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11.三崎漱、迷子と出会う

皆様覚えていますでしょうか。今回は、生徒会の三崎漱の話です。

 

 いつもと同じ通学路。いつもと違うのは今日は部活が休みでいつもより帰る時間が早いことと、目の前に茫然自失で佇むランドセルを背負った男の子がいること。

 ……声をかけたほうがいいのだろうか。

 ただでさえ泣く子が絶叫するほど怖い顔を、さらに顰めて考え込む男――三崎漱は腕組みながら目の前の少年を見つめる。

「なぁ、お前迷子――」

「お兄ちゃんと同じ制服!!」

 男の子はパタパタと三崎に駆け寄ると、学ランの袖をぎゅっと掴んだ。

 こ、これはどうすればいい……?

 三崎は内心で焦りまくる。自分を見て泣き出さない子供自体初めてであるのに、この少年は自ら近づいてくるのだから。

「お、お前名前は?」

知世ちせ。お兄ちゃんは?」

 丸い大きな目が下から三崎を見つめている。

「漱だ。知世、とりあえず離してくれ」

 知世は言われた通り袖から手を放すが、不安からなのかぴたりとくっついてくる。

「そー兄ちゃんは学校どこ?」

「漱、な。紅陽高校だ。お前の兄ちゃんも同じなんだろ?」

「うん。それでさ、俺お兄ちゃん迎えに行こうと思って……」

「道に迷ったのか」

 知世はこくん、と頷く。

「一緒に行ってやろうか。学校」

「いいの!? ありがとう、漱兄ちゃん!」

 知世は顔を輝かせたと思うと、三崎に飛びついた。

「うぉっ……危ねぇな。道路で抱き着くな。車道に飛び出したら危ないだろう」

 ずいぶんと人懐こい子供だ、三崎は謝罪しつつも自分にしがみついたままの知世のつむじを見ながら思う。

「ほら、行くぞ」

「うん!」

 知世は何の躊躇いもなく三崎の手を握る。恐らく自分の兄と歩くときは決まってそうしているのだろう。

 驚きつつも、三崎は知世の手を握り返した。

「知世は何年生だ?」

 低学年ではあるのだろうが、割と身長があるので判断しづらい。

「一年生だよー」

「一年か。身長高いな、お前」

「うん! お兄ちゃんにも言われたー。漱兄ちゃんもおっきいね」

 よほど“お兄ちゃん”が好きなのだろう、知世は頬を紅潮させて話す。

「あぁ。バスケやってるからな。高いに越したことはない」

 知世と他愛もない話をしながら歩く。無口、というか話す前に逃げられる三崎は、小学一年生の子と途切れることもなく会話できている事実に今更ながらに驚く。

「着いたぞ。とりあえず昇降口で待ってればすれ違うこともないだろう」

「漱兄ちゃんありがとう! ……あれ? 一緒に待ってくれるの?」

 知世はことん、と頭を横に倒す。

「あぁ。いくら校内といっても一人じゃ危ないからな。念のためだ」

「ありがとう!!」

 知世はそう言うなり三崎にひしとしがみつく。三崎も知世のスキンシップに大分慣れてきたのか、しがみつく知世の頭をぐりぐり撫でている。

 ……なんか、和むなこいつ。

 三崎が密かに和んでいると、

「三崎先輩? 誘拐は犯罪ですよ」

「失礼な奴だな。誰が誘拐犯だ」

 生徒会の後輩、佐伯秋人が盛大な誤解をかましてくる。

「どっからどう見ても犯罪者ですけど。誰ですか、その子は」

 佐伯はなおも失礼な発言を繰り返す。

 ……俺、一応先輩なんだが。

「迷子だ。兄貴を迎えに来たんだと」

「へぇ。君、名前なんて言うの? 俺は秋人っていうんだ」

 佐伯は知世に視線を合わせるように中腰になる。

「知世。秋人兄ちゃん、漱兄ちゃんは悪い人じゃないよ? 俺、助けてもらったんだから」

 知世はなおも三崎にしがみついたまま反論する。

「あ、あぁ。ごめんね。そうだったんだ。……先輩、ものすごく懐かれてませんか?」

「あぁ。子供になつかれるのは初めてだ」

 意味が分からないと言いたげな佐伯に、こちらが一番意味不明なんだと訴える。

「ねぇ知世君。このお兄ちゃん、怖くないの?」

 佐伯は納得いかない、と知世に問うが、三崎としては失礼な発言を繰り返す佐伯のほうが納得がいかない。

「怖くないよー。漱兄ちゃん優しいから。学校まで連れてきてくれたし、今も一緒にお兄ちゃん待ってくれてるんだ」

 知世はにこにこしながら佐伯に説明する。

「……君はきっと大物になるよ」

 佐伯の言葉の意味がイマイチわからなかったのか、知世は首を傾げている。

「あれ? 佐伯まだ帰ってなかったの? あ、三崎君もいる……三崎君、誘拐は駄目だよ。犯罪だよ」

「誘拐じゃねぇって。俺を勝手に犯罪者にするな」

 昇降口にやってきたのは、演劇部の松山譲。真面目な性格の松山は、佐伯のような冗談口調ではなく大真面目な顔のマジトーンで言うので、ダメージが大きい。

