(7)「チャーリー・チャップリン」上司と同僚と同級生
美砂の会社では、昼食の時間だった。
彼女の隣には、同期のめぐみと、先輩にあたる亜矢が、社内で、弁当を広げていた。
「最近、美砂、きれいになったよねー?」
めぐみが、切り出した。
「好きな人でも出来たの?」
亜矢に尋ねられ、美砂は、恥ずかしそうではあったが、奏汰のことを、少し話した。
「同級生なんだ? 同窓会で再会して? やっぱり、同窓会って、貴重なんだねー! それで、それで? うん、うん、ミュージシャン志望で、バイトでカクテル作ってるの? それでいて、イケメン? うわーっ、羨ましいっ!」
「ちょっと、めぐちゃん、声大きいよ」
赤面しながら、美砂が窘める。
「でも、私は、もうちょっと体育会系の方が、好みかなぁ」
「彼、高校の時は、軽音部と陸上部をかけ持ちしてたから、体育会系でもあるんだけど……」
めぐみに、美砂が答えているのを、亜矢は微笑ましそうに見ていた。
「でもさー、要するに、そいつ、フリーターなんでしょう? 収入安定してないじゃん」
横から話に入ってきたのは、同僚の男子、松岡瞬だった。
大学を卒業してから就職したので、短大卒の美砂やめぐみとは、二歳違いだ。
「松岡くんは、美砂のこと、好きなんだもんねー? 面白くないんでしょう?」
美砂がびっくりしている横で、めぐみがからかうと、「別に……」と言いながら、松岡は、こそこそと退散した。
「だけど、……松岡くんが言うように、フリーターだからかな? デートの時って、割り勘なのよね……」
美砂が呟くと、めぐみと亜矢が、身を乗り出した。
「えっ、そうなの?」
「うん。彼、消音機能のあるウッドベースを今借りていて、ちゃんと自分のが欲しいからって、バイト掛け持ちしてるの。そのベースが、二〇万もするんですって」
「楽器に二〇万!?」
美砂も含めてであったが、楽器をやらない二人には、考えられない金額だった。
「そっか、フリーターだと、ボーナスもないんだもんね。うちの会社ですら、ちょっとだけだけど、ボーナスはくれるから、まだマシか」
めぐみが、考え考えに言った。
「でも、それだと、デートは……」
亜矢が、美砂を気遣うように見る。
「ええ、安上がりなお店が多くて。彼、よく食べるから、安くて量の多いお店なら、いろいろ知っていて。……って、このくらいの年の男の子は、あれが普通の量なのかも知れないけど」
「ああ、でも、そういう店は、オシャレじゃないんだよねぇ。たまには、オシャレなところに行きたいよねぇ?」
「夜は、たまにピアノバーに連れて行ってくれるけど、音楽の勉強も兼ねてるみたいだから、演奏中は、あんまり話しかけたらいけない気もして……彼も、音楽聴くと、集中しちゃうから」
めぐみも亜矢も、口をぽかんと開けた。
「……その彼、……なんか変わってるね」
「そ、そうなのかな? 彼、音楽が第一だから」
「その彼女となると、……支えてあげないと、ってことになるのかしら?」
と言った亜矢を見て、美砂が頷いた。
「でもさー、それじゃ、美砂は、淋しくない?」
めぐみが、美砂を見つめる。
美砂は、少し淋しそうな顔になった。
「私が一番じゃなくていいって、もともとそのつもりで、付き合ってるから」
その美砂のセリフには、めぐみは呆気に取られて、コメントが浮かばない。
亜矢が、美砂にやさしく微笑んだ。
「それだけ、彼のことが好きなのね?」
頬を赤く染める美砂に、亜矢は続けた。
「辛くなったら、ちゃんと言うのよ。私たちも愚痴聞くから。もちろん、その前に、彼にも、ちゃんと話すのよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
美砂は、亜矢とめぐみを改めて見た。
その日の仕事が終わったのは、八時過ぎであった。
「ここのところ、残業続きで大変だったね。お詫びに、晩ご飯、ご馳走させてくれる?」
