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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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久しぶりの姉弟喧嘩に挑戦!

 姉さんがこっちの世界に来てから数日が経った。

 魔界では、雨季に入ろると予報があったが、今日は、雲一つない青空が広がっていた。

 ……俺の心は、穏やかじゃないが。

「あんたね…………いい加減にしなさいよ!」

「うるせぇ! この……分らず屋!!」

「あんだと!?」

 怒った姉が、俺の胸ぐらを掴んできた。

 まったく! 口で勝てないなら暴力か?

「そんなんだから、貰い手がないんだろうが……」

「この……もう一度言ってみやがれ!!」

 バンッ!!

「お二人とも! そこまでにしてくださいませ!!」

 扉を思いっきり開けた音に注意をそらされ、さっきまで隣の部屋を掃除していたクサリさんが、俺と姉さんの間に強引に割って入る。

 おかげで、苦しくなくなったが……怒りはおさまらない。

「クサリさん! 止めないでください!!」

「そうよ! このバカには、(これ)で教えてやらないといけないのよ!!」

 姉さんは、右手をグーにしているが、俺に言わせると、そんな拳…………全然大したことないな!

「お二人とも……喧嘩でしたら、外でしていただけますでしょうか?」

 ………………ちょっとクサリさんが、…………怖かった。


 クサリさんのあまりの怖さに魔王城付近の森の中にステージを移して、姉弟喧嘩(バトル)の続きを始めた。

 まずは、口論から。

「姉さん…………どうしても謝らないんだよね?」

「えぇ! 私は、何も悪くないもの!」

 ソコソコの胸を張って挑発する姉さん。だが、そんな挑発に乗る俺ではない!

「この自己中が! だから、いつまで経っても彼氏の1人すら出来ないんだよ!!」

「な…………あんた……今、何言ったかわかってるの?」

「分かってるにきまってるだろ? この独り身が!」

 ブチッ! 血管が切れたような音が聞こえた。

「今の俺に、暴力で勝てると思うなよ! 『炎の鎧』!!」

「火だるま男に負けるわけないでしょうが!!!」

 全身を炎に包んだ俺に対して、姉さんは、素手で殴りかかってきた。

「バカか! 素手で俺にダメージが通るわけブホォワァ!!!」

 ……顔面に一発貰った。凄く重いパンチだった。たぶん、今までのダメージで1、2位を争うほどの……。

 地面を転がった俺は、訳も分からず、姉さんを見る。

「素手で火を殴るバカは、いないでしょうが」

 姉さんの右手は、……驚くことに、銀色にコーティングされていた。

「こっちに来て何日になると思ってるのよ?」

 草を踏み鳴らし、こっちに近づいてくる。

「あんたがいない間、グータラしてると思ってたの?」

 左手も銀色に染まっている。

 ……見たことない属性。たぶん、属性外属性に含まれるんだろうけど。

 …………その銀色は、俺のように体を覆うようにその銀色は広がっていく。

「そうね……『鋼鉄の鎧』ってところかしら?」

 気づけば、全身が銀色に包まれていた。……マジかよ。

「ほら! 立ちなさいよ!! 続きをするわよ」

 にんまり笑う銀色の姉さん。

 …………か、勝てるかなぁ。不安に思いながらも拳を構え、容赦なく殴り合った。


「『火炎・剛打(ごうだ)連拳』!!」

「『鉄壁(てっぺき)』!」

 実の姉に向かって、容赦なく拳をぶつけてく。

 拳をぶつける度にドゴッという音が、森中に響き渡る。

 だが、鉄を打ち付ける音のわりに姉に対してのダメージがない。

「なによ? そのヘナチョコパンチは?」

「うるせぇ! この頑固者!!」

「あんた……」

 姉さんは、右腕ごと後ろに引いて、魔力を高め始めた。ってか、そこまで!?

 姉さんの学習の速さに、ちょっと怯えた。

「歯を食いしばりやがれ!! 『ラリアット』!!!」

 ……プロレス技だった。

「『火炎・剛打』!!」

 ラリアットに防御策として『剛打』をぶつけ、軌道を上に逸らす。

 開いた脇腹にすかさず一撃を喰らわせようと、俺は、左拳を打ち出す。

「甘い!」

 姉さんは、俺の左腕を受け止めるどころか、回転して、威力をそらす。

「ウゲッ!!?」

 一度、間合いを取ろうとたところを後頭部に衝撃が走る。

 そのまま地面を転がった俺は、痛むところを抑えながら、姉さんを素早く目視しようと後ろを振り向く。……ちょっとでも目を話すと危険だ。

 だが、振り向いた先に姉さんの姿は、なかった。

「貰ったぁああああ!!!」

「『威圧』!!!」

 膨大な魔力をコレでもかと体中から発する。

 結果、姉さんの行動のすべてが鈍くなり、俺は余裕をもって、必殺の一撃を放つ準備ができた。

「悪いけど……俺は姉さんより、こっちの生活が長いんでね……」

 いいながら、全身の魔力を右腕に集めた。

「っ!!?」

 驚きの表情に歪む姉さん。だけど、もう遅い!!

