ついに! クサリさんへ挑戦!
3回戦も4開戦も順調に勝ち進んだ俺とネグ。
正直、危ない場面もあったが、強敵達と死闘を繰り広げてきた成果がキチンと出ていた。
そして、残念なことに、クサリさん達のペアも順調に勝ち進んでいた。
「終わった。絶対負ける」
俺の心は、戦う前からボロボロだった。
もう、使い古された雑巾よりもボロボロだ。穴だらけだ。
「大丈夫だって! ここまで強敵揃いだったのに、なんなく勝ち進んできたじゃん!!」
ここまでの敵が、強かったかはさておき。
今度の準決勝で当たる相手は、間違いなく勝てない。
「無理だ。絶対、無理」
完全に意気消沈している俺にネグは言う。
「おっちゃん。諦めるのは、戦いが終わってからでも遅くないんじゃないか?」
……なんか、カッコいいな。
「始まる前から負けるのって悔しくないのか? おっちゃん」
この野郎。言いたい放題言いやがって。
「おっちゃん、言うんじゃねぇよ。コレでも未成年だ」
しょうがない。
コレに勝てば優勝したようなもんだ。
『まもなく、準決勝が始まります。選手の皆さんは、ステージへとお集まりください』
ちょうどいいタイミングでアナウンスが響いてくる。
「よっしゃ! やってやろうじゃねぇか!!」
「いくぞ! おっちゃん!!」
俺とネグは、負け戦をひっくり返すべく、立ち上がった。
いやぁ~帰りたい……。
目の前にいるクサリさん達を見て、奮い立たせたやる気がゴッソリ削られた。
もう、跡形も残ってない。
「おっちゃん。勝機はまだあるからな」
「いや、ほぼ無いから」
あのクサリさんに死角があるなら教えて欲しいくらいだ。
教えてくれたら、ネチネチ攻めるのに。
「あのメイドさんは、強敵かも知れねぇけど、メアリーは強くねぇから。攻めるなら、メアリーにだ」
メアリーと呼ばれているのは、巨乳の女の子だ。
ネグの言いたいこともわかるし、俺が勝つためには、そうするしかないとも思う。
ただなぁー。女の子に暴力振るうのって、ためらわれるんだよなぁ。
なんか、酷いことしている感が、半端ない。ついでに罪悪感も半端ない。
「大丈夫だって。場外に放り出せばそれでいいから」
「だったらお前がやってくれよ」
「えっ? い、いや。俺がやるとほら、アレだからさ」
慌てて弁明するネグ。
気持ちは、よーく分かる。俺だってやりたくねぇもん。
「それでは、準決勝戦! 開始です!!」
無慈悲にも、試合開始のドラが鳴る。
「魔王様。失礼ながら、先手をとらせて貰います」
なったと同時に突っ込んでくるクサリさん。
いつも思うが、あんな長いスカートでよく動けると思う。
「『バインドチェーン』!」
「避けろ、ネグ!」
俺が叫ぶと同時にネグが、左へと転がる。
俺も正面へと移動して、クサリさんの攻撃をかわす。
俺とネグのいた位置に金色の鎖が突き出る。
「『剛打』!」
前に出た勢いと、クサリさんの躊躇しない突進を利用して、最大限のダメージを狙った一撃。
しかしクサリさんは、俺の拳を支えに使って、頭上を越える。
ヤバイ! ネグが狙いか!!
気付いた俺は、クサリさんの後を追う。
「こっちに来やがった!?」
ネグは、全力疾走を開始する。
しかし、生身のネグと魔力で強化しているクサリさん。
その差は、あっという間に縮まった。
そして、
「残念ながら、ここで終わりです」
ネグの腕を掴んだクサリさん。
そのまま、場外へと投げ飛ばした。ーーネグの着ていた上着だけを。
「残念でしたぁ!」
ネグは、挑発しながらメアリーの方へと走り込む。
このまま突き落とすつもりなんだろう。
「させません! 『バインドチェーン』!!」
ネグの行き先を予測して、鎖を地面から突き出させるクサリさん。
「こっちもな! 『剛打』!!」
クサリさんの背中を殴り付ける。
しかし、拳に感じるのは、鉄の冷たい感触だった。
「くっ!」
クサリさんが苦痛に耐えられず、顔を歪める。
案外、始めてみる顔かな?
