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3 西方より

 一年経ち、草原に、夏が訪れていた。

森の中にあるシャマンの天幕は、冬の間の毛皮を取り払い、白樺の樹皮の、心安らぐ風通しのいいものへと、着替えていた。

 そんなシャマンの天幕を、一人の男が訪ねて来ていた。

「おい、オマエ、いるか?」

 天幕の入り口を開け、ツァガンは彼に声をかける。

「何の用だ」

 ユーリは、それがツァガンだと分かると、ぶっきらぼうに答えた。

「ちょっと、狩りを手伝ってくれ」

 そう言われて、彼は内心、嫌と言いたかったのだが、ツァガンがわざわざこっちに話を持ってきたことを理解して、その言葉を飲みこんだ。

「いいだろう。で、どこまで行くんだ」

「西の草原近くだ。あっちで、獣の群れがでたらしい」


 西に向かって、二人は歩いていた。

「ところで、ヴォルクの様子はどうだ?」

 シャマンの太鼓を携え、ユーリは問いかけた。

「大分、大きくなったし、言葉も上達した」

「魔法は使えそうなのか?」

「それが、その素質、ないって、エルージュ、言ってた」

 ツァガンは、少しだけ悲しそうな顔をしていた。

「外見が、オイラに似てるから、魔法、使えないって」

「残念だな。私より、腕のいいシャマンになるかと、思っていたんだが」

 ユーリの言葉に、彼は首を振った。

「オマエだって、腕のいいシャマンだ。それは、誇っていい」

 にこりと、ツァガンが笑った。

「世界を滅ぼしかけたのにか」

「それは、昔の話。今、違う、だろう?」

「……そうだな」

 夏の草いきれの匂いが立ち込める中を、二人の足は進んでいた。


 シャマンの太鼓の音が、草原の間を縫うように響く。

 夏の間だけ、獣たちは森ではなく、その外側の草原地帯に活動域を広げる。

なぜなら、夏の森は、ヤブ蚊などの吸血生物が、水辺を中心に大量発生するために、獣などはそれを避けるからだ。

 そんな草原地帯にいる獣を呼び寄せるように、ユーリはシャマンの祈りをうたった。

 彼らの姿は、草原に限りなく近い、森の中にある。

ツァガンは、森の木々に身を隠し、いつでも獲物に飛びかかれるよう、息を潜めていた。

 ユーリの術は、以前の彼とは、比べ物にならないほどに、強くなっていた。

その術が、ツァガンの狩りを支えている。

 祈りの術に誘われて、獣がふらふらと、森の中へと歩いていた。

「最も近いのは、お前の左、ななめ前だ。距離は……」

 ユーリの言葉に従い、ツァガンは、次々に獣を捕らえる。

 そうして、当面の間の食料を確保した頃に、ユーリの太鼓も鳴り止んでいた。

「ふう、これだけあれば、いいか」

 獲物の足を紐で縛り上げて、ツァガンは血抜きを行い、それらを運ぶ準備をしていた。

「オイラ、大きいのを運ぶ。オマエは小さいのを……」

 その時、ツァガンは、ユーリの異変に気が付いていた。

「オマエ、どうした?」

「誰かが、近づいている」

「どこの氏族の者だ?」

「獣人ではない、西の……?」

 森の奥の、木立の間に見えた人物を見て、ユーリは驚きの声を上げた。

「お前……、ヴァシリー!」

「えっ!」

「お久しぶりです、兄さん」

 姿を現した者は、ユーリの弟弟子のヴァシリーであった。


 狼の氏族の村。

天幕の外で、エルージュは、子供たちの服を干していた。

「ねえちゃん、俺も、狩りに行きたいー」

「だめよ、ボローはまだ早いわ。ツァガンたちが帰ってくるまで、待ちましょう」

 ボローのすぐそばで、金髪の子供が、耳を忙しそうに動かしている。

「にーに」

 屈託のない笑顔に、お尻の尻尾をぱたぱたと揺らし、その子は手を叩いていた。

