本格的な修行に挑戦!
スミマセン。嘘、ついてました。
前回の短編で、後書きに大陸に帰ってきた! みたいなことを書いてましたが……まだ魔界でした。
……本編の方をどうぞ!
大陸側の魔王城に姉さんを送り届けた俺は、一週間ほどの休暇を過ごした。。
毎日、汗水流して働いてることだけはある(給料が出たことねぇけど)。ゆったりとした休暇が、俺を心身ともに癒してくれた。
魔界では、弄いじられてばっかだったからなぁ……。
そして、そんな日々はF1カーのように、早く過ぎ去っていった。
行きに数日かかったのが、帰りは1分も経っていない。
なんせ、初めて魔界に来たときと同じように、暖炉の中を通ってきたからだ。
帰りも同じ道で帰れば良かったかなぁ。
そうすれば、もう少しサボれたのに。
「お帰り!」
悔やんでいたところに、オルが抱きついてくる。
背の高さから、鳩尾みぞおち辺りに鈍い痛みが走る。
「お、おぅ。ただいま」
「うぅん!」
グリグリと頭を擦り付けてくるオル。
たった2週間会えなかっただけで、こんな反応されるとは。ちょっと嬉しい。
サボらなくて良かったと思う。
「おやおや、魔王様。随分と早いお戻りでしたわね?」
「だって、サボるとうるさいでしょ?」
シェリーさんが、嫌みたっぷりな挨拶をしてくる。
相変わらず、親子でとんでもないところが似ているもんだ。
容姿だけにしといて欲しい。
「そんなことよりも、魔王様」
オルの動きがピタッと止まる。
なんだろう……すごく嫌な予感がする。
「特訓……忘れてないよね?」
ニカッと笑って言うオル。目が……すわっている……。
特訓……とっくん……とっ君?
「誰、それ?」
言った瞬間に、アッパーをもらった。すごくいいパンチだった。
空中に浮いた俺は、フカフカの床へと音を響かせてた折れ込む。その時の衝撃で思い出した。
特訓って、巨乳ドラゴンとの飛行訓練のことか。
「さぁ! レッツゴー!!」
オルは倒れた俺の脚を持って、ズルズル引きずっていく。
「オル!? 俺、歩けるから! ちょっと!?」
俺の言うことを無視して、ひたすら引っ張られていく。
まさか、路上でも引きずられるとは思わなかった。
おかげで、身体中が痛い。服もドロドロに汚れてしまった。
「うぅ……ごめんなさい」
「いや、今度から気を付けてくれれば良いからな?」
今にも泣きそうなオルをなだめてながら、汚れをはらう。
「ちょっと落ちそうにないなぁー。1度魔王城に戻るかぁー」
棒読みでオルに告げる。
「うん。ドーラ」
うん? 何で帰るのにドラゴン娘を呼ぶのかなぁ?
「はぁーい!」
竜化しているドーラが、空を飛んでやってきた。
ハハァン。ソウイウコトデスカ。
「お、オル……このまま乗るとドーラの背中が汚れちゃうからな? 1度、歩いて「ダメ」ま……デスヨネー」
俺の顔が、青ざめていく。
鏡を見なくても分かる。今にも倒れそうだもん。
「さぁ! 行こう!!」
「ダーリン! 早くぅ!」
空を飛びたがっている二人に連れられ、無理矢理、魔王城へと戻った。
服を着替えるだけなのに、何で死にそうな思いをしているんだろうか。
ただでさえ高い所が苦手なのに、あんなアクロバット飛行するなんて。
想像できるだろうか。
安全バーの無いジェットコースターが、レールを外れて空を飛んだときのような気持ちを。
「死ぬ……」
アレですか?
サボろうと考えてしまった俺に対する罰ですか?
「シェリー! 魔王様がボロボロになったから、新しい服を出してあげて!」
オルは、あのジェットコースターを楽しんでた。
若いなぁ……これがとしというヤツなのか。
回復したはずの身体は、心身ともにズタボロにされた。
まだ、帰ってきて1時間も経ってないのに。
もう、泣きそう。
「はやく、はやくぅ!」
テンションが上がっているジェットコースター。もとい、人間バージョンのドーラ。
興奮しているせいか、腕も胸も激しく揺れていた。
何時もなら食い入るように見ちゃうところだが、今は憎たらしさが上回っているせいで、睨み付けている。
この! 特大スイカがっ!!
