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カクテル・バー『J moon』  作者: かがみ透
第七章『兄弟』
30/72

(2)兄弟

 ある休日の午前中だった。

 奏汰がコンビニに買い物に行っている間、アパートでは、蓮華がひとり留守番をしていた。


 チャイムが鳴った。


「おかえりー。……あ」


 蓮華がドアを開けると、知らない男が立っていた。

 相手の男も、驚いた顔で、彼女を見ている。


「あのう、ここは、蒼井奏汰の部屋では……?」


 眼鏡をかけた、二〇代後半と思われるその男が、おそるおそる尋ねる。


「ええ、そうよ。奏汰くんのお客さん? 彼なら、ちょっとコンビニに行ってるだけで、もうすぐ帰るはずだから、どうぞ、上がってお待ちになって」


 蓮華は、にこやかに、男を招き入れた。


 男は、きょろきょろと、部屋の中を見回した。

 八畳ほどのワンルームには、ラグの上にローテーブルと、壁側にベッドがある。

 小さい家具とテレビの他、スタンドにセットしたベースや、小さいアンプなどがある程度の、殺風景な部屋だ。


 蓮華が「コーヒーと紅茶、どちらがいいかしら?」と尋ねると、男は、「ああ、すみません、コーヒーで」と答えた。


 ローテーブルに、コーヒーが運ばれる。


 蓮華は、点いているテレビに見入ると、胡座(あぐら)をかいた。デニムのショートパンツの下に、黒いスパッツのスタイルではあった。


 彼にしてみれば、ちょっと可愛いおねえさんだと思っていたのが、胡座をかき、せんべいをバリバリ食べながら、缶ビールをすすっている、奇妙な女に映ったことだろう。


 見ている番組も、バラエティーである。

 これでは、まるで……まるでーー!


「ただいまー」


 奏汰が帰ってきた。


「コンビニ行ったら、優さんに会ってさ」

「お邪魔するよ~」


 と言いながら、にこにこと、奏汰に続いて、優が入ってくる。


「奏汰っ!」


 男が立ち上がると、奏汰も驚いた。


「兄貴! なんで、ここに?」


 蓮華も優も驚いた。




 二人で話がしたい、という奏汰兄の申し出で、蓮華と優は、急遽、カフェで時間を潰しに出かけると、奏汰が眉間に皺を寄せて、兄の潤を見た。


「何しに来たんだよ? 千葉からわざわざ」


 潤は、奏汰の生まれつき茶色の髪とは違う黒髪と、黒い瞳は彼と似て、吊り上がり気味であり、言われてみれば、兄弟に見えなくもない顔立ちであったが、真面目で地味な印象であった。


「お前にメールした通りだ。職場が横浜支社に移ったのと、母さんも、心配してたからだ」


 奏汰と似た声質だ。


 数日前、奏汰のところに、母親からメールがあったのを、奏汰は思い出した。


「母さん、心配してたぞ。お前が、ミュージシャンになるとかで会社は辞めるし、職にも就かずに、バーなんかでバイトしてるって。しかも、楽器に、金を注ぎ込んでるらしいな?」


「だけど、最近は、音楽学校で、週一、二回、臨時講師に決まったし。……まあ、時給だけど……」


「それだって、非常勤で、後任が決まるまでの間なんだろ? 不安定じゃないか。だから、母さんも、父さんには内緒にしてるらしい。それで、俺が、千葉からこっちに引っ越す際に、お前の様子を見て来ることになったんだが……」


 潤が溜め息を吐く。


「まさか、……同棲していたとはな。まったく、どんだけ堕落してんだか」

「同棲じゃないって。たまに来るくらいで」


 奏汰が言い返すと、潤が、キッと睨む。


「……にしても、胡座をかきながら、お笑い番組見て、昼間っからビールを飲む……まるで男! しかも、オヤジ! そんな女とは!」


「なんだよ、仕方ないじゃないか、ほとんど毎日夕方から仕事なんだから。酒だって、仕事に差し支えないよう、たまに午前中に飲むくらいだし、そんなに強いモンは飲まないようにしてるんだし。仕事以外の時間は、気を抜いてたっていいだろ?」


