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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
1/66

episode:01-1

当初予定していたタイトルから変更しました。

『your Memory』から『What Remain』

これで合っているかわかりませんが、残されたもの、という意味にしたかった……。

新連載です。よかったら暇つぶしにでも。









 アレック・フレインは新人の同僚であるエイミー・シンと共にブルターニュ王国の首都ロンディニウムに戻ってきていた。そのまま、政庁でもある城、アルビオン宮殿へ向かった。

 二人は宮殿に入ってまっすぐ危機対策監室へ向かった。宰相直轄の部署であるここに用事があるのである。


「今戻った」

「ああ、お帰り」


 ちょうど危機対策監室の前で行き会った痩身の人物に、アレックはそう言った。アレックも答えた人物も淡々とした口調である。それでも、二人の間には眼に見えない信頼がある。


「早かったな。もう少しかかるかと思ったんだが」


 廊下の壁に寄りかかって腕を組み、その人は言った。アレックは「ああ」とやはり平坦な口調で言う。

「空振りだった」

「それは残念だ。報告書は出せよ」

「了解した」

 アレックは淡々とうなずいたが、隣で聞いていたエイミーがピッと相手を指さした。

「前々から思っていたけど、いつもいつも偉そうなのよ、あなた!」

「そのセリフはすでに五回目だ。ナイツ・オブ・ラウンド第十二席、デイム・エイミー」

 呆れているのかもわからないほどの平坦な口調で返された。これが通常営業なのである。
















 アレック・フレインはブルターニュ王国のナイツ・オブ・ラウンド第七席を賜る騎士である。父は魔導師、母は騎士侯であったが、騎士の爵位は一代限りのものであり、アレックが『サー』と呼ばれるのは彼自身の実力の結果である。黒髪にヘイゼルの瞳をした端正な顔立ちの青年だった。

 同僚のエイミー・シンは下級貴族の出である。ひと月ほど前にナイツ・オブ・ラウンド第十二席として配属されたばかりだ。騎士にしてはやや小柄。金髪にとび色の瞳をしたなかなかの美少女である。

 さらに、危機対策監室の前で出会ったリリアン・カーライルはカーライル侯爵の姪にあたる。長身痩躯の中性的な美人で、たまに男と間違われる優秀な作戦指揮官である。肩までの琥珀色の髪に淡い緑の切れ長の目をしており、ニコリともしないので少々怖く感じることもあるだろう。


 今回、エイミーの初陣も兼ねて行った出張は、危機対策監室が関係しているため、彼女に報告書を提出する義務がある。それはエイミーもわかっているはずだが、リリアンの物言いが少々きついため、反感を覚えるのだろう。

