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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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国王逃亡日記・1

3代目魔王が、ドーラを仲間にした翌日。

王都では、国王が空を見上げて、現実逃避しようとしていた。


「いやー、いい天気だね。こんなに天気がいいと、外で日向ぼっこでもしたいね。」

「国王様!手が止まっていますよ!もっと動かしてください!」

ちっ。話にのってくれれば、あれよあれよで、この書類の束から逃げれたのに。

最近のサタ君は、ガードが硬い。そんなのだから、いつまでも独り身なんだろうに。

そう思って、優秀な近衛兵の一人かつ、彼氏募集中の助手、サタ・ブリッド君を見ていたら、キッと睨まれた。……君は、読心術でも心得ているのかい?……独身だけに。

まぁ、それはいいとしよう。だが、1つだけ気になることがある。

「僕の両手はこの通り、見事に仕事をしているんだが…………サタ君、君の目からは、働いてないように見えるのかい?」

僕は、両手に決済用のハンコを持って、ポンポンリズミカルに押している。

「はい。お口の方が、働いております。国王様の両手は、お口を見習った方がいいです!」

…………むちゃくちゃな言い分だね、サタ君。

そんな言い方をすると、両方サボるよ?

「それにしても、僕がちょっといないだけで、こんなに書類が溜まるのかい?これは、異常だと思うんだが、ソコについては、どう思う?」

いくらなんでも、書類800枚は、多すぎると思うんだが?

そんなつもりで聞いたのに、サタ君は、冷たい態度だった。

「……毎日コツコツ片付ければ、こんなに貯まっていませんでしたよ!!」

「そ、そんなにサボったつもりはないが?」

「どの口が、おっしゃっているんですか!?聖女様達についていかなければ、もっと減っていました!それに、それより前から、かなりの量の書類を溜め込んでいましたよね!?」

やや、ヒステリック気味になってきたので、話を変えよう。

このままだと、また缶詰めにされる。……僕は、国王なのに。

「ま、まぁ、それはともかく。……領土の急激な減少や魔王領、姫騎士領との同盟で、何か問題は起きていないかい?」

実は、一番懸念していた事案だ。国民らが暴動を起こしたりしないか心配だった。

……特に、僕がいなかった2週間の間に起きていたら、目も当てられなかった。

「今のところ、ひどく不満がある訳じゃないようですね。多少の問題はありますが、それらも、時間が解決してくれるかと。」

「ふむ、そうか。ならいい。民同士が、いがみ合っているのは、なかなか応えるからね。」

本当に。

「だが、本当に小さい問題だけじゃないかもしれない!だから、今から視察に行ってくる!!」

決まった。一分の隙もない、完璧な言い分。

「それなら問題ありません。」

「な、何故なんだい?」

「騎士団長自ら街の視察をしていますので。国王様は、今晩も缶詰めです。」

とびっきりの笑顔で言われてしまった……。おのれ、騎士団長!僕の行動を先読みするとは!……減給を考えておかなければ!!

「はぁ。国王様、その書類の山が終われば、遊びに行っても構いませんので、今はしっかり仕事をしてください。」

そ、そんなことを言うなんて…………本気を出そうじゃないか!

「サタ君。君も言うようになったね。」

「えぇ!国王様達が、フラフラ遊んでいる間に、私も鍛えましたので!」

と、トーク(りょく)かな?一番、延びてる気がするよ。

「僕の本気を、見るがいい!!」

うりゃーーーー!!!


30分後。

「これで!……終わりだぁあああ!!!」

最後の1枚に決済印を押す。

国王だからと侮ったから、お前(書類の束)は、負けたのだ!

