1.間宮陽日と部活勧誘
三郷 柳と申します。
小説を投稿するのは初めてで、そのくせ長期連載を画策しております。拙作でそのうえ定期的に更新できないほどの初心者ですが、どうぞお付き合いください。
紅陽高校文芸部は変人の巣窟である。
これは新入生が、そして新任の教職員が何よりもまず先に把握するべき、最重要事項だ。
だが私、間宮陽日は一年前、無知ゆえに大きな過ちを犯した。あの日から私の楽しい学校生活は崩れ去った。
「おい、お前ら。今年の新入部員は最低一名だ。まさかとは思うがただの一人も入部希望者がいなかった場合、廃部になるわけだ。いざとなれば生徒会や教師どもを動かすこともできないでもないが、あくまでも最終手段だ。というわけでお前ら、勧誘して来い」
切れ長で漆黒の瞳を細めてのたまうのは、我らが文芸部部長、夏目千里。彼ほど美しいものを、私は見たことがない。あくまでも“見た目”であるが。部長は先の発言からもわかるように、一介の高校生の分際でわけのわからない権力を持っている。他の学校ではどうだか知らないが、教師陣と同等に渡り合える生徒会の精鋭たちや、それこそ教師に至るまで部長の敵ではない。他者とは一線を画す、というか誰も隣に並べやしないほど精巧に整った容姿。頭脳は、もはや日本の高校生ではないだろう。部長が定期考査で満点以外取ったところを見たことがないし、全国模試もトップ。そしてこれは校内でまことしやかに囁かれている噂であるが、我が紅陽高校に隣接する男子校、黒羽高校の不良をその毒舌だけで再起不能に追い込んだという。私は思う。部長はもはや人間ではない。
「部長はどうするんですか?」
鬼畜と名高い部長自ら勧誘すれば一人と言わず望む人数を獲得できるはずだ。部長にとって会話とはつまり脅迫に等しいのだから。
「今年の校内新聞の連載の件で。在原のところに行ってくる」
在原とは、新聞部部長兼、風紀委員長を務めている在原誠先輩のことである。鬼畜部長とは正反対の穏やかで人道的な人物だ。なぜ部長と仲が良いのか謎だ。
「連載……」
私は入部してから一年、この連載の枠を目標としていた。いつも書いているのは短編ばかりで、長編を、それも人に読んでもらえる形で書いてみたいのだ。
「間宮。この前のプロット、採用だ。原稿落としたら黒羽高のヤンキーに売り飛ばすからな」
私のプロットが、採用。てことは、連載枠をとれたんだろうか。
「間宮、返事!」
「は、はい! ありがとうございます。頑張ります!」
「良かったね、陽日ちゃん。念願の連載じゃん。おめでとう。あ、お祝いにデートでも……イタッ、痛いって。踵落としはやめて」
「有川先輩、ありがとうございます。先輩がもの凄く優しかったって伝えておきますね、明先輩に」
にっこりとほほ笑む。
有川泉先輩は、文芸部副部長で生徒会副会長。優しげな甘い顔立ちに、女性の扱いに慣れていることから学内では王子様扱いだ。私としてはセクハラの被害を被っているだけであるが。で、明先輩というのが生徒会長の水野明先輩。私の憧れだ。クールビューティ、女子にモテる女子。有川先輩の想い人。ま、相手にされていないけど。だって、ねぇ。明先輩は在原先輩と、ねぇ。
そしてもう一人の部員は、私と同じ二年生の高倉壱。彼は、武道をやってそうなほどがたいがよく、精悍な顔立ちをしている。部長や有川先輩とはまた違うタイプのイケメンだ。普通にモテるだろうと思う。だが彼は言った。『Z軸のある女子に興味はない』と。つまりはオタクの方だった。
いや、もうなにも期待はしてないさ。でもね、先輩方そして高倉君。私がクラスでなにを言われているか知ってます?
『陽日って何気に逆ハーだよね』
『あぁー。確かに顔面偏差値はめっちゃ高いよねー』
そしてみんな口をそろえて言う。
『ま、それを凌駕するくらい変人だけど。一緒にいられる陽日が一番変人だと思う』
友達? なにそれおいしいの?