「ヴォルク、お前、ツァガンにそっくりだな」

 ボローに頭を撫でられ、ヴォルクは嬉しそうにしていた。

「あら、話をすれば、帰ってきたわ」

 遠くに見えた夫の姿に、エルージュは手を振ろうとして、気が付いた。

「一人、多い?」

――お客だろうか。

 と、彼女は思っていた。

「エルージュ、ただいま」

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、二人とも。お疲れ様」

 獲物を下ろし、一息つくツァガンに、彼女はねぎらいの言葉をかけた。

「ね、ね、エルージュ。この人、誰だと思う?」

 ツァガンが嬉しそうに、そう言う。

「お久しぶりです、エルージュさん」

「どこかで、聞いたことがある声ね」

「仮面がないから、分からないのも無理はないですよ。私はヴァシリーです」

「あらやだ、随分と変わっちゃって。お久しぶりね」

 彼は、世界を救う旅の仲間であった、ヴァシリーであった。

だが、今の彼は、あの時の仮面の姿ではなく、小ざっぱりとした素顔の青年だ。

 素顔を見たことがない、エルージュは、ただただ驚くばかりだった。

「エルージュさんは、お変わりないですね。あの時のままだ」

「もう、相変わらず、口が達者なんだから」

 そう言って、彼女は顔を紅くした。

「ヴァシリー、馴れ馴れしいぞ」

「いいじゃないですか兄さん、私は旅の仲間だったんですよ」

「お前……っ」

「私は、兄さんよりも、早く彼女に出会っています。ツァガンくんが一目ぼれしたのも知ってますよ」

 ヴァシリーの言葉に、ツァガンの顔も紅くなる。

「ヴ、ヴァシリー、その話、オイラ、困る」

「君、言ってましたねえ。あんなにキレイな人は、見たことがないって」

「わー!やめて、やめて!」

 ヴァシリーの口を塞ごうと、ツァガンは慌てていた。

 その様子を見ていた、子供たちが、ゲラゲラと笑いだす。

「あはは、ツァガン、あんなに慌ててるぅー」

「とーたま、とーたま」

 笑っているのは、金色の頭の子供と、灰色の頭の子供だ。

ヴァシリーは、子供たちとツァガンを交互に見て、しきりに首をひねっていた。

「え、子供?いや、でも計算が……」

「ヴァシリー、金髪の子が、オイラの子だよ」

「あ、そ、そうですよね。てっきり、あの旅の最中に仕込んでたのかと」

 何気ない指摘に、二人の顔から火が吹き出ていた。

「え、まさか、本当に仕込んで……?」

「な、ない、ない!やってないから!」

「いい加減にしろ、ヴァシリー!」

 ツァガンは勢いよく頭を左右に振り、ユーリは、失礼だとばかりに怒りだす。

かつての仲間の訪問に、彼らは喜び、再会祝いの宴会を催す支度を始めていた。


 天幕の中、四人は昔話に華を咲かせていた。

「いやー、ツァガンくんも、もうお父さんですか」

「うん、でも、子供まだ一人だけだけど」

「あの子、何歳なんですか?」

「産まれて二年経ったから、三歳だ」

「三歳かー。しかし、その歳で家族を養うなんて、偉いですよ、ねえ、兄さん?」

 振る舞われた肉をつまみながら、ヴァシリーは兄を見やった。

「ああ、そうだな」

「兄さんは、誰かいい人、見つけましたか?」

「……嫌味か、お前」

 ユーリは、じろりと弟を睨んだ。

「えっと、ヴァシリーは、いい人、いたのか?」

 険悪になりそうな空気を察知し、ツァガンは助け船を出した。

「見てください」

 突如、ヴァシリーは二人の前に、左手を差し出した。

その薬指には、銀色の指輪がはめられている。

「おま……」

 ユーリは固まり、思わず肉を取りこぼした。

「何だ、これ?」