「お疲れさまでした。毎日こなせば、もっと短い時間で終わりますので、明日からは、コンスタントにお願いします。」

「………………はい。分かりました。」

変なテンションになっていたところを、サタ君に釘を刺された。…………疲れた。こんなに書類を溜めた、過去の僕を殴りにいきたい気分だ。

「それでは、夕方までに戻ってください。今夜は、舞踏会が予定されていますので。」

はぁ。めんどくさい。

「なぜ、舞踏会なんて開くのだろうね?経費の無駄じゃないか!……と言うわけで、今夜からの晩餐会は、禁止にしよう!うん、そうしよう!」

「別に構いませんが、確か、今日の晩餐会に姫騎士領の方々が見えますが、よろしいですか?」

「あぁ!構わない!」

「本当ですね?」

「あぁ!本当に本当だ!」

「分かりました。私からカルラ様「待ったぁ!!」にちょ…………何ですか?」

あ、危ないところだった。

「カルラちやんも来るのかい?」

「はい。大変、楽しみにしていたようですよ。」

まったく。サタ君も、人が悪いじゃないか。

「明日から、カルラが参加する晩餐会を除いて、全て無しにしよう!うん、そうしよう!!」

「はぁー。」


僕は、サタ君との約束通り、遊びに行く。

っと言っても、行く宛がないから、町中をブラブラしている。

「ふむ。王都だからか、問題は無いね。」

お昼時を過ぎているため、露店の数も、大分(だいぶ)減っている。そのため、活気が普段よりも、がた落ちだった。

おかげで、こうしてブラブラ出来るがね。

「うん?これは?」

街の掲示板に貼られている1枚のチラシに目が止まる。

「ふむ。これは、魔王君が、面接官の練習をしていたやつだね。そうか、本格的に始まるのか。」

魔王メイド隊の隊長であるクサリ君が、張り切っていたな。

まぁ、現状の魔王領は、こっちと違ってやることが多いからね。

「そうだ!魔王城に遊びもとい、手伝いに行こう!」

僕は、魔王城へ行くために再び、エクスカリバーを抜いた。


「め、メイド長!大変です!!」

書斎に慌てて入ってきたのは、吸血鬼であるモルモーさん。

「何ですか?慌てずに、ゆっくり話してください。」

「ゆ、勇者領の国王が、電撃訪問です!」

なっ!……あの国王が。

「分かりました。いらない事をされる前に客室へ通してください。」

まったく、あの方は。以前も、魔王様の特訓を暇潰しとして妨害していたのに。今度は、何なのでしょうか?

……また、暇潰しでしょうか?


客室へ向かうと、国王は、部屋に用意されていたソファーに腰を掛けていた。

「やぁ!久しぶりだね。魔王君は、魔界にいるんだよね?」

な、なんででしょうか………………相手にするのが、面倒に感じてきました。

「相も変わらず、勇者領は、ヒマなのですか?国王が、フラフラ出歩くなんて、サタ様が、怒りますよ。」

「サタ君より、僕の方が、立場が上なのに様が付いてないのは、何故なんだい?」

遊び人に敬意を払う必要がないからです。っと心の中だけで思っておく。

言ったところで、何ら問題は起こらないでしょうが、わざわざ言っても、のらりくらりとやり過すだけでしょうし。

「それよりも、今日は、どんなご用で?魔王様なら、あと10ヶ月ほどは、帰らないと思います。」

「大した用じゃない。ただ、忙しいだろうから、手伝いに来たんだ。」

「手伝いなんて、要りませんよ。」

確かに、人手不足ですが、一国の王に動いて貰わなければ、どうにもならない程じゃない。

「またまたー。街の警備とか、食料問題とか、色々あるだろう?」

こうなったら、1つずつ論破した方が良さそうですね。

「街の警備については、元傭兵の方々を再教育し、優秀な兵士に仕立てあげました。食料については、姫騎士領のご厚意で、格安の食料提供と、栽培方法を学ばせておりますので、問題ないかと。」

