初めての戦争に挑戦!
今回のは、少しだけ長いです。
この世界に召喚されてから早くも2週間が過ぎようとしていた。
――戦争前夜
俺は、あまり寝付けずにいた。満天の星空のもと、この2週間の特訓を振り返る。俺は、頑張ったのだろうか?そんな不安も明日の開戦でわかることだが、なにせ、今までの人生でこんな緊張感に出会う機会がなかったのだ。
「…………。ふぅー。」
今思えば、2週間前にこの世界に突然、魔王として召喚されて、喧嘩もろくにしたことがないのに宣戦布告されていることを知って、がむしゃらに特訓してきたんだ。いろいろなことがあった。それこそ、いろいろで片づけては、申し訳ないほどに。
巻き藁を殴り、城の周りを走り、丸太をよける日々……。
あれっ?思ったより、やっていることがパターン化している気が…………。
……まぁ、なんだかんだで特訓の成果を見せる日が、明日なのである。
「もう、寝ようかな?」
満天の星空を眺めていたら、睡魔に襲われた。
その時の不安を少しでも晴らせるようにと、俺は眠りについた。
――――――――――
――開戦1時間30分前
「『勇者領』の一領主『ペルン』との開戦に向けて魔王様より、お話がございます。」
クサリさんの一声にメイド隊全員が、緊張に染まる。
俺も少し緊張する。
「っんん!……メイド隊のみなさん。約2週間の特訓の成果を見せる日が来ました。今回の戦闘が初めての方が半数以上占めていますが、俺も殴り合いの喧嘩すらしたことのない人間です。ですが、みなさんのリーダーとして、最後まで戦い抜くつもりです!そして、また、この城で笑いあえる日々を過ごしたいと思います。なので、もし、自分が危ないと思うのならば、ためらわず逃げてください。」
ちょっとカッコ付け過ぎかな……。
「魔王様、そんなことを言うと逆効果ですよ。」
「え?」
クサリさんの指摘に疑問を浮かべながらも、周囲を見渡すと、みんながみんなやる気に満ちた顔をしていた。
「魔王様が、最後まで戦い抜くって宣言しているのに、私たちメイド隊が逃げるなんてことは、できません!!」
メイド隊の中で最年少の子が、緊張しながらも、強く宣言してくる。他のメイド達も同じかそれ以上のやる気に満ちているのが顔を見るだけで分かる。
「それに、魔王様からもらった『これ』があるしな!」
そういいながら、褐色肌のメイドが、町で鍛えてもらった武具を指して自慢げに応えてくる。
俺が、魔力抽出室でノリノリで抽出した液体状の魔力を固体状に変換し、それを町にいる刀鍛冶の方々に依頼をしていたらしい。これらは、今朝クサリさんから配布されたもので全員分の装備が、3段階ほど上がったとメイド隊のみんなが喜んでいた。
みんなが思い思いに語っている中、クサリさんから召集がかかる。
「これより、作戦会議を始めます。っと言いましても、17人でできることは、対してありませんので、フォーメーションのみを話しておきます。」
簡単なフォーメーションを話し合ってから開戦の時間を待った……。
そして…………。
ピューーーーーーーーーー!!!
「みなさんそれでは、行きますよ!!」
「「「「「はい!!!」」」」」
開戦の合図とともにクサリさんが、動く。
こっちの作戦は、俺とクサリさんが話し合った結果、結構シンプルなものになった。
まず、主戦力となるクサリさんが敵領主を討つ。敵領主の性格から、領地内に行けばいくほど、敵兵力が上がることが推測できるそうだ。領主を討つことは容易いが、領主の元まで行くのが大変だ。だから、
「魔法部隊!用意!!」
「『大海原へと旅立つものよ。この試練をためしものよ。世界を飲み込む大海を巻け!!タイダルウェーブ!!』」
遠距離から広範囲に効果を発揮する魔法を放って、少しでも敵兵力を削る作戦を立てた。
セイレーン族の彼女の詠唱は、まるで歌っているかのようだ。
魔法名を唱えると、敵兵士の先頭集団に大量の水がまきあがる。津波の俗称でもある『タイダルウェーブ』は、指定した位置から魔力値に比例した距離を大量の水で飲み込む中級魔法だ。
「すごいです!魔王様!!わたくし、初めて中級魔法をつかえました!!!」
そう、彼女は、中級魔法以上を詠唱しても発動することはなかったのである。これも、今朝渡された魔道具のおかげだ。
「一気に敵勢力を削り取ります!近接部隊は、私とともに!!」
