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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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久しぶりのドンに挑戦!

「ほら! 男なら腹をくくれ!!」

「嫌だぁぁああ!!」

 俺は、山小屋の大黒柱にしがみついていた。

 ドンこと、竜属の長老は、そんな俺を無理矢理引き剥がそうとする。

 絶対にここを離れねぇぞ!!

 そんな、固い意思でいる俺にドンは説教じみたことを言う。

「だいたい、高所恐怖症がなんぼのモンだってんだ! そんなちっぽけな恐怖なんか、吹き飛ばしちまえ!!」

「それが出来たら苦労しねぇよ!?」

 他人事(ひとごと)だと思って簡単に言いやがって!

「もう! 魔王様!」

 呆れ果てたオルは、俺の正面へとやって来た。

「せっかく竜属の長老が直々に特訓に付き合ってくれるんだよ!? 行かないと勿体(もったい)ないよ!」

 その前に逝っちまうよ!!

 ブツクサ文句言いながら、オルは俺の指を1本ずつはずそうとする。

「やめ! マジで!! お願いだからぁあ!!!」

 そんな俺の悲痛の叫びは、聞き入れてもらえなかった。

 あまりに抵抗する俺を睨み付け、そして、

「ハブッ!」

「痛ってぇぇぇえええ!!!」

 俺の手に噛みついた。オルの真っ白な歯が、俺の手へと食い込む。

 あまりの痛さに、思わず手を離す俺。

「やっと腹が決まったか。ほら行くぞ!」

 その隙を見逃さずに、ドンは俺を引っ張っていく。

「嫌だぁぁぁ!!!」

 抱きついていた大黒柱は、どんどん遠ざかり、あっという間に山小屋から外へと引きずられた。

 オルは、そんな俺を嘲笑うかの様な顔で、小さな手を振りながら

「頑張ってねぇ」

 …………悪魔が、微笑んでいた。


 外へ連れ出され、この後に待つ地獄しか見えない俺は、無気力ながらもソコで立っていた。

「終わりだぁ。この世も、もう終わりだぁ……」

 ウジウジしている俺に、少しキレているドンが言う。

「ほらっさっさとしろ!」

 そんな無気力な俺を、片手で軽々と空に投げる。

「うっぷ!」

 空中に浮いた俺は、内蔵が浮いたような感覚に吐きそうになる。

 そして、竜化したドンは、俺を背中で受け止め、そのまま……

「いきなり宙返りは、ねぇだろぉぉぉおおお!!?」

 グルンっと3回転もしやがった。おかげで、本当に逝っちまった。


「あはっ、あはは。お花畑が見えるよぉ?」

「しっかりして! 魔王様ぁ!!」

 パチパチと、オルに(ほほ)を叩かれ、混乱が解けた。

 混乱している際に見えた、色鮮やかな花畑は、(もや)のように消えていき、代わりに山小屋の天井が見える。

 本当に、綺麗な小川の流れる風景が目に浮かんでいたんだ。思わず、泳ぎに行くところだった。

「魔王様、大丈夫?」

「あ、あぁ。モウマンタイ」

「@#-=-'>,&*=(ダメだ。頭がパンクしてやがるな)」

 ドンは、何を言っているんだろうか。

 何かを言っているのは分かるけど、意味が理解できない。

「日本語、オーケー?」

 さっきまで日本語を話していたのに、何で突然難しい言葉で会話をするんだろうか?

「@->('&>,>(魔王様ぁ)!?」

 オルまで。なんか俺だけ除け者にされてねぇ?

 相当心配しているからか、泣きながら俺の膝へと顔を伏せてくるけど。

「もう1回飛べば、治るだろう」

「治った! 治ったから、もう少し、休ませて!」

 少し悪ふざけが過ぎたみたいだった。

 顔を上げたオルは、不適な笑みを浮かべて、俺に死刑宣告を言い渡す。

「ドン。()っちゃって」

「あいよ」

「やるって、殺すって字になってるよ!? ねぇ、オルさん!? オル様ぁぁぁああ!!?」

 ドンに担ぎ上げられ、再び青空を舞った。

 飛行訓練と言う名の処刑が終わった頃には、月も沈みかけていた。


 翌日。一日中、ドンに鍛えられた結果が、早速効果があらわれた。

「ダーリン! すごぉぉおおいぃ!」

「フフッ。この程度、なんともないさ」

 ドーラが驚いている。まぁ、そりゃあそうだろ。

 なんせ、魔界で一番高い建物の上空を飛んでいるからな!

