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17.在原vs有川

すみません。だいぶお久しぶりです。

 前々から気になっていたことがある。けれどこんな野次馬根性丸出しの奴が訊いていい話でもないような気がして、今まで引きずっていたのだけれど。

「在原先輩と有川先輩って、一体どうゆう関係なんですか」

「は、陽日ちゃん? そんな語弊ありまくりな発言はやめて」

「どうしたの、急に」

 急ではないんですよ、在原先輩。こちとら去年からモヤモヤしっぱなしなんですから。

 先輩たちは部室の前で校内新聞の打ち合わせをしていた。本日、部長は松山先輩をイジりに演劇部に行っているために有川先輩が対応しているのだが、このツーショットはなかなか見られない。だって先輩方の関係って複雑じゃないですか? 明先輩と両想いの在原先輩と、明先輩に嫌われながらも思いを寄せる有川先輩。ちょっと昼ドラチックなドロドロ具合ですよ。

「言いにくいんですけど、ぶっちゃけ色々気まずくないですか? 傍から見ると何とも言えない気まずさですよ?」

「え? そうかな。在原話しやすくていい奴だけど」

「俺も別に気まずいとかはないかな。千里に比べたら有川は全然人間ができてるから」

 え。部長と比べちゃうんですか? 私の知る限り部長より人間離れ、というか何かと人知を超えている人はいませんが。

「そういうことじゃなくて、ほら。明先輩がらみで色々」

 言っといてあれだけど、私もの凄く失礼だ。でも一度発した言葉は戻せないし、仕方がない。

 先輩たちは顔を見合わせ、同時に首をかしげる。

 ……可愛い。イケメンは何しても様になるな。

「明のことで? 特に何もないけれど」

 嘘ですよね。お二人めちゃくちゃラブラブではないですか。

「俺も特にないよ。水野はしっかり者だしねぇ」

 そういう問題!? 有川先輩はもっとこう、奪いたいとかないんですか? あっても困りますが。

「そうそう。明は有川くらいなら余裕で倒せちゃうからね。まぁ、有事の際には俺が手を出してしまうけれど」

 な、なんか在原先輩が怖い。あの優しい先輩も明先輩のこととなるとこうなるのか。

 在原先輩は必要以上に明先輩の行動に口を出さないし、手助けもしない。それは決して関心がないわけではなくて、二人を見ていればちゃんとわかる。明先輩はもの凄く自立心のある人で、しっかり自分の足で立ち、いつでも人に弱さを見せることはない。在原先輩は、そんな明先輩の性格を尊重しているのだろう。そして、そんな先輩だから明先輩は甘えることができるのだと思う。こんなにお互いを尊敬し、尊重しあうカップルを他に見たことがない。

「女の子に危ない真似はしないけど、確かに水野には勝てる気がしないな」

 いやいやいや。違った意味で女の敵でしょう、先輩は。

「明は周りの子よりもよっぽど強いから色々強がっちゃうんだ。そこがまた可愛くてね」

「水野も在原にベタ惚れだよね。いつもツンツンしてるのに在原の話するときは大好きオーラが隠せてないんだよ」

 ……有川先輩がわからない。なぜ在原先輩の惚気話に乗っかった!? そしてなぜそんなに楽しそうなんだ!?

「有川先輩って嫉妬したりしないんですか?」

「嫉妬ねぇ。あんまりないかなー。だって俺水野にめちゃくちゃ嫌われてるしね。それに在原のこと好きでいる水野が一番かわいい顔するし」

 ……こわ。

「それ性質悪くないですか? まるで変態ですよ?」

「ひどいな陽日ちゃん。事実だから仕方ないでしょう? 好きになった子にすでに好きな人がいるなんてよくあることだし、その人を想って笑うその子も好きなんだから」

 有川先輩は少しだけ、ほんの少しだけ悲しみを混ぜて笑った。やっぱり有川先輩は有川先輩なんだなぁと、今更ながら思う。

 先輩は女の子に人気の王子様で。

 セクハラばかりする変態で。

 なんだかんだで生徒会副会長で。

 イタズラ好きのムードメーカーで。

 先輩は頭がいいから、今自分がどうあるべきかなんてすぐにわかってしまうんだろう。部長のように周りがどう思おうと関係ない、とは思わない。意外と責任感が強くて、協調性に優れているから、一緒にいる人にあまり負担をかけない空気を作る。キャラを作っているわけでもなく、どの先輩もきっと先輩の一部なんだろう。そのせいで軽薄に見えてしまうけれど、本当はすごく優しいだけ。優しすぎて、自分の痛みを無理やり押し込めてしまう、不器用な人。

「なんか、有川先輩と明先輩って少し似てますね」

「そうだね。明が聞いたら怒りそうだけど、俺も少し思った」

「え!? ど、どこが?」

 嬉しいのか嫌なのかよくわからない顔で少し慌てている有川先輩に、在原先輩と二人でこらえきれずに笑ってしまった。

「何かあったんですか?」

 部室前で話していた私たちが怪しかったのか、佐伯君が声をかけてきた。

「あれ? 佐伯君、部活はどうしたの?」

「あー……うちの部長が切れて暴れてる。本当に、夏目先輩は部長をからかうの好きだよな」

「へー。千里今日は何して松山をイジッてたの?」

「今日の演目は前に夏目先輩が書いた脚本だったんです。あの、オネェ役がある」

 あぁー。何となく話が見えてきた。

「部長は演劇バカですからしっかり役を仕上げてきて、それはもう完璧なオネェだったんですけど、夏目先輩が今後の参考にとか言ってカメラ回し始めて……怒る部長を楽しげに眺める夏目先輩っていうシュールな光景が」

 うん。それはだいぶシュールだ。てか、本当に鬼畜だなあの人。

「あ、それと有川先輩。会長がめちゃくちゃ怒ってましたよ。いい加減昼休みの仕事に参加しろ、と。多分明日サボると先輩殺されますよ?」

 ……生徒会、怖い。

 淡々という佐伯君も、恐らく本当に実行するであろう明先輩も怖い。

「……はーい。ホント怖いな、水野は」

「先輩の仕事は例年の倍だそうです。もの凄く楽しそうに準備してましたよ、会長」

 ……ここにもいた、鬼畜が。

「……明日はストレスによる発熱という正当な理由で欠席するかも」

「死にたいんですか? 先輩に残された道は死にそうな量の仕事をするか、死ぬかです」

「何その二択。恐怖しか感じないんだけど」

「自業自得です。じゃあそろそろ部長を止めてきます」

 あれなの? 生徒会って常に死活問題なの? 

「有川、知ってる? 怒りを通り越して楽しくなってきた明の仕打ちは千里の比じゃないよ」

 去っていく佐伯君の背中を見送りながら漏らした在原先輩の言葉に蒼くなった有川先輩の顔は、申し訳ないけれどなんか好きです。

これはタイトル詐欺ですね。誰もバトりません。……いや、部長と松がバトっていた。

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