戦いの火蓋
幸せそうな笑顔。
親戚、友人、知人からの祝辞とライスシャワーを浴びて、傍目から見れば仲睦まじく寄り添うようにして教会の白い階段に掛かった赤い絨毯の上に立つ。
今日から夫婦となる二人は一歩一歩ゆっくりと噛み締めるように、ありがとうと何度も繰り返し口にし、微笑みながら降りてきた。
満面の笑みで一歩降りるごとに、まるで幸せから遠退くように。
おめでとうと皆に声を掛けられる度に、二人の心が冷えていく。
生まれたときから決められた結婚相手。理不尽にもその関係から逃れることの出来ぬ二人。
主役の二人以外は皆知らない。
互いに互いを嫌い合っていることを。
ただ義務だけで、皆の為に幸せそうに微笑んでみせ、結婚してみせるのだということを。
二人は似たもの同士で、考え方も好みも一致していた。
故に、互いに何を考えているかも何となくわかるし、まるで待ち合わせでもしたかのように出掛け先でばったり会うこともしょっちゅうだ。
これだけ気が合うなら、もし別の出会い方をしていたならば心から愛し合えたかもしれない。しかし二人は最悪の出会い方をしてしまったのだ。そしてその時、こう思った。
「コイツだけは絶対に愛さない」
捻くれた二人は、もはや意地で互いを避け合う。
相手に愛されたいとも思わない。ただ人前では自分達の役割を演じるだけ。
結婚は、二人にとって戦いの火蓋だった。
幸せを打ち鳴らす鐘の音は、二人には戦えと告げるゴングに聞こえた。
これから、一生夫婦として役を演じていかなくてはいけないのだから。
ふと、同じタイミングで視線を交わす。
同時ににっこりと微笑み、口を揃えて周囲には聞き取れぬ小さな声で宣言する。
「絶対に、負けないから」