久しぶりの魔王城に挑戦!
長かった1年間の修行も終わり、俺が召喚された最初の魔王城へと戻ってきた。
「魔王様。なにか勘違いされているようですが、……今回の帰宅は、あくまでも一時帰宅であり、来週には魔界へと戻って頂きます」
「…………わかってますよ……クサリさん」
そう……魔界での修行開始から、まだ半年くらいしか経っていない。
今回、大陸にある魔王城へと戻ってきたのは、何かと問題を起こす姉さんをかく……保護してもらおうと思ってのことだ。
まぁ、理由は何であれ、久しぶりの帰宅に心を躍らせていたのは、確かなんだけど。
本来ならば、魔界の魔王城からユーマキラ大陸にある魔王城へと直通で移動できるんだが、「そんな味気ないことしたくない!」 っと姉さんが言い出したのとリリンさんが「面白そうだからいいんじゃない?」とどうでもよさそうな返事をしたため、魔王城から少し離れた場所に転移させられた。
「懐かしいなぁ……」
魔王城で生活したのって、なんだかんだで最初の1週間くらいだもんなぁ……。
そのあとは、隣の領土と戦争して……国王がやってきて、無理難題を押し付けられて……姫騎士領に突撃して……聖女の娘に一度刺されて……って感じでアッチコッチ言ってたからなぁ……。
「ここで起きたの?」
俺が独りで感傷に浸っていると、姉さんとクサリさんが、大樹のそばで食事の準備をしていた。
「はい。呼び出したときは、スヤスヤと寝られていました。そちらの世界では、夜だったのかもしれませんね」
「まぁ……亮だしなぁ……」
「どういう意味だよ?」
「どうもこうも……あんたは、小さいころからよく眠ってたじゃない。最近の若者は、もうちょっと夜更かししてるもんだよ?」
姉さんも大概だったと思うけど?
「まぁまぁ。お食事の準備もできましたので、さっそくいただきましょう」
……クサリさんはここ数週間で、俺と姉さんの扱いが上手になった気がする。
クサリさん手製のサンドイッチでお腹が満たされた時……事件が起きた。
「なんで……囲まれてるんですかね……」
「さぁ?」
「確か……魔王様を魔王城へと案内するときも、このように囲まれてしまいましたね……」
俺、姉さん、クサリさんは、5、6人のチンピラに囲まれていた。
その辺にいるチンピラなら対処しやすいんだが…………
「おめぇが、魔王だなぁ?」
「ちょっと面かせや!!」
……ブカブカの学ランに……胸近くで巻いているベルト…………元々、金髪ロングだった髪をフランスパンのごとくまっすぐ額から生やしているかのようなリーゼント……。
2、3人がしているなら……いや、それでも引くけど、全員がユニフォームのように同じ格好だからなぁ……。
こいつらが目の前に現れた瞬間、俺たちがタイムスリップしたのかと思っちまった。
「ってか、どっからそんな服装や情報を仕入れてくるんだよ……この暇人は……」
おまけに、その辺どころか……普段は、王宮とかそういったところでくつろいでいるだろう人物が、この集団を仕切ってるもんなぁ……。ほんと、暇人だらけだな……この世界……。
「ダ~レのことを言ってるんだぁ? あぁあん!?」
おめぇだよ、金髪リーゼント。
「ねぇ……」
後ろにいる姉さんが、俺の袖をチョンチョン引っ張ってくる。
「アレ……ホントに国王……なの?」
「…………………………………………」
答えたくねぇ……。
俺もこんなのに……苦戦してたんだもんなぁ………………。
「………………はい。認めたくはありませんが……」
返答に困っていた俺を見かねたのか、クサリさんが姉さんにゴニョゴニョと声を潜めて説明する。
「おぉぉい!! なにシカト決めてんだ!!! コラァ!!!」
……なんか………………なんかなぁ……。
「初代魔王が、可愛そうに思えてきた……」
「……魔王様…………そんなことをおっしゃらないでください……」
「…………ごめん」
つらいのは、こんなのに倒された初代魔王だよなぁ………………。
「おめぇの島でカルラの姉貴を拉致ったのを知ってんだ……さっさとかえしなぁ!!」
「へぇ? そんなんですか?」
事情を知らない俺は、クサリさんに聞く。
「……………………………………はい」
俺の質問にめまいがしたのか、顔を青くするクサリさん。
…………なんか、一気に帰りたくなくなったなぁ……。
「ねぇ? カルラって誰?」
「あ~…………一言で言うとお「美しい方だ!!」………………らしいぞ……」
もういいや。それで。
まぁ、可愛いいっていえば、可愛い方だと思うしな。あれで落ち着きがあればなぁ…………。
「ふぅーん」
「どうでもよさそうだな?」
「だって、どうでもいいもん」
このバカ姉は………………ホント、自由だなぁ………………。
「さぁ! 返してもらおうか!!」
「クサリさん! 国王が、臨戦態勢に入りましたよ!! 戦いますよ!!」
「…………長期休暇で旅行にでも行って来ましょうかね……」
俺が誤るのもどうかと思うけど…………なんか……すいません。
「チンピラの方々を先に片付けましょう!」
クサリさんの指示で、チンピラどもを気絶させる。
「姉さんは、そこで「うおりゃ!! なに、亮?」……なんでもない」
姉さんに戦わせないようとした俺が、バカだった。
チンピラ1人を流れ星にしていたよ……。飛ばされた先が、柔らかい場所であることを願う。……流れ星だけに。
…………そんなつまらないオヤジギャグを心の中でつぶやいている間に独りを除いて、みんな戦闘不能においやった。
「おめぇら……よくも俺の仲間に…………許さねぇぞ!!」
ヤベェなぁ…………TPOさえあってれば、感動的な場面なのに、何一つ感動できねぇ。
「喰らいやがれぇ!!」
そう言いながら、ふざけた格好をした国王が、俺の目の前に肉薄する。
格好のせいで忘れていたが、これでも初代魔王を倒した子孫にあたるんだよなっ!
