三度(みたび)、神界に挑戦!
リリンさんが、降伏の準備を始めたと電話があった。
何故か、と問い詰めると、
「なんか、面倒くさくなってきたから。」
「面倒くさいってなんだ!?おい!?」
思わず大声で怒鳴った。
おかげで、城の外をウロウロしていた神界の下っぱ兵士に見つかり、余計な体力を消耗することに……。
「まったく!リリンさんは、何を考えてんだよ!」
俺は、ちょっとキレ気味。
だってそうだろ?こっちが必死に戦おうとしてるのに、魔界代表のリリンさんが、面倒だからって……。
「魔王様、オル達だけでやっつけちゃう?」
「うーん……悩ましいところだなぁ。」
リリンさんに確認したいが、したところでややこしくなるからダメっとか言ってきそうだしなぁ。
そんな風に独り悩んでいたら、オルがリリンさんに電話していた。
「リリンさん、オル達だけで戦ってもいい?」
ちょっと!ちょっと、ちょっと!!
何かってに電話してんだ!?
大体、電話してもオーケー貰えんだろ?
「いいわよ」
「いいんかい!!」
……このツッコミで再び、雑魚兵士に見つかり、戦闘。
もう、ツッコミしない!
「で、どうする?」
オルにどうやって戦うのかを相談する。
ちなみに、ドーラはグロッキー状態なので木陰で放置している。
「う~ん……………………。」
これは、何も案がないな?
まぁ、俺もこれといった案がねぇから、人のこと言えねぇんだけど。
「オルを魔王様が背負って……突撃?」
「それが一番いいのか……。」
下手な作戦で行動するより、突っ込んで蹴散らせるだけ蹴散らした方が楽だろうし、なにより、いい作戦がない。
「ドーラ……大丈夫か?」
「う、うん……平気……。」
全然平気そうに見えない。
顔色なんて、白を通り越して青くなろうとしている。
ドーラを保護するには、一度山小屋に戻った方が良さそうだけどな。
連れてくのは論外だな。
「どうする?」
「どうしよう?」
二人で10分くらい考えた結果。
「じゃあ、ドーラ。絶対に動くなよ?」
木上に吊るして置くことになった。
当のドーラは、太い木の枝に布団のように垂れ下がっている。
……天気がよければ、フカフカになってそうだな。
「うん……気を付けてね……。」
ドーラを放置して、魔王上へと向かった。
で、城門から堂々と突っ込んで行ったら、わんさか兵士が出てきた。
まぁ、予想できてたし、それはさほど問題じゃない。
……野次馬が問題だなぁ。
「ほら!やれ!もっとやれー!!」
「違うだろ!アホが!!右だ!右!!」
う、うぜぇー。
リリンさんとガスターが、魔王城の一番上、たぶん書斎から繋がるベランダだと思うけど、そこから俺とオルの戦いぶりを観戦していた。
「ってか!サボってねぇで戦えよ!?」
言っても耳に手を当てて、何いってるんですか~?ってポーズをしてくるだけ。
……魔界はこんなので大丈夫なのか?
