魔界探検日記・1
祝70話!
それと、いつの間にか30,000PVを越えてました!
更新速度が、落ちつつあるのにこんなに読んでいただいて、ありがとうございます!
今回は、短編ですが、本編の方も書いていますので、首をなが~くしてお待ちください。
また、他の作品も随時ずいじ、更新していきますので、読んでいただければと思います!
「では、資料の3ページをご覧ください」
魔界の魔王城でブラブラ歩いていると、クサリさんの声が、ホールから響いてきた。
今日の俺は珍しく、やる事がない。
ガスターは、どっかに行っちまったし、スパインさんのお手伝いも今日に限って休みだ。まぁ、スパインさんらも城内の復興に忙しいらしいからな。
ドーラとオルは、仲良く買い物に出かけているし、部屋にいても寝る以外にやる事がない。
結果的にボッチな俺は、あんまり紹介されていない魔王城を5か月という月日が流れたうえで、探検することにした。
以外と広いので、道に迷いそうになりながらも一人でブラブラしていたら、クサリさんの声が聞こえた。
「何をしてるんだ?」
声が響いているホールの扉をソッと開く。
隙間から見えたのは、大勢の人達とステージに独り立っている最近こっちに来たメイド服の人だ。
「メイドたる者、常にご主人様のより良い未来へと導いていかなければなりません」
演劇が出来そうな広いステージの上にクサリさんは立って何かの演説を行っている。
後ろに白いボードの様な物が見えるから、何かの授業かな?
「……めちゃくちゃ、いるな」
大勢の人で椅子が埋め尽くされていた。……9割くらいが女性という、なんとも言えない空間になっていた。
しかも、物凄く熱心にクサリさんの話を聞いている。大型のモニターに移されたクサリさんを見ながらも、貰ったであろう資料にペンを走らせている人までいる。
「本日は、そんなメイド業の中でも、最も重要なお仕事の1つである……」
俺が驚いている間にも、クサリさんの講義が進んでいく。
そのクサリさんの後ろのホワイトボードに、何か書いた。
たぶん、文字だと思うけど。
ちなみに俺は、こっちの字をあまり覚えていないため、なんとなく見たけどなぁ程度にしか分からない。
「『ヨトギ』について教えます」
「ちょっと待ったぁあ!!!」
クサリさんは、あまりにもぶっ飛んだ講義を大勢の女性にしようとしていた。
そのため、ツッコミと共に扉を勢いよく開き、ホールの中と入ってしまった。
おかげで、入り口付近にいた人は、「あんた、誰?」みたいな目で見てくる。……ちょっと恥ずかしい。
「ちょうどいいところに。……皆様、あちらが、3代目魔王様でございます」
「「「おおぉぉ!!!」」」
「あっ、ど、どうも」
突然の紹介と、通販みたいなリアクションを受けたことに、ちょっとどころか、だいぶ恥ずかしくなった。
「というわけで、本日の講義『ヨトギ』について教えます」
俺は、とんでもない講義をしようとしているクサリさんに注意をしようと、俺もステージへと上がった。
人生初のステージだ。何でもないのに緊張する。
だけど、クサリさんに言わなくちゃいけないことがある。
「あ、あの、クサリさん?」
「なんでございますか? 魔王様」
私の講義にイチャモンですか? みたいな顔で聞いてくるクサリさん。
あまりにも冷たい視線にビビってしまった。
……だが、言わせてほしい。
「一度でもそういう事……って違う!」
俺が言いたいのは、(重要だけど)そう言うことじゃない!
俺は、深呼吸をして、本当に言いたかったことを言う。
「『夜伽』ってアレ……ですよね?」
「はい? もちろんそうでございますが?」
それが何か? みたいな顔で見てくるクサリさん。
「いやいや! 講義するような内容じゃないでしょ!? 何を教えようとしてんですか!?」
こんな大勢の人達が、そんな内容の講義を聴くことになるんですよ!?
