5.間宮陽日と生徒会
前回のシリアスムードから無理矢理コメディー調に。間宮が気にしなければ大丈夫!!
クラスのみんなと気まずい関係。
あゝ、まるで空気のようだ……。
「パシリの上を行ってしまった。とうとういじめられっ子に昇格か……!」
「それは降格だろ」
的確なつっこみをどうも、佐伯君。
「いいのだよもう。高校生活もあと二年。長い人生のうちの二年だと思えば耐えられる。たとえ友達がいなくとも」
これまでとそう変わらないのが釈然としないけれど。
「残念すぎるだろ。……なってやろうか、友達」
ピコン!
「うわあ。耳と尻尾が見える」
「ありがとう佐伯君! ヘタレだけどパシリなら誰よりも得意だよ! 存分にパシッてください!」
「お前の存在意義はソレなのか。自己評価低すぎだろ」
佐伯君は憐れんだ目で私を見る。
「はは。部長の近くにいると皆こうなる。プライドなんて入部したときに消え失せたよ」
プライドがないのはもはや私の長所ですよ。
「まあ夏目先輩にしたらみんな低レベルだろうよ。完璧超人すぎる」
「ああ! 神様はすべて完璧にこなしてしまう部長に、釣り合うほどの口の悪さを与えたのだろうか」
「間宮さあ。そんな発言繰り返してよく今まで無事でいられたよな」
……無事ではない。
「でもまあ、可愛がられてはいるんだろ? 夏目先輩に」
「ん? 主にDV被害に遭ってるけど」
「有川先輩に聞いたけど昨日、心配してたらしいぞ? 珍しく動揺してたとか」
あの部長が動揺?
「ないないない。ありえないよ。情報源が有川先輩なら余計に。先輩よく嘘つくし」
「信用ねえな先輩」
セクハラする先輩をどう信用しろと?
「俺と間宮が仲良くしてれば先輩方も安心だろ」
「ほんとにありがとう佐伯君。自分がぼっちじゃないなんて夢みたいだよ」
友達……いい響きだ。
「どんだけ残念なやつなんだよ。でもこれでいじめ云々はどうにかなるんじゃないか? というか初めから間宮いじめるのは不可能だろ」
「え。なんで? 間宮の防御力は五くらいしかありませんが」
この常備装着の赤ぶちメガネのみです。
「有川先輩は何気に生徒会だし、在原先輩とも仲いいだろ間宮。それに何よりあの夏目千里先輩に目をつけられたら生きていけないだろ」
なるほど。部長が助けてくれるかはわからないけど、私何気に対人関係ハイスペックだった。
「でも、友達ができて嬉しいよ。ありがとう、佐伯君」
「いや。俺も助かる」
「なんで? 佐伯君人気者じゃん」
友達に困ったことなんてないだろうが。
「水野会長に間宮の変人化を阻止するよう言われてな。近くにいればどうにかなりそうだし」
「明先輩は何を心配しているのだろう……」
「会長曰く『夏目千里に私の陽日が毒されないか心配だ。それに文芸部には害虫がいるしな。有川め私の陽日に指一本でも触れてみろ。絶対殺す』と言って有川先輩を睨み付けていた。美形は怒ると怖いよなぁ」
いや、佐伯君も美形なんだけどね?
そっか。明先輩も心配してくれてるんだ。嬉しい。嬉しいけど……
「私は変人にはならないよ? 私が変人と化したらあの部にはツッコミ役がいなくなるじゃない」
悲惨なことになる。
「ま、そういうことにしておこう」
なぜみんなぞんざいに受け流す! 間宮の意見は!?
「とりあえず昼飯どうする? 俺と二人でいいのか?」
「あ。佐伯君は他の友達と食べてきていいよ」
「間宮は?」
「もちろん一人飯だけど」
佐伯君は自分の弁当と私の弁当を持つと、私の手を引いて無言で歩き出した。
「あの。佐伯君どこに行くのでしょう」
「生徒会室。二人ってのもアレだからな。たぶん会長も喜ぶだろうし……狂喜乱舞の域で」
私ごときでそんなに!?
