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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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初めての魔王に挑む!

 それは、『初代魔王』が誕生する前の話だ。


 私ーークロノワール・グラムは、小さな田舎町で過ごしていた。

 決して裕福ではなかったが、家族3人で生活する小さな家は、何処にも負けないくらい幸せな場所だった。

「クロ! 今日も学校でしょ!? ほらさっさと起きなさい!」

「えぇ……もう少し寝かせてよ……」

 村にある学校は、村長の家を借りて、村中の子供達が勉強を行う場所だ。

「さっさと行かないと、リリちゃんに負けちゃうわよ?」

「…………それは嫌だ」

 当時からリリアーデには負けたくないと張り合っていた。もちろん、今でも負けるつもりはないがな。

 とにかく、……幸せだったんだ。

 今では考えられないくらい、笑ったり、泣いたり、怒ったり……色々な感情を持っていた。


「……リリちゃんはまだのようだな。つまり、私が一番だ!」

 誰もいない教室で、天井を突き抜けそうな勢いで腕をあげる私。

「残念でした。寝坊助クロちゃんは、2番ですよぉー」

「な、なに!?」

 そんな声を上げるのは、姿隠しの魔法を解除したリリちゃんこと、リリアーデだった。

 まったくもって、イタズラに魔法の才能を注ぎ込むリリちゃんだ。

 おかげで恥ずかしいところをバッチリ見られてしまった。

「わざわざ、『ミラージュ』を使う必要もないだろ!? このイタズラリリちゃんめっ!」

「ふふふっ! つまり、私が一番だ!」

 私の真似をして、腕を突き上げるリリちゃん。

「や、やめろっ!?」

 私は恥ずかしさのあまり、リリアーデに飛び掛かり、すぐに真似をやめさせた。


 そんな幼馴染み達と、楽しい日々を過ごしていた。

 そしてそれは、私たちが大人になっても続いていくとーーそう思っていた。

 それが呆気なく崩れ去るなんて、疑いの余地すらなかったんだ。


 たとえーー神界の兵士達が攻めてきたとしても。


「リリちゃん!!」

 神界の兵士が攻めてくると知った私達は、村を捨てて逃げることに決めた人と、村を守るために残る人に別れた。

 そんな慌ただしい状況の中。1人走っていたリリアーデを見つけて呼び止めた。

「おばさん!? クロちゃんは!!?」

「大丈夫よ! それより、リリちゃんの両親は無事なの!? ママとパパは!?」

「ママもパパも、残って村を守るって! だけど、私は村を出ていきなさいって言われて……」

「リリちゃん……」

 言われたときの事を思い出したのだろう。あんなに悲しそうな顔をするのは、初代様が亡くなられた時まで、見たことがなかった。

「…………大丈夫よ。きっと大丈夫。だから、私達と一緒に避難しましょ? ね?」

 この時の母は、戦争の直前だと言うのに、言葉の出来ないくらい凄かった。


 私と母、それからリリアーデの3人は、村から程近い森の洞窟に避難していた。

 村人しか分からない幻影魔法のおかげで、ここに攻撃が来ることはないって聞いて安心していた。

 父は、少しでも村の戦力になりたいからと言って村に残った。

 かなりの数ーーと言っても、100人くらいだけど、それだけの人が村に残った。

「大丈夫よ。クロもリリちゃんもきっとパパ達が守ってくれる筈よ」

「「……うん」」

 今思えば、リリアーデの方が、私よりも心細かっただろう。なんせ、母親まで村に残って戦っているのだ。私はよっぽど恵まれている。


