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14.間宮陽日、男心を学ぶ

間宮、初取材。

 やっぱり、取材は大事だと思うのだ。恋愛がいかなるものかわからないならば、先輩方に聞けばよい。

「というわけで佐伯君。君の恋愛遍歴を教えてください」

「何がどういうわけなんだ。相変わらず訳わからない奴だな」

 昼休み、佐伯君は机に頬杖をついている。

「いいから、さぁどーぞ」

「横暴。話すわけないだろ」

「お願いします! 友達でしょう!? 私だって恋の一つや二つしていたならこんなことしてないよ。初恋すらも未経験な私に他にどうしろと!」

 未知の世界の話で読者を惹きつけるなど私には無理だ。せめてリアルな情報が欲しい。

「別に俺じゃなくてもいいだろ。他当たれ」

「一応文芸部のみんなと、在原先輩と松山先輩、三崎先輩にも聞こうと思ってるんだけど。ダメ?」

 知っている男子には片っ端から話を聞き出そうと思ったんだが、まさか断られるとは。先行き不安だ。

「……わかった。話せばいいんだろ。その代り何かおごれよ」

「ありがとう! で? 彼女いるの?? どうなの?」

 何やら女子の視線が怖い。うちは肉食系が多くて困る。

「場所変えるぞ。……お前は俺をあいつらの餌にする気か!」

 ごめん。配慮が足りませんでした。

 人気のない渡り廊下に移動して、再度話を聞く。

「彼女ねぇ。いないな」

「聞かなくてもわかるけど、いたことはあるんだよね?」

 まぁ、わかるんだけどね!

「まぁな。春休みに振られた」

「え!? 佐伯君も振られることあるの?」

 イケメンでモテ男なのに。

 それじゃあ私はいつまでたっても恋人なんてできなくないか?

「そりゃああるだろ。普通に」

「片思いとかも?」

「あぁ」

「告白して振られたことも?」

「ある。てか、間宮は俺をなんだと思ってんだよ」

 顔を顰める佐伯君。

 そうだな。佐伯君はさしずめ……

「モテ神様? やっぱりモテる人たちって、自分から告白することも振られたこともないのかなって」

 あ。朝比奈君は振られたことあるんだっけ。

「モテ神って、何か悪意感じるんだけど。だけどまぁ、人並みに告ったり振られたりしていると思うけどな」

「じゃあ、どんな子がタイプなの?」

 佐伯君はしっかり者だから庇護欲掻き立てられる子、とかかな。

「テキパキ動く子、だな」

「え!? 鈍感ドジッ子じゃないの?」

「あのさ、間宮。お前は俺に何を求めているわけ?」

 いやぁ。物語には定番のパターンがあるものだからさ。つい。

「佐伯君しっかりしているから、ちょっと不器用な子とか助けたい、みたいな願望があるのかと思って」

「ねぇよ! ……俺せっかちだから、人のペースに合わせるの結構ストレス溜まるんだよ。そんで『もうちょっとゆっくり歩いてよ。そんなに私といるのが嫌なの?』とか言われて振られる」

 そんな理由でこんな優良物件捨てるの!? きっと相手の子もモテ子なのだろう。

「今好きな子いたりする?」

「んー。特にいないな。最近はトラブルメーカーな友人ができたから、飽きはしないけど」

 それって私のことですか?

 佐伯君は楽しそうに笑った。



「こんにちはー。文芸部の間宮です。松山先輩いますか」

 放課後、演劇部にお邪魔する。もちろん松山先輩に恋バナを伺うために。

「はぁい。あれ、間宮さん? 台本もらったばかりだけど……」

 松山先輩は私を確認すると、不思議そうな顔をして首を傾げる。

 ……可愛い。

 男性に言ってはいけないのかもしれないけれど、松山先輩は可愛い系男子って感じがする。ちなみにカッコいい系女子は明先輩だ。

「今日は先輩にお話があって……」

「じゃあ場所変えようか。えーと……」

 どこに行くべきか悩んでいる松山先輩。

「あの、そこらへんの廊下で大丈――」

「間宮と松山。何してんだ、密談か?」

 三崎先輩、こんな目立つ場所で密談する人はいませんよ。

 廊下を歩いている三崎先輩が演劇部の部室の前で立ち止まる。

 ……相変わらずでかくて怖いな、この人。

「あ、三崎君。違うよ。密談じゃなくて逢瀬って言ってほしいな」

「はぃ!?」

 何を言い出すんだこの人は。悪戯心に火を付けてるんじゃないよ! 天然な三崎先輩はすぐ信じるんだから!