「結婚指輪です。私もツァガンくんのように、お嫁さんをもらったんですよ」

「そうなのか!おめでとう、ヴァシリー!」

「あらあら、よかったわねえ。おめでとう」

 ツァガン夫妻に喜びの言葉を送られ、彼は照れ臭そうに笑っていた。

「それで、相手はどんな人なんだ?」

「いやー照れるなー、そのですね……」

 盛り上がる男連中の会話を聞きつつ、エルージュは子供たちの様子に、席を外そうとしていた。

「ツァガン、子供たちが眠そうだから、お父様のところに預けてくるわね」

「あ、うん、頼むよ」

 外へと出る彼女を見送った途端に、ツァガンはヴァシリーに捕まっていた。

「ツァガンくんは、彼女のこと、どう思っていますか?」

「あ、え、その、すっごく、好き」

「それは、あの旅の時よりもですか?」

「うん、大好き。ヴォルク産んでくれてから、もっと好きになった」

 ヴァシリーは、うんうんと大きくうなずき、次いで兄を見る。

「だ、そうですよ、兄さん」

「……ほっといてくれ」

 自棄になったように、ユーリは酒をあおった。

「それにしても、この酒は、どうしたんだ?」

 ヴァシリーは、やって来た時に、一つの酒の瓶を持っていた。

「こっちに来るのに、手ぶらはまずいでしょう。お土産ですよ」

「土産、ねえ」

 西の国の文字が書かれた瓶を眺めつつ、ユーリは顔を真っ赤にしていた。

「でも、エルージュさん、随分美人になりましたね」

「そうかなあ?」

 ヴァシリーの指摘に、ツァガンは首を傾げていた。

「子持ちなのに、あの色気はすごいですね。ツァガンくんも、相当……」

「ヴァシリー、大分酔っているみたいね」

 男三人が、車座になって話している、そのすぐ後ろで、エルージュが仁王立ちしていた。

「あ、エルージュ、おかえり」

「エルージュさんも、お酒、飲みましょうよ」

 そう言って、ヴァシリーは酒を勧めようとし、兄に止められていた。

「だめだ、それは止せ」

「ごめんなさいね、お酒はちょっと、飲めないのよ」

「そうなんですか、残念だな」

 彼は、少しがっかりしたような顔をして見せた。

「その代わり、おいしい料理を出してあげるから、少し待っててね」

 男たちをもてなすため、エルージュは調理を開始した。

思い出話はさらに盛り上がり、時刻は深夜を回った頃、天幕には、皆の寝息が響いていた。


 暗闇の中、眠っていたはずの人物が、その身を起こしていた。

その者は辺りを見回し、他の者が起きていないのを確認すると、静かに外へと出て行った。

 外は虫の声も聞こえない、その草原を彼は歩こうとする。

そんな彼の背後で、何者かが声をかけていた。

「ヴァシリー」

 良く知った、その声に、彼は振り向いていた。

「兄さん」

「お前、今日は何しに来たんだ」

 夜風が、草を薙いだ。

「何って、旧友に会いに来たんですよ」

 ヴァシリーは、にこりと笑う。

その態度に、ユーリの表情が硬くなった。

「違うな」

 彼のシャマンの眼が、夜の闇に光る。

「別の目的があって、来た。そうだろう」

 だが、その問いに、ヴァシリーは答えなかった。

「兄さんこそ、ツァガンくんたちと、随分慣れ合っているんですね」

「なんだと」

「前から言ってたじゃないですか。獣人は穢れている、あんなのは忌むべきものだって」

「それは、西の世界でのことだ。だが実際に生活をして、考えが変わった」

「本当に、そうなんですかね」

 含みを孕んだ言葉が、ユーリに投げかけられた。

「お前、何が言いたい」

「私、知っているんですよ。兄さんが彼女を気にしているの」

 その言葉に、ユーリの身がたじろいだ。

「好きなんでしょう。でも、エルージュさんは、ツァガンくんのものだ、人妻だ」

