引き続き、高校生に挑戦!
「いらっしゃいませ!」
俺は、クサリさん達に呼ばれた世界から、さらに召喚された世界で、お客さんに大声を浴びさせていた。
元をたどれば、俺が変な契約に引っ掛かったのが、原因なのだが……この際、そんな小さな事は気にしないことにする。
「おう、おっちゃん! 今日も元気にやってるね!」
こうして働く原因を作った高校生が、憎たらしい笑顔で店に入ってきた。
「誰が、おっちゃんだ! ってか、お前はまたか!?」
ここでのアルバイトは、今日で3日目になるんだが、毎日のように顔を出してくる。
それだけなら、異世界の住人である俺を心配してるのかと、感動すら覚えることだろう。
だが、違う!
コイツは、そんな殊勝な心をもった人間でない!
悪魔だ! 魔王だ!! 俺も魔王だけど。
「おねぇさん! いつものをおっちゃんに付けといて!」
店の看板おばちゃんを口先でやり込め、飯の代金を俺に支払わせるという、非人道的行動を平然とやってのける。
しかも、今日で3日目。
「毎日、俺のバイト代を蝕みやがって!!」
ちょっと泣きそうだった。
「なに言ってんだよ? こうして働けるのも、俺が必死に交渉したおかげだろ?」
「違げぇだろ!? お前も俺も、一文無しだったからだろうが! それに、バイトの交渉をしたのも俺一人だ!!」
コイツは、俺の努力まで、奪う気か!?
「はい、お待ち!」
注文すら聞いていないのに、おばちゃんはこの店にしか売っていないという、三種の肉串焼きをネグの目の前に置く。
「ありがとう! 美人なお姉さん!」
「いいってことよ!」
いや、全然よくないからな!?
俺のバイト代が、吹っ飛ぶから! 生活できなくなるから!!
「そんな、物欲しそうな顔をするなよ。意地汚い」
「こ、コイツ……」
こっちは懸命に働いてるってのによ! ……頭にくる。
だが、俺は大人だ。
こんなことで、胸ぐらを掴んで、ズタボロになるまで殴りたい……って思うだけに留める。
それよりも、
「大会の方は、どうなってるんだよ?」
2人で出場するってのは、聞いているんだが、作戦会議とかしなくていいのか?
「あぁん? 大会は、明後日だぞ?」
……………………。
「おい! なんで、そんな大事なことを早く言わないんだ、テメェは!!」
「いや、おっさんが腹へった、とか言いだしたから、この店で説明するつもりだったんだよ。それを、一文無しの俺をカバって……ほんと、アホだよなぁ」
なんで、遠い目をしてるんだよ。
かばったと思ってるなら、今食っているその飯代を置いてきやがれ。
「って、そうじゃねぇ!」
飯代よりも、大会についてだ!
「とにかく、詳しい説明をしろ!」
俺が厳しい口調で迫ったのだが、
「コラッ! サボってねぇで、さっさと皿を洗え!!」
「って事だから! バイトが終わるまで待ってろよ!」
店長に怒られ、呆気なく奥へと引き込んだ。
バイトが終わり、日もとっくに沈んでいる。
商店街だからか、街灯が点々としているから、そこまで暗くないけど。
「っで?」
ネグには、バイト先でずっと待たせていた。
また帰られて、説明されなかったら、マジで困るからな。
「っで? って何のことだ?」
「明後日の大会についてだ! 忘れるなよ!?」
「あぁ! 大会なぁ? 大丈夫、だいじょうぶ」
本当に大丈夫なんだろうか?
不安しか募らん。
「とりあえず、俺の家に帰ろう。そこで、説明するから」
「……おう」
バイトを終えた足で、ネグのアパートへ向かった。
実を言うと、ネグの家に来るのは始めてだったりする。
こっちに来てからは、バイト先で寝泊まりをさせてもらっているからだ。
あの店長と意気投合した(少なくとも、俺はそう思っている)ため、好意に甘えている。
ちなみに、店長の朝飯は、なかなかに旨い。
白飯、3杯は、軽くいける。
「っでだ。明後日の大会だが、ざっとこんな感じだ」
ネグが渡してきたのは、1枚の紙切れ。
なになに?