ガードはされたけど、ネグへの攻撃は防げた。
「悪いがメアリー! 優勝は、俺がもらうぞ!!」
ネグの覇気に怯え、その場で震えているメアリーちゃん。
なんか、とんでもない罪悪感に襲われてるんだけど。
しかし、ネグの突進は届かなかった。
「『マリオネットチェーン』」
「きゃあっ!?」
その場でうずくまっていたメアリーちゃんが、突然、空を飛んだからだ。
「なんだよ!? それ!!?」
勢いを何とか止めたネグは、メアリーの足元へと移動する。
上空、3メートルくらいまで上がっているメアリーを眺めて呟くネグ。
「白色かぁ……」
「ネグ君。後で覚えていてくださいね」
アイツはこんな時に何をやってんだよ……。
「魔王様。あんな下品な少年に応じたのですか」
「い、いいえ。不可抗力だったんです」
おかげで、こっちまでピンチだぞ!?
とばっちりも、いいところだ!
「ですが、女生徒の下着を覗き込む行為は、大罪に値します」
「冤罪だぁ! 『炎の鎧』!」
俺は、自分の罪を晴らすべく、クサリさんへと正々堂々、戦う決意をした。
その間、ネグはネグで修羅場を迎えていたようだ。
「フフフ。悪いネグ君には、お仕置きが必要ですねぇ」
目を虚ろにした彼女は、ユラユラとステージ上に降り立つ。
「違う! 俺は、メアリーのが見たかった訳じゃない!!」
「私のじゃなく、アリスちゃんのが見たかったのですか?」
「そ、そんなことはねぇよ!!」
動揺するなよ!
本当は見たいみたいじゃないか!?
「それじゃあ、デュミーのですか? 可愛いですもんね。私と違って」
「みて……いやいや! デュラは、男だからな!? 男の下着を見たい野郎なんか…………いねぇよ!!」
おい。ネグ。
「お前ってホモだったのか?」
「違う! デュラがとびっきり可愛いから、どんな下着なのか興味があるだけだ!!」
……そうですか。
ネグの余計な発言に、メアリーと言う女の子がキレた。
「フフッ……フフフ」
さて、向こうは放置しておいて、
「クサリさん! 正々堂々、いきますよ!」
「待って!? おっちゃん!! 俺を見捨てないで!!?」
「そっちはそっちで何とかしやがれ!」
こっちだって、一杯イッパイなんだよ!
俺はネグを見捨てて、クサリさんへと殴りかかる。
「うおりゃぁああ!!」
もう、ヤケクソだった。
俺の体重が乗った拳。
普段のクサリさんなら、難なく避けられる拳だったが、見事に命中する。
ただ、……ガッチリ握られてたけど。
「さて、魔王様」
全く効いていないらしい。
その事実に、額から冷や汗が流れ出る。
今の俺より、クサリさんの方がよっぽど魔王らしかった。
「破廉恥極まりない魔王様には、お仕置きが必要だと思われますが、いかがでしょうか?」
「い、いや、必要ないんじゃないかな~。魔王だって男だし、し、仕方ないと思うんだよねぇ~」
「いかがでしょうか?」
「……はい」
ダメだった。
どこかの王様と同じ無限ループを繰り返すことになるらしい。
クサリさんは、珍しくニッコリ笑い、鷲掴みにしている拳を引っ張る。
それにつられて、転けそうになっている俺。
そんな俺の顔面を、クサリさんは空いている拳で殴った。
すごく痛い。気絶しそう。
でも、優しいクサリさんは、試合中だと言うのに手加減してくれたようだ。
「さて、ドンドンいきますよ!」
……訂正…………鬼だった。
俺とネグは、奇跡的に負けなかった。
うん。負け惜しみでもなんでもない。事実、俺とネグは、負けたと判定されていない。
……公開処刑として扱われていた。どうなってんだ、この大会は!?
