初めての説得に挑戦!
「……で、コレはどういうことなんだ?」
俺と俺の体を奪ったクロノワール。それから、いまだに肩を震わせているリリンさんは、ガスターとオルの前で正座をさせられていた。
ちなみに、レムちゃんはヌイグルミ状態の俺に抱きついたまま寝ている。正直、俺にもたれ掛かるような格好で眠りについているから、膝がかなり痛い。神経がないから、イメージの問題なんだけどな。
それと、オルの視線が怖い。自分の中にある綿のような物が減った気がする。
「ふんっ。なぜ粗大ゴミにそんなことを言わねばならんのだ」
あ、粗大ゴミ扱いなのは、メイド隊での共通認識なんだな。
「……誰が粗大ゴミだ! 誰が!!」
そう言われたので、俺はモコモコな腕を前に突き出した。他の2人も同じことを思っていたらしい。
「お、……お前らなぁ……!」
「ねぇ? パパ。そんなことより、どうしてこうなったのかだよ?」
「……それもそうだな」
オルに宥められて落ち着きを取り戻したガスター。本当にオルに甘い。
一通りの事情を説明すると、ガスターが確認のために口を開く。
「ってことは、アホの中に脳筋バカがいるんだな?」
「誰がアホだ!」「誰がバカだ!」
2人で同時に異議を申し立てると、リリンさんとガスターの2人に指を指された。倍返しされた気分だ。……くそぉ。
「私の前で魔王さんを寝取ろうとするんだもん。ボート、嫉妬に狂った醜い女よ」
「黙れ! 貴様さえいなければ、初代様は私のモノだったのだ! ……それを貴様が…………!!」
あ、あれ? 俺のご先祖様……だと思うけど、すんごいモテモテじゃねぇか? おかしいなぁ? 俺もその遺伝子、受け継いでいるはずなのに……全然モテていませんけど?
「おい、クロノ」
「なんだ、ゴミ屑」
「…………なんでこんなアホの体を奪ったんだ? もっといい素体ならいくらでもあっただろうに」
素体ってのが、何を指すのか知らねぇけど。そんな疑問を吐き出したガスターに、嫉妬に狂うクロノワールが言い返す。
「はっ! 愚問だなゴミ屑。私が魔王様と1つになりたいからに決まっておるだろう。……本来ならば、初代様のお体が良かったのだが、その辺のゴミならばいざ知らず、初代様の死を愚弄するのは、本末転倒だ。……故に! この体で我慢しておるのだ!!」
なんか……堂々とディスられた気がする。それと……クロノワールの愛が重い。
「……脳筋バカからYDBになったな。おめでとう」
「うむ。もっと誉めるがよい」
それは昇格なのか?
「……で? 俺の体、いつになったら返してくれるの?」
コントの方にばかり話が進むから、肝心な内容が何1つ進んでいない。
「ふん。貴様はヌイグルミの方がお似合いだぞ?」
この野郎……正確には女性だからアマァって言うのが正しいけど。
仕方ない。正攻法じゃ無理っぽいから、『挑発されて、頭にきたからやってやったら元に戻っちゃった!? 大作戦』っでいこう。
「っとかなんとか言ってよぉ? 本当は出来ねぇんじゃねぇの?」
「……何を言ってるんだ。そ、そんなわけ無いだろう」
よし。怒りでプルプルしている。あともう一押しすれば……いける!
「だって、バカだもんなぁ~仕方ないよなぁ~」
どうだ!
「ふ、ふんっ! ば、バカにするなよ! ヌイグルミ風情が……と、言いたいところだが……きょ、今日は調子が悪いから明日にしようかなぁ~……なぁ~!」
……俺は気づいてしまった。
い、いや、まさか! まさかだよね?
「もしかして……本当に出来ないわけじゃねぇだろうな?」
「そ、そんな訳ないだろ!?」
「なら、やってみろよ!? ねぇ! お願い! 証明したらもう一回体貸して上げるからぁ!!」
クロノワールとのやり取りに、どんどん不安が募っていく。
「…………今日じゃないとダメ?」
「男の俺がやると気持ち悪いだけだし、物凄く不安になるから今やって欲しい。マジで」
ぬいぐるみながら必死の形相で頼む俺に、クロノワールは現実の厳しさを教えてくれる。
「……やり方知らない」
「「「……ドンマイ」」」
結果を聞いた俺を除く3人が口を揃えて言いやがった。
「やかましいわっ!! えっ? マジで無理なの出来ないの?」
言い募るヌイグルミの俺に、俺の体を奪ったクロノワールが首をゆっくりうつ向かせる。
「ま、まぁ、ゴブリンのヌイグルミで良かったじゃない。スライムとかも可愛いけど、それって人気ナンバーワンなんでしょ?」
「そ、そうだよ! オル、大事にするよ!!」
「……ザマァ」
リリンさんとオルが必死にフォローしてくれてる(ガスターはあとでボコってやる!)。
「……はぁ。まぁいいや。それよりもリリンさん」
「なによ?」
俺が真面目なトーン(ヌイグルミの時点でシュールだけど)で口を開く。
「ドーラの行方ってどうなってるんですか?」
そもそも、こんな事態になったのは神界の奴等がドーラを連れていったからだ。そう思わないとやってられない。
「ヌイグルミの魔王ちゃんが行っても無駄でしょ?」
「いや、そうだけど。体が返ってこない以上、どう足掻いても無理でしょ?」
こうなったら、ヌイグルミの状態で助けに向かうしかない。
そう思っていたんだが、予想外と言うか、やっぱりと言うか。
「……神界の奴等が関係あるのか?」
「あぁ? まぁ、ドーラって竜の女の子が神界に拉致されたらしいんだよ。そんで、向こうは俺を要求してきたわけだ」
事情を知らないクロノワールにザックリと説明する俺。するとクロノワールの体から魔力があふれでてくる。
「リリアーデ。その場所はどこだ?」
「はぁ~……あんたは本当に連中が憎いのね」
呆れたように言うリリンさん。
「当たり前だ。初代様を追い詰めたのも、全てはオーディンのせいだ。奴を殺せるのならば、私は何でも利用する」
瞳を真っ黒にしてそんなことを告げるクロノワール。……ちょっと怖い。
「まぁ、そんなところに仇が来るとは思えないけど。いいわ、取引場所に案内してあげる」
それだけ言うと立ち上がるリリンさん。
「これが終わったら、先程の続きをするぞ。リリアーデ」
つられるように俺の体が立ち上がる。
「よっしゃ! サクッとドーラを取り返すぞ!」
そう言って、俺も……お・れ・もぉ!
「レムちゃん、起きて!?」
お願いだから! ここで立てないとか、俺だけカッコ悪いよ!
こうして、俺の体を占拠したクロノワールと共にヌイグルミの俺は、取引場所へと向かった。