「1チーム、召喚者1名と非召喚者1名のタッグで、トーナメント方式。制限時間か相手が戦闘不能になったら、試合終了なぁ~」
ボクシングとか、プロレスみたいなものか?
「要は、最後までリングに立ってれば、勝ちってことだ」
「2人ともが?」
俺が確認すると、首を縦に振るネグ。
「ただなぁー。ちょっと危惧しないといけねぇんだよなぁ」
「何をだ?」
「ここに、自分の非召喚者出ないとイケないとは、書いてねぇんだよ。だから、大丈夫だとは思うんだが……何とも言えん」
そんなので大丈夫なのか?
だが、生意気な高校生は、何か秘策があるらしい。
「まぁ、何とかなるって!」
……秘策があるのか?
一気に怪しくなってきた。
「それじゃ、作戦会議に入ろう!」
色々と不安(ってか、不安しかない)が、日が昇るまで、俺とネグの作戦会議は続いた。
翌朝。
正直、徹夜なんてしたことないから、かなり辛い。
バイトを休みたいところだが、あの店は人手不足で休むのが申し訳なく感じてしまう。
「いらっしゃいませぇ~」
結局、30分程度寝たが、それでも辛いものは、辛い。
声にも張りがないって、お客さんに言われる始末だ。
「おい、バイト!」
「は、はい!」
突然店長に呼ばれた。
この店長、俺が働き始めてから、ずぅーとこの調子なんだよなぁ。
俺と2つしか年が違わないのに。
「お前は、今日でクビだ」
「……………………えっ?」
クビって……
「な、なんで「明日は、大事な大会なんだろ」……はい」
店長は、お客さんの料理から手を離して、俺に言う。
「寝泊まりはさせてやるから、大会で気張ってこい!」
「て……店長!」
なんて良い店長なんだ!
この店がくそ忙しい時に、俺なんかのために……
目には涙が溜まっていた。
「いいから、さっさとあがれ!」
「は、はい!」
店長の熱い言葉に甘えて、二階へと上がっていった。
後ろでおばちゃんの怒鳴り声が聞こえていたが、気にしない。
俺は、全力で寝る!
さらに翌日。
大会当日の天気としては、なかなかに良い晴れた空だ。
「いいか? 俺かお前のどっちかが、やられたら終わりだと思っておけよ?」
「大丈夫だ。そんじょそこらの奴には負けねぇよ!」
自信は、かなりある。
今までの敵やクサリさんに比べたら、ドラゴンが出てこようが勝てる気がする。
「それでは、メアリーさん。本日は優勝を目指して頑張りましょう」
そんなことを思っていたから、聞き慣れたメイドさんの声が聞こえてきた。
思わず辺りをキョロキョロすると、……いた。
「クサリさん?」
なんでここにいるんですかぁ!?
「おい、どうしたって! メアリーじゃねぇか!」
「はい? あっ! ネグ君! おはようございます!」
あれ、そっちの巨乳ちゃんは、ネグと知り合いなのか?
「まさか、魔王様まで呼ばれていらっしゃったとは……道理で姿が見つからないわけですね」
「そういうクサリさんは、もしかして……」
俺の予想は、見事に的中。
出来れば外れてほしかった。
「はい。メアリー様に召喚され、大会へと出場するために参上したのでございます」
それを聞いた俺の顔は、真っ青になっていたんだろうな。
性悪なネグも、心配して声をかけてきた。
「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「ネグ……」
「おう」
「クサリさんと当たったら、俺等の敗けが確定するから、くじ引き……頑張れよ」
戦意喪失していた。