「「「はい!!」」」
「俺も行きます!!」
俺は、クサリさんと近接戦闘の得意なメイド3人と一緒に前線に出る。
「魔法部隊は、魔法で援護します!!用意!!」
20人にも満たないが、それぞれが欠点を補えるように3人一組を基本としてフォーメーションを組む。
その結果、5つの部隊とクサリさんと俺のコンビが出来上がる。
俺とクサリさんは、敵領主の元まで行き、領主を討つことがノルマである。
残り5つの部隊は、遠距離・中距離・近距離の部隊にそれぞれ割り当て、遠距離部隊は、魔力を補充しながら、広範囲の魔法をズバズバ放つ。近距離部隊は、俺らを敵領主の元までなるべく消耗しないように補助するのが役目だ。中距離部隊は、どちらに異常があっても動けるようにしている。部隊数は、2:2:1だ。近接戦闘の得意なメイドが少なかったのも理由だが、なるべく、命の危険性がないように配慮したつもりだ。
「どけどけどけどけ!!!!魔王様のお通りだ!!!!」
褐色肌のメイドが、敵の中央を薙ぎ払うように進んでいく。
ゴブリン族の女性であるが、見た目は、ほとんど人間。だが、見た目からは考えられないほどの馬鹿力と女性だからだろうか、器用な動きで敵兵力を蹴散らしていく。
「こいつらは、化け物か!?」
「『化け物』なんて失礼しちゃいますね。」
悪態をついた兵士の背後に気配もなく近づいたメイドは、その兵士をズタズタに切り裂いていく。正直、トラウマになりそうな行動をとるメイドは、吸血鬼の末裔らしい。……彼女には、気を付けよう……。
視線を右のほうにやると、戦場には到底似合わない少女が、敵に囲まれていた。
「このガキが!家でママのおっぱいでもすってろ!!」
「…………ちまちまするのは、……嫌……。」
「このアマァ!!!」
「『バースト』……」
「「「どわぁあああ!!!」」」
何かを呟いたと思ったら、いきなり周囲の敵兵力が吹っ飛んだ!
「……どんどん……行く……。」
暗い雰囲気をまといながらも次々と敵を吹っ飛ばしていく。
「クサリさん……。あれって何やってるんですか?」
「彼女が得意とする技ですね。敵の魔力と自分の魔力を反発させて、相手を吹っ飛ばすものです。」
へぇ……。そんなのまであるんだ……。
「ここは、3人に任せてよろしいでしょう。スピードを上げますが、よろしいでしょうか?」
「はい!問題ありません!!」
2週間の成果で最も大きいのが体力だ。初日は、10分でばてていたが、今では、会話をしながらも走るスピードを落とさずにすんでいる。
「それでは、近接部隊のみなさん!くれぐれも油断しないように!!」
「「「はい!メイド長!!」」」
3人の返事を聞いてから、走る速度を上げる。
「魔王様!『ペルン』までもうすぐです!!ここからは、特に気を引き締めてください!!」
「はい!」
ここまで快調に進んでいたが、敵の練度が少しずつ上がってくる。なかなか、倒れにくくなってくるもののそれでも進んでいく。
「ッ!魔王様!!」
ブンッ!!
俺は、とっさにしゃがむと長剣が、空を切る音がした。
「っあぶね!!」
「さすが、魔王だね。」
「誰です!!」
クサリさんが、周囲を警戒しながら、攻撃してきた者を探す。
「僕が誰でも構わないと思うけど、まぁ、敵であることは、変わりないかな?」
すましたような奴が、正面から現れる。
いつからそこにいたのだろうか?今までの敵からは、考えられない強さを秘めている。……気がする。
「……なぜ、『勇者』がここにいるのですか?」
えっ……。
「『勇者』!?」
「魔王様。先に行ってください。私は、この方を倒してから参ります。」
クサリさんの魔力が上がった。……気がする……。……かっこ付かねぇー。
「残念ながら、僕の目的は、そこの『魔王』なんだよ。」
「…………。クサリさん、先に行ってください。」
「ですが!」
「大丈夫です。それに、俺が先に行っても、領主の元まで行けるかどうか、……。」
「それなら、私もここに「それは、だめだ!!」っ!!…………。」
人数の少ないこちらが勝つためには、速攻でこの戦いを終わらせる必要がある。そうじゃないと、消耗して人数の多い方が自然と有利になってくるからだ。
「……。わかりました。それでは、先に行きます。くれぐれもお気をつけて……。」
