初めての大量発生に挑戦!
「ドンドン出てきやがる!」
「魔王様!もっとスピード上げるけど、大丈夫?」
背中にオブっているオルが、聞いてくる。
「全然問題ない!ガンガン飛ばしてくれ!!」
「うん!」
現状は、こっちが劣勢だった。
毛玉の群れは、かなりの勢いで増えて、俺達の狩るスピードを上回ってきている。
おまけに、触れると放電するから、攻撃にかなり気を使う。
「魔王殿!」
竜化しているドンが、こっちにやって来た。
「どうした!?」
「このままじゃ埒があかん!根本を倒しに行ってくれ!」
こ、根本?
「こいつらの親玉が、裏山のどっかにいるばずだ!そいつさえ倒せば、増殖は起こらん!」
場所までは、特定できてないのか。
「その親玉の特徴は?」
「デカイ!」
………………そんだけ?
目で訴えてみるが、どうやら、そんだけのようだ。
「あと、俺ら竜族では、そいつに勝てん!魔法の類いは、効かないから気を付けろよ!」
「おう!分かった!オル、移動するぞ!!」
「うん!その前に、『スパーク』!」
目の前の毛玉の群れに電撃を浴びせて、放電させていく。
「本当に気を付けろよ!かなり、厄介な相手だからな!」
背中越しにドンの声が聞こえた。
そして、1時間後。
「た、確かにデカイな…………。」
「うん、大きい…………。」
親玉だと思えるケマリを見つけたのだが、想像以上にデカイ!
重さのせいか、他のケマリのように地面から浮かずに、ペタンとくっついて、ペコペコのボールみたいになっていた。
その頭?からポコっポコっと小さいケマリが、産み出されている。
「とにかく、倒すぞ!」
「うん!まずは、「スパーク」!」
大ケマリの天辺に雷撃を当てるが、産み出されていたケマリだけが、放電して消えただけ。
大ケマリは、無傷だった。
「ドンの言った通りだな。全然、びくともしてねぇ。」
なら、物理攻撃しかないな。
「オル!」
「うん!「チェーンソード」!」
地面から鎖つきの太刀を出現させ、大ケマリに斬りかかる。
「………………なんか、散髪してるみたいだな。」
外っ面の毛の部分だけが斬られて、本体まで攻撃が届いていない感じだった。
「……燃やしてみるか。ちょっと離れるぞ。」
「うん?燃やすんだよね?」
大ケマリから離れて、火矢でも射とうかと考えていたのだが……。
「もしかして、この距離で火属性の魔法を放つ気か?」
火だるまには、なりたくねぇなぁ。
「『炎の鎧』を使えば、この太刀も火属性になるよ。」
へ、へぇー。知らなかったっす、オルさんさすがっす!
……自分の特技なのになぁ。
「『炎の鎧』!」
久し振りに、火だるまになる。すると、鎖つきの太刀も燃えだした。
この状態で、大ケマリを攻撃してみる。すると、
「モーー!!」
濁った声をあげて、大ケマリが震え出す。効いているみたいだ。
「よし!このまま攻撃するぞ!」
「ま、魔王様!あ、あれ……。」
オルが、俺の肩を叩いて、指を指す。
指の刺された方を向くと、大量のケマリが、濁流のようにこっちに向かっていた。
「逃げるぞ!」
俺は、一目散に逃げ出した。
「お、オル……もう無理!降りて!!」
「降ろしてる間に飲まれちゃう!!頑張って走って!!「スパーク」!」
また、電撃が、毛玉の濁流に放たれるが、ちょっと時間が稼げるだけで、すぐに元通りになる。
この調子が、30分くらい続いている。も、もう疲れてきた。
なれない山道でオルを背負って、全力疾走しているので、体力が持たない。
「あ、アイツら!何でこんなに速いんだよ!!」
午前中は、フヨフヨ浮いてただけなのに!
「親玉を攻撃したからかなぁ?」
オルが、考えていたが、十中八九間違いないと思う。
思うが、そんなことは、どうでもいい!だ、誰か!助けて!!
「魔王殿!」
もう死ぬ!と思っていたその時に、上空からドンの声がした!
「もう少しだけ、頑張ってくれ!」
も、もう少しって、どんだけ~!
本当に限界なんですけど!!
「『ビッグシールド』!!」
巨大な盾を後方に出現させる。今までのバチバチって音から想像できないほどの轟音を響かせていた。
…………飲まれたら、確実に死ぬ!
「はぁ…………はぁ…………。」
言われた通り、何とか頑張った。
5分くらい走ったら、広い場所に出た。そこでドンとドーラに乗せてもらって、今は濁流のような毛玉の群れを上空から見ていた。
「あ、アレ……どうするんだ?」
あのままだと、どこに行っても大きな被害を産み出す。
なんせ、壁でも落とし穴でも、止まりそうにないからなぁ。
「もう少し先で、準備をしてもらっている!あとは、進路が突然変わらんことを祈るだけだ!」
じゅ、準備?アレを止められるのか?