 潤が目を丸くした。


「なにっ? ……ってことは、彼女、水商売か何かか?」


 奏汰は、迷ったが、観念して打ち明けた。


「バイト先のバーのマダムだよ。実は、皆には内緒で、……付き合ってる」


 潤の顔色が、みるみる変わっていく。


「……ってことは、上司? 職権乱用じゃないか!? ますます許し難い!」


「違うよ! 俺の方から、……なんだよ」


「お前はまだ子供だから、大人の女性が物珍しくて、知らず知らずのうちに誘惑されてただけなんだ。年上の女性、しかも、水商売の女が、お前なんか本気で相手にするわけないだろ? 奏汰、目を覚ませ。今すぐにとは言わない、早いうちに別れておけ」


 奏汰は、ムッとした。


「なんで、そんなこと、兄貴に指図されなきゃならないんだよ?」


「俺も、ここに住むからだ」


「なにーっ!?」


 潤は腕を組み、奏汰を見下す目になった。


「こっちでアパート探そうと思っていたが、母さん以上に、俺も、お前が心配になった。だから、一緒に住んでやろう」


「威張って言うなよ! 俺は嫌だからな! だいたい、ここ、ワンルームだぜ? 大の男が二人もなんて、無理に決まってるじゃないか!」


「俺は、ほとんど寝に帰るだけだから、問題ないだろ?」


「や・だ・ねっ!!」


 奏汰と睨み合う潤は、おもむろに、スマートフォンを取り出した。


「もしもし、母さん? 奏汰が、水商売の女と同棲——」

「おい! やめろよっ!」


 潤の電話は、つながっていなかった。


「口止めして欲しかったら、俺の言うことを聞け」


 勝ち誇ったような潤の顔を、奏汰は、睨みつけた。


「告げ口でも何でもすればいいだろ!」


 奏汰は、ドアを乱暴に閉め、部屋を出た。




 その夜、『J moon』に、潤が現れた。

 奏汰は潤を睨みつけるが、潤は、素知らぬ顔で、カウンターの席に着いた。


「いらっしゃいませ」


 にこやかに、蓮華が出迎える。

 昼間の印象とは別人のように、潤には見えた。

 黒いシンプルなワンピースに、アップにした髪、控えめなアクセサリーの、人好きのする笑顔だ。


 いくつか短い会話のやり取りをする後、潤の希望するものを、蓮華が作り、目の前に置く。


 潤の目は、常に観察していた。

 仕草も、がさつな部分は微塵も見られず、嫌味のない女性らしさが、彼女の好感度を上げた。


「こんなお味は、いかが?」


 彼女の作った、ロックグラスの中のカクテルは、彼の好みに合っている。


「おいしいです」

「それなら、良かったわ!」


 蓮華は、屈託のない笑顔で、彼を見つめた。


 なるほど、奏汰が、フラフラと釣られてしまったのも、わかる気がすると、潤の眼鏡の奥を読み取った蓮華が、潤の方へ、少し乗り出した。


「潤くんは、あたしが彼のこと、弄んでるって思ってるでしょう?」


「違うって言うんですか?」

「あら、言ってくれるわね」


 蓮華は、おかしそうに笑い、小声で言った。


「ここじゃなんだから、その話は、今度デートした時にね」


 蓮華が、いたずらっぽく微笑む。


 潤は、「丁度いい、これ以上、奏汰を惑わさないよう、話しておこう」と思ったようで、静かに頷き、帰り際のレジで、蓮華から、アドレスの書かれた、紙のコースターを受け取った。




「今日、おいでよ」


 従業員たちが帰った後の店内で、そう言った奏汰に、蓮華は、首を横に振った。


「兄貴が、何か言ったのか?」


 奏汰が、心配そうに、蓮華の顔を覗く。


「何も言わないわよ。お兄さん、奏汰くんのところに、しばらくいるつもりなんじゃない? スーツケース持ってたもん。あたしがいたら、邪魔でしょ? 久しぶりなんだから、じっくり、兄弟で話してみたら?」