心配そうな顔をしながらも、クサリさんは、領主の元へ行った。
『勇者』と呼ばれた青年の横を素通りして。
「いいのか?領主の元に行かせて。」
俺は、威圧感を出すためにも丁寧語を捨てる。
「問題ないよ。それに、僕の目的は、君だからね。」
……男に君って言われた瞬間、少しだけ鳥肌が立った。
「国王陛下に君を殺さずにつれてくるよう言われているからね。できれば、無駄な抵抗をしないでほしいんだが?」
俺は、体中に魔力を行き渡らせて、臨戦態勢をとる。
「……まぁ、そうだろうね。だから、死なない程度に痛めつけさせてもらう!!」
『勇者』の一声が、聞こえたと同時に長剣の柄が俺の腹部に迫る。
とっさに左手で、柄を防ぎ、同時に右手の拳で相手を殴る。が、体を回転させて長剣を無理やり振る。刃を拳で逸らす。勇者は、逸らされたことに驚きながらもいったん距離を取るため、後方へ飛ぶ。攻撃をするには、2人とも遠い位置にいるが、油断をしないように気を引き締める。
「……すごいね。2週間足らずでここまで戦えるようになるとは。まったく魔力が感知できないのも厄介だね。……。」
本気で感心しているのだろう。おちょくっている感じは、全くしなかった。
「……今度は、こっちからいくぜ!」
こちらから距離を詰める。勇者を通り過ぎて、勇者の背後へ移動する。そして、体を回転させて、右手の甲で勇者の後頭部を狙う。が、勇者はその場でしゃがみこみ、これを回避。ブンッ!と風を切る音をさせる。その間に俺の背中で権を振り上げている勇者の姿をとらえる。だが、俺は、焦らずに体の隅々まで魔力を送る。
そして、俺はメイド達の組手の中で編み出した、技を使う。
「『硬』!!」
全身に張り巡らせた魔力を鋼のような硬さにして、打撃や斬撃に耐える技である。初代魔王の魔力値すら超える魔力を扱える俺だからこそ、安心して勇者の斬撃を耐えることが出来る。
「ッ!!」
剣を通して勇者の顔が歪んだのが分かる。このチャンスを逃すわけにはいかない!!
さらに回転をして、勇者を正面にとらえる。そして、回転による力と魔力をまとわせた拳を思いっきりたたきつける。
「『剛打』!!」
2つ目の編み出した技を使う。これは、放つ方の肩から拳まで大量の魔力を注ぎ、拳の硬度と拳を打つ速度を上げて放つ技だ!
「ぐはっ!!」
まともにくらった勇者は、いったん距離を取る。
「ふぅーーー。」
俺は、一度体中の魔力を均一する。
いくら魔力が大量にあろうが、使用すればするだけ疲れてしまう。特に魔力を注いでいる部分は、それだけでも疲労しやすくなる。
「……っ!驚いたね。これは、本気で戦う必要が出てきたようだ…………。」
……今まで、本気でなかったのか……。
「すまないが、痛い思いをしてもらう必要が出てきたよ。」
そういうと、勇者は、両手で長剣を握り、目の前まで掲げると詠唱をした。
「『我が刃に火の加護を施したまえ!フレアソード!!』」
魔法名を唱えると、長剣が炎で包まれた!まじかよ!!
「一気に決めさせてもらう!!」
ッ!!魔力による肉体強化状態の目でも追いつけない速さで距離を詰められ、
「『火炎・三点突き』!」
のど、腹部、頭の三点を同時で疲れたかのようなダメージを受ける。さらに、
「ぐぉぉ!!!熱い!!」
炎が俺の体中をめぐる。体の中から燃えているような錯覚を覚える。
「……ッ!!」
あまりのダメージに意識が遠のく。
「終わりだ。」
これまでかと、内心思いつつ、勇者が長剣を振り上げているところで、
俺は、意識を手放した……。
――――――――――
「うんっ。…………?うぅん?ここは?」
また、知らないうちにベッドに寝かされていた。しかも、見たこともない天井。
「……お気づきになられましたか……。」
「クサリさん!よかった!!無事だったんですね!?」
正直、先に行かせたものの少しだけ不安だった。
だが、様子がおかしい。
「……あの、すみませんが。質問をよろしいでしょうか?」
「?はい、どうぞ?」
何か気になることがあるのだろうか?
「…………あなたは、何者なのですか?」
クサリさんの口から、予想外の質問をされて、俺は、困惑するしかなかった……。
とりあえず、書きまとめたものを一気にですが、投稿させていただきました。誤字脱字の確認を一様していますが、もしありましたら、ご指摘をお願いします(やさしくしてね)。