 洞窟の生活は、2週間も続いた。

 食べ物や水は、森の中にある木の実や小川から汲んだ水で何とかしていた。

「おい……あれって…………」

 ちょうどご飯を食べておるときだった。

 村で何度か見かけたことのあるおじさんが、立ち上がって遠くを指さしていた。

 指で刺された方向に視線を向ける私たち。その場にいた全員が、霧の中に人影が見えたと思う。

「あれって……村長の息子じゃねぇのか?」

「だとしたら、神界の奴等は……!」

 その瞬間、洞窟内部ではお祭り騒ぎだった。それこそ、年に1度しか無い夏祭りよりも騒がしい祭りだった。

 私もリリアーデも両手をあげて喜んだのを鮮明に覚えている。


 そんな受かれた気分で居たのが間違いだった。

「あ、あれは……どういう事だ!?」

 罠に嵌められたと気付いたときには、既に取り返しのつかないところまで来ていた。

「殺れ……」

 白装束の兵士共が弓や剣で私達を殺そうと襲いかかってきた。


 何の武器も持たない私達に。


 200人も居ない私達に。


「やめろっ!? ぐはっ!」

「きゃぁぁああ……」

 次々と殺されていく知り合いの人達。

 村長の息子は、神界の奴等に生かしてやるから逃げた村人共を連れてこい……みたいなことを言われたのだろう。

 まぁ、その時に殺されているから、詳細は知らないがな。


 何の力も持っていない当時の私は、殺される恐怖に怯えることしか出来なかった。

 棒立ち。まさにその表現通り、その場で呼吸しかしていなかった。

「危ないっ!?」

 だから、飛んできた矢を避ける何て事すら、それくらいは出来た筈なのに……


 母が私を突き飛ばすまで、何が起こっているのか気付けなかった。

「お母さん……」

 背中から……矢の生えた母親の姿。

 それが、……私の最後に見た、母の姿だった。

「お母さん……!?」

 近寄ろうとした私を強く引っ張ったのは、ーーボロボロと涙を流すリリアーデだった。

「……!?」

 泣いているせいで、ろくに話すことの出来ないリリアーデは、なんとか強化魔法を自分にかけて、動けない私を担ぎ上げて走った。

 遠ざかる母の姿。リリアーデは両親の最後を見ることも叶わず、私を救ったのだ。


 それからは壮絶な日々だった。

「クロちゃん……これからどうする……?」

「……どうしようか、リリちゃん…………」

 ろくに村の外に出たことの無い私達は、森を抜けて、ただただ東の方へと歩いていた。

 別に目的があったわけじゃない。むしろ、東へ向かって歩いていたと知ったのは、初代魔王様が教えてくれたからだ。

「……水……無くなっちゃったね」

 魔法で丸太をくり貫いた水筒とも呼べない容器に入れていた水は、底をついてしまったらしい。

 着ている服もボロボロ。……このまま死ぬんじゃないかと、冗談でも言える状況じゃなかった。

「リリちゃん……隠れよ。誰か来る……」

 リリアーデの手を引いて、近くの岩影へと隠れる私。


「う~ん、おかしいなぁ……? こっちの方だったと思うんだが……あってるかな? クサリさん?」

 若いようなおじさんのような……年齢の予想がつきにくい男の声。

「はぁ~。魔王様? いい加減『サーチ』くらいは、身に付けて頂きたいのですが?」

 もう1人は、私達と同じくらいの年の子。っといえか、そんな小さい子にさん付けするなんて、よほどの事情があるんだろう。

「いやだって……あの魔法ってあんまり当てになら無いじゃん。感覚を数値化するなんて、そもそも、その数値の高い低いも、こっちの感覚で判断されるんだよ? そんなんじゃ意味無いよ」

