリアンの頭を撫でる。というか、リリアンにこんなことをするのは彼くらいだ。というか、彼の発言が全くフォローになっていない件について。
「まあ、ウィルも同じくらい目立つが」
「……」
ウィルがクライドと同じくショックを受けた様子でリリアンの肩に顔をうずめた。むしろ何故六・三フィートもある男が目立たないと思った?
「……まあ二人とも、リリアンの毒舌は今に始まったことではないだろう? それに、目立とうが目立つまいが、私は女の子同士で出かけたいんだ!」
その勢いのよい発言をする様子が、すでに一般的な女性から逸脱していると女王は気づいているのだろうか。言ってはなんだが、アーサーはなかなか男気のある性格をしている。
「ですが! 陛下とリリアンだけで街を歩くなど、危険です!」
「心配性だなぁ、クライド。私もリリアンもそこそこ強いよ?」
「そうではなくてですね! 陛下もリリアンも美女です。変な族に声をかけられたらどうするんですか!」
誰も、アーサーとリリアンの身体的な危険を心配しないだろう。なぜなら、二人はパラディンとしてやっていけるくらいの戦闘力があり、状況判断能力にも優れる。問題は、美女と見て声をかけてくるような連中だと判断したのだろう。
「では、私が男装していこう」
「リリアン、先ほど『女の子同士』と言ったと思ったんだが」
「なるほど。確かに」
言われた気がする。ということで引っ込んだ。いつの間にか復活したウィルが、リリアンの頭を胸に抱えつつ言った。
「いいだろ。もう二人とも可愛い格好していけば。後ろから俺達がこっそり護衛すればいい」
「ウィルとサー・クライドがこっそり尾行できると言うのなら見てみたいものだが」
「そうか~。なら見せてやるぞ、この減らず口め!」
などと言いながらウィルはリリアンを髪をわちゃわちゃとかき乱す。さすがのリリアンもウィルの鳩尾に肘を叩き込んで脱出を図った。手荒いが、よくあるのでアーサーもクライドも動じない。
なんだか墓穴を掘った気がしないでもないが、めったにわがままを言わない女王のおねだりなので、最終的に周囲は折れる。というわけで、リリアンも珍しく女装である。
萌黄色の襟のあるワンピースに足元はブーツ。念のため、スカートの下に武器をいろいろ仕込んでいるのはご愛嬌。翻る裾に金色の刺繍がなされたセンスの良い外出着である。いつも下ろしたままの髪も、短いが軽く編んでピンでとめた。
「リリアン、よく似合っている。自分で選んだのか?」
「いや、ウィルのチョイス」
リリアンの背後でウィルがぐっと親指を立てた。こういう反応が親父くさいと言われているのを知らないのだろうか。顔立ちが似ていると言われるだけあり、兄ウィルもかなりの美形なのに、残念である。
リリアンの返答に、アーサーは「ウィルはセンスがいいな」と感動している。むしろ、彼女の背後で呆れているクライドの反応が正しいと思うのだが、みなさんいかがだろうか。
別にウィルは少女趣味なわけではなく、単純にシスコンすぎるのだ。おそらく。
「いや、しかし……これでは妙な男に付きまとわれたりとか……」
やはり行かせたくないのか、クライドが言い募る。まあ確かに、真っ白のブラウスにウエストを締め上げるタイプの赤いロングスカートをはいたアーサーはとても可愛い。長い金髪を顔の横でお下げにしているのもそれに拍車をかけている。
明らかにリリアンとタイプが違うが、だからこそ目をひくだろう。アーサーがリリアンの隣に寄ってきて囁いた。
「私は、この二人の方が目立つと思うんだが、どうだろう?」
「私も同意見ですね」
リリアンもささやき返す。お忍びの護衛と言うことで、クライドとウィルも私服であるが、体格の良さから一般人ではない感がすごい。ウィルは身長の割に細身であるが、長身ハンサムなのでやっぱり目立つ。
「安心しろ、もう二人動員しておいた」
と、ウィルが待機していたアレックとエイミーを招きよせる。この二人も私服だ。エイミーの顔がちょっと呆れている。
「この二人なら一緒に歩いていても微笑ましいカップルに見えるだろ」
「……微笑ましいかは判断できないが、ウィルたちよりは明らかに自然だと思う」
少なくとも、ウィルやアーサーから醸し出されるような貴族のお忍び感はないので、自然に街に溶け込めそう。
「そう言えばリリアン。セオドール様が悪態をついていたぞ」
「いつものことだ。放っておけ」
アレックから情報提供を受けたが、リリアンはしれっとそう言った。何気にアレックは、セオドールと仲良くしているらしい。
「……まあとにかく。準備もできたし、行こう。時間が無くなってしまう」
「了解」
仕上げにアーサーはつばのある帽子をかぶり、リリアンは日傘を開いた。アーサーがリリアンの日傘を見上げる。
「どうしてリリアン、日傘にしたんだ?」
「これは仕込み剣です」
リリアンが即答すると、アーサーは唖然とした表情でその日傘を見つめた。白い日傘で、レースで縁どられている。リリアンはしばらく間を置いてからネタ晴らしした。
「冗談です」
「そうか。あービックリした」
単純にウィルに持たされただけなのだ。その格好なら帽子より日傘! という理論に基づき、日傘がチョイスされたらしい。ウィルの趣味全開である。着るリリアンもリリアンだが。
「それじゃあ行こう、リリアン」
アーサーが手を差し出すので、リリアンは傘を持っていない方の手をだし、つないだ。ウィルの「可愛いなぁ」という変態的な声聞いた気がしたが、聞かなかったことにした。クライドは見ず知らずの変態を気にするより、まずは隣の変態を気にした方がいいと思う。
「……クライドが暴走しないといいんだけど」
街まで降りたアーサーが不安げに言った。リリアンは少し考えてから言った。
「……では、暴走しそうだったら私が魔法で眠らせましょう」
苦手だけど。アーサーは笑ってつないだ手を揺らす。
「リリアンは言うことが過激だな~」
「実行するのは半分くらいですが」
半分も実行するのか、というセオドールのツッコミが聞こえてくるようだった。
アーサーは目を細めて微笑み、それから元気に言った。
「いいかリリアン。私とお前は友達だ。だからそのようにふるまうように」
やたらとかわいらしい命令に、リリアンも思わず微笑み「わかった」と答えた。
「よし、では、行こう!」
友人同士として振る舞っても、どうしても若干の違和感の抜けないアーサーである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この章はセオドールの出番少な目です。アーサーとリリアンはいいコンビ。リリアンは昔、アーサーの影武者でした。




