666文字異聞/女勇者りったんが行く6~ブランド品が好きなのよ!
りったんは貧乏勇者のくせに高級ブランド品が大好きです。
今日もバーゲンセールで無駄遣いをしてきました。
「グッチの薬草、プラダの毒消し、エルメスの棍棒。これで私もセレブの仲間入りよ」
いつもよりリッチな気分になって、鼻歌まじりでダンジョンを潜ってゆくと、しばらくして老人Aが倒れていました。
「どうしたの、おじいちゃん?」
「怪我をしてのう。すまんが薬草を分けてくださらんか」
「げっ、グッチの薬草しか持ってない」
1万ゴールドもした高級品です。でも人命には変えられません。
「クスン、よく味わって食べてね」
「ありがたや」
気を取り直して進んでゆくと、今度は老人Bが倒れていました。
「ど、どうしたの?」
「じつは毒蛇に咬ま……」
ダッシュで逃げようとしましたが、一瞬早く足を掴まれてしまいます。
「きゅ、救急車を呼んでくるわ」
「それでは手遅れじゃ。毒消し草をくだされ」
けっきょくプラダの毒消しも食べられてしまいました。
「ウウッ、今日はついてないから、もう帰ろう」
トボトボ引き返してゆくりったんですが、沼のほとりですっ転んでしまいます。
ポチャン
「きゃあ、私のエルメスの棍棒がっ」
すると水面からスーッと老人Cが浮かんできて、
「おまえが落としたのは、このウニクロの棍棒か?」
ふるふると首を振るりったんです。
「では、このひまむらの棍棒か?」
ふるふる。
「ならば、このウ印良品の棍棒か?」
ふるふるふる。
「おおっ、なんと正直な勇者さまじゃ。よろしい、これは三本とも差しあげよう」
そう言って老人Cは、ふたたび沼の底へと消えてゆきました。
「私のエルメスの棍棒返しなさいよ!」