「てぇえええい!」
「オル!」
背中から斬りかかってきた兵士を盾で防いで、『剛打』で殴り飛ばす。
「大丈夫か?」
「うん!まだまだ、いけるよ!」
あれから、30分くらい戦い続けてるから、ちょっと心配だった。
まぁ、俺は疲れてきてるけど。
「キリがねぇなぁ。」
「魔王様、詠唱するからその間、ひたすら避けてね?」
「あぁ、分かった。」
そう言うと、オルは水晶を出現させて、ブツブツと詠唱を始めた。
オルが詠唱している間、盾や太刀などの魔王七つ道具は、いっさい使えない。
だから、必死に避ける。
ちなみに、本来、詠唱は集中しないといけない。
動くと集中が途切れるので、大抵の魔法師は動くこともダメージを受けることも許されない。
だけど、オルの場合は、俺が背負って動いているので問題ない。
と言うより、その訓練をしたといった方が正しいか。
「こいつ!ちょこまかちょこまかと!」
敵も躍起になって攻撃してくるが、勇者領や姫騎士領の兵士達より攻撃速度が遅い。
その分、威力があるけど、当たらないなら問題ない。
「陣形を整えろ!!」
「囲んで串刺しにしてやれ!!」
俺を中心に7、8人の兵士が円形に取り囲む。
全員が、槍を突き出して俺を刺殺しようとしてくるが、
「いくよ!『スパークボルト』!!」
詠唱を終えたオルが、風属性中級魔法を放つ。
俺を取り囲むように配置していた兵士らは、オルが放った電撃に当たり、感電してその場で倒れた。
「いいぞー!オルちゃーん!!」
「魔王は、しっかり働けー!」
……だから、お前らも戦えよ。
だいたい、ろくに働いていない奴が「働け!」なんて言うかよ。
あまりの理不尽さに愚痴をこぼしたくなるが、今は戦闘中。
なるべく余計なことを考えないで、どうやってこいつら、神界の兵士達を蹴散らすかを考えねぇと。
「オル、まだいけるか?」
「うん!全然余裕!」
俺も万全でないけど、相手の戦い方や戦闘能力がなんとなく掴めてきたから、余裕は出てきた。
「一気に押しきるぞ!」
「うん!『ギルティブレード』!」
オルの身長と同じくらいの太刀を出現させて、オルがそれを構える。
「いくぞ!『猪突』!」
オルが構えて、俺が魔力を足に込めて地面を蹴る。
聖女の娘であり、お転婆でもあるカルラの得意技で兵士らをぶっ飛ばす。
「うわぁ!!」「どふぅわっ!」
俺の耳元では、そんな声が瞬間的にいくつもした。
こっちは凄い勢いで移動してるから、ゴ~~って音でほとんど聞こえないけど。
体感で10メートルくらい走っては止まって、走っては止まってを繰り返して、ジグザグに攻撃していた。
が、相手もバカじゃない。
土属性の魔法で地面をドロドロの状態にして、俺の走りを妨害してきた。
魔力を余分に込めれば、走れなくもないけど、技の精度や俺の体力が続かない。
結果的に俺は、敵のど真ん中で立ち往生。
今からオルが詠唱を始めても、兵士らの槍が俺らを貫く方が早いだろうなぁ。
「魔王様……。」
「わかってる……。」
絶体絶命のピンチだ。
だけど、簡単に死んでたまるかよ!
「足掻けるだけ、足掻いてやるよ!『炎の鎧』!!」
オルごと炎で包む。
そして、オルは太刀をしまった。
「って!?なんでだよ!?」
太刀をしまったら、俺の攻撃範囲が狭くなるじゃん!?
「魔王様は、そのままでいいよ?」
「はぁ?」
わけわからん。
「死ねぇえええ!」「うぉぉぉおおお!!!」
十数人が、槍をつきだして攻撃してくる。
おい!?足掻くことすらせずに死ぬぞ!?
と思っていたが、
「『バインドチェーン』!」
俺を囲むように鎖が出現する。
……そういや、鎖も使えたな。
カルラじゃねぇけど、周りがよく見えてなかった。
熱を帯びているのか、兵士たちの槍はジューと音をたてて溶けた。
……相当な高温なんだな。
間違っても触らないようにしねぇと、火傷じゃすまんだろうな。
「おのれぇえ!!」
手も足もでないからか、相当悔しがっている。
なんとか、集団でも戦えるみたいだな。
ここまで、2、3回戦ったけど、全部1対1だったから、不安だったんだよな。
「オル。」
「うん!いくよ!」
鎖を消すのと同時に、俺は蹴りを繰り出した。
「『火炎・剛脚』!」
正面にいた兵士に蹴りが当たり、後ろに吹っ飛ぶ。
周囲にいた兵士らも、自分の武器が使い物にならなくなり、慌てている。
そこをすかさず、殴り跳ばす。
「かはっ!」「ぐふぁあ!」
腹や脛、頭など、力一杯殴ったり蹴ったりして吹っ飛ばしていく。
ただ、体力の限界が近づいてきた。
「お、オル……。」
「な、何!?魔王様!?」
「交「ヤダ!」た……。」
ま、まぁ、無理だと思ってたけど、即答って……。
だけど、連戦続きでマジでキツイ。
なのに、再びピンチがやって来た。




