風船
「よっく飽きないよなぁ…こんな風船だらけにして…」
「そりゃ大好きなお兄ちゃんがくれたもんは大切でしょう」
「…割りてぇ」
剣呑な目付きでじっと睨んでいたと思ったら、急に立ち上がり、部屋を漂う風船を一つ捕まえて持っていたフォークで突き刺さそうとするのを、寸でのところで待った待ったと雪弥が止め、割られそうになった風船を腹に抱え込んだ。
「兄ちゃんがそんな事したらあゆみちゃん悲しむって」
「うるせっそれでも許せないんだ!」
イライラとフォークを噛む様子は、外見が若く見える事もあり、とてもじゃないが三十路越えた大人に思えない。
大人気ないなぁと思いながら苦笑し、ブツブツと文句を言い続ける椎乃をほっておき、自分は食事を再開する。
「あーはいはい、いいから静かに食事しませーんか、せっかくのスープパスタ冷めちゃうよー」
くるくるとパスタを絡め、あーんと口に運ぼうとしたところ、むくれた椎名が雪弥の皿をパッと取り上げ立ち上がった。
「可愛くない。そんな可愛くない奴に食べさせる価値なし」
「んぅう~!!」
横暴だー!と叫ぶも、口の中にパスタを入れているため声にはならない。慌てて飲み込み、取り上げられた皿を取り替えそうと手を伸ばす。
「なんでっ!俺悪いことしてねーよ?横暴だ~!」
「うるさいっ!拾ってやった恩も忘れやがって!」
「感謝してるし手伝いもしてるじゃん!椎乃さんの手料理美味くて大好きです!だから食わせてよー、腹へった!」
精一杯背伸びをし、頭上高くパスタ皿をあげ、そう簡単に取らせまいとするが、椎乃よりも背が高い雪弥は仕方がないと面倒そうに立ち上がり、ひょいと椎乃からあっさり皿を奪い返した。
「なっ!お前卑怯だぞ!立ち上がるなよ!俺より年下のくせして身長高くて…生意気だっ!」
「椎乃さん…むちゃくちゃだ…」
しくしくと泣き真似してみせながら、行儀悪く立ったまま食事をすることを選ぶ。再び取り上げられてはたまらない。
あゆみの帰りが一分、一秒と遅くなるにつれて椎乃の機嫌が悪くなる。
いつものことだが、あゆみちゃん、デート切り上げて早く帰ってきて~と雪弥は祈るのだった。