上司である須藤は、社内でも、若手のやり手として評価され、常に洒落たスーツとネクタイ、端正な顔立ちで、女子社員からも、密かに人気がある。
その須藤が、美砂に声をかけたのだった。
「そんな、気を遣わないで下さい」
須藤は、真面目な顔から、一変して、親しみ易い笑顔になった。
「じゃあ、お詫びじゃなくて、ついでってことなら、ご一緒してくれるかな? 俺、一人暮らしだから、今からメシ作るの面倒で」
「そういうことなら、お付き合いいたします」
須藤が美砂を案内したのは、カジュアルなイタリアン・レストランで、あたたかみのある珪藻土の内装が、女性受けする。
「ここ、素敵なお店ですね。須藤さんが、こんなところ知ってたなんて、意外です」
彼の、誰とでもすぐに打ち解ける明るいキャラクターから、入社以来、親しみを感じていた美砂は、他意はなく、素直に褒めていた。
「ひどいなぁ、これでも、二八だぜ? 女の子と食事くらいは、したことあるんだから」
「そうですよね。須藤さんて、女子社員に人気ありますもんね」
「そうだろー?」
須藤が冗談めかして言うと、美砂も、おかしそうに笑った。
「美砂ちゃんは、最近、きれいになったよね」
美砂が笑う。
「そんなお世辞言ったって、何も出ませんよ」
「ほんとだって! 前から、きれいだったけどさ、何かお固そうに見えて、ちょっと近付き難かったんだけど、この頃は、丸みが出て来たというか……表情が、柔らかくなってきたように思えるんだ」
美砂は、意外そうな顔になった。
「そうなんですか? 自分では、よくわかりませんが……」
ワインを傾けながら、須藤が言った。
「彼氏でも出来た?」
美砂は、恥ずかしそうに、俯いた。
「はあ……まあ……。彼氏っていうのかな。まだピンと来ないけど……」
「それは、良かったね。会社のヤツじゃないでしょ?」
「え、ええ……」
美砂は、白ワインに口をつけた。
「同級生なんです。高校の時に、片想いしてたんですけど、卒業したら、彼は東京に行っちゃって、もう諦めてたんです。ついこの間、同窓会があって、再会したら、もっと格好良くなってて……あっ、ごめんなさい、私ばっかり喋っちゃって」
アルコールの勢いで、つい話してしまった美砂だが、須藤が、笑いながら「いいよ、いいよ。それで、どんな人なの?」と聞いたので、続けた。
「バーや他でもアルバイトしてるんですけど、プロのミュージシャン目指して勉強中で。時々バイト先のバーのライブに出たりして、経験積んで、頑張ってるところなんです」
「へえ、格好いいね! それから? どんな性格なの?」
「やさしいです。話もよく聞いてくれて。でも、未だに、高校生みたいな『男の子』って感じの面もあって。そんなところは、ちょっとかわいい気もするんですけれど、同級生の男子と比べたら、大人っぽくて、頼もしいところもあるんです。音楽方面のことには一途だからか、考えてることとか、行動とか、時々読めなくて、まだよく知らない部分もありますけど……」
須藤は、頷きながら、何かを考えているようだった。
「その彼がバイトしてるバーって、どこにあるの?」
「横浜ですけど……?」
「よし! 今から、行こう!」
「えーっ!?」
須藤の思い付きに、美砂が驚いた。
「それとも、俺が一緒だと、マズいかな?」
美砂は、動揺していた。
「あ、あのっ、いろいろ複雑な関係なので……!」
「何それ?」
須藤には、わかるわけがなかった。
「ただの職場の上司なのに、誤解するようじゃ、彼も、まだまだってことなんじゃないの?」
きょとんとしてそういう彼に、美砂は、それも一理あると思った。
そして、須藤を連れていくことで、奏汰が少しでも妬いてくれたら、という期待も浮かんできたのだった。
そして、『J moon』。
「あら、いらっしゃい」
美砂を見つけた蓮華が、寄って行く。
この日の蓮華は、以前、美砂が見た時の黒いレースをあしらった服装とは一変し、白い、生成りの、ふわっとした服装だった。彼女の、緩いウェーブがかった、アップの髪にも、似合って見える。