「その子は?」

「迷子なんですって」

「いやいやいや。三崎君、迷子もつれてきたら誘拐と変わらないよ?!」

 松山は目に見えて慌てている。本当に失礼な奴だ。

「漱兄ちゃんは悪い人じゃないよ!! 漱兄ちゃんをいじめないで!」

 三崎が2人に苛められているように見えたのか、知世は大きな目に涙を溜めている。

「おい、泣くなよ知世。俺は苛められてない。男なら泣くな」

 知世はこくこくと頷き、小さな手で目をこすった。

「あぁ~こするな。赤くなるぞ」

 三崎が屈みこんで知世の手を掴んだとき、またしても

「み、三崎先輩?! その子泣かせたんですか!?」

「泣かせてない。あえて言うなら泣かせたのは佐伯と松山だ」

「佐伯君、松山先輩。軽蔑します」

「いや、待てよ間宮。三崎先輩が子供と居たら犯罪臭半端ないだろ」

 間宮は2人を無視し、知世の前に屈みこんだ。

「お名前なんて言うの? 私、間宮陽日っていうんだ」

「知世。陽日お姉ちゃん、漱兄ちゃんは悪くないんだよ?」

 知世は、泣いて心細くなったのか不安げに間宮を見上げる。

「うん。そうだよね。三崎先輩は顔怖いけどいい人だよね。小さい子泣かせたりしないもんね」

 間宮の言葉に、後ろにいた2人は肩を強張らせる。

「知世君は誰か待ってるの? お迎えに来てくれたのかなぁ」

「うん! お兄ちゃん待ってるんだ」

 知世は一変して笑顔になる。

 ……こいつ本当にコロコロ表情変えて忙しい奴だな。

「へぇ。いいなぁ。お兄ちゃんもきっと嬉しいと思うよ」

 間宮の言葉に知世はくすぐったそうに笑う。

「おい。何玄関前で固まってんだよお前ら。邪魔だ──知世? なんでお前ここに……」

「お兄ちゃん!」 

 知世はやってきた男――夏目千里に飛びついた。

「お兄ちゃん! 迎えに来たよ!!」

 今この場で笑っているのは知世だけだ。みんな、何が起きているのか整理できていない。

「えーと? 知世君のお兄ちゃんて、夏目先輩……?」

 いち早く状況を理解した佐伯が恐る恐る尋ねる。

「うん!」

「そうだ」

 知世と夏目の声が重なる。

「なんで? メンデルの法則……遺伝子の不思議……」

 間宮はぶつぶつと何事かを呟いている。

「え。千里弟いたの? ていうか千里の弟がこんな素直で可愛いってアリなの?」

「黙れ松。そして間宮、全部聞こえてるぞ」

 夏目は軽々と知世を抱き上げる。

「で。知世は何でここにいる」

 夏目は相も変わらずきつい目線で彼の弟を見る。知世は特に怖がっていないが。

 ……あぁ。家でいつもアレを見ているから俺を見ても怖がらなかったのか。

 三崎は心の底から納得した。

「お兄ちゃん迎えに行こうとしたんだけど、途中で道わかんなくなって。そしたら漱兄ちゃんが助けてくれたんだよ! ここまで連れてきてくれて、一緒に待っててもらったんだ!!」

 知世は楽しそうに話す。

「あのな知世。迎えに来てくれるのは嬉しいんだが、危ないからもうするんじゃないぞ。今日は三崎が助けてくれたが、三崎がいなかったら? お前は一人で道に迷ったままだったんだぞ。変質者にあっていたかもしれないし、誘拐されていたかもしれない。危ないことをしていたんだ知世は。わかったか? もうするんじゃないぞ」

 夏目はそういうと知世を下に降ろして、三崎に向き直った。

「三崎。今日は知世が迷惑をかけてすまなかった」

 夏目が頭を下げる。隣では知世が不安げにおろおろしている。

「ほら、お前もだ知世」

「あ、あの今日は、ごめんなさい……」

 知世は怒られると思っているのか、泣き出しそうな顔で頭を下げる。先ほど三崎に言われた言葉を思い出したのか、泣くまいと唇をかんで。

「もう一つ、言うことがあるだろ。知世」

 夏目が頭を下げたままの知世の背中をポンと叩く。

 知世は顔を上げて、まっすぐに三崎を見つめる。

「漱兄ちゃん。今日、助けてくれて、ありがとう」

「おう。気にすんな。俺も楽しかったからな」

 そういって三崎は知世の頭をわしゃわしゃと掻き回した。

「悪かったな、三崎。面倒見させて」

 再度謝る夏目に構わない、と肩をすくめる。

「部長がお兄ちゃんしてる……とりあえずムービーとって有川先輩あたりにLINEで送らねば――」

「だから間宮。全部聞こえてるっつってんだろ」

 夏目は間宮の背中を割と本気で蹴飛ばす。

 ……間宮の扱いひどくないか?

「お兄ちゃんのあれは照れ隠しなんだって。お母さんが言ってた」

 知世が耳打ちして教えてくれる。



 ……あぁ。弟欲しい。

部長は結構いいお兄ちゃんやってます。

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