「『轟拳(ごうけん)』!!!」

 未だすんなりと放てない、必殺の一撃を姉の脇腹に喰らわせた。

「グッ!!!」

「弟だからって、やられてばかりいられねぇんだよ」

 だが、俺の渾身の一撃をもろに喰らった姉さんは立ち上がってきた。マジかよ……。

「……やるじゃない」

「素直に謝ったらどうなんだ?」

 正直いうと、これ以上、戦えるだけの集中力があるかどうかだ。

 おかげで、『炎の鎧』が、解けてしまった。

「謝るわけないでしょうが!!」

 だが、姉さんも同じなのか、『鋼鉄の鎧』が解除されていた。

 ここからは、素手対素手の真剣勝負になる。…………今までの姉弟喧嘩だと、俺の方が負け越してるな…………いや! ここで勝ち越すぞ!!

 俺は、気合を入れなおして、姉さんに殴りかかった。


 結果からいうと、数時間に及んだ殴り合いに俺は、何とか勝った。……ホントにギリギリだった。

 この差は、こっちに来た日数と魔力に関する知識の差だった。……来週には、勝てなくなってるかもしれない。

「ハァハァ……あんたね……ちょっとは……加減を……しなさいよ……」

 大の字になって横たわっている姉さんが、息切れをしながらも俺に文句を言ってくる。

「うるせぇよ…………姉さんに……加減……なんか…………出来るかよ……」

 姉さんと同じく、大の字になっている俺が、言い返す。

 ……加減できる相手じゃない。家族で過ごしているときにも、喧嘩をしたことあるが……大概、負けてたからなぁ…………。ちなみに、母さんが一番強い。口喧嘩だけで戦意喪失までもってかれる。

「さ、……帰るわよ……」

「あぁ……」

 大の字に寝ていた俺と姉さんは、よろよろ立ち上がって魔王城へと歩いて帰った。

 なんか……殴り合って分かりあったような気分だった。


「それで、何について喧嘩をされていたのでしょうか?」

 魔王城についてから、クサリさんが聞いてきた。

「え? ……何が?」

 出されたステーキに食らいついていた姉さんは、クサリさんに聞き返していた。

「……魔王様と(あおい)様は、なぜ、喧嘩をされていたのでしょうか?」

「あぁあ! 喧嘩ね! 喧嘩…………なんでだっけ?」

 ……おい、バカ姉さん。もう一回、喧嘩しようか?

 まぁ、そんな体力がないからしないけど……。

「……姉さんが、俺のデザートを食ったからだろ!?」

「あ、そうそう! それそれ! 美味しかったわぁ~」

 殴りてぇ……。

「はぁ……デザートごときで……」

 クサリさんも呆れている。

 だが言わせてほしい! 姉さんが、勝手に食べたデザートは、ここ最近行列ができるお店として紹介され、限定50個という非常に倍率の高い商品であることを!!

 それを……休日、朝早く並んで……手に入れてきたというのに……。

「姉さんが……姉さんが……」

 思い出して、イライラしてきた。

「そうよね! たかがデザートごときでイライラするなんて、小っさい男よねぇ~」

「……その『たかが』にどれだけつらい思いをしたと思ってるんだよ!!?」

 5時間だぞ!? 早朝から並ぶ辛さ!! 行列に並んでいるのは、俺を除いて女性だけ!!

 羞恥心と忍耐力がそれなりに高くなければ、レジ前までたどり着くことすら困難な、そんな戦場(ぎょうれつ)を生き残ってきたんだぞ!!?

「なのに……このバカ姉は……」

 ボソッと呟いた一言に、姉さんは腹をたてたらしい。

「……なに? 食後の運動がしたいの? 付き合ってあげるわよ?」

「あぁ! 望むところだな!!」

 ガタッと二人して席を立つ。

「はぁ……食後の運動でしたら、私もお手伝いさせていただきましょうか」

 えっ…………。

 予期せぬ人物までもが、遅れて席を立つ。

「く、クサリさんが、参戦するなら……俺は引こうかな……」

「そんな遠慮なされずに、久しぶりに稽古をつけましょう。……魔王様?」

 目が座っていた。

 そんな、クサリさんに姉さんも怯えていた。

「い、いや、……ちょっと走ってくるだけだからね!? ね!? そうだよね!? 亮!?」

 ……ビビり方が半端ないな。

 さては、クサリさんに稽古をつけてもらってたな? それなら納得できる。

「そ、そうだな! 姉さん! 姉弟仲良く競争しよう!! うん!! それがいい!!」

 ここは、姉さんに合わせておこう。

 戦闘でなければクサリさんは、手を出してこないはずだ。ってか、クサリさん相手なら姉さんと共闘しても勝てそうにない。

「そうですね。どうせなら、コロシアムを使用しましょう。奥方様。よろしいでしょうか?」

 ……最近のクサリさんは、要領がよすぎると思います。

「うん、いいわよ? 後片付けだけちゃんとしといてね」

「では、参りましょうか。……お二人とも」

 俺と姉さんは早々に諦めた。

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