「兄貴とは六歳離れてて、昔から気が合わないんだ。さっきだって、ケンカになっちゃったし……まあ、俺が一方的に、怒ってたんだけど」


 蓮華が、溜め息を吐いた。


「あたし、第一印象、相当悪かっただろうなぁ。バカよね、つい気を抜いてて……。奏汰くんにも、あたしのことで、いろいろ言われて、いやな想いさせちゃうわね。ごめんね」


「そんなことないよ」


 奏汰が、横から、蓮華を抱きしめた。


「ほんのちょっとの間だけ、我慢しててくれる? 兄貴には、早くアパート探させるから」


「うん」




 翌日、『J moon』仕事前、早めに奏汰が着くと、同じ年代かと思われる男子が、これもまたスーツケースを持って、現れたのだった。


「あのー、すみません、まだ開店前なんですけど……」


 奏汰が断ろうとすると、「琳都りんと!」蓮華が駆け寄る。


「どうしたの? また家を出てきたの?」


 彼女は、琳都と呼んだ青年を、心から心配しているようだ。

 客に対する彼女の態度とは、少し違うように、奏汰には思えた。


 まさか、……元カレ!?


 男子の整った顔に、クールな雰囲気、自分とはまったく違うタイプに思える。


「仕方ないわね。今日は、あたしの部屋に泊まっていいから」

「なにっ!?」


 奏汰が、蓮華の言葉に、逸早く反応した。


「なんで、そうなるんだよ?」


 思わず二人に、ずかずか近付いた奏汰は、目を吊り上げていた。

 蓮華は、きょとんとして、そんな彼を見上げる。


「だって、仕方ないじゃない?」


「どこが仕方ないんだ? 困ってたら、誰でも泊めるのか?」


「あのー、……弟なの」


「へっ!?」


 奏汰は、まじまじと、蓮華と琳都を見比べる。


 そう言えば、弟がいるって、言ってたっけ?