仕事帰りの美砂は、紺色のジャケットに、プリーツ・スカートだ。
隣にいる、チャコール・グレーのスーツに、目立つ柄のネクタイをした須藤を紹介した。
「こんばんは。会社の上司の、須藤さんです。こちらの話をしたら、突然、行きたいって」
「こんばんはー。いやあ、バーのマダムが、こんなに若くて、きれいな方とは、思わなかったなぁ!」
はしゃいでいる須藤に、蓮華は、にこやかに「それは、どうも」と、返した。
「奏汰くんには、内緒なの?」
蓮華が、小声で、美砂に尋ねる。
「ああ、本当にただの上司ですから、どうぞ、お気遣いなく」
美砂が答える前に、須藤が答えた。
「あら、そうなの」
蓮華は微笑んだ。
「席は、テーブルでいいかしら?」
「はい」
美砂が応え、蓮華が案内しようとすると、須藤が止めた。
「せっかくですから、カウンターで。僕、あんまりバーに来たことないもので」
驚いて、美砂が須藤を見上げる。
蓮華も目を丸くするが、すぐに笑顔になり、面白そうに、須藤を見た。
「それなら、こちらにどうぞ」
「すいませんねー」
須藤も、蓮華に笑いかけた。
「もう、須藤さんたら! わざわざカウンターにしなくても、いいじゃないですか」
美砂が須藤の服の腕を引っ張り、小声で言った。
「カウンターの方が、バーテンダーと話が出来るから、面白いじゃないか。バーに来たら、カウンターに座るもんだよ」
「で、でも……」
尻込みする美砂に構わず、須藤は、さっさとカウンターに腰かけた。
「いらっしゃいませ。こちらがメニューになります。メニュー以外のものでも、ご希望があれば、ご用意いたします」
と、優がメニューをテーブルに置く。
須藤は、メニューには触れず、即答した。
「じゃあ、カナタくんを」
隣の美砂は、驚いて、声も出せない。
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
優が、にっこり笑った。
「……どっ、どういうつもりなんですか? わざわざ呼ばなくても……!」
焦った美砂が、須藤に問い詰めるが、「あのバーテンダーの人、いい人だね」とだけ言った。
「いらっしゃいませ。……あれ?」
Yシャツにベストとネクタイの制服姿で現れた奏汰は、意外そうに、美砂を見た。
おどおどと上目遣い気味に、美砂は、小さい声で「こ、こんばんは」と言った。
そんな美砂をちらっと見てから、須藤が、顔を上げた。
「美砂ちゃんの上司の、須藤晃と申します」
須藤は、彼よりも明らかに年下の奏汰に対しても、感じの良い会釈をした。
「彼女の同級生の蒼井奏汰です。よろしくお願いします」
奏汰が、にこやかに返す。
「今日は、きみに、何か作って頂いてもいいですか?」
「はい。何がよろしいでしょうか?」
「そうですねぇ、実は、カクテルって、あんまり知らないんですけど、とりあえず、辛口でロックのもの、お願いします。ああ、酒は強い方だし、カンパリ以外は、焼酎でも日本酒でも何でもOKなんで。なんなら、きみの好きなものにしてくれる?」
そう楽しそうに注文する須藤の横で、美砂は、呆気に取られていた。
一瞬、目を丸くしながらも、奏汰は笑顔になった。
「では、ジンライムはいかがでしょう?」
「ああ、じゃあ、それお願い」
「かしこまりました」
「美砂ちゃんは? どうしましょうか?」
「えーっと……」
メニューを見ていた美砂の隣で、またもや須藤が言った。
「彼女のイメージで」
「ちょ、ちょっと、須藤さんっ、そんなっ……!」
恥ずかしそうに慌てる美砂であったが、奏汰は、「かしこまりました」と笑った。
その様子を、遠巻きに見ていた蓮華が、美砂に微笑んでいるのが、美砂にも見えた。
しばらくして、奏汰が差し出したのは、ジンライムと、バイオレット・フィズであった。
「美味しいね! 結構辛いけど」
「ありがとうございます」
