再び飛行訓練に挑戦…………
「結局、城攻め側の方が負けて、そっち側にボーナスが入ったんだよな?」
俺は、リリンさんに一昨日のイベントじみた訓練の後処理について聞いた。
ちなみに、防衛側に参加していたのは、魔王メイド隊のシェリーさんの部隊15人とシェリーさん、ガスター、リリンさんの計18人。報酬は、特別ボーナスが支給されたらしい。
「えぇ。2代目を除いてだけどね。」
まぁ、妥当だろ。だってアイツ、俺の部屋荒らしただけだし。
「あと、魔王ちゃんは、城門を壊した罰ゲームが待ってるから。」
………………。
「えぇ!」
俺は、リリンさんに抗議したものの、すぐさま却下された。
魔王城近辺の森から抜け出て、魔王城へと1人で歩いていた。
リリンさんは、もう少し散歩してくると俺に言い、そのまま森の奥へと歩いていった。
……オル達に俺の位置を言わないといいんだけどなぁ。
「ガスターじゃねぇけど、部屋でゴロゴロしてるか。」
ちなみに今日は、仕事がない。……クビになった訳じゃないぞ?
魔王城の修復作業と、ついでに城内の点検をしているからだ。
魔王城から追い出されただけだ。
3階から点検をしていって、昨日の時点で2階まで終った。
あとは、1階の南側、半分くらいで終わるらしいから、今日中に終わって明日から仕事だろうなぁ。
「うっうーん。」
オル達に見つからないよう気を張っていたためか、体が凝り固まっているみたいだ。
大きく腕を挙げると、手首を捕まれた。
「んっ!?」
そのままグンッと上に持ち上げられる。
な、なんだ!?
上を向くと…………見覚えのある竜が、俺の両腕を持っていた。
「み~つっけた。」
その竜の上からオルが、顔を出していた。
ま、まさか……このまま…………飛ばないよな?
そんな俺の懇願じみた疑問もオルは、ニッコリと笑って
「ドーラ!」
「うん!」
バッサバッサ翼を羽ばたかせて、離陸した。
「わ、分かった!分かったから!!せめて、せめて背中に乗せろぉぉおお!!」
俺は、叫びながら山の方へと連れてかれた。
ペシペシ。
「うっ、うーん……。」
ペシペシ。
誰かが、俺の頬を叩いてくる。もう少し寝かせて…………うん?俺っていつ寝たんだ?
確か、ドーラ達に連れ去られ……。
「はっ!?」
「あっ!やっと起きた!」
目を開くと目の前にドーラがいた。……ペシペシ叩いてたのは、お前か。
「もう~、突然意識を無くしちゃうんだもん。ビックリしちゃたよ!」
「あの体勢でいきなり飛ぶ方が、ビックリするわ!」
まったく。1度着地して、ちゃんと背中に乗せてから飛べよ!
……思い出したら、怖くなってきた。
「それより……ここ、どこ?」
「ここ?魔王城の裏山だよ。ドーラの新しいお家!」
俺は、辺りをキョロキョロする。
へえー。新築だから片付いているのか、きれい好きだからかは、分からないが、そこそこ綺麗だった。
性格からして前者のような気はするが。
何処にでもありそうな一軒家だと思う。リビングにダイニングキッチン。テーブルや椅子は、全部木製。南国風って感じがする。
「なかなか、綺麗だな。」
感心して、そう言うとドーラの頬が、何故か赤く染まった。
「フヘヘェ~。」
……どうしたんだか。
「オルは、どこに行ったんだ?」
「オルちゃんは、リリンさんと特訓の準備中!」
…………今、聞きたくない名前が聞こえたような……。
「も、もう一度、言ってくれるか?」
「うん!オルちゃんは、リリンさんと特訓の準備中!」
……どうやら聞き間違えじゃないらしい。
「ドーラ。トイレって何処だ?」
「えっとね、この部屋を出て、右に曲がったところの左側だよ!」
ありがとうと言って、部屋を出る。……逃亡するために!
とにかく出口だ!あまりウロチョロすると誰かに気付かれる可能性が上がるからな……慎重かつ速く!
「あれが、玄関か。」
木製で、内側から鍵が掛けられるようになっている扉を見つけた。
……今の内だな。
そっと扉に近づいて、鍵を慎重に開ける。
カチッと音がしたもののドーラが気づいた様子もない。
いや、楽勝だったわ!
そう思い、扉を開くと………………
「あっ、魔王様!起きたんだ!」
「ま、魔王ちゃんって、た、たた、高いところが、ダメなんだって?……プフフ!」
外でオルとリリンさんに見つかった。
リリンさんにいたっては、笑いを堪えている感じがした。
「なんで、外にいるんだよ?中でやれよ。中で。」
まったく、1歩も出ずに捕まった気分だぞ。
「だってここ、見張らしもいいし、空気も美味しいもん。」
まぁ、分からなくもないけどなぁ。
空を見上げると、雲ひとつ無い青空が広がっていた。
何かの本に書いてあった、空に吸い込まれそうってのは、こんな感覚なんだろうかと思うほどだ。
「で?肝心の特訓内容は?」
もうこうなったら自棄だ。チャッチャと終わらしてやる!「はい、これ。」
リリンさんが、紙1枚を渡してくる。
どれどれ……げっ!?結構ハードだなぁ。
紙には大きな丸が黒線で書かれており、その線の外側に1から24の数字が書いてあった。
1日のスケジュールを円グラフに書き起こしたのだろう。
具体的な内容は、朝6時に起床。そして、朝食を7までに終らせる。
それから、ドーラと一緒に空中散歩を4時間。12時までに昼食をとって、そこから夕方7時までドーラの家で書類仕事。7時から9時までの間に晩飯と風呂を済ませる。
所々空いている時間があるが、それは予備時間みたいなものらしい。
「魔王ちゃんに出来そうな仕事は、メイド隊の誰かが持ってくるから。なるべく早く帰ってきてね?」
………………へぇ?帰ってきてね?
「え?期限は?」
「魔王ちゃんが、ドーラとアクロバット飛行が出来るようになるまで。」
キッパリと言われた。言われたが、……帰れるかなぁ?
じゃねぇっと言ってリリンさんは、帰ってしまった。
リリンさんを見送って、部屋の中に入った俺とオル。
外は、もうオレンジ色に染まっていた。
「今日はもう、遅いから明日からね!」
オルが、そう言って俺の特訓は明日からになった。
「それじゃ、行こうか!」
「うん!」
オルとドーラが立ち上がって、何処かに行くらしい。
「ほら、魔王様も!」
「え?ど、どこに行くんだ?」
いいからいいからっと、オルに引っ張られていく俺。
まさか、夜間飛行の訓練とか言い出さないよな!?
っとそんな心配を内心でしていたのだが、どうやら違った。
晩御飯のおかずを狩りに行くらしい。……よかった。
「魔王様、これ持って。」
オルから、背負うためのヒモがついた篭を渡された。
どうやら、その篭の中にキノコとかクルミだとか食料になるものを放り込んでいくらしい。
「俺、キノコとか詳しくねぇけど……。」
素人判断でキノコ狩りとか、やったらダメなやつだろ?
……メンバーも不安だ。
「大丈夫だよ!どのキノコも美味しいもん!」
……竜と人が同じ生命力だと思ってねぇよな?
「オルが間違えるわけ無いもん!」
…………誰にでも間違いわあるぞ?
「不安しかねぇ……。」
ガックリと肩を落としながらも、保護者のような気分で2人について行った。