 なんだか難しい話をするおじさんだ。

「ねぇ、リリちゃん」

「なに……?」

 私は、疲労のせいで意識がボンヤリしているリリアーデに1つの提案をする。

「あいつらを襲おう……!」

「……えっ?」

 普段なら頭の回転が速いリリアーデだが、余程の疲労だったのだろう。私が何を言っているのか、何をしようとしているのか、それを理解していないようだった。

「リリちゃんは、そこで見ていて……!」

「……えっ? クロちゃん……!?」

 私が手を離して駆け出したのと同時に、意識を覚醒させたリリアーデだったが、私はその辺に落ちていた棒切れでその男に襲いかかってていた。


「せぇえい!」

 真後ろから飛びかかった私。

 しかし、女の子の方は、私の存在に気づいていたのか、棒切れを金色の鎖でへし折られてしまった。

「なっ!?」

「魔王様を狙う不届き者めっ!」

 次の瞬間。鋭く尖った鎖が、私を貫こうとしていた。

「クサリっ!」

 だけど鋭く尖った鎖よりも、おじさんの怒号の方が速く私を打った。

 金色の鎖は、おじさんの手によって止められていたから、私に傷1つ負わせることはなかった。

「……大丈夫かい?」

「…………………………」

 私は死ぬかもしれないと、一言も喋ることが出来ずにいた。

「……まぁいい。それより、クサリ。こっちに来なさい」

「……はい」

 おじさんは私に背中を見せて、クサリと呼ばれた女の子を近くに呼んだ。

 そして、

「このバカ! あのまま突き刺さっていたら、この子は死んでいただろうが!?」

 ……女の子に説教を始めた。

 私は訳もわからずに、その場で腰を抜かして、動けずにいたのを今でも覚えている。

 それが、後に世界統一まで上り詰めて、リリアーデの夫となって、オーディンに殺された……そして、……私の初恋のーー初代魔王様とのファーストコンタクトだった。


「しかし魔王様! 行きなり襲い掛かってくる不届き者ですよ!? 殺されても文句はないはずです!!」

「だからと言って、未来ある若者をそんなバッサバッサと殺す必要はないだろうが!?」

「それはその通りでございますが! それとこれとは話が別でございます!!」

「別な訳があるか!? 若者には違いがない! おまけにこんなに可愛らしい女児だぞ!? 殺したら寝付きが悪くなるわ!!」

「女児だから助けるのですか!? なら、男だったら殺しても構わないのですか!? この変態魔王!!」

「誰が変態だ!? 男でも女でも関係はない! ただ、男よりも女の方が罪悪感が上だと言いたいだけだ!!」

「性別で差別されるのですか!? それでも魔界を牽引される王様ですか!? 恥を知りなさい!!」

「そういうお前は、俺のお手伝いだろうが!?」

 ……私そっちのけで怒鳴りあいをしていた。

「だいたい! 無理矢理、敬語を使おうとしてるけど、ボロが出て痛っ!?」

 怒鳴っていたおじさんの頭に、私の握り拳サイズの石がぶつかる。

 飛んできた方向に顔を向けると、涙を流しているリリアーデが、肩で呼吸をしながら立っていた。

「はぁ……クロちゃんには、……指一本触れさせない……!」

 おじさんと女の子の怒鳴りあいは、いつの間にか止んでいた。

「……ほら、『サーチ』を使わなくても2人居るって、当たってただろ?」

 自分の後頭部を撫でながら、イタズラに成功したときのようなリリアーデと同じ顔をするおじさん。

 その笑顔に悔しそうに舌打ちをする女の子。

 なんだか、学校に居るときの私とリリアーデみたいだ。

「クロちゃん! 大丈夫!?」

「あぁ……お嬢ちゃん? 別におじさん達はこの子に「うるさいっ!」……なんとか、説得してくれんかね?」

 あまりにも必死に私を守ろうとするリリアーデ。そこには、イタズラじゃすまないぞと言う信念みたいなものが、幼いながらにも見えていた。

「おーい、クロちゃん?」

「へっ……? わ、私?」

「そうそう。おじさん達だとなにを言っても無駄だと思うから、君の口から説明してくれないかい? ……と言っても動けなさそうだから、少し触るね……?」

 そう言って、私の腰の辺りに手を当てるおじさん。

 もし動けていたら、近付いた顔にパンチを入れていただろう。

「……よし、これで動けるだろう。……それにしても、痛いじゃないか」

 私は気付いていなかったのだが、私に触れている間に、火や水、風属性などの初級魔法をおじさんの頭にぶつけていたらしい。

 その事を恨みがましく言うが、本気で恨んでいる訳じゃない。そんな柔らかい表情だった。

「ほら、友達を説得してきてくれないかい? それが出来たら、温かいご飯にしよう」

 にっこり笑って言うおじさん。

 腰を抜かしていた筈の私は、今までの擦り傷すら治されていた。