「まさに、ジンとライム果汁だけのカクテルかぁ。これが、好きなんだ?」
「はい。ここでは、ちゃんとライムを絞って、お出ししていますが、自分の分を作る時は、楽してライムジュース使っちゃいますけど。だから、もう少し甘いですよ」
奏汰が笑うと、須藤も笑った。
「この氷って透明なんだね。普通の氷って、白っぽい部分あるよね?」
「空気や、水道水に含まれるミネラル分が、白くなるんです。純粋な水で作られた氷だと、カクテルの味の邪魔もしないし、透明で溶けにくいので、バーでは、氷屋さんから氷を買って、使い易い大きさに、アイスピックで削るんです。手袋しちゃいけなくて、素手だから、すごく冷たいですよ」
奏汰が、須藤の質問に答える。
「へー……!」
「そうだったの?」
興味津々に瞳を輝かせる須藤と、美砂も目を丸くして、感心していた。
「美砂ちゃんのは? きれいな色だね」
すみれ色と透明のグラデーションのカクテルが、逆三角形のロング・グラスにそそがれている。
「そちらは、バイオレット・フィズになります」
一口飲んだ美砂が、「美味しい!」という。
味見をした須藤も、目を見開いた。
「上品な感じで、美味しいね。今日の美砂ちゃんの服とも、合ってるし、まさに、彼女のイメージ通りだね!」
「おそれいります」
「どうやって作ったの?」
須藤が、興味津々な目になる。
パルフェタムールというリキュールに、レモンジュース、シュガーシロップを入れ、シェイクしてから、炭酸水を入れるのだと、奏汰が説明した。
「そんなにいろいろ入ってたの? へー!」
「ジンを入れるパターンもありますが、甘口が好きな美砂ちゃんには、入れない方がいいかと」
「なるほど! 飲み手に合わせてくれてるんだね!」
須藤が感心する横で、美砂も、嬉しそうに微笑む。
「じゃあさあ、今度は、あのママのイメージで作ってみてよ」
須藤が指した先には、接客中の蓮華がいた。
少し複雑そうな表情を浮かべた奏汰は、すぐに、「かしこまりました」と言って、カクテルの制作に入った。
「あ、あの……何で?」
探るような目で、美砂が須藤を見上げる。
「え? 別に。美砂ちゃんとは違うタイプだろうと思ったから、また違った味のカクテルが飲めるんじゃないかと思って」
けろっとした調子で、須藤が答えた。
彼が、奏汰と蓮華の関係に気付いたわけではなかったのかと、美砂はホッとした。
そして、奏汰が須藤に出したのは、ロックグラスに入った、明るい茶系の飲み物だった。
「これも、美味しいね! 柑橘系の味で、さっぱりしてて。これは?」
「『チャーリー・チャップリン』といいます」
「ああ、あの昔の映画俳優の? カクテルって、そんな名前のもあるんだ? 面白いね!」
感心した須藤は、カウンターの中に戻ってきた蓮華を呼び止めた。
「ねえ、ねえ、ママ! ちょっと、これ、味見してみて」
奏汰と並んだ蓮華が、グラスに口をつける。
奏汰は、黙って、横目でそれを見ていた。
「あら、『チャーリー・チャップリン』ね」
「どう? ママのイメージで作ってもらったんだけど」
須藤が微笑む。
「そうね、アプリコット・ブランデーとか、ストロベリーの風味もあって、甘そうなものが入ってる割りには、飲んだらさっぱりしてるところが、あたしらしいって、言われたことはあるわ。見ての通り、あたしって、ソフトで女らしいでしょう? だけど、中身は全然違うって、よく言われるのよ~」
冗談口調で、そう言った蓮華に、須藤が「そうなんだ? おねえさん、きれいなのに、面白い人なんだね!」と笑った。
「ただ単に、ママの好きなもの作っただけですから」
奏汰が早口で言う。
「あら、あたしの好きなものって、これだけじゃないわよ? 『サイドカー』とか、『ギムレット』とか……」
「知ってますよ」
奏汰が少しだけムキになったように、蓮華を見る。
美砂は、そんな奏汰を、観察するように見ている。
それには、まったく気付いていない様子の須藤が、蓮華に、お勧めのカクテルを注文し、奏汰は、美砂の分を作る。