「それは、魔王城周辺の話じゃないのかい?他の町も同じとは、限らないね。」

「フフフ。」

「何がおかしいのかな?」

あまりにも予想できる質問であったため、笑ってしまいました。

「いえ。他の町も問題なく進んでおります。」

「その根拠は?」

「各領土にメイド隊隊員を配置しております。また、かなり癖のある領土については、私自ら、その領土を管理していますので。」

「うん?それのどこが、根拠になるんだい?もしかして、私とメイド隊の絆とか言うんじゃないよね?僕自信は、好きだけど、根拠にしては、弱いね。」


どうにか、論破して、僕の暇潰しもとい、手伝いに賛同してくれれば、問題ないのだが、なかなか折れない。

「国王様。突然ですが、私、今鍛えているのですよ。」

「うん?それがどうしたんだい?」

また、唐突に話がとんだねぇ。それに、鍛えなくても十分強いと思うんだがね。

そんな風に考えていたら、コンコンっと扉がノックされる。

「例えばですが、分身。」

「最近、かなりの時間、距離で出来るようになってきたのです。」

扉が開かれ、入ってきたのは、目の前にいるクサリ君とそっくりの女性だった。

「こ、これは!……凄いね。どれくらい出きるんだい?」

もしこれが、1週間でも続けられ、人数も10人くらい出きるのならば、相当な戦力になる。

「3人で2日くらいです。……まだ、始めたばかりですので。」

「クサリ君……。」

それじゃ、全部の領土を管理できないじゃないか!

「い、言いたい事は、分かりますが…………それでも、国王に手伝っていただくことは、ありません!」

う、うやむやにして、僕の手伝いを拒む気だね!

あっ、そうだ。アレについて聞いておこう。

「話が変わるんだが、人員募集の方は、どうなんだい?」

すると、クサリ君の顔色が少しだけ、悪くなった。

「…………その事は、あまり触れないで頂けますか?」

どうやら、優秀な彼女でも疲弊してしまうほどの何かがあったようだね。

可哀想なので、

「何か手伝いをさせてくれれば、聞かないであげよう!」

はぁーっと大きなため息をついて、クサリ君が覚悟を決めたのか、僕に向かって言ってくる。

「分かりました。なら、国王様には、1次面接の面接官をお願いします。」

お?聞かないけど、知るチャンスが来た。

「まぁ、クサリ君より活躍しようじゃないか!」

「会場に案内いたします。こちらです。」

諦めたのか、早速会場に連れていって貰った。


「つ、次の方、どうぞ。」

始まって、1時間くらい経っただろうか。僕はもう、すっかり疲弊していた。

な、何でこんなに多いんだ!多すぎる!

20人前後の人らを採点しても、まだまだ、いるらしい。

な、何故なんだい?魔王君は人気なのか?それとも、メイド隊の待遇がいいのか?