「二人はそういうことだったのか。ん? じゃあ佐伯とは遊びだったのか?」

 眉間に皴を寄せて考え込む三崎先輩。尋常じゃなく怖いので、本当にやめてほしい。

「違います。佐伯君とも松山先輩とも恋仲ではありません」

「……そうか」

 絶対納得していないこの人。信じ込みやすいのに疑り深いって性質が悪すぎる。

「でもちょうど良かったです。三崎先輩もお話いいですか?」

「いや、俺は邪魔だろう」

 やっぱり信じていなかったな。

「いいから来てください!」

 松山先輩と三崎先輩の背中を押して人通りの少ない渡り廊下へ移動する。

「あ、あの。間宮さん? 聞きたいことって……」

「私の小説執筆にご協力ください。お願いします」

 深々と頭を下げてお願いすると、先輩方はうろたえる。

「間宮さん、できることは何でもするから頭を上げて……!」

「あぁ、俺も協力する。だから頭を――」

 上げてくれ、恐らくそう続くであろう三崎先輩の言葉が終わる前に、勢いよく頭を上げる。

「ありがとうございます! 早速ですが、お二人は好きなひとっていますか?」

 ピシッ――

 二人が石化する音が聞こえた。

「あの……?」

「間宮さん、それ他の人にも聞いてきたの?」

 松山先輩が難しい顔で尋ねてきた。

「あ、はい。昼休みに佐伯君に同じ質問を。あとは在原先輩と文芸部のみんなにも聞く予定ですが……」

 何かまずいことでもあるのだろうか。

「佐伯なら大丈夫か。このこと千里は知ってるの?」

「いいえ。あの、何かまずいでしょうか?」

 深刻そうな松山先輩と、ちょっと怒っているっぽい三崎先輩の顔に不安がつのる。

「間宮。俺らの後は在原と文芸部の奴らだけなんだな?」

「はい」

 三崎先輩は大きく息を吐く。

「あのな。自分から人気のないところに誘導してそんな質問を男にぶつけるのは、いささか危機管理能力にかけているぞ。場合によっては誘っているようにも受け取れる」

 さ、誘っているですと!?

「そんな気は一切ありません!」

 首が外れるんじゃないかというくらい横に振る。

「あぁ、わかっている。でもそれは、俺や松山や佐伯だったからであって、他の奴らだったら何も起こらない保障はない」

「そうだよ間宮さん。取材なら誰か男子に付き合ってもらうなりした方がいい」

 自分で言ってて悲しくなるけれど、こんなポンコツに変な気起こす人などいるのだろうか。疑問に思うが、目の前の二人は険しい表情を崩さないので一応気を付けよう。

「わかりました。心配かけてすみません」

「いや、これからは十分気を付けてね」

 松山先輩が柔らかくほほ笑む。

「それであの、好きな人は……」

「いないよ」

「いないな」

 二人は声をそろえて答えた。

「じゃあ、歴代の彼女さんって……」

「いたことないよ」

「付き合ったことなんてないが」

 ……。

「あの、嘘ですよね?」

 二人とも癖はあるが誰が見てもイケメン。彼女ができたことがないなど嘘に決まっている。

「嘘じゃないよ。やっぱりおかしいかな、高三にもなって」

「じゃあ俺もおかしいのか」

 ど、どうしよう。二人が見るからに沈んでいる。

「あ、いえ、その。お二人ともイケメンなので彼女なんてたくさんいたんじゃないかと……」

「……気が弱い男って、魅力ないよね」

「……顔が怖いと誰も近づいてこないからな」

 二人への突撃は、傷を抉る結果になってしまった。

 ……許してください。



「ねぇ陽日ちゃん。告ってきたの? 告られてきたの?」

 部室に戻ると、有川先輩が詰め寄ってくる。遊びに来ていたらしい在原先輩は心配そうに、朝比奈君は興味津々に私を見つめる。高倉君はPCに釘付けだが。そんなことより――部室ここ何か寒すぎませんか?

 部長が部屋の奥で冷気を放出している。最近こんなことばかりだ。

「どっちでもありません。みんなに恋愛遍歴を聞いてきただけです」

「陽日ちゃん。それはちょっと危ないことだよ?」

 在原先輩が眉を下げて言う。

「……はい。松山先輩と三崎先輩に説教済みです」

 いまいち納得いかないのだけれど。

「あの。皆さんにも聞いていいですか?」

 ここは部室だし、みんな知っている人だから危険はないはずだ。

「間宮」

 一言にもの凄い怒りが籠っている。

「は、はい。なんでしょう!」

 もう、最近こんなことばかりで胃が痛くなる。

 部長の近づいてくる気配に、冷たい汗が背中を滑る。

「勉強熱心なのは結構だ。だが……」

 壁際に追い詰められ、とうとう逃げ場がなくなる。

――バンッ

 部長は右手を壁につき私を見下ろしている。これは俗にいう壁ドンってやつでしょうか。世の女性はこれにときめくのでしょうか。だとしたら恐らくこれは壁ドンではないのでしょう。だって、恐怖のあまり胃液がせりあがってくるのだから。

「……三次元にも壁ドンは存在するんだな」

 やめろ高倉君! そして有川先輩も朝比奈君も楽しそうに見学するんじゃない! 見世物じゃないんだよ!! 

 かくなる上は……

「お助けください、在原先輩」

 この場で頼れるのはただ一人。在原先輩の名前を呼ぶと、部長が左手で頬っぺたをむぎゅっと掴んだ。

「お前は本当に……」

 部長は深く息を吐いて離れていった。

「ぎりぎりで回避するよねぇ陽日ちゃん。危機管理能力、案外高いのかな」

「高かったらこんな事態にはなりませんよ」

 有川先輩と高倉君が首をひねりながら話している。

「怖い。意味が分からない。嫌がらせの類は間に合ってるのに……」

 とりあえず安全であろう在原先輩の背中に隠れて一息ついていると、部長の冷たい視線が刺さる。

「嫌われてるんですかね、私」

「……そうじゃないんだけどね」

 何か千里が不憫になってきた、と呟く在原先輩。

 ……私の味方はいないのだろうか。


悲しいほどに伝わらない、部長の好意。部長はぶっきらぼうなので。

在原と文芸部男子キャラの好みのタイプについては、活動報告にて紹介します!

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