「死ねぇえ!!!」
「心の底から叫んでるだろ!?」
ボンッ!!
間一髪でしゃがんで避けると、俺の顔があったであろう位置に国王の拳が突き出されていた。
それを目視したのと同時に音が聞こえてきた……音速を超えたってか!?
「亮!?」
「冗談じゃねぇぞ!!?」
この国王! 本気で俺を殺そうとしてねぇか!?
「援護します! 『バインドチェーン』!!」
国王の足元から鎖が伸び出てくる。だが、
「しゃらくせぇぇぇぇええ!!!」
なにを思ったのか、地面を殴りつける国王。ってか、キャラが変わってる。
「っ!?」
殴りつけた時の凄まじい衝撃と地響きで俺たちは、体制を崩す。
その隙をすかさず、俺の胸ぐらを掴み上げる国王。
マズイ! 拳に魔力をため込んでやがる!!
「これが、タ…………チンピラAの分!!」
「名前を忘れたのかよ!?」
ドゴンッ!!
殴れたような音はしたものの、特にダメージがあるわけじゃ無かった。
「姉さん!」
銀色に包まれた姉さんの右腕で、国王の拳をガードしていた。
「…………あたしの弟に何しようとしてんのよ?」
「っ!?」
国王は危険を察知したのか、俺を掴んでいた手を放して距離をとる。
「驚いた……僕の本気の一撃を防げるなんて」
……俺も驚いた。
本気の一撃を放ってきたなんて………………マジで、俺を殺す気だ。このアホ。
俺が起き上ったのを確認すると、姉さんは、拳と共に魔力を高めた。
「行くわよ! 亮!!」
「あ、あぁ!」
俺と姉さん対国王の第2ラウンド……開始だ。
「『火炎・剛打連拳』!」
『炎の鎧』を早々に発動し、魔力を高めた拳をたたきつける。
だが、ほとんどの拳が、国王でなく地面にたたきつけられる。
「甘い! 『ソニックブレード』!!」
拳でなく、その辺の棒きれで魔法剣技を発動させる国王。
「『鉄壁』! か~ら~の~『鉄拳』!!」
国王が放った衝撃波を身体を銀色一色に染めた姉さんが防ぎ、そのまま、国王に打撃を放つ。
2、3週間前からクサリさんに戦闘訓練を付けてもらっているおかげか、魔力がスムーズに効率よく使われているのが分かる。
それでも国王は、姉さんの拳を受け流すようにして、カウンターを決めに来た。
だが、姉さんの『鋼鉄の鎧』が、国王の攻撃を無力化していた。
「すまないが…………君がいると中々戦いにくいから、先に気絶させてもらうよ! 『三点突き』!!」
魔法剣技を放った時に折れた棒切れを捨て、拳で姉さんの額、腹部、首を突く国王。
「うっ!」
国王の『三点突き』も防ぎきった。
「…………これまた、驚いた。僕の『三点突き』を受けたのにもかかわらず立っているなんて」
「姉さん! 大丈夫か!?」
「……平気よ! それより、やられたらやり返してやらないと!!」
慌てて声をかけたが、首を振って無事を知らせてくれた。
どうやら、攻撃を食らった姉さんは、ボルテージが上がっているようだ。俺なら、気絶どころか、首から上がなくなっていただろうな……。
「これなら、少しレベルを上げても大丈夫だろう……」
言ったとたんに、国王の魔力が跳ね上がった。
「姉さん!」
「分かってるわよ! これはちょっと……」
体感的にその辺のチンピラが、前に戦った神界の体長クラスになった感じ…………。
「行くよ」
その声が聞こえたと持った時には、姿が消えていた。
「うぐっ!?」
「姉さん!?」
今まで大したダメージを受けていなかった姉さんが、うめき声と共に膝をついた。
国王の姿は、…………姉さんに拳を突きだした瞬間しか、とらえることが出来なかった。
冗談じゃねぇぞ!? あの国王、1段階どころか10段階ぐらい跳ばしてねぇか!!?