それを危惧して言っていたのだが、全然伝わってないようだ。
……クサリさんがいつも行っている講義の内容を疑ってしまう。
「…………もしかして、魔王様。…………エッチな方を……思い浮かべておいでですか?」
「えっ!? いや、『夜伽』ってそれ以外にないでしょ?」
俺の発言にこの講義を受けに来た100名近くの人が、ザワザワ言い出す。
……俺が間違ってるのか? ……そもそも、エッチじゃない夜伽って……あるの?
「いいえ。私が申しているのは、夜に包丁などの手入れをする行為の事です。私達メイドは、それを『ヨトギ』と申しております」
「そ、そうなんだ……」
なんか違う気がするが……そう言うことなら、講義してもらっても全然、構わないな。
「いくら私でも、こんな大勢の前でそんな、破廉恥な話は出来ません。……やれとおっしゃられなければ」
無表情でそう言ってくるクサリさん。
いや、言わないから。むしろ、こうして止めるからね?
「なら、俺もクサリさんの講義、聞いていっていいですか?」
どうせ暇なんだし、どんな講義か聞いてみたい。
「はい、構いません。後ろの方になってしまいますが、それでもよろしければ」
こうして、クサリ先生の講義を聴くことになったんだが…………正直、聴かなければよかったかなぁ。
早速、クサリさんから資料を受け取って、ホールの入り口付近へと歩いていき、空いている席に座る。
人気の講義を中断させてしまったためなのか、それとも、クサリさんと馴れ馴れしく話していたせいか、どっちか分からないが、周囲からジィーーーーっと見られた。……睨むとも言う。
「では改めまして、資料の方を進めていきます。今回の講義で重要なのは、いかに静かに包丁や銀食器の手入れをするかということです」
ペラペラと資料に目を通してみるが、……全く読めん。
こういう事なら、魔界の文字をもっと勉強しておけばよかったって思う。
まぁ、言っても仕方がないから、大型のモニターに映っているクサリさんを眺めることにした。
「いつもは、クサリさんかスパインさんに通訳をしてもらってたもんなぁ~」
今度、オルにでも文字を教えて貰おう。
オルなら喜んで付き合ってくれそうだ。
リリンさんやガスターは、何かと言われそうだから却下だな。
「『ヨトギ』を極めますと、寝ていらっしゃるご主人様の上でも、難なく包丁を解くことが出来るようになります」
いや、いくらなんでもそれは無理でしょ!? ってか、危ないからするなよ!?
「まぁ、極めればの話ですので、この講義を受けてらっしゃる方々は、決して! 真似をしないようにしてください」
真似じゃなくても、ぜひとも、やめてほしい。
「では、どうすれば音を立てずに手入れを行うのかと言う事ですが……」
そういってクサリさんは、錆びすぎて茶色くなった包丁と何処にでもありそうな研ぎ石を取り出した。
あんなに錆びたら、買い換えればいいんじゃねぇのか? ってほど茶色かった。
というより、錆び具合と研ぎ具合は、全く別モノなんじゃ……?
「こちらの包丁と研ぎ石で、何の工夫もなく手入れをしますと」
いいながら錆びだらけの包丁を研ぎ石に当て、包丁をスライドさせる。
――――ギィィィイイイイ!!!
クサリさんが、ボロボロの包丁を無理に研ごうとした瞬間、まるで黒板を爪で引っ掻いたような不快な音に包まれる。
「っと、このような凄まじい音がするだけで、手入れなんて全然できません」
……包丁ってこんな音……するのか?