「もうっ。はずれだったのに、なんで報告書を……」

「統計を取るために必要だ。あきらめて書け」

「ああっ。本当に腹立つ!」

 少々リリアンが大人げないような対応だが、実のところ、この二人は年齢一歳差である。リリアンとアレックは同い年、エイミーはそのひとつ年下だ。

 文句を言いながらもがりがりと報告書を書くエイミーは、根は素直なのだ。リリアンに対してこうも文句を言うのも、彼女がこれくらいで怒らないとわかっているからだろう。

「アレックもボーっとしてないで早く書け」

「……ああ」

 ボーっとしていたアレックも報告書に向き合う。リリアンはそんな二人にカフェオレを出した。経験上、二人がコーヒーを飲めないと知っているのだ。


 二人が報告書を書いている間に、リリアンも自分の仕事を片づけ始める。危機対策監室はいくつかの部屋に分かれており、リリアンのデスクは一番手前の部屋の一番奥にある。

「リリアンさん。ちょっといいですか」

「なんだ」

 不機嫌そうにしながらもリリアンは声をかけてきた同僚の話を聞いている。彼女にもいろいろな肩書があるが、今のところ名で呼ばれるところを多く見かける。


「終わったぁ!」


 エイミーが両手をあげて終了を宣言した。リリアンが立ち上がり、報告書を回収に来た。

「ご苦労様。どこかで君の初陣を見直さなければならないな」

「わざわざ訓練をしなくたって、ぶっつけ本番でも大丈夫よ!」

 と、気合十分なエイミーであるが、リリアンはつれない。

「馬鹿を言うな。そんなことができるのはアレックくらいだ」

「俺か」

 サインを書こうとしていたアレックは顔をあげてリリアンのきれいな顔を見た。それから気づく。

「疲れているのか」

 もともと色白なせいもあるだろうが、輪をかけて顔色が悪い気がした。リリアンは「新人が使えなくてね」とあっさりと答えた。

「その新人だって必死なのよ」

「無理だ。あれはもう擁護できない。それに比べてデイム・エイミーはいいな。手がかからなくて」

 褒められたエイミーがちょっと照れた。しかし、もともとの意地が出たのか、すぐにふんと鼻を鳴らした。


「そんなこと言って機嫌を取ろうとしても無駄なんだから!」


 リリアンはそんな面倒なことをするような人ではないが、とばっちりを受けそうなので黙っておくアレックである。

 アレックもさらっと署名をして報告書をリリアンに手渡した。そこに、若い男性職員がやってきてリリアンに声をかけた。

「リリアンさん!」

「どうした」

 報告書を手に持ったまま、リリアンは相変わらずクールに尋ねた。男性は「出ました!」と叫ぶ。

「ヴァルプルギスか。今行く」

 リリアンはアレックとエイミーの報告書をファイルに挟んで自分のデスクに置くと、そのまま奥の観測室に入っていった。アレックとエイミーもそれを追う。ナイツ・オブ・ラウンドだとこういう時止められないのが得だな、と思う。


 観測室は文字通り、王都ロンディニウムの状況を観測する場所である。言っておくが、監視ではない。『観測』しているのだ。人間を食らう化け物、ヴァルプルギスの出現を。

 ヴァルプルギスは人間に擬態し、人間を襲い、食らう生き物だ。見た目は人間に見えるし、肉体は人間より強靭。しかも、変化後の姿がグロテスクな場合が多い。いろいろな条件が重なって、非常に倒しにくい生き物である。


 しかも、ヴァルプルギスは普通の人間には討てず、ヴァルプルギスを浄化する力を持つ者だけが倒すことができる。それらの力を持った人は、『討伐師』と呼ばれる。主に、ブルターニュでは『パラディン』と呼ばれることの方が多いが。他国では『エクエス』『シュヴァリエ』と呼ばれているところもあるらしい。

 ナイツ・オブ・ラウンドと言う国王の家臣ではあるが、アレックもエイミーもパラディンである。討伐師である人間は肉体が比較的強いので、必然的にその技量が優れていくのである。


 エイミーはパラディンとしてもナイツ・オブ・ラウンドとしても新人だ。そのため、アレックと共にヴァルプルギスがいるかもしれない、という地域まで言って実地訓練をしようと思ったのだが、空振りだった、というわけだ。

「どのあたりだ?」

「北区、マクタガート通りのあたりです。反応が微弱なのでいるかどうかは微妙なラインですが」

 観測官がそう答えた。リリアンが腕を組んで考えるそぶりを見せた。

「やはり探査魔法だけではわからないな……管制室。近くに誰か人はいるのか?」

「ちょっと待ってください……いないですね」

 隣の管制室から回答が聞こえ、リリアンは少し眉を顰め、それからアレックとエイミーを振り返った。

「お前たち、行ってみるか?」

「ええ?」

 声をあげたのはエイミーだ。一方のアレックは。

「わかった。お前が言うのなら行こう」

 である。彼は、リリアンの判断に対して全幅の信頼を置いていた。

「ちょっと待って先輩。行くの!?」

「ちょうどお前の訓練ができなかったところだからな」

「また空振りかも!」

「だからと言って、行かない選択肢はない」

 アレックは淡々と告げると、エイミーはむくれた。行きたくないようだ。


「私が行ってもいい……と言いたいところだが、室長も補佐も不在だからな。頼む」


 つまり、主席調整官と言う立場のリリアンが現在の危機対策監室の責任者であるらしい。

「それは了解している。エイミー、行くぞ」

「……わかった」

 観念したのかエイミーはうなずき、アレックの後ろをついてきた。その二人の背中にリリアンが声をかける。

「二人とも、気を付けていって来い」

「ああ」

 アレックは一度振りかえり、彼女に向かって手をあげてから対策監室を出た。そんな彼のあとを追いながら、エイミーが尋ねる。


「前から思ってたんだけど、先輩とリリアン調整官ってどういう仲なの? 友達?」


 エイミーに尋ねられ、アレックは返答に窮した。この関係をなんというのだろう。アレックはリリアンを信頼しているし、彼女もアレックを信頼しているだろう。そう言えば、出会ったころはもっと仲が悪かったな、と思う。

「友達……というよりは、戦友だな」

「ふーん。何か不思議な関係だと思って」

 エイミーが容赦なく言った。アレックはふっと笑う。

「確かにそうだな」

 自分でも不思議な関係だと思う。頭のいいリリアンに聞けば明確な答えを出してくれる気もしたが、しばらくこのままでもいいと思うアレックだった。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


主人公二人とも淡々としています。アレックは素ですが、リリアンは性格作っているところがあります。


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