「『水の羽衣』!」
直接衝撃が来る『炎の鎧』から、衝撃を逃がしやすい『水の羽衣』に切り替える。
今の俺が、国王の攻撃に耐えられそうにない。
だから、ちょっとでも攻撃を流せるようにと切り替えたんだが………………。
「うぐぅ!!?」
受け流すどころか、腹部に重い衝撃が走る。
ハンマーかなんかで殴られた気分だ。
「りょ、亮……」
姉弟そろって腹を押さえて、……正直、限界寸前だった。
「うーん……思ったより魔力を高めてしまったかな?」
声のした方を睨む。…………あのふざけた格好の奴に負けるのかよ。そう思ったら、力が湧いてきた。
「「負けてたまるかぁ!!」」
どうやら、姉さんも同じ気持らしい。
そりゃ、嫌だよなぁ。黒のブカブカ学ランを着た、金髪リーゼント野郎に負けるなんてな。
「姉さん! プランAの応用で行くぞ!」
「えぇ!」
「ほぅ……作戦まで組んでいるのか……これは楽しみだ」
その余裕の笑みを崩してやるよ! 国王!!
プランAとは、対クサリさん用に編み出された、棚部姉弟の30ある内の1つだ。
肝心の作戦内容は、こうだ。
「『鋼鉄の鎧』!」
まず姉さんが、絶対的な防御力を生み出せるように準備を整える。
……本来なら『鋼鉄の鎧』だけで、大概の攻撃を弾けるんだが、今の国王にこれだけだと不安だから………………
「姉さん、魔力を上乗せするぞ!」
俺が姉さんの背中に手を当てて、魔力を注ぎ込む。
こういうと、なんか、罪悪感が生まれるけど…………イメージ的には、物に魔力を注ぎ込む感じだ。
「うぅぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
姉さんも気合を入れて、自身の魔力を高めていく。
ちなみに、姉さんも魔力値ゼロだ。……異世界から呼ばれたからなのか、棚部家がおかしいのかは、分からないが、この際何でもいい。
さて、プランAの説明の続きだが…………姉さんの防御力が、信頼できるものになった所で俺は、姉さんを盾に見立て、遠距離攻撃を開始する。
そう! これが、プランAの全てだ!!
「喰らえ! 『投石』!」
俺は、地面に落ちていた小石を投げる。
きれいな放物線を描いて、国王のリーゼントにダメージを与える。
「………………………………」
どうやら、言葉にできないほどのダメージを与えているらしい。こ、これならいけるぞ!
「まだまだ! 『喰らえ』!!」
再び、地面に落ちているちょっと大きめの石を投げつける。
ヒューーーーン………………チョン………………。
「………………君は……一体、魔界で何をしていたんだい…………?」
国王は耐え切れなくなったのか、素で呆れていた。……ブカブカ学ラン野郎に呆れられるのもどうかと思うけど。
「お前に言われたくねぇよ! こんなところで油を売ってないで、勇者領にでも戻って仕事しろやぁ!!」
付き人の誰かが嘆いていたぞ! …………誰だったか思い出せねぇけど。
「だいたい、君たちの攻撃は、近づいてさえしまえば怖くもなんともないだろう?」
…………正直な話、離れていても、石ころ投げてるだけだからそんなに怖くもねえだろ?
そんな疑問を投げる前に、国王は、姉さんの目の前まで詰め寄り、拳を腹部へとたたきつける。
「フンッ!!」
「っ!?」
姉さんは、国王の拳が当たる直前に魔力を瞬間的に高め、拳を受け止めた。ってか、さっき反応出来てなかったよね? 姉さん?
「今よ!!」
「『両手・剛打』!」
国王の右横に移動し、魔力を注ぎ込んだ両手を組んで、そのまま横に振りぬく。
「ぐっ!!」
国王は、咄嗟にガードしたものの、俺の攻撃を防ぎきれずに数メートル飛ばされる。
「こっちは、ちゃんと魔界で修業してんだよ!!」
時々サボっているけど。
弾き飛ばされた国王は、カツラだったのか、金髪リーゼントからいつものサラサラ金髪セミロングに戻っていた。
「……なるほど……ちゃんと修行をしていたのか」
何しに行ったと思ってたんだよ!? まったく……失礼な奴だ。
「なら、もう少しあげても大丈夫だよね?」
「「え?」」
国王は、(容赦なく)魔力を跳ね上げた。俺と姉さんのやる気がガクッと下がった。
……さすがに勘弁してほしい。




