久しぶりに本気を出すわよ!
「一時中断! 私がぶっぱなすまで待機してなさいっ!!」
「「「「はっ!!!」」」」
さてさて、かわいいオルちゃんのために一肌脱ぎますか。
「『我、魔界を統べる王なりて、彼の者達を終焉に導く者なり』」
始めの一小節で黒い煙が立ち上ぼる。
「『我の前に路はなく。我の後ろに生者はない』」
黒い煙は私たちの遥か上空で、円形にまとまっていく。
「『我に続くは悪魔の門なり』」
この詠唱で煙は門の形を造る。
「『彼の門、開くは、我の意思なり』」
煙はより固まり、鉄のような黒さを見せ始める。
そして、
「『今こそ開き、彼の者らを喰らい尽くせ! デモンズゲート』!!」
闇属性上級魔法をフル詠唱で放つ。
名前の呼ばれた門からは、巨大なバビーを飲み込もうと、どす黒い腕を伸ばし始める。
その腕に捕まえられたバビーは、羽を羽ばたかせて抵抗する。
けど、無駄。
1度捕まれば、飲み込むまでひたすら絡み付いてくる。
「さて、魔法舞台は他のバビーの足止めをしてちょうだい」
「「「「はっ!!!」」」」
あとは、女王蜂が逃げないことを祈るばかりね。
そう思っていた私は、親衛隊が守っているはずの女王蜂が落ちてくることに唖然とした。
「……魔王ちゃんが殺ったとしか思えないわね」
まるで滝のように降ってくる緑色の液体。
バビー特有の血の色が、バラバラになった体と共に降ってくる。
下にいた巨大バビーにも降り注ぎ、門の中へと落ちていく。
「ドーラ!」
私は竜族の娘を呼び寄せて、用件を伝える。
「なーに?」
「私をあそこまで運んでちょうだい」
私が指差した先には、小さな竜巻があった。
ドーラの背中に乗り、竜巻へと近づく。
「へぇー。話には聞いていたけど、そんなことまで出来るようになるのねぇ」
私は少し感心していた。
なんせ、魔力の状態変化と性質変化を同時にやって、
「ダーリンが浮いてる!?」
そう。分厚い空気の膜を張って、その上に立ってるんですもの。
私だったら、そんな危険な真似はしないわね。
「やぁあ! 一人で悩んでたところなんだよ!」
……魔王ちゃんの声色で、その明るさはどうなのかしらね?
「2人が来てくれたなら安心だね! オイラもさっさと帰れるよ!」
「ちょっと待ちなさい……!」
この調子の魔王ちゃんと話すのは、何かと疲れるけど、それでもいくつか聞きたいことがある。
「うん? なに? オイラになんか用事?」
「あんた達は、なんで魔王ちゃんに取り付くの? それと、その条件を教えてほしいのよ」
「う~ん……話したいのはヤマヤマ……タニタニだっけ? まぁ、なんでもいいんだけど。オイラが話すと余計なことまで話しちゃって怒られちゃうんだよ。だからゴメンね?」
ちょっとイラっと来るわね……。
「でも、魔王君のお世話をしてもらってるから、ヒントと警告だけしとくね?」
ヒントと警告?
いったいなんのことかしら?
「オイラ達は、常に魔王君のそばにいる訳じゃない。8人全員がいれば、誰もいないときもあるんだ」
「8人?」
7人じゃないのかしら?
「それと、こっからは警告だけど。……黒は、女王さんをかなり憎んでいるから気を付けてね?」
「ちょっと待って! その黒ってのは……!?」
言いたいことだけ言って、魔王ちゃんの体にまとわりついていた風が消える。
まるで糸の切れた人形のように、体は自由落下を始める。
「ドーラ!」
「うん! しっかり捕まってて!!」
ドーラは急降下をして、魔王ちゃんを足で掴む。
……ビリって聞こえたけど、大丈夫よね?
「それじゃ、下に戻りましょう。オルちゃんにも報せてあげないと」
私は少しモヤモヤしたまま、地上へと戻った。




