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カクテル・バー『J moon』  作者: かがみ透
第五章『同級生』
20/72

(6)Interludeーー間奏曲

 約一週間後の朝、奏汰が遅い朝食を買いに、コンビニへ行くと、偶然、優に出会い、二人は、ファーストフードのモーニング・メニューに変更した。


「最近、『J moon』忙しいんですか? 閉店後も、蓮華とあんまり会えなくて、メールでも、忙しいって」


 マフィンを手に、奏汰が尋ねる。

 優は、フライドポテトをかじる。


「ああ、『J moon』の仕事が残ってるというより、上のカフェの方にね、エスニック・メニューを取り入れたいって、前から新香さんと企画していたから、その打ち合わせをしてるんだよ。予算の関係や、お客さんのこともあるから、いきなりガラッと店の雰囲気変えるよりも、カフェのままで、アジアン・スイーツをメニューに加えて、様子を見ながら、アジアン・フードも増やしていくみたいだよ。僕も、いつも先に帰らされちゃうから、どこまで話が進んでるのか、詳しくはわからないんだけどね」


「そうだったんですか」


 コーヒーに口をつけてから、優が切り出した。


「そう言えば、この間の彼女、可愛かったね。珍しく、純粋そうな子だよね」


「そうなんですよ」


 奏汰は、少し照れて微笑んだ。


「何も知らないっていうのも、いいものですね。素直だし、かわいいし、こっちの言うことに従順だし」


 優が、眉間に皺を寄せた。


「何も知らない子は、大変だよ、いろいろね。はっきり意思表示してくれる子ならいいんだけど。言葉が通じにくかったり、察して欲しいところを察してくれなかったり、言っても構わないことを、言わずに我慢してたりとか。最初のうちは、男側が気を遣うことが多いと思うよ」


「そうなんですか……」


「……蓮ちゃんは、何も言ってこない?」


 気遣うような視線の優に、奏汰は、微笑んだ。


「他の女と恋愛しろって勧めただけあって、なにも。そんなところも、俺と違って、大人ですよね」


「大人でも、男にも弱い部分があるように、彼女にだって、弱いところはあるよ。……なんか変な例えだけど、まあ、いっか」


 その優のセリフの後、奏汰は視線を落とした。


「……俺、まだ、彼女のそういうところ、見てないんですよ。今まで女同士で店経営してきて、気を張ってるだろうし、俺がかなり年下だから頼るわけにはいかないんでしょうね。でも、いざという時、頼りにされてない気がするのって、男にとっては、淋しいですよね」


 奏汰のどこか憂いを含んだ顔を、優は、なんとも言えない表情で、じっと見つめていた。




 ある平日、奏汰の仕事が休みの日に合わせて、美砂が有給休暇を取り、二人で昼間から待ち合わせることになった。


「昼、何食べようか?」


 奏汰の問いかけに、美砂は、「何でもいい。奏汰くんの食べたいもので」と、笑顔で答えた。


「ホント? じゃあねぇ、牛丼!」


 そう嬉しそうに、素直に答えた奏汰に、美砂の目が丸くなった。


「私、牛丼はちょっと……」

「あ、そう? じゃあ、とんかつ!」

「えっ!」


 さらに、美砂が驚く。


「揚げ物は、カロリー高いから、あまり食べないようにしてるの」

「あ、そう……。女の子って、大変だね」


 奏汰は、ふと思い浮かべていた。

 蓮華は牛丼も好きであったし、とんかつ屋に行く時は、キャベツとご飯をおかわりしていた。

 これまで付き合った女子も、牛丼屋や、とんかつ屋くらいは一緒に行ったが、よくよく思い起こせば、とんかつよりは、ヒレカツや、カニクリームコロッケ等を注文することの方が、多かったかも知れない。