「くっ……」

「兄さんは、彼女が欲しくて、こちらの世界に来た。でも一歩遅かったんだ」

 ヴァシリーは、ニヤニヤとした顔で、兄を見下した。

「だから、一緒の場所で生活するのを選んだ。ずっと側にいたいからと」

「……もう止せ」

「兄さんが旅立った時の、置手紙にもありましたね。彼女に会いに行くって、ねえ?」

「……めろ」

「想いは遂げられましたか?シャマンの技術、教わるだけじゃないですよねえ?」

「もうやめろ!」

 彼は大声で怒鳴り、ヴァシリーの言葉を遮った。

「いい加減にしろ、お前……」

「おお、怖い怖い。兄さんは腕のいいシャマンですからね」

 弟ヴァシリーの、その言葉を聞いて、ユーリの頭に疑問が浮かんでいた。

「ヴァシリー、お前、エルージュ様に、なぜ酒を勧めた?」

「何ですか、突然」

「答えろ、お前ならば分かるはず。なのになぜ、そういう事をした?」

「何を言っているんですか、兄さん」

「……気づいていないのか?」

「だから、何がですか」

 問い詰めても、彼は答えない。

「見えないのか?エルージュ様は、腹に子がいるんだぞ」

「そうだったんですか、早く言ってくれればいいのに」

「言わなくても、シャマンならば分かる、一目で分かるだろうが」

 ユーリの脳裏に、嫌な予感が浮かぶ。

「お前は、見えなかったというのか、ヴァシリー」

「私は、兄さんほどの腕ではない」

「腕の良し悪しは関係ない。シャマンであれば、見えるはずだ!」

 認めたくない。その思いが、ユーリを熱くさせる。

 彼は、弟は、世界を救ったシャマンで、そして、偉大な師匠の実の子だ。

「ヴァシリー、お前、一体どうしたというのだ。今のお前は、お前ではない」

「人は、変わるんですよ、兄さん」

 ユーリは頭を抱え、首を振った。

「兄さんは、考えを改め、私も考えを改めました」

 ヴァシリーの手が、高く掲げられた。

「獣人は、滅ぼすべきです」

「お前……!」

「勝負ですよ。兄さんの魔法と、私の魔法、どちらが強いか」

「本気で言っているのか」

「ええ、そのつもりです」

 弟の言葉に、ユーリの身体から、炎が吹き出す。

炎は、闇夜を照らし、彼の周囲をぐるぐると回り始めた。

「ヴァシリー、考えを変えろ。今なら……」

 ユーリの、シャマンの眼が、一際強く輝いた、その瞬間。

草むらの向こうから、何かが、こちらへと飛ぶのが見えていた。

 炎がユーリの前で壁を作り、その飛翔体を遮るように強く燃え上がった。

それは、壁の中であっという間に燃え尽き、鉄の部品だけが、ちりん、と地面に落ちていた。

「矢じり……?」

「おっと、やっぱり兄さんには通じないか」

 ヴァシリーは、身体を翻した。

「お酒を飲ませて、酔い潰れたところを襲う予定でしたが、失敗ですね」

「ヴァシリー、まさか、お前」

「強襲です。せいぜい抵抗してくださいよ」

 夜の草原に、弟の笑い声が、していた。


 天幕に戻り、ユーリは二人を叩き起こしていた。

「起きろ、おい!」

 眠い目を擦りながら、ツァガンは起き上がっていた。

「なんだよ、もう」

「目を覚ませ、ヴァシリーが裏切った」

「え、な、何?何て言った?」

 彼の言葉に、二人は茫然とする。

「どういうこと、何かの間違いではないの?」

「間違いではありません。あいつは、最初から、我々を殺すつもりだったのです」

「うそだ!ヴァシリーは、仲間だったじゃないか!」

 ツァガンの叫びに、ユーリは語気を荒らげた。

「あの時はな!だが、今は違う、今は、我らの敵だ!」

「様子を、見てみるわ」

 彼女が、静かに太鼓を叩き、己の精神を上空高くまで登らせる。

