初めてのボスに挑戦!
「もうちょっと……早く……出てきて欲しかったなぁ……。」
オルを背負って、肩で息をする俺。
「貴様の魔力は、底がないからな。体力切れを狙うのは、当然であろう。」
何となく理解できるけど、だからって最後の最後に出てくるかよ?
魔法で泥々になった地面だと踏ん張りが効かないので、城門から少し離れたところで、恰幅のいい兵士と出会した。
今、魔王城を攻めている大将みたいな奴だ。
「お前を……倒せば……終わり……なんだろ?」
「そんな体力で、我に勝てると?」
そう言って、ダルマに手足が生えたような兵士が、自分の身長と同じくらいの大きさの棍棒と、身体を隠すほどの横幅のある盾を手にとって構えた。
「来るがよい!ヘッポコ魔王よ!」
ヘッポコ言うな!
戦い始めてから、かなりの時間が経った。
だが案の定、俺は攻めきれてない。攻撃は、ちょくちょく当たってるんだけどな。
当たり前だが、動けば動くほど体力が消耗する。
細かい魔力制御でなけなしの体力をカバーしてるけど、それでも消耗する体力は、ゼロにならない。
「ほらほら!どうした!勢いがないぞ?」
くっそーバカにしやがって!!
「ダルマのクセに!!」
「『剛打連拳』!!」
オルの罵倒に少しキレたのか、行動が鈍ったところをすかさず攻撃する俺。
……なるほど、口が二つあるとこういうことも出来るのか。
まぁ、かなりどうでもいいけど。
「なんの!『鉄壁』!!」
大将の腹部に最初の一撃が入る。
もらった!
ひたすら拳を叩き込み続ける。……だけど、
「なんで、倒れねぇ!?」
10発くらい叩き込んだのに、ピンピンしていた。
「軽い拳だ……いくら打とうが、我に問題ない」
感触は、鉄製の鎧を殴ってる感じだった。
それでも大概の奴は、鎧の上から殴って気絶させられた。
ってか、全力で殴ってるのに軽いって……。
事実こいつは、ノーダメージ。マジかよ……。
「こちらからも行くぞ!『天激・落墜』!!」
攻撃が効いていないことに唖然としていたため、反応が遅れる。
「うぐっ!!」
避けるのが間に合わないため、腕でガードするが、そのまま地面に叩きつけられる。
「うっ!」
「うへぇっ!」
ヤバイ、背中から倒れたため、オルが下敷きになって余計なダメージを与えてしまった。
俺より華奢なオルは、あまり体力がない。
それもあって、なるべく攻撃を避けていたんだが……。
「これで終わりだっ!」
そう言って、ダルマの兵士が棍棒を降り下ろす。
俺は慌てて、その場から横に転がり、何とか避ける。
……再びオルが下敷きになったが、二人とも何とか問題ない。
「はぁ……はぁ……。」
「はぁ……はぁ……。」
二人して息をきらしている。オルも呼吸が荒い。
「いつまで避けきれるかな?ヘッポコ魔王よ」
う、うるせぇ!って言ってやりたいところだけど、ちょっとでも体力を温存したい。
ぶっつけ本番たが…………やるしかないのか。
城門に行く少し前に、俺はオルに聞いた。
クサリさんやシェリーさんが使った、『アンリミテッド』状態についてだ。
「オルも……ってか俺もか?クサリさんみたいに『アンリミテッド』って使えるの?」
そう聞くと、う~んと首をかしげるオル。
「さすがに無理か?」
「そもそも、オルを使える人がいなかったもん。分かんない。」
「……そりゃそうか。」
オルが魔王七つ道具を使うには、オリジナルより莫大な魔力を消費するらしい。
その代わり、オリジナルと遜色ないレベルで扱えるが。
そんで、俺と会うまでその力は使えなかった。
オルの体内魔力保有量より、道具の魔力消費量が激しいからだ。
たしか、体調が万全の状態で30秒?だったか?……まぁ、時間は忘れたが、とにかく、長い時間ましてや戦闘なんて出来なかったわけだ。
そこに未だ魔力値ゼロの俺が出てくる。
ぶっちゃけると、魔力使いたい放題の俺と消費の激しいオルは、相性抜群だろう?
道具に足りない魔力を俺が補填してるから、今までほぼ無制限に戦えたわけだ。
簡単に言うとオルが戦うには、俺がいるわけだ。
……オンブって状態は、なんとかしたいけどなぁ。
「発動の仕方は、分かるのか?」
そう聞くと、オルは首を縦に振った。
「シェリーみたいに、『アンリミテッド』って言えばいいと思う。」
…………思う……か。
ここで実際にやってみたいところだけどなぁ……。
話は、そこで終わった。
まぁ、敵兵士に見つかっちまったからなんだけど。
「はぁ……オル……やってみるぞ……」
俺は息を切らしながら、オルに言う。
オルも決意を固めたのか、息切れしながらも頷いた。
「行くぞ!『アンリミテッド』!!」
俺は、変身ヒーローみたいに片腕を突き上げながら叫んだ。
…………………………なにも起こらなかった。
恥ずかしい!!
「お、おい!?なにも起こってねぇぞ!?」
あわてふためく俺をよそにオルがあっけらかんと言う。
「それは、……オルと一緒に……言ってないから……だよ。」
それ、先に言えよ!?
変身かなんかすると思って、思わず腕を挙げちまったじゃねぇか!?
お陰でよけいに恥ずかしい思いをしてるよ!
周囲にいる敵兵たちの視線が、凄く痛い。
「じゃ、じゃあ!頼んだぞ!?……せーので言うからな?」
「うん。」
俺はドキドキしながら、第一声を発した。
「せーの!」
「「『アンリミテッド』!!」」
すると、俺の視界は、赤く染まった。