 一見似ていないと思われた二人だが、整った目鼻立ちの配置や、せいぜい耳の形などが、似ているように思える。


 蓮華が、琳都を連れて、従業員用出入り口から出て行った途端に、奏汰は、従業員たちにからかわれていた。


「お前、やっぱ、ママのこと好きだったんだな!」

「まあ、せいぜい頑張れよ、無理だと思うけど!」


 からかわれたのは仕方がないにしても、はなから、俺の片想いだと決めつけているところが気に食わない、というように、奏汰は、面白くなさそうな顔で黙っていた。




 数日後、『J moon』を早めに上がった蓮華は、潤をワイン専門店へ誘っていた。


「友達に教わったお店なの。国産ワインもあるのよ。潤くん、山梨出身なら、ワイン教えてくれない?」


 潤は、山梨産の赤ワインを一つ、選んだ。


「潤くんも、奏汰くんと同じで、ワインは赤が好きなのね」


 蓮華が微笑ましく笑うが、潤は笑わない。


「どう? 兄弟水入らずの生活は」


 赤ワインに口をつけてから、蓮華が尋ねた。


 潤が、やっと口を開く。


「夜は、奏汰が遅いし、朝は、僕が早いから、あまり顔を合わせてませんね。あいつも、あまり口を利かないし」


「そうなの? あたしの話とか、してないの? 『水商売の女に、騙されてるんだろう?』……とか」


 潤が、気まずそうに蓮華を見る。


「……ええ、まあ……そんな忠告はしましたが……」


 蓮華は、気を悪くした様子もなく、美味しそうにワインを飲む。


「潤くん、彼女は?」


「今はいませんよ。生憎、僕は、奏汰のようにはモテませんから」


「どうして? 潤くんだって、イケメンじゃない? よく見たら、奏汰くんと、ちょっと似てて、かわいい顔立ちしてるし」


 潤は、そんな誘惑には乗らないぞと、いかにも警戒するよう、蓮華を見た。

 蓮華が、くすっと笑う。


「なんです?」


「やっぱり、兄弟ね。よく似てるわ」


「そうですか? あまり似てないって言われますけど」


「奏汰くんもね、最初のうちは、あたしのこと、警戒してたのよ」


 潤は、思い切ったような真剣な顔で、蓮華を見た。


「遊びなら、やめて欲しいんです。あいつは、まだ子供だから、大人の女性が、ただ珍しいだけなんです」


「奏汰くんは、子供じゃないわ。少なくとも、あなたよりはね」


 むかっとしたように、潤が蓮華を見るが、彼女は、構わず続けた。


「音楽の才能もある人は、いい男になる素質もなくちゃね。音楽バカはいっぱいいるけど、それだけじゃだめなの。そのためには、いい恋愛をしていかなくちゃ」


「それで、あなたが相手してやってるって、わけですか?」


「あたしは、ただの教育係よ。あたし程度じゃなくて、もっと大人で、素敵な女性に、本気で惚れられるくらいじゃなくちゃ」


「それじゃあ、奏汰だって、そっちの女性の方が、良くなっちゃうんじゃないですか?」


「……そうなのよねぇ」


 ショックを受けるようでもない蓮華は、頬杖を付き、彼から、視線を反らした。


「でも、あたしには、それを止める権利はないから。そうなったら、哀しいけど、あたしのもとから去って行かれちゃっても、しょうがないわ」


「そんなことで、簡単に諦めてしまうってことは、奏汰のことを、本気で好きなわけじゃないんですね」


「……」


 蓮華は、黙ってワインを一口すすると、再び、潤を見て、微笑した。


「奏汰くんは、まだ若いし、いろんな可能性を秘めているわ。それを抑えてしまうなんて、あたしには出来ないの。いくら好きでも、しちゃいけないことって、あるじゃない?」


「……いくら好きでも、しちゃいけないこと……」


 蓮華の言葉を反芻すると、潤は、何かを考え込むよう、黙った。


「都合のいい女みたいだけど、奏汰くんのことは、自由にさせてあげたいの。彼を知れば知るほど、そう思うようになっていったの。こういう愛し方も、あっていいんじゃないかしら?」


 静かな蓮華の声に、顔を上げた潤の目は、どこか遣る瀬ないように、彼女を見つめていた。


「それで、あなたは、……満足するんですか?」


「さあ……。あたしも、あんまり大人じゃないからなぁ。本当は、耐えられないと思うわ。要するに、強がりを言ってるわけ」


 にっこりと笑う蓮華は、再び、ワインに口をつける。

 潤は、笑えそうにない。どこか、同情するようでもある視線を、彼女に向けるが、それには、気にも留めずに、彼女は続けた。


「でも、今が楽しいから、いいの。もし、後に、奏汰くんが、巣立っちゃっても、後悔しないくらい、お互い、今のうちに、楽しんでおくの」


 蓮華を見つめながら、潤が、慎重に、静かに問う。


「あなたが、他の男性に惹かれることもあるでしょう?」


「有り得ないとは言わないわ」


「そうなったら、奏汰を捨てるんでしょう?」


「それは、わからないわ。その時二人で決めることだから。今の奏汰くんなら、ちゃんとひとりの男として、対処できると思うわ」


 フッと、冷めた笑いを、潤が口の端に浮かべた。


「やっぱり、僕には、理解出来ないな。好きな人には、ずっと側にいて欲しいと思うし、相手も、そうあって欲しいと思いますから」


「それは、いつか、結婚することが、頭の中にあるからよ。あたし、結婚はしないつもりだから。今の仕事が、面白いの。改善すれば、すぐに効果があるし、店も成長していくものなのね。奏汰くんには音楽が一番で、あたしには店が一番。いくら愛し合っていても、あたしたちの間では、それは、お互いに踏み越えちゃいけない一線なの」