クラスのみんなから距離置かれてるんだよ! 私はまともだというのに。
後悔ばっかりだった毎日。けど、退部もせずに頑張ってきて良かった。やっと連載ができる。
「おい、間宮。喧嘩売ってんのか? さっさと勧誘行って来い」
背中に蹴りをくらった。
一応女子なんですけど。……鬼畜には関係ないらしい。
んー。新入部員か。……私の地位向上のチャンス? ここは何としてでも可愛い後輩を獲得しなくては! 先輩たちに任せておけない。
女の子ー。可愛くて大人しそうな女の子ー。
我ながら危ない人だ。自重しよう。
「すみません。文芸部の方ですか?」
私の持っている申し訳程度のプラカードをみて、一人の少年が声をかけてきた。
「はい。入部希望ですか?」
「はい」
少年はそう言ってはにかんだ。
……天使だ。
「朝比奈大地です」
「あ。二年の間宮陽日です。とりあえず部室に来てみますか?」
「はい!」
天使のほほ笑み。私を殺しにかかっている。
朝比奈君は、非常に愛らしい容姿をしている。ハニーブラウンの綿毛みたいにふわふわな髪に、大きな目。色白で、男の子にしては小柄。なんか、女子であるはずの私がみじめになる。
「で、これが入部届ね。うちの顧問か部長に提出して? あ。顧問のほうがいいかも。部長とはなるべく関わらないほうが……」
「ほう。理由を聞かせてもらおうか、間宮」
今、部屋の温度が3度くらい下がった。鬼畜のお帰りか。
「なんでもないです」
一瞬にして部室の隅に移動する。私がこの一年で身につけた技だ。朝比奈君は大きな目をさらに大きく見開いている。
「っち。逃げ足だけは早えよなお前」
「それで部長。入部希望者です」
部長の綺麗すぎる目が朝比奈君に向けられる。
「おい一年、名前は」
「朝比奈大地です。あ、入部届今提出してもいいですか?」
朝比奈君はさっき渡したばかりの入部届を、記入欄をちゃっちゃと埋めて部長に提出した。
「あ、朝比奈君。もうちょっと考えてからでもいいんだよ?」
「え……? 間宮先輩は俺が入部するの嫌、ですか?」
朝比奈君がシュンと項垂れる。耳と尻尾が見える気がするのは私だけか? もの凄い罪悪感。
「違う違う。ほら、文芸部はいろいろと噂があるし。朝比奈君がクラスで浮いたりするかもしれないから」
「そんなの本人の性格次第だろ。浮いてるのは根暗なお前が悪い。すべての非はお前にある」
な、何て言い草。
「あの。俺、大丈夫ですよ。噂は所詮噂ですし、誤解を受ければ解けばいいだけですから。心配してくださってありがとうございます」
……常識人だ。まともな人間だ。
「ううん! こちらこそ入部してくれてありがとう。朝比奈君は私の天使だよ!」
朝比奈君の手を握り涙目でブンブン振りまくっていたら、後ろから部長に頭をはたかれた。
「ごめ~ん。収穫なしだっ……あれ? 陽日ちゃん、新入部員獲得できたんだ」
有川先輩が朝比奈君に近づいて、私が握ったままだった手を見てほざく。
「俺とはつないでくれないのに。陽日ちゃんてショタコンだったん……」
先輩の足を踵で踏みつけて地面にこすりつける。
「痛いですっ。ごめん、陽日ちゃんごめんなさい!」
「騒がしい。泉、高倉はどうした」
部長は自分の席に座って作業をしている。
「ああ。どっかでマンガでも読んでるんじゃない? だいたい壱に勧誘とか無理があるでしょ。あいつ何気に対人恐怖症だし」
「あ。高倉君からLINE来ました。えと『五時から“魔法少女リリカ”始まるんで帰ります』だそうです」
高倉君……。
「あ~。今日水曜日だしね」
「朝比奈。早速だが小説を書いてこい。期限はなしだ。短編でも長編のプロットだけでもいい。好きなジャンルで書いてみろ」
朝比奈君は急に話を振られ、驚きつつも嬉しそうに返事をする。
「はい!」
なんか犬みたいだな、朝比奈君。
「じゃあ今日はもう帰っていいぞ。朝比奈もとりあえず明日から作業は部室でしろ。パソコンでも手書きでもいいから」
「わかりました」
「じゃあ私も帰ります」
「バイバイ千里~」
新入部員も入った。連載ももらえた。今年は私の扱いも向上してくれるともっと嬉しいのだが。
次回も、そう遠くないうちにうpできるように頑張ります。
よろしくお願いします。