「明先輩はお昼も生徒会室に?」
「ああ。春は何かと忙しくてな。新しい部活や同好会の申請やら、部の予算の会議が近いやらで。書類作成に追われている」
「生徒会が有能だと、仕事が増えていくんだね」
「会長が仕事できる人だからなぁ。教師の仕事がちょくちょく回ってくる」
生徒に仕事を押し付けたらだめだろうよ。
「明先輩、大丈夫かな」
「間宮の顔見たら一気にモチベーションも上がるだろ」
いや、だから私にそんな力はない。
「会長ー。間宮連れてきましたよー」
佐伯君が生徒会室のドアを開くと、明先輩がズサササーと走って私に抱き付いた。
「陽日! 久しぶりだな。元気だったか? 夏目にイジメられてないか? 有川にセクハラされてないか?」
明先輩は体を離すと矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「大丈夫です。部長の毒舌にも有川先輩のセクハラにも慣れてきましたから」
「……陽日? 駄目じゃないか! それは慣れていいものじゃないだろう?!」
「まあまあ。飯食いましょうよ、会長」
「そうですよ。忙しいならなおさらご飯はしっかり食べてください。私も明先輩が心配です」
「陽日……そうだな。一緒に食べよう」
明先輩と佐伯君は書類で溢れた机の上を片す。
「陽日は私の隣に座って? もうそろそろあいつらも戻ってくる頃だと思うが」
「他の役員の方ですか?」
「ああ。購買でパンでも買ってくるんだろう。有川は来ないから大丈夫だ」
先輩、本当に嫌われてるなぁ。ざまあ。
「あれ。誰それ。明の友達? かわいい」
「誰か来たのか? お。これは使えそうなやつが来たな」
明先輩とは反対の可愛い系の美少女と、なんか怖そうな雰囲気のイケメンが入室した。
美形に囲まれると胃がキリキリしてくるんだが。
「まあね。中学の後輩。文芸部の生贄と言ったらわかるか?」
「ああ! 明のお気に入りの!」
え。私生贄って呼ばれてるんですか?
衝撃の事実に固まっていると、さっきの怖い人がスタスタと近づいて、がしっと私の手を握る。
なになになに。こわいこわいこわい。
「メシア……」
「三崎。手を離さんか」
明先輩がすかさず三崎先輩とやらの頭を叩く。
「すまん。人手不足でな。思わず」
「い、いえ」
「ねえねえ。お名前聞いてもいい? 私は会計やってる日下深雪」
「あ。二年の間宮陽日と言います」
「よろしくね、陽日ちゃん」
にっこりと笑った日下先輩は非常に可愛らしかった。
最近変態度が上がってきている気がする。
「俺は三崎漱だ」
「ほら、二人とも座って」
「そうですよ。俺もいい加減腹減りました」
こうして生徒会メンバー(有川先輩除く)と昼食をとることになった。
「陽日ちゃんクラスでイジメられてない?」
日下先輩が首をかしげる。
「大丈夫です。ちょっと存在が空気扱いになっただけなので」
「それは大丈夫ではないんじゃないか?」
三崎先輩が眉を顰める。その顔怖いのでやめてほしい。
「私の陽日がイジメられている……」
「明先輩、大丈夫です。イジメられてません。ハブられてるだけです。それに、佐伯君が友達になってくれましたし」
「へ~ぇ。秋くん、やるじゃない」
「日下先輩。自分の好きな方向に持っていくのやめましょうね?」
「佐伯。陽日を頼む」
「明先輩。その言い方は語弊がありますよ?」
「ほう。二人はそういうことなんだな。清い交際をするんだぞ?」
何この人たち。全然話聞いてない!
「見ろ間宮。これが生徒会名物のツッコミを聞かない駄弁り合だ。別名混沌」
そう言った佐伯君の顔には諦めが浮かんでいた。
「ほら先輩方、さっさと食べて働いてください!」
佐伯君のリーダー性はこうして鍛えられたのかもしれない。
新キャラ登場。日下深雪と三崎漱。三崎は何気にお気に入りです。顔怖いけどどこか抜けてるイケメン、的な。