「あなた、サラリーマンにしておくの、もったいないわね」
「でしょう? もし、リストラされたら、ここで雇ってくれる?」
「構わないわよ」
「やったー!」
「ただし、ホストじゃないんだからね、イケメンだからって、お客さん、口説いちゃダメよ~」
「……やっぱ、ダメですか?」
と、困った顔になった須藤に、蓮華は吹き出した。
その後も、須藤と蓮華の話は、盛り上がっていた。
その隣で、美砂は、カクテルを作る奏汰を、眺めている。
その視線に気付いた奏汰が、微笑み返すと、美砂も嬉しそうに微笑んだ。
「すみません、夕飯だけじゃなく、ここの分まで、ご馳走になっちゃって」
「ああ、いいの、いいの、誘ったの俺なんだし」
礼を言う美砂に、須藤が軽く笑い飛ばす。
「結局、ウイスキー、ボトル・キープしちゃったよ」
「須藤さんて、知らない場所でも、あんまり物怖じしないんですね」
「まあね。仕事で営業してると、知らないところに飛び込むのは、慣れてるから」
笑った後で、須藤が、美砂に向き直った。
「仕事してるところしか見なかったけど、二一歳にしては、落ち着いてるよね、彼。まあ、ああいう仕事は、そういう対応しないといけないんだろうけど。ちゃんとカクテルも勉強してるようだし、根は真面目そうだね」
「ええ、そうですね。もちろん、普段の彼は、普通の男子ですよ。遊園地で遊ぶの好きだったり、すごく食べたりとか」
美砂が、くすくす笑った。
「彼、茶髪でイケメンだけど、チャラチャラした感じはないし、美砂ちゃんが格好いいっていうのも、わかる気がするよ。いいんじゃない、彼」
「そうですか!」
美砂が、嬉しそうに微笑んだ。
「今度は、演奏の方も、聴いてみたいなぁ」
美砂の瞳が輝いた。
「本当ですか? 来週、彼、ライブに出るんですけど、いらっしゃいます?」
「うん、連れてってよ」
「はい!」
美砂の嬉しそうな笑顔に、須藤も、微笑んだ。
「この間の、須藤さんだっけ? あの人、美砂ちゃんのこと、好きなんじゃない?」
夏は終わり、秋へと季節は移り変わっていたが、公園を歩きながら、アイスキャンデーを食べる奏汰が、美砂に言った。
「そんなこと、ないんじゃない? 蓮華さんと話が弾んでたから、彼女みたいな人の方が、気が合うんじゃないかしら?」
「単に、ノリが合ってただけじゃないかなぁ」
「奏汰くんは、須藤さんのこと、どう思った?」
奏汰は、くわえていたアイスの棒を、近くのゴミ箱に捨てた。
「正直、俺は苦手かなぁ。あの人って、ちょっと強引そうじゃない?」
美砂は笑った。
「そうかも知れないわね。でも、須藤さんは、奏汰くんに好感持ったみたいよ。明日のライブも、一緒に行くことになってるし」
「えっ? また来るの?」
思わず露骨な態度になる奏汰に、おかしさをこらえた美砂が続けた。
「ボトル・キープもしたって言ってたし」
「蓮華のヤツ~、いつの間に? 商売だからって……!」
美砂が、奏汰の腕を、服の上から、引っ張った。
「ねえねえ、ちょっとは妬いた?」
「……まあね」
面白くなさそうに、奏汰が返事をする。
「それって、須藤さんと私が、一緒にいることに? それとも、……蓮華さんが、須藤さんと仲良くなる……」
肩を引き寄せる奏汰に、唇をふさがれた美砂は、最後まで言うことは出来なかった。
今までにない、荒っぽい口づけには、明らかに、嫉妬が感じられる。
顔を赤らめた美砂は、黙って、奏汰の顔を見上げた。
「もちろん、美砂ちゃんと彼に……だよ」
美砂の肩を抱いたまま、奏汰は、そっぽを向いた。
美砂は、自分の肩にある彼の手に、視線を落とした。
本当は、蓮華と彼に、妬いているはずだと、彼女は思う。
奏汰は、自分を気遣っているに違いない、と。
いつかは、私一人を見てくれる?
美砂は、心の中で、奏汰に問いかけていた。
話は、一般人のドラマに。
上司と同僚と同級生の関係、もうちょっと続きます。