 ちなみに、その建物は地上666メートルの細長い商業ビルだ。

 今は、ドーラの背中に乗り、この都会の空を満喫していた。

 明日帰る予定のドンも、竜化して並走している。この場合は、並列飛行か?

 ともかく! 今の俺に怖いものなど何もない!

「ほらみろ。あんだけアクロバットしまくったんだ。通常飛行なんてへのカッパだろ?」

「あぁ。……アクロバットは、まだ厳しいけど。高さは馴れた」

「もうこれで、魔王様に弱点がないね!」

 っと言うのは、ドンの背中に乗るオルだ。

 正直なことを言うと、コレ以外にも、俺の弱点となるものはあるんだが……それは言わないでおく。

 言ったら再び、地獄を見そうだ。

「そんじゃ、もっと速く行くよぉお!!」

 ドーラは、楽しくなってきたのか、徐々に速度を上げていく。

 回りに障害物がねぇから、事故ることはない。

 そう思っていたが……

「危ねぇ!!」

「わぁ!!」

 正面にドーラより速く飛ぶ竜が、俺達の正面を横切った。

「なんだ!? あの竜!」

 だが、もっと危ないのが、横からやって来た。

「魔王様ぁ! 横!!」

 オルの叫び声に従って、指差されていた左へと向く。

「ドーラ! 急降下だ!!」

「うん!」

 その場から、真っ逆さまに落ちていく俺とドーラ。

 咄嗟(とっさ)の行動で、なんとか避けることに成功する。

 さっきまで俺達が居た空間には、大量の羽虫が飛んでいる。

「何だってんだ?」

「お前ら、大丈夫か!?」

 飛んでいた高度から、100メートルほど下でホバリングしていた。

 そこに、オルとドンが近づいてくる。

「あぁ。問題ない。……アレって何なんだ?」

 事情の知っていそうなドンへと聞く。

「アレは、ここ最近増殖した『バビー』と言う蜂だ」

「蜂!?」

 いやいや、1メートル弱の蜂って、どんなんだよ!?

「なんでも、この辺にはいないはずの蜂でな。その退治を依頼しようと、魔王城まで来たんだ。その対価が、お前の特訓だって訳だ」

「…………」

 割にあってない対価だなぁーと絶句していると、数匹の蜂が、こっちに飛んできた。

「ドーラ! 俺達、竜属が刺されるのヤバイことになる! 心してかかれよ!!」

「アイアイサー!」

 ……本当に分かってんだろうか。すげぇ不安になる。


 巨大な蜂は、全部で5匹。

 陸上だったら、『炎の鎧』を使って燃やすだけなんだろうけど。今は、街の上空にいる。

 完全に燃え尽きればいいけど、死骸が他の人に危害を加えるかも知れねぇ。

「捕獲してから殺すしかねぇか」

 アレを捕獲かぁ……あんまり得意じゃないんだよなぁ。

「魔王様、来るよ!」

「よっしゃ! 来い!」

 気合いを入れて、両腕を大きく開く。

 巨体に似合わない速さで迫ってくる蜂。

 タイミングをミスると致命傷になる。そう考えると、自然と緊張感が高まる。

 蜂特有の羽ばたく音が、次第に近くなる。

 そして、最後尾を飛んでいる蜂を両手でホールドする。

「どりゃあ!」

 薄い羽が、俺の体をバシバシ叩く。

「このっ! 暴れるな!! 『剛打(ごうだ)』!!」

 握り拳を作って殴り付ける。

 急所に当たったのか、ピクリとも動かなくなった。

「よし。まず一匹目」

 残り4匹。

 この調子で、片付けてやる! っと意気込んでいるんだけど、

「……コイツ、邪魔だなぁ」

 そのまま投げ捨てたいけど、それをやったら捕まえた意味がない。

「魔王様、それ頂戴!」

 どうしようか悩んでいたところに、オルとドンのコンビが近づいてくる。

「おぉ。行くぞ? ほい」

 優しく投げ渡すと、オルは両手で掴む。

「残り4匹も、頑張ってね!」

「お、おう?」

 何だか分からんけど、とりあえず片付けますか。

「ドーラ、頼んだぞ」

「うん! 竜属を怒らせるとどうなるかを報せちゃうよ!!」

 正直、ドーラが言うと怖くない。

 テレビのお姉さんが、子供に言っているみたいだ。

魔王が高所恐怖症を克服した!

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