「魔王様、はい!」
「おう。風呂に入ってくる」
俺はオルから手渡された新品の服を受けとり、自室へと戻った。
そして現在。
俺は苦渋の決断に迫られていた。
このまま、素直に風呂に入り、さっぱりした気持ちで飛行訓練をするか。
このまま、部屋に立て籠こもり、向こうが諦めるまで戦うか。
凄く悩んだ。今までに無いくらい悩んだ。
高校入試の選択問題よりも悩んだ。大学入試の時は、鉛筆を転がしたけど……。
「よし!」
そして、俺は決断を下した。
「ふぃー! 気持ちいぃ!」
大量のぬるま湯を頭からかぶっている。
結局のところ、オルやドーラが悲しい顔をしそうで怖いから、さっぱりして地獄へ行く決心をした。
だから、体を念入りに洗う。何時も以上に念入りに。
「あれ? 石鹸がなくなっちまった」
流石に20回も体を洗ったら、固形石鹸が無くなった。
「固形石鹸が無い。滑稽こっけいだな」
くだらない親父ギャグも、快調だ。
冷えた心をぬるま湯が温めてくれている。
「魔王様! 遅い!!」
夢心地でいた俺に、ドンドンと扉を叩く音が襲いかかる。
もう来たか。思ったより待ってくれたようだけど、やっぱりと言うかなんと言うか。
「分かったから、少しだけ待っててくれ!」
「後5分だけだよ?」
何とか了承してもらい、延長された5分で新品の服に着替える。
「お待たせ」
「遅い! ほら、行くよ!!」
優雅に出てきた俺に対して、かなりホッペを膨らましているオル。
ヘリウムガスをそれだけ入れたら、空にでも浮かぶんじゃないだろうか。
「ダーリン! 飛ぶよ!!」
うん。ドーラにいたっては、我慢しきれずに目がおかしくなっている。
危ないクスリをやっているみたいな顔だ。
少し……いや、かなり心配になる。
そんな二人に腕を引っ張られ、再び外へと向かった。
そして、久しぶりに山小屋へとやって来た。
現在、ドーラが生活している小屋でもある。
俺はドーラの背中で特訓の準備をしていた。正確には、させられていた。
「それじゃ魔王様、ドーラ。行ってらっしゃーい!」
「いってきまぁーす!」
「…………」
もう、しゃべる元気もありませーん。
そんな死人の様な俺を背中に乗せて、ドッシドッシと丘を下っていく。
乗ってるだけなら、平気なんだよ! ただ、ちょっとでも足が離れるとアウト!
あのフヮッとした感じも、俺は苦手なんだ。弱点多いなぁ~。
そんな弱点を見事に詰め合わせたドーラは、早速低空飛行を開始した。
「ウゥー! もっと高いところを飛びたいよぉー!!」
「待て!」
今高度を上げられたら、俺の意識が間違いなくとぶ。
久しぶりの特訓なんだ。マジでヤバイ。
「後少し! 後少しでいいからぁ!!」
俺は、懇願していた。
実際、高度や向き、角度なんかは、ドーラが握っていると言っても過言じゃない。
俺は、荷物の様に座っているだけだ。
俺が高所恐怖症でなければ、こんな楽な特訓……何てことねぇのに。
何とかドーラを言いくるめて、低空飛行のまま山小屋へと帰ってきた。
外ではオルが、せっせと料理を運んでいる。
「お帰りぃ~」
「あぁ……ただいま」
疲労しきった俺に、
「うぅー、もっと飛びたいよぅ」
不完全燃焼気味のドーラ。
「でも、お腹へったぁ……」
さらに、腹の虫まで鳴らしている。ほんと、忙しい奴だなぁ。
「さて、ご飯にしましょう!」
オルは元気だなぁ……。
傾いた太陽により、辺り一面が朱色に染まる。
そんな中。俺達3人は、外に設置されたウッドデッキで食事を楽しんでいた。
今の今までは……。
「な、なんだって? もう一回言ってくれるか?」
耳に入ってきた情報が、あまりにも信じられないため、発言者にもう一度言ってもらうように頼む。
「だから、明日は、竜属の族長が来るんだって。それで、特訓の相手をしてくれるらしいよ?」
なんてこった……。
ショックのあまりに、持っていたスプーンを落としそうになる。
「うん! ドンが、飛んで来るらしいよ!」
ドーラは、嬉しそうに言う。
別にドンのことが嫌いな訳じゃない。むしろ、好印象だ。
ただ……俺、しばかれないかなぁ……。
「大丈夫! ドンは、凄い飛ぶのが上手なんだよ!!」
何が大丈夫なんだ!?
そして、翌朝。
俺の予想は、見事に的中し、魔界に居るのに地獄を見ることになった。




