初めての変身に挑戦!
視界が赤く染まる。
さっきまで白色だった敵の大将は、真っ赤に染まっている。
周辺の木々や地面までも…………まるで、今までいた魔界の本当の姿を観ているかのような感じだった。
今までのは、『魔界』って感じがしなかったんだよなぁ。
どこかの都市って感じがしていた。
それらが、仮初めの姿なんだって言われた気分だった。
まぁ、吐き気とか気持ちが悪くなったりしていない。
それに体も軽かった。
さっきまで息切れしていたのが、嘘みたいだ。
初めての感覚に戸惑いながらも、体に異変がないかを確認した。
そして、きずいた……。
「オル……?」
背中にオンブしていたオルがいなかった。……ど、どういうことだ!?
敵の前でパニックになりそうだったが……
『魔王様、ここ!ここにいるよ!』
へぇ?
頭の中からオルの声が……ど、どういうことだ!?
『魔王様と合体したの!』
が、合体!?……どういうこと?
いまいちピンとこないが、とにかく無事ならいいか。
オルの無事を確認してホッとしていると前方から怒鳴り声がした。
「な、何故だ!?何故、貴様が……!!?」
なんでか、一見ダルマにしか見えない神界の大将が、自分の背丈と同じくらいの棍棒をこっちに向けて驚いている。
いや、驚いているって言うより戸惑っている?
俺が……なんだっていうんだ?
とにかく、憤りを感じているのは、全身を見れば一目でわかる。
「あ、あり得ん!この!偽者め!!」
その言葉と共に、ダルマが突っ込んでくる。
10メートルもあった距離を一瞬で縮めてくる。さっきまでの戦いは、お遊びみたいなものだったんだろう。
って!俺はこの状態の戦い方なんか知らねぇぞ!?
俺があたふたしているところに棍棒が降り下ろされる。
「死ねぇええ!!」
さっきまで余裕ぶっていた敵の本気の一撃。
不味いと思って両腕でガードをしようとしたが
『盾』
頭に響いた声と共に、さっきまで使っていた盾が出現する。
シェリーさんが使っている魔王七つ道具の1つだ。
ドゴンッ!!
俺の頭のすぐ上を起点に、鈍い音を周囲に撒き散らす。
「っ!?」
これにはダルマも驚いたのか、一度距離を開け、こっちの様子をうかがっている。
「オル!?どうやればいい!?どうすれば、武器とか出せる!?」
敵との距離が開いた今のうちに、いつ攻撃をされても大丈夫なようにガードを解いて、拳を構えた状態にしてオルに質問する。
少なくとも、俺の拳だけじゃダメージが与えられないのは、さっきの技で証明済みだ。
『魔王様も使いたい道具をイメージすれば使えるよ!』
な、なるほどな。とにかく試してみよう。
なんとなく使い方をレクチャーしてもらい、実践する。
右手を前に出して、クサリさんが使う魔王七つ道具をイメージして言う。
「……鎖」
すると、地面から俺がかざした右手をめがけて、金ぴかの鎖が伸びる。
「おぉ!」
感動で声が出ちまった。
だけど、鎖って使いずらいなぁ。
クサリさんは、こんな扱いづらい武器をよく使いこなせるなぁ。
改めて感心する。
まぁ、俺は初心者だし、それにやっぱ、ファンタジーなら……
「剣!」
鎖が消えて、俺の背丈と同じくらいの長さを持つ太刀が出現する。
「だよな!」
右手で太刀の柄を掴みとり、赤ダルマに向けて構える。
……反撃開始だ!
さっきまでの戦いが、嘘のように感じる。
全然効いていなかった攻撃が、バシバシ当たるし、ダメージもちゃんと与えられている。
「はぁ……はぁ……お、おのれ!!」
さっきまでと完全に立場が入れ替わっていた。
まぁ、俺が敵側だったらマジで勘弁願いたい戦いかただからな。
なんせ、魔王七つ道具を常に複数常備したうえで、俺は接近してひたすら攻撃。
オルは、敵の攻撃を完全にガードしたり、魔法で攻撃したりだ。
……マジで勘弁だろ。こんな敵。
詠唱しようにも刃が飛んでくるし、反撃しても大概の攻撃は防がれる。
おまけに、魔法もバシバシ放たれるし……。
手加減しねぇけど。
「諦めて帰ったらどうだ?」
太刀でダルマを指し示しながら言う。
完全な挑発だ。ただ……ここまで荒らしに荒らしてくれたんだ、それなりの罰を与えねぇとな。
「我が…………我が偽物に負けるものかぁぁあああ!!」
ダルマ型の大将は、棍棒を振り上げ、突っ込んでくる。
『盾』
だが、オルが出現させた盾に阻まれて、敵の動きが完全に止まる。
「これで、終わりだ!」
太刀を正面にかざして、脚に魔力を送り込む。
通常よりも魔力が込めやすい。すぐに魔力が溜まる。
そして、脚に溜めた魔力を一気に爆発させて、敵を貫く。
「『『猪突』!!』」
突っ込んだときの慣性でダルマの背中から2、3メートル距離が開いた。
すぐに振り向くと、体の中央からドボドボと赤色の血を流していた。
ここまで綺麗に技が決まったことねぇから……なんていうか……気味が悪かった。
カルラはこれを平気で放ってんだな……。
それでも俺は、気を引き閉めた。まだ、倒れていねぇからだ。
「偽……者なんぞ…………に……」
そこまで言って、最後に凄い地響きをさせて倒れた。
……勝った。
そう思うのに少し時間がかかった。