まぁ、事実。本当の処刑の方が、色々といいのかもしれないけど。いや、よくないか。
何はともあれ、クサリさんとメアリーちゃんのチームが優勝を勝ち取った。
ちなみに、決勝は不戦勝だとか。
……俺たちのサンドバッグぶりに怯えて、棄権したらしい。
「ある意味、俺達がチャンピオンだな」
「そうだな」
そう思ってないと、やってやれなかった。
外では盛大に表彰が行われていた。
俺達も、表彰台に上がれるらしいが、その気力が無かった。
そのため、選手控え室でぐったりしている。
「ってか、俺は帰れるんだろうな?」
「あぁ、……たぶん」
「おい」
こんなボロボロの状態で、しかも帰れないとかになったら、マジで洒落にならねぇぞ?
「失礼します」
不安になっていたところに、クサリさんが入ってきた。
どうやら表彰式は、つづがなく終ったらしい。
手には、クルクルと丸められた賞状が握られていた。
「お疲れさまです。魔王様」
「あぁ、……本当に疲れた」
マジで疲れた。一歩も動きたくないくらいだ。
「魔王様は、何時お戻りになられますか?」
「いや、帰りたいのはヤマヤマだけど、帰り方が分からない。だから、帰れない」
「召喚術者は、ネグ様ではないのですか?」
クサリさんが、ネグへと聞く。
ネグは、大の字で寝っ転がったまま手をヒラヒラさせて言う。
「いんや。俺じゃねぇ」
う~んと首をかしげて悩むクサリさん。
そんな三人のもとに、巨乳の女の子がやってきた。
「お疲れさまでした! クサリさんのおかげで、優勝することが出来ました!!」
クサリさんと同じく、手には賞状がある。
試合が終わっても元気なメアリーちゃん。ほんと……若いなぁ……。
だが、部屋の空気が暗いことに気付いたメアリーちゃんは、クサリさんへとこそこそ話す。
「どうかしたんですか?」
「はい。それが、……」
二人で話すこと、1分。
「と言うことなのです。宜しければ、メアリー様にお願いできますでしょうか?」
何かの相談を終えたクサリさん。
続けて、メアリーちゃんにお願いをしている。
「はい! ちゃんとできるか不安ですけど、頑張ります!」
気合い十分なメアリーちゃん。
何をするんだろうか?
「魔王様。本日中にお帰りになりますが、宜しいでしょうか?」
「えっ? 帰れるの?」
驚く俺に首を縦に振るクサリさん。
「メアリー様に『退喚術』をしていただきます」
「リバース?」
聞きなれない単語に首をかしげる。
詳しい説明は、メアリーちゃんがしてくれた。
「披召喚者の方を元の世界に帰す術のことです。召喚された時より、難易度が高くなるんですけど、たぶん大丈夫だと思います!」
どうやら、ネグの魔力では、それが出来ないらしい。
アレ? ネグって役立たずじゃねぇ?
「それじゃ、さっそく」
「おっちゃん……いや、リョウ」
ネグが真剣な顔をして、俺の名前を呼ぶ。
よくよく考えたら、久しぶりな気がする。
「なんだ?」
「来年は、俺が呼び出して、二人で優勝しようぜ!」
拳を突き出すネグ。
俺も拳を突き出して、軽く当てる。
「あぁ! ちゃんと呼んでくれよ!」
その後、俺とクサリさんは、元の世界へと帰った。
ちなみに、目が覚めたら、魔王城のベッドの上だ。長い夢でも見ていたんじゃないかと思ったけど、現実だったと思う。
ボコボコにされたアザが、身体中に残ってたし。
ってか俺にとって、ここって元の世界じゃないんだけどなぁ。
……まぁいいけど。
「さて、朝飯でも食べに行きますか」
俺は、ベッドからはい出て、食堂へ向かった。
やっと短編が終わりました(短編とはなんだ)!
次回からは、本編の方を進めていきます。
魔王が魔界から帰ってきます!!
首を長~くしてお待ちください。