 肘を付き、手を組んだ上に、蓮華は顎を乗せて、潤を眺める。


「さあ、あたしは、全部話したわよ。今まで、誰にも、話したことないことまでーー奏汰くんにだって、言ってないことも。今度は、潤くんの番よ」


「何で、僕が、自分のことを、あなたに話さなくちゃいけないんです?」


「話したくないなら、いいのよ。聞かないから」


 そう言った通り、それからの蓮華は、彼の過去には触れようとしなかった。




 ワインを飲み終えた二人は、港の公園を通りかかった。


 少しだけ、潤の表情は和らぎ、多少は、笑顔も見せるようになっていた。


「蓮華さんて、最初の印象と、違うんですね」


「ああ、あっちが本来の姿よ。オヤジでしょう?」


 あはは、と蓮華は笑った。


「今日は、デートだから、大人の女ぶってみたのよ」


「正直な人ですね。根は悪い人じゃないことは、よくわかりましたよ」


「ありがと。どう? 奏汰くんとのこと、許してくれる気になった?」


 期待を込めた目で、蓮華が、潤を見上げた。

 潤は、すぐさま、笑顔を引っ込めた。


「それとこれとは、別です」


「う~ん、なかなかしぶといわね。だったら、許してくれるまで、潤くんのこと、何度でもデートに誘うからね」


「自分から、手の内見せてどうするんです?」


「それでも、あなたは、あたしに会うわよ」


 蓮華が、勝ち気な笑顔になる。


「自信過剰だなぁ」


 潤は、呆れたように、だが、どこか感心したように、蓮華を見つめた。




 急いで、蓮華が店へ戻ると、閉店を過ぎていたが、奏汰がひとり、残っていた。

 嬉しそうに、蓮華は、彼に近寄って行く。


「今日、早めに上がってたよね。どこか行ってたの? もしかして、デート?」


 奏汰が、からかう。


「そうよ」


「へー、誰と?」


「奏汰くんに、(ゆかり)のある人」


 奏汰が、にっと笑った。


「つまんなかったでしょ?」


「まあ、あれは、あれで、面白かったかなぁ。『オトナの女』ぶれたし。でも、やっぱり、奏汰くんがいい!」


 蓮華が、奏汰に抱きつく。

 奏汰は照れたように微笑むと、蓮華の肩を抱きしめた。


「もし、俺の前に、すっごくいい女が現れたら?」


「その女に勝つ!」


 さきほど、潤に言ったことと違うことを、答えた蓮華だった。


「なにそれ?」


 奏汰が笑う。


「あたしも、もっといい女になって、奏汰くんに、飽きられないように、頑張るの」


「充分、飽きないよ。蓮華、可愛くて、面白いから」


 奏汰が、蓮華に口づけようと、顔を近付けると、奏汰のスマートフォンが鳴った。

 画面には、潤の名前が出ている。


「なんだよ」


 ぶっきらぼうに、奏汰が電話に出た。

 「まだ終わらないのか、早く帰ってこい」等と言われ、途中で、奏汰が電話を切り、電源自体を切ると、カウンターに置いた。


 それから、気を取り直したように、蓮華を抱きしめ、大事そうに、唇に触れようとした。

 その時、従業員出入り口が開いた。

 二人が慌てて離れると、琳都が入ってきたのだった。


「蓮華、ママから電話」


 琳都は、自分のスマートフォンを、蓮華に持って行った。


「ちょっと、ママ、あたしだって忙しいんだから、琳都に急に来られても……、部屋だって狭いんだし、琳都がベッドで寝るもんだから、あたしが床で、布団敷いて寝てるのよ。冗談じゃないわよ。いったい、今度のケンカは、何が原因なの?」


 話の内容から、琳都と父親がケンカをした時は、ほとぼりが醒めるまで、蓮華のところに、琳都が泊まりに来ることは、よくあるようだった。


 電話が長くかかりそうであったので、奏汰は、蓮華に目配せして、帰ることにした。


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