 だからといって、美砂と比べてはいけない、と思い直した彼は、他に女の子の好きそうな物を考え、頭をひねった。


 その間、美砂は、黙って見守っている。


「じゃあ、パスタは?」

「うん」


 にっこり頷いた美砂に、なんとか知恵を絞った奏汰は、ホッとした。


 彼が連れて行った店は、パスタの量が、通常の店よりも多いところだった。

 安くて量があるので、育ち盛りの男子には、有り難い店である。


「ここって、……量多くない? 二、三人分はありそうよ?」

「大丈夫だよ、それくらい、二人いれば、意外に食べられちゃうよ。ここのボンゴレの、あさりが大きめで、美味くてさー」


 奏汰がそう言うと、美砂の表情が、またしても変わった。


「ボンゴレって、にんにく使ってるよね? ……にんにくって、匂うから……」

「あ、そう? うーん、じゃあ……」


 スープパスタやトマトソース系は、跳ねると服に染みが付き、落ちにくい。

 ホワイトソースは、カロリーが高い。

 明太子は辛い。


 などという美砂の話から、ようやく、その店で、最も低カロリーの、きのこの和風パスタに決まったのだった。


「あれ? もう食べないの?」

「うん。私、少食だから」


 ボールには、まだ半分以上のパスタが、残っている。


「じゃあ、後は、全部、俺が食べていい?」

「そ、そんなに食べられるの? 無理しなくても……」

「平気、平気! 育ち盛りだから!」


 そして、奏汰は、ペロッと平らげた。




 食後は、遊園地に向かった。

 楽しく遊んでいるうちに、奏汰がきょろきょろと露店を見回し始めた。

 たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、クレープ等の文字が、美砂の目にも留まる。


「なんか、腹減ったなぁ」

「えっ、もう? さっき、あんなに食べたのに?」


 美砂は面食らうが、奏汰は笑った。


「だって、あれから三時間は経ってるよ。今度のは、おやつだよ。何か買ってくるけど、美砂ちゃん、何がいい? クレープとか食べる?」


「私は、アイスコーヒーだけでいいわ」


 二人は、パラソル付きのテーブル席に、座った。


 アイスコーヒーの他に、奏汰の買ってきたフライドポテト、アメリカンドッグ、紙カップの生ビールに、美砂は驚いた。


「そんなに食べるの? それに、昼間から、ビール飲むの?」


 アメリカンドッグをかじり、ビールを飲む奏汰が、今度は驚いた。


「えっ? 美砂ちゃんは、昼間飲まないの?」

「飲まないけど……?」

「ああ、そう……」


 遊園地でひとしきり遊んでいると夕方になり、辺りは、薄暗くなってきていた。


「夕飯、何食べようか?」


 奏汰が、わくわくしたように尋ねる。


「何でもいいわ。……なんか、食べてばっかりね」


 美砂が、くすくす笑う。


「じゃあ、焼き肉はどう? あ、焼き鳥でもいいや!」


 美砂の表情が、曇る。


「……奏汰くんて、お肉が好きなのね」


 奏汰が、困ったように笑った。


「やっぱり、だめ? じゃあ……」


 奏汰は、どことなく、疲れを感じていた。


 食べられないものが多いんだから、自分から、何が食べたいって言ってくれればいいのに。男なんか、腹にたまれば、何食ったっていいんだから。俺の発想なんて、こんなもんーーつまり、『肉』しか出て来ないし……。


 考えては美砂に失礼だとは思いながらも、奏汰は、蓮華を思い出していた。


 食べたいものも、行きたいところも、はっきりしていた彼女は、このような場合は、楽だった。


 楽だからいい、ってわけじゃないけど……。


 とにかく、奏汰は、美砂が行ってくれそうな店を、片っ端から思い浮かべてみる。


 一方、美砂の方は、女と縁遠いわけではなかった奏汰が、女子の好みがわからないのが、意外なようだった。


 ようやく、奏汰が、思い付いた。


「お寿司はどう? そこの回転寿しなら、量の少ないうどんとか、サラダとか、サイドメニューも充実してるし」


「うん……」


 その提案にも、あまりピンとこない顔の美砂が、思い切ったように、口を開いた。


「あの……、私の好きなお店が、この近くにあるんだけど……」


「ああ、なんだ! それなら、言ってくれて良かったのに。そこに行こうよ! 何ていうとこ?」


 美砂が店の名前を告げると、奏汰の表情が曇った。


「えっ、あそこって、オシャレで、確かに女子に人気あるけど……量少ないよね? 」


 美砂が、上目遣いになる。


「でも、好きなんだもん」


 奏汰は、慌てて、笑顔を作った。


「わかった、わかった、そこにしよう!」


 食べ終わって、食後に紅茶を飲みながら、話をしているうちに、デートは、唐突に終了を告げた。


「やだ、もうこんな時間だったの?」

「え? まだ、八時過ぎだけど?」


「明日、仕事で早く起きないといけないから」と、美砂が慌てるので、奏汰も、急いで送っていったのだった。




 帰宅した奏汰は、発泡酒を飲みながら、師匠の橘から借りているライブのDVDを見た後で、ベースの練習をし、寝る準備をした。


 ベッドに入ると、さっそく、腹が鳴った。


「腹減ったし、……なんか、疲れたな……」


 そう呟いた。


 蓮華からは、相変わらず、何のメッセージもない。


 新メニュー開発で忙しいなら、こちらも、静かにしておこうと、彼は思った。


お子ちゃま同士の可愛らしい(?)デートでした。(^^;


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