色々と疑問が湧いたけど、気にしないことにした。
「なので、魔力の状態変化を用いりまして……」
説明しながら、見ているだけなら同じ動作を再びするクサリさん。
俺は、クサリさんのメイドとしての技量を信用してないわけじゃ無いけど、耳を軽くふさぐ。
「っと、このように、先ほどのような騒音を出さずに済みます」
……騒音どころか、全く音が聞こえなかった。
「す、すげぇな……」
思わず声に出ちまった。
「では、皆様。お手元にプラスチック製のナイフと研ぎ石を用意しましたので、1人一セットずつ持っていき、実践してみてください」
クサリさんの指示にしたがって、ゾロゾロとホールの前へと歩いて行く受講生たち。
俺も最後尾に並んで順番を待つことにした。
「魔王様もやられるのですか?」
「えっ? ……ダメだった?」
以外なって顔でクサリさんに見られた。
「い、いえ……そんなことはありませんが……」
珍しく歯切れの悪いクサリさん。
……俺が包丁を研ぐと都合が悪いんだろうか?
「まぁまぁ、何事にも挑戦だから。それに、こっちの世界に来るまでは、独り暮らしだったんだから」
完璧とは言えないだろうけど、家事・炊事は、ちゃんとやってきたつもりだ。……包丁の手入れは、したことないけど。
「分かりました。そこまでおっしゃられるのでしたら…………どうぞ」
渋々だが、小さいプラスチック製のナイフと研ぎ石を手渡してくるクサリさん。
俺は、それらを受け取り、席へと戻った。
「では、コツの方ですが、資料の4ページ目に書いてありますので、そちらをご覧になって、実践してみてください」
っと説明されたが、さっきも言った通り、俺は字が読めないため、周囲の人たちを観察してから実践してみることにした。
周囲の人達は、悪戦苦闘しながらも、静かに包丁を研いでいる。
「いっちょ、やってみるか」
一通り観察した俺は、自分に言い聞かせるように言ってから、包丁の刃と研ぎ石をくっつけて、そのままゆっくりと前にスライドさせた。
――――ガリガリガリガリィィ!!!
…………一瞬、工事現場に飛ばされたのかと思った。
「魔王様……」
クサリさんは、やっぱりって顔で近づいてくる。
近くに憧れの先生が来たことに、目を輝かせている人までいる。
「いや! ほら! 俺、初めてだからね!? 練習すれば大丈夫だから!!」
「……確かにそうですね。練習は、とても大事ですね」
俺の必死の説得にクサリさんは、渋々、戻っていく。
「は、初めから上手く人なんてそうそういねぇよな」
このときの俺は、ある事実を失念していた。
……俺…………不器用なんだよなぁ。
「……………………」
「に、人間なら、誰しも得手不得手がありますから! あまり気になさらずに……」
クサリさんの講義が終わり、受講していた人達が出ていった後も、なんとか粘って包丁研ぎをしていたのだが…………終始、工事現場の様な騒音しかしなかった。
そんなドンヨリした俺を励ますように、クサリさんは後ろから声をかけてきた。
「クサリさんは、何でも出来るじゃないですか……」
「いえいえ……私にも出来ないことは沢山ありますよ」
「そんな嘘……要らないですよ」
いじけた俺が、そう言うと、目を瞑って口を開くクサリさん。
まるで、……遠い出来事を思い出しているみたいな…………そんな顔だ。
「もし…………もし、私が、……本当に何でも出来たならば、魔王様をお呼びにならなかったでしょう。…………それに」
「それに?」
恥ずかしいのか、少しずつ……大切な宝物を見せるような、そんな丁寧な言葉でクサリさんは言葉を紡ぐ。
「どんな困難にも立ち向かって行く魔王様は、とても素敵です」
「…………クサリさん」
クサリさんから『素敵』なんて言われ、頬が熱くなった。
クサリさんも勢いに任せて言ってしまったのか、少し照れ臭そうだった。
「では魔王様……今から特訓しましょう!」
「……え? 今、なんて?」
聞き間違いかなぁ? 特訓って聞こえたような……。
「特訓です! 包丁研ぎの!」
……聞き間違いじゃなかった。
その日の夜、一睡もせずにひたすら刃物を研ぐ二人の姿があった。
甘酸っぱい感じですが……そうは、させねぇよ?
次回は、本編の続きを更新予定です。
ガスター対棚部の決着は、いかに!