「クロちゃん! 大丈夫!! 変な事されてない!?」

 相当心配をかけたみたいだ。鼻水まで出てきている。

「うん。それよりも、一緒にご飯食べないか? だって」

 私はおじさんに指を指してそう告げる。

「ダメだよ! あのおじさん、変態なんでしょ!? 知らないところに連れていかれて、変な大人達から辱しめを受けちゃうんだよ!?」

 リリアーデの声を聞いたおじさんは、地面に両手をついていた。その周りだけ空気がどんよりしていた気がする。

「でも、あの女の子もいるんだよ? 大丈夫だと思うよ?」

「………………きっと、あの女の子も、あの変態に買われてのよ!」

「ぐふっ! や、止めて! ぐふっ! クサリ! お腹を蹴らないで!?」

 女の子の素性を想像して吐き出したリリアーデの答えに、その女の子はおじさんを蹴りあげていた。

 さっきは、敬っている感じだったのに不思議な関係だ。

「でも、温かいご飯だよ? お腹も減ってるし、いざとなったらあの女の子と一緒に逃げちゃえばいいよ」

「………………………………………………それもそうね」

 なんとか説得することが出来て、ホッとしたのは私だけじゃなかった。


「さ、さて。かなりチグハグしたが、自己紹介をしようか。私は棚部だ。どういうわけか、魔界の王様に任命されてしまった」

 お腹を撫でながら自己紹介を始めた棚部と言うおじさん。

 そんなにお腹が減っていたのだろうか?

「まぁ、棚部は名字なんだが、名前を言うと世界が滅んでしまうからね。迂闊な自己紹介ができないんだよ。だから、棚部か、魔王って呼んでくれ。おじさんよりは、そっちの方が何倍もマジだ」

 胡散臭いことだらけのおじさんなので、私はおじさんとしか呼ばないことにした。

 おじさんは続けて、料理の準備をしている女の子を紹介する。

「それで彼女は、クサリ・スクスだ。生意気だが、家事全般がスペシャルな女の子だ。年齢は、……君たちと同じくらいかな?」

「誰が生意気ですか? 魔王様の分際で」

「その口だけど? さて、君達の話は料理を食べてから聞こうか。頂きます」

 突然両手を合わせて声を出すおじさん。とうとう、頭が悪くなったのだろうか。

「あぁ、そうか。食事前の挨拶は、こっちの世界で広まっていないんだったな」

「「???」」

 キョトンとしている私達に、クサリが声をかけてくる。

「気にしないでください。魔王様の奇行は今に始まったことじゃありませんから」

「誰が奇行だ! 立派な挨拶だ!」

「はいはい。さっさと食べてください」

 いつものやり取りなのか、軽くあしらうだけでスープに口をつけるおじさんと女の子。

 そんな2人のやり取りがおかしくって、クスクス笑ってしまった。


 食事は……とても美味しかった。

 硬いパンと具の少ないスープだったけど、……心の底から暖まる本当に美味しい食事だった。

「それで、西の村は……壊滅か…………」

「あなた達は、その村の生き残りって事ですね?」

 その質問に答えたのは、リリアーデだ。

 私は口を開いたら涙が溢れそうだった。喋る余裕なんか……涙を堪えるのに必死だった。

「……うん」

「……そうか。……行く宛は?」

 これには首を横に降るだけ。

「……なら、私の家に来るかい? そこにはクサリも居るし、他にも君たちと同い年くらいの子が大勢いる。温かいご飯もあるし、少しは寂しくないと思うが……どうだろうか?」

 突然の提案。

 何かの罠かもしれない。それこそ、さっきリリアーデが危惧した無いようかもしれないと思った。

 その提案はあまりにも、……魅力的だったから。

「まぁ、すぐには無理だと思うから、2、3日考えてくれて構わない。それに、たとえ10年20年後に黙って出ていっても構わない。君たちの好きにしてくれたまえ」

 そこまで言うと、丸太に座っていたおじさんは立ち上がる。

「それじゃあクサリ。……この子達を頼んだぞ?」

「はぁ……またですか?」

 どうやら何処かに行くらしい。それも、いつもの事のようだ。

「まただよ。……それに、他にも生きている人が居るかもしれないだろ?」

 にっこり笑ったおじさんは、そのまま森の中へと走っていった。

 話の内容からして、私達の村へと向かったんだろう。

「あの、私達は…………?」

 不安になったリリアーデは、クサリに尋ねる。

 すると、今までの刃物のような鋭い表情だった女の子は、少しだけ柔らかい表情で

「私達の家に行きましょう」

 手を差し伸べながら言うのであった。

 まだまだ、過去編です。

 幼少期のクサリさんは、尖ってたんですねぇ。

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