メイド隊に入ると、魔王城に住み込みで働くことになる。食事は、3食ついているが、休日はほぼ無い。なんせ、職場と家が同じ場所のようなものだからね。

それで、肝心な給料だが、日給800ゴールドだ。

決して、高いとは言えない。相場と同じくらいだろう。

…………魔王君の人気なのかぁ。

意外でもなんでもないのだが、女性が多い。

今まで面接した20人のうち、17人が女性だった。次の方も女性だ。

…………何故だろうか、無性に腹が立つ。

「ありがとうございました。」

「あぁ、気を付けて帰ってね。」

また、1人の面接を終えて、時計を見る。

あと、30分か。……何で僕は、手伝いなんて…………。


「お疲れさまでした。」

最後の面接相手を送り出してから、5分足らずでクサリ君が、顔を見に来た。

「あぁ、本当に疲れたよ…………。」

もう二度とやりたくない。魔王君の人気の高さを知りつつ、アレだけの人間に気を使うのは、もう…………。

「それじゃ、帰らせてもらうよ。夜には、晩餐会が開かれる予定だからね。」

本来なら、馬車で1週間程の道のりも、エクスカリバーを使えば、10分くらいで移動できる。

本当なら、晩餐会ギリギリでも間に合うのだが、疲れたため、1度書斎でゆっくりしたいので、早く帰ることにした。

「本当にお疲れさまでした。」

「あぁ、それじゃ、帰るよ。」

面接会場として建てられたテントを出て、エクスカリバーを抜いた。


城で晩餐会が始まるまで、書斎で羽を伸ばすことにした。

今日は、本当に疲れた。公務もそうだが、まさか、暇潰しのために手伝うと言った面接が、あんなに疲れるとは……。

コンコン。

くつろいでいたら、扉がノックされた。

時計を見ると、もうそろそろ晩餐会だから、サタ君あたりが呼びに来たのだろう。

「国王様。晩餐会の準備ができました。カルラ様たちも、到着されています。」

「今行く。」

服装を整え、扉を開ける。

「国王様、襟が立っていますよ。新しいファッションですか?」

「うむ。そうだ。最近、町中で流行しているファッションだ。」

自信満々に言うと、サタ君は、そんなわけ無いですよねと白い目をしながら、襟を直してくれた。

「冗談もこれくらいにして、行きますよ。」

サタ君の後ろをついていった。


晩餐会の席に向かうと……ドヨーンとしたカルラちゃんがいた。

いつもは、元気ハツラツな彼女が、まるで、世界の終わりが来たような絶望的な顔をしている。

「ど、どうしたんだい?カルラちゃんの様子が、おかしいけど。」

聖女であり、カルラちゃんの母親であるアリアナに聞く。

「2代目魔王が連れてた子、覚えてる?」

「あぁ、オルちゃんだったかな。銀髪の子だろう?」

「そうよ。その子とカルラが、文通をしてるんだけど、昨日届いた手紙に、その子らを(おびや)かす内容が、書かれていたそうなの。」

脅かす?なんだ、魔王君が死んだのかな?

「あの魔王、巨乳好きらしいのよ。」

はぁー…………なるほどね。

チラッと絶望しているカルラちゃんを見る。

「ここに来る前にあたしに聞いてきたわよ。どうやったら、胸が大きくなるのって。あたしの娘なんだから、心配いらないのに。」

そして、隣にいるアリアナを見る。……確かに心配いらない気がする。

「だが、何故そんなに急ぐ必要があるんだい?確かに、魔王君は人気らしいのだが、それでも、彼女の恋敵は、オルちゃんだけだろう?」

すると、アリアナは、イヤイヤと首を横に降った。

「それがそうでもないらしいのよ。なんでも、竜族の娘を仲間にしたそうよ。しかも、その娘は、魔王にホの字らしいのよ。」

な、何故なんだ…………何故あの魔王君は、こんなにモテるんだ!理不尽だ!こんな世界は、間違っている!

突然、服の裾を引っ張られる。

「ねぇ……王様…………胸って……どうすれば…………大きくなるの?」

カルラちゃんの目に光が宿っていなかった……。

「す、好きな人に揉んでもらうと、効果があるらしい。」

俗説であろうが、何であろうが……今のカルラちゃんに、待ってれば、何て言葉はかけられなかった。

「好きな人に……揉んでもらう…………。」

自分の胸を見ながら、悲しそうに復唱する。

「魔王様に…………。」

いやー彼は、無理じゃないかなぁ……手を出した瞬間に、僕が殺すから。

「ママ!魔界って、どうやって行くの!?」

「本当に魔王に揉んでもらう気!?」

「うん!魔王様にガバッと揉んでもらうの!じゃないと……。」

自分の胸に手を当てて、大きさを測っている。

カルラちゃん、悲しいことに、そんなことをしても大きくならないんだよ。

「大きくしてもらうために、魔王様に会いに行くの!」

もう、駄々っ子のようになっていた。

「ダメよ。だいたい、魔王は修行中よ。魔界の何処にいるか分からないのよ。」

「探すもん!」

「探せないわよ。魔界も広大な土地なのよ。それに、魔王に『サーチ』をかけても、魔力値ゼロで宛になら無いから、余計に探せないわよ。」

さすがの母親だね。カルラちゃんが、渋々だが、諦めようとしている。

「で、でもー。」

「でもじゃないでしょ。それに、胸を大きくするよりも、魔王様の隣に立って、一緒に戦える方がいいんじゃないの?」

「……うん。お城で、特訓して待つ。」

どうやら、諦めてくれたようだ。……魔王君には、1度イタい目に遭ってもらいたいね。


カルラちゃんの悩みが、一応解決し、食事をとり、聖女とカルラちゃんは、王都に泊まらず帰ることになった。

「ゆっくりしていば、いいのだがね。」

「そうにもいかないわよ。なんせ、カルラがやる気になってるんですもの。」

今は、母親の横で寝息をたてているが、彼女の戦闘技術向上は、後にこの大陸の運命も左右するに違いない。

「それじゃ、行くわ。貴方も、行方不明の師匠でも探してみたら?」

「その事なんだが、…………どうやら、神界にいるらしい。」

「…………ふーん。あっそ。」

「なんだい?冷たい反応だね。」

「慰められるタマじゃないでしょ。それに、慰めがいが無いのよ。」

フフフっと笑って、彼女は馬車を出した。

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