村の周囲と、草原の各所に、人影が見えている。

 その数は。

「百……」

「武器は、見えますか?」

「クロスボウ、それと細長い筒のような物も見えるわ」

 彼女の見たものに、ユーリは苦い顔をしていた。

「まずいな、銃まであるのか」

「今から、村中の者を起こしても、間に合わない。どうする」

 ツァガンの耳が、忙しなく動き、辺りの物音を聞き分ける。

「私たちが、魔法で弓と銃兵を倒す。その隙に、お前は隊長格を倒せ」

「分かった」

「ツァガン」

 彼女は、夫を呼び、その口にそっと、自らの唇を重ね合わせた。

「お守りよ、無理はしないで」

「ありがとう。エルージュも、お腹、大事にしてね」

「ええ」

 三人は、天幕の隙間から、静かに表へと移動し、そっと草の中に身を潜めた。

「ユーリさん、太鼓に災い除けの術はかけたわね?」

「はい」

「いくわよ」

 ダン

暗闇の草原に、太鼓の音が、一つ。

 ダン

続いて、二つ。

 炎が、村の周囲を巡りはじめた。

光る何かが、草むらの随所に配置され、相手を誘うように、キラキラと瞬く。

 草原の向こうで、風を切る音がした。

「きたな!」

 ユーリの炎の魔法が、より一層強くなり、それを焼き尽くそうと、草原を駆ける。

瞬時に矢は塵と化す。続いて、第二波の矢が、彼らを襲った。

 飛び交う矢を、光が叩き落とし、次いで射手を雷の針が貫く。

「おい、焦げ臭いぞ」

「まずい、銃だ!伏せろ!」

 彼の合図に、ツァガンが伏せると、その頭上を何かがかすめて行った。

「あれ、防げないのか!」

「無理だ、鉛までは溶かしきれない!」

 と、その時、鉛玉に、エルージュの魔法が直撃する。

溶けないと思われていた、それが、光と共にぐにゃりと歪んでいた。

「ユーリさん、力を貸して!」

「はい!」

 エルージュの雷の魔法に、ユーリの炎の魔法が加算され、鉛玉を液体に変化させる。

二人のシャマンの力が、放たれる金属を、次々に溶かしていた。

「ツァガン、今だ。行けっ!」

「おう!」

 バリバリと轟音を響かせ、鉛玉と稲光が交差する中を、ツァガンは走り抜けた。

妻のかけてくれた、お守りの力で、彼に向けられた矢は、ことごとく跳ね返り、鉛玉も、破裂するように溶かされていた。

「うわああ!突っ込んでくるぞ!」

 敵兵が叫ぶ。

射手が散り散りに逃げまどう中で、彼は号令を出していた、隊長格を打ち倒していた。

「逃げるな!奴は丸腰だぞ!」

 そう言って、剣を振るう者もいれば、ただ逃げる者もあり。

ツァガンの走り抜けた後には、首を折られた死体が、いくつも転がり、普段なら平穏であるはずの青い草原は、瞬く間に赤い色に染め上げられていた。

「くそっ、ヴァシリー、どこだ!」

 血と硝煙の臭いをかき分けて、ツァガンは、彼を探していた。

「ツァガン、油断するな!」

 ユーリの叫び声と同時に、四方八方から閃光が走った。

煙の間から、黒い小さな鉛玉が、見える。

それを見た時には、もう遅かった。

「ツァガン!」

 遠くからエルージュの声がした。

 急激に、周囲の空気が圧縮され、まばゆいばかりの雷光が、爆発していた。

圧力と熱が鉛玉を襲い、それは液体を通り越して、煙と化す。

 そして、白い輝きの向こうにある、見覚えのある姿を、彼は目にしていた。

「ヴァ、シ、リーッ!」

 叫び、彼は、走りだしていた。

人間よりも、早い足で、彼は、その男に飛びかかる。

「うわ……!」

 闇夜に黄金の髪がなびき、ツァガンはヴァシリーを捕らえていた。

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