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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
11/66

episode:01-11










 数日後、リリアンは本当にセオドールを連れて軍事学校の実地訓練に来ていた。これは討伐師候補の者を五人から七人の班に分けてブルターニュの各地のヴァルプルギスが出そうだと観測されている場所に赴くのだが、リリアンたちは立場上、あまり遠くへはいけないので、王都近郊で行われる実地訓練に参加していた。


「それでは、今日はよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ。万が一のことがあってもリリアンがいれば安心ですね」


 と微笑むのは年若いパラディンだ。ちなみに、名をジョニーと言う。二十代半ばの男性討伐師で、こうして実地訓練で学生たちを率いるくらいの実力はある。

 大体、実地訓練はよほど危険な場所でない限り指導員は一人。今回はリリアンが一緒にいるので実質二人だが、リリアンはセオドールの面倒を見るので、差し引きゼロだろう。実地訓練では被害皆無とは言えないが、基本的に安全第一でやっている。

 学生は十六歳から十八歳の少年少女だ。軍人学校の教育機関は四年間であり、十二歳から十四歳の間に入学し、学んで、卒業するのだ。もちろん、この段階を踏まなかった討伐師も多い。リリアンもその口だ。おそらく、大学まで出ていると言うセオドールも、基礎訓練は受けているだろうが軍人学校の卒業生ではないはずだ。

「姐さん。姐さんも戦うの?」

「君たちの実地訓練だろう。自分たちで戦うべきだ」

 実際、リリアンはよほど危なくない限り手は出さないつもりだ。そもそも、リリアンはそれほどパラディンとしての力が強いわけではない。

 学生たちは「ええ~」などと言うが、それでもちゃんとわかっている。自分たちの実習で、リリアンたちはただの見学なのだと。


「……私たちは本当に見ているだけなんだな?」


 及び腰のセオドールが尋ねてきた。この質問もすでに三回目である。

「もちろんだ。さすがに、公爵家の若君に戦えとは言わない」

「そもそも、狙ってヴァルプルギスは出てくるものなのか……?」

「まあ、これだけパラディンがあつまっていれば、あるいは」

 ヴァルプルギスはエクエスの力を持つ肉を好む傾向があるので、これだけパラディンがいればあるいは寄ってくるかもしれない。

「なんだと……!?」

「ここまで来てしまったのだから、そろそろ覚悟を決めればどうだ。安心しろ。私が命に代えても守ってやる」

「リリアン、お前……」

「そうしないと、私の首が飛ぶ」

「……」

「冗談だ」

「まったく冗談に聞こえないんだが!?」

 無表情で繰り出されるリリアン渾身の冗談に、セオドールが全力でツッコミを入れた。ジョニーからうるさいよー、と苦情が入る。


 一応、リリアンもセオドールも黒い戦闘服だ。危機対策監室の制服でもあるので、紋章も入っている。二人とも剣をもってはいるが、使うことになるかは謎だ。さらにリリアンは拳銃も持っている。弓矢はさすがに持ってこれなかった。

 セオドールの顔色が悪い。少しかわいそうな気もしてきたが、この遺跡群にヴァルプルギスが近づいてくる気配がした。おそらく、王都方面から近づいてくる。王都には一体何人のヴァルプルギスが潜んでいるのだろうか。

「ちょっと失礼」

「なん……っうわっ」

 リリアンがセオドールを思いっきり引き寄せたので、彼はバランスを崩した。そのまま地面につぶれる。先ほどまでセオドールがいたところに、ヴァルプルギスが着地した。飛べる奴らしい。


