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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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再び、先輩に挑戦!

「どこにいるんだ?」

 リリンさんを探すために、城の周りをウロウロしていた。

 気分転換に外を散歩しているって聞いたんだが、それらしい姿は見当たらない。それどころか、人影1つすら見当たらない。

 この辺にはいないんだろうか?

「あっ! 魔王様!」

「おう、オルか」

 ポケットをパンパンに膨らませたオルが、ホクホク顔で歩いていた。

 …………………………………………………………あれ?

 そういや、俺がハチミツ石鹸を包装していたとき、オルってどこにいたんだ?

「り、リリンならあっちにいたよ!」

 汗をタラタラ流しているオル。

 俺が捕まっている間に逃げやがったな?

「まぁいいや。それよりリリンさんだな」

 あんまり長いこと探していると、当初の目的を忘れそうだ。

 俺は、オルをオンブして、リリンさんのところへ案内をしてもらった。


「あら? 魔王ちゃんにオルちゃんじゃない? 仕事をほったらかして、どうかしたの?」

 仕事の話は……ちょっと置いておこう。

 俺にとっては、気絶した後、何が起こったのかが気になる。

「そんなことより。俺が気絶したあと、なにかあったのか?」

「はぁ? どういうこと?」

「いやな。ドーラが……なんか拗ねてるんだよ。それで、心当たりが気絶したあとにしかないんだよ」

「あぁ。空中浮遊してたからじゃないかしら?」

「空中浮遊? 俺が?」

「えぇ。全身を竜巻で覆って、空を飛んでたわよ?」

 へぇー。魔力で空を飛べるのか……。

「それが原因か?」

 俺が単独で空を飛んでいたから、ドーラが拗ねたのか?

 そう考えると、ドーラに聞かれた理由が納得できる。

 「ダーリンは、ドーラのこと……必要?」って言ってたのは、俺が1人でも空が飛べちまったからだろうなぁ。

「……そうか。これでドーラが拗ねてた理由が分かったな」

「それじゃあ、ドーラのもとに行こう!」

 背中でオーっと片手をあげるオル。

 こういうことは、速い方がいいに決まってる。…………決して、仕事が辛いから逃げ出すだなんて、後ろめたいことは考えていない。

 俺は、リリンさんに別れを告げて、山小屋へと急いだ。


「いたっ! サボり!!」

「やべぇ! 見つかった!?」

 城門を出ようとしたところでスパインさんに見つかった。

「オル! 援護頼んだぞっ!!」

「う、うん!『チェーンシールド』!」

 鎖付きの盾を出現させるオル。

 そのおかげで、少し重たくなるけど、なんとか走り続ける俺。

 捕まったら、あの甘ったるい匂いの中での重労働が待ち受けている。さすがに辛いからなぁ。……甘いのに。

「逃がさないわよぉ~! そりゃ!」

 スパインさんは、得意の蜘蛛の糸で俺達の足を止めようとしてくる。

「『炎の鎧』!」

 試したことはねぇけど、蜘蛛の糸くらいなら燃えるだろうと、オルごと体を炎で包む。

 だけど、スパインさんの糸は、予想に反して燃えなかった。

 普通にオルの出した盾にくっついてくる。

 おかげで足が止まった。踏ん張るだけで精一杯だ。

「マジでか!?」

「私の糸は、炎くらいじゃ燃えないわよ……ふふふ」

 相当な人手不足なんだろう。笑い方が少し怖い。

 スパインさんは、糸を手繰り寄せながら、俺との距離を縮めにかかる。

「燃えねぇなら、斬る! 『水の羽衣』!」

 水属性に切り換えて、右腕を剣状に変形させる。

「せい!」

 右腕に触れた糸は、なんとか切断できた。

 ただ、1つ斬るのに時間がかかる。刃の悪い包丁で、筋張った牛肉を切っているみたいだ。

 この調子だと、糸を切っている間に捕まるだろう。

「しまった!!」

 そんなことを考えている間に、肝心の右腕を糸で絡めとられた。超絶ピンチだ。

「ふふふ……これで、労働力が2人分も増える……」

「ま、魔王様! 頑張ってね!」

「あっ! おいっ!!」

 俺を守っていた盾を消して、頭を踏み越えていきやがった!

