手術と赤点とハリセンボンと
妹のほうが優秀な姉妹っていますよね。
私には弟がいるんですけど、その弟が優秀すぎて兄である私が霞んでしまう……。
兄弟や姉妹がいるひとにもそうでないひとにもゆっくりじっくり読んで頂きたいです。
妹はぐっすり眠っている。昨日はあんなに不安がっていたのに今は熟睡中だ。お姉ちゃんも熟睡したかった。
今日は手術の日だ。成功するかどうかは妹の体力が続いてくれるかどうかにかかっているという。
外が明るくなってきた。さすがに一晩付きっきりはきつい。眠くなってきた。妹は幸せそうに寝ているな。可愛い。そっと頭を撫でてみた。
うん。生きてる。確かに生きている。
布団がもそもそと動いた。どうやら起こしてしまったらしい。
「お姉ちゃん?」
目をしょぼしょぼさせながら妹は私を呼んだ。
「起こしちゃった? ごめんね」
もっと寝ていたかっただろうに、悪いことをした。
「ううん。いいよ。お姉ちゃん起きるの早いね」
妹はいつも私を気遣ってくれる。
「いやいや、私もさっき起きたばっかりだよ」
一晩付きっきりだったなんて言ったら、きっと妹は私を心配するだろう。優しい妹に対する優しい嘘だ。しかし。
「本当に? すごい眠そうだよ?」
姉妹だからだろうか。妹に嘘は通じないようだ。
「うん、実はなかなか寝付けなくて」
あまり妹に心配を掛けさせたくなかった。一番不安で緊張しているのは妹のはずなのに……私が支えなくては。
「ごめんね。お姉ちゃんに迷惑掛けちゃって」
なぜ妹は謝るのだろうか。こんな時さえ、ろくに力になってあげられない私が腹立たしかった。助けたいのになにもしてあげられないなんて……無力感がいっきにのしかかってきた。
「私こそごめんね。なにもしてあげられなくて本当に」
本当にどうしてこんなに無力なんだろう? 支えてあげなきゃいけないのに、逆に心配されてしまっている。どうして妹なんだろう? 妹だけがなんでこんなに辛い思いをしなくちゃいけないんだろう? 私が代わってあげられたらどんなにいいか。なんで、なんで妹が。私だけが呑気に日々を過ごしてしまっていいんだろうか? そんなこといいはずない。きっと妹もそう思ってるはずだ。『なんで私だけが?』って。なんで……なんで……。
「お姉ちゃん、どうして泣いてるの? どこか痛いの?」
妹に心配させたくない。そう思って涙を止めようとしても、止まらなかった。気付けば、シーツをびしょびしょに濡らしてしまっていた。
「ごめんね。……本当にごめんね」
無力な私は謝ることしかできなかった。
「謝らないでお姉ちゃん。お姉ちゃんのせいじゃないよ?」
私の妹は強く、優しかった。私の何倍も。私は、そんな妹をただ抱きしめることしかできなかった。
「……頑張って。頑張ってきてね」
妹は優しく背を撫でてくれた。これではどちらがお姉さんか分からない。
妹は強い。きっと大丈夫だ。この子ならきっと乗り越えられる。私は妹の強さを再確認した。
「うん。お姉ちゃん、私頑張ってくるから」
そうだ。妹はとっくの昔に決心していたのだ。心の準備ができていなかったのは私だけじゃないか。
「あなたならできる。私も頑張るから」
「へーお姉ちゃんはなにを頑張るの?」
「え? んーとそうね……勉強?」
「ふふっ。そうだねお姉ちゃんこの前も赤点だったもんね」
「ううー。だって難しいんだもん、数学」
「じゃあ今度私が教えてあげようか?」
「うー。面目ないです……」
中学生に教わる高校生とは一体……。でも、これでひとつ約束ができる。
「……お姉ちゃん?」
「よし。じゃ今度教えてよね。約束だからね」
「え? もちろんいいよ?」
妹は失敗など恐れてはいなかった。私も強くならなきゃ。
「約束破ったらあれだからね。あれ」
「ハリセンボン?」
「そう! それ!」
「ふふっ。病み上がりにそれはきついなぁ。あ、じゃあお姉ちゃんは次のテスト赤点だったらハリセンボン飲んでね」
「えー!?」
「『えー!?』じゃないよ。また赤点だったらかなりまずいんでしょ? ね、お姉ちゃん?」
「ぐぐぐ……わかったわよ。約束ね。ちゃんと教えてよ?」
「もちろん。でも赤点だったらハリセンボンだからね」
「オーケー。じゃ、約束」
「うん、約束」
指を重ねる二人の姉妹を、朝日は静かに照らしていた……。
兄弟姉妹がいるひとは是非大切にしてあげて下さいね。かけがえのない存在なのですから……。
長文でしたが、最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。