「何をする……っ!?」


 さらにリリアンがセオドールを担ぎ上げて後ろに下がったので、セオドールは息をつめた。

「姐さん、男前!」

「というか、さすがに重いな」

 と、リリアンは一応そっとセオドールを降ろした。彼は顔を真っ赤にして叫んだ。

「何をするんだ!」

「運んだだけだ。それとも、ミンチになりたかったか?」

「……あれがヴァルプルギスか」

 思ったより冷静な反応をセオドールが見せた。ジョニーの指示に従い、学生たちがヴァルプルギスを倒しにかかるところだった。

「初めて見たのか」

「いや、遠目に一度見たことはあるが……」

 戦っているところを見るのは初めてか。


「では、よく見ておけ。あれがヴァルプルギスと戦うと言うことだ」


 圧倒的にこちらの人数が上回っているのに、すでに負傷者が出ている。セオドールが顔をしかめる。


「……あんなに?」

「慣れてくれば一人でも倒せたりはするが、基本、ヴァルプルギスと言うのは人間よりも運動能力に優れているからな。二人から三人で組んで戦うものだ」

「ああ……アレックとか、エイミーがそうだったな」

「その通り」


 やはり、セオドールは呑み込みはいいので頭はいいのだ。その使い方を覚えれば調整官としてだけではなく、普通に政治方面でも活躍できそうだ。

 学生たちがジョニーの指示で動いているのを見て、セオドールがリリアンに尋ねた。

「この実習では、危機対策監室は指示を出さないのか?」

「よほど街や市民に被害が出てまずい、という場面でない限りは、基本的にノータッチだ。学生たちは指導のパラディンの指示に従うことになっている」

 そのため、中堅のパラディンは指導力や統率力も求められる。パラディンは集めれば優秀な軍隊となるだろう。

 今のところ、ジョニーの指示が手堅く、死者は出ていない。怪我人はどうしても出てしまうが、しかし、手堅いだけではヴァルプルギスにとどめを刺せない。

「どうやってヴァルプルギスにとどめを刺すかは、現場の判断に任される。私たちがどれだけ指示を出しても、やはり現場にいると見えているものが違ったりするわけだからな。だから、調整官が示すのは基本戦術。そのパラディンがどう動いても、その作戦が成功するような戦術を立てる必要がある」

「……何気に難易度が高いな」

「慣れてしまえば難しくはない」

 作戦司令室である危機対策監室は、ヴァルプルギス戦だけではなく、そのほかの危機状況の作戦指示も出しているので、そちらはまたちょっと趣が違う。しかし今は対ヴァルプルギス戦についてだ。


「その基本戦術が間違っていれば、パラディンはその場で命を落としてしまうかもしれない。それくらいの力の差なんだ。だから、調整官は注意深く状況を見て、解析し、作戦を立てなければならない。相手がヴァルプルギスでなくても基本的な考え方は同じだ。パラディンも軍人たちも、調整官に命を預けているんだ。その彼らの命を奪うような作戦を立てるわけにはいかない」

「……だが、そうは言っていられない時もあるだろう」


 反論したくなったのか、セオドールが言った。リリアンは「ああ」とヴァルプルギスから視線をそらさずにうなずいた。


「もちろんだ。実際、私は自分の作戦で数百人を殺したことがある。戦時中の話だ」


 だが、だからこそ思うのだ。そう言う作戦はたてたくない。指示する方も、気持ちのいいものではないから。当たり前だけど、一番大事なこと。

「優先順位を見誤ってはいけない。百人の命をかければ国中が助かるのに、その百人の命を優先することはできない。時には非情な決断も下さなければならない。しかし、できればそんなことはしたくない。だから、私たちはできるだけ『誰も死なない作戦』を立てる。これが、危機対策監室の基本方針だ」

「……わかった、ということにしておく」

「今はそれで満足しておこう」

 セオドールが本当に理解したかは不明だが、話は聞いてくれたので記憶には残るだろう。実際の経験と結びついた記憶は強く残る。


 リリアン自身も、矛盾したことを言っている自覚はある。しかし、実際にそうなのだ。軍人たちを殺さないような作戦を立てるのも調整官だし、切り捨てる選択をするのも調整官。ヴァルプルギスと戦うために作戦を提供するが、その指揮を実際にとるのは現場の人間。調整官になるには、戦略的思考も必要になってくる。

 やっぱり、自分は教官役に向いていないと思う。彼女自身も、この思考の大半は現場で養ったものなので、説明しようがないのだ。


「……まあ、ゆっくりなじんでいけばいいだろう。しかし、独善的な判断はするな」


 リリアンはセオドールの方を振り返り、うん、とばかりに目を細めた。彼が不思議そうな表情になる。

「どうした?」

「いや……」

 とか言いながら拳銃を抜くので、セオドールが焦る。


「ちょっと待て! 私は何かお前を怒らせるようなことをしたか!?」


 リリアンは応えずに、銃口をセオドールの方……正確には、その肩の向こうに向けた。すぐに引き金を引く。

「伏せろ」

「撃つ前に言え!」

 確かに。それは兄にもいつも言われていることだ。

 六弾すべて撃ちきったところで、セオドールが振りかえり、リリアンに尋ねた。

「あれもヴァルプルギスか?」

「まあ、そうだろうな」

 やはり銃弾は浄化能力が低い。リリアンは腰の剣を引き抜きつつ、セオドールに尋ねた。

「やってみるか?」

「……足を引っ張ると思う」

「的確な判断だ」

 などとやはりひどいが、リリアンも別にパラディンとしての腕が優れているとか、そう言うわけではない。彼女はほぼ魔導師なので、むしろ討伐能力は低いかもしれないくらいの勢いだ。


「悪いけどリリアン! そっちで何とかして!」


 余裕が無くなってきたらしいジョニーが叫んだ。まあ、初めから頼る気はないリリアンは剣の柄を両手で握った。

「……あまり、得意ではないんだが」

 そう言いながらも、彼女は剣を斜め下から振り上げた。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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