「あぁ!? 1人減っちゃった! ……まぁいいや」

「いや! スパインさん! 諦めたらダメですよっ!!」

 俺は、ここぞとばかりに説得を開始する。

「今追えば、全然追い付きますよ! さぁ! 労働力(オル)を追いかけましょう!」

「いやいや、魔王ちゃんだけでいいから」

 ……説得は、呆気なく失敗した。

 オルめ……いつかヒドイめに遭わせてやる。

「そんじゃあ、行くわよ」

 このまま、ズルズルと引きずられれるしかないのだろうか。

 絶望の縁に立たされた俺は、ある1つのアイデアを思い付いた。…………ちょっと試してみるか。

「無意識で出来たなら、意識して出来るはず! スパインさん!」

「うん? なによ? まだ抵抗するの?」

「はいっ! 残念ながら、俺は、ドーラのところに行かないといけないので!」

 俺は、『炎の鎧』や『水の羽衣』よりも魔力を高める。こんなに高めたことは、記憶にないくらいだ。

「『風の羽衣』!」

 俺は、試したことのない技名を叫んだ。

 すると、身体中をカマイタチが覆い始めた。

 ちなみに、技名だけは、『炎の鎧』が出来た翌日に全属性分、考えてあった。俺の用意周到な性格が、如実に現れた結果だな。

「よしっ!」

 右腕に絡み付いていた糸も、簡単に切断された。

「うそっ!?」

 この状態なら、スパインさんの糸も通用しないようだ。

 俺は、スパインさんに向かって拳を構える。

「ふふふ……本気を出して「さようなら!」ってコラッ! 逃げるな!!」

 いやだって、ドーラのところに行かないと。

 俺は、スパインさんに無防備な背中を見せて、必死に山小屋へと走った。……つもりだった。

「全然進まねぇー!」

 スパインさんに背中を向けるところまでは、なんともなかった。

 だけど、いざ走り出したら、10メートルも進めない。

 下手したら、亀に抜かされる速度だ。

「そんじゃあ、遠慮なく……いくわよ」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「『スパイラル・ネツト』!」

 渦巻き状に蜘蛛の糸が、俺に襲いかかる。

 このままだと、身体中を糸で絡めとられて、身動きがとれなくなる。

 そう思ったのだが、そうはならなかった。

 体に触れた瞬間に、糸がズタズタに切り裂かれる。スプラッター映画とか、こんな感じなんだろうなぁと思う。

「……そうか。身体中をカマイタチで覆っているからかぁ」

 これで捕まる心配は、ほぼ無くなった。

 ただ、依然として大きな問題がある。……全然、前に進めないことだ。

 せめてオルがいれば、盾だとか、太刀だとかで移動できただろうけど。

 気絶していたときの俺は、どうやって移動してたんだよ!?

「仕方ない。スノキーを呼ぶか」

 スパインさんは、ポケットから携帯電話を取りだした。

 どうやら、増援を呼ぶみたいだ。

 ただ、今の俺なら捕まることはないだろう。……走ることも出来ねぇけど。

「……………………あ」

 そういや、ドーラが拗ねたのって、俺が空中散歩してたからなんだよなぁ。

 俺は、試しにその場で膝を曲げる。

 そして、曲げられた膝をバネのように一気に伸ばす。

「うおぅ!?」

 今まで背の高い木々に覆われていた背景が、一気に消える。

「飛んでる……のか…………?」

 視線をしたに下げると、風に揺れる木々が広がっていた。

 スパインさんも携帯を片手にして固まっている。表情まで見えないから分からないけど、……帰ったらコッテリ絞られそうだ。

「……と、とにかく、ドーラのところに行くか」

 俺は、地上でやったように膝を曲げ伸ばしして、空中を移動していった。

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