俺の疑問は、10分後に解消された。されたんだが、……釈然としない!
「あんなモンがあるなら、さっさと出せよ!」
どんだけ走ったと思ってんだ!!死にそうだったんだぞ!?
俺は、泣きそうになりながらも、文句を垂れていた。
知りゃそうだろう!鉄製の槍を木の板にくっつけて、それを横と縦に積んだだけ。
そんな、障害物で簡単に、毛玉の濁流は止まった。
……俺の全力疾走は……いったい……。
「仕方がない!ケマリの進行方向と設置に時間がかかるんだ!なんせ、この量だからな!」
ガハハハと豪快な笑いで誤魔化そうとしていた。
ケマリらは、ドン達が建てた障害物にぶつかり、凄い轟音と光を放ち、後ろに連鎖するように、次々と放電をしていって消えた。
一部残っているケマリも、ドン達が片付けた。
「ところで。何であんなにキレイに消せたんだ?オルが出した盾でも防ぎきれなかったのに。」
「それはな、この槍の先端に秘密があるんだ!ちょっと触ってみろ!」
ドンに言われたように、槍の先端を触ってみる。
「ちょっとだけ、ビリビリするな。……もしかして、こんだけか?」
「あぁ!たったそんだけだ!それで、ケマリを突くとついた方向に放電する!」
へぇー。そういう習性なのか。
「そんじゃ、第2ラウンド!行ってみるか!!」
「えっ…………。」
俺は、ドンに連行された。
「あ…………あ、新しい…………ご、拷問か!コレは!!…………。」
大ケマリの前に来て、火矢を放っては、さっきと同じ方向に走る。それをひたすら繰り返していくらしい。
ちなみに、これで5回目。
何で、攻撃方法を火矢にしたのかと言うと、オルを背負って走るが、辛いからだ。体力的に。
「それでも、着実にダメージを与えているし、距離も短くしている!大丈夫だ!あと数回だ!」
「…………誰か、代わってくれねぇかなぁ……。」
そんなボヤキも、ドンに担がれた時点で意味がない。
たが、大ケマリにかなりのダメージを与えられた。その結果、ケマリを産み出す早さが、かなり遅くなっている。
1分から1分半で、1体くらいになった。
「この次は、全員で一斉に攻撃する!だから、ラスト!頑張れよ!!」
「………………やってやるよ!!」
火矢を構え、手間取らせやがってと怒りを込めて、放つ!
「ブモーーー!!!」
よし!逃げるぞ!!
最後の全力疾走が、始まった。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……。」
あ、足が重い。呼吸も苦しい。
幸い、ケマリの素早さも、かなり遅くなっているため、何とか逃げ切れているが、それでも油断できない。
転けたら、間違いなく飲まれる。
「あっ!」
ハハハ…………転けた。
「や、やべぇ……体が重い。」
全身が鉛のようで、腕を動かすのも嫌になるくらいだ。
不味い。絶体絶命。マジで、死ぬ。
ど、どうすりゃいい。逃げ切るためには、どうすればいい?
なぜだか、ケマリの速さが遅く感じる。いや、木々の揺れかたも遅く感じる。だけど、今は…………。どうすれば?
そんな風に思考を巡らせていると、1つの賭けが、頭にひらめいた。
「どうせ死ぬなら、やってやるよ。『炎の鎧』。」
倒れた状態から、『炎の鎧』を発動する。
そして、全身の魔力を高められるだけ高める。
まだだ…………もう少し…………あとちょっと。
ジリジリと魔力を高める。ケマリたちは、あと5メートルの位置まで来ている。
「……………………今だ!食らいやがれ!!『エクスプロージョン』!!!」
俺の踵から、1メートル離れた位置で爆発が起きる。
先頭にいたケマリは、爆風を浴びて、放電する。
そして、爆風に流されるように、ケマリ達が放電していく。
俺も爆風の影響を受けるが、特に問題ない。
「やって…………やったぞ。」
結構、危なかった。
体の一部を起点にして爆破させることは、出来るようになった。
ただ、離れた位置を起点にする時は、かなり精度が悪くなる。発動すらしないときもある。
それが、こんなヘトヘトの状態なら、もっと悪くなる。そういう意味で賭けだった。なんとか、勝ったけどな。
「魔王様!」
「魔王殿!」
オルやドン、スパインさんらが、倒れた俺を見つけたためか、ひどく慌てている。
大丈夫だぞって知らせたいのだが、なんせ、身体中が重い。腕も上がらないし、声を出すのも億劫だ。
「おい!大至急、救護班を連れてこい!!急げ!!!」
……………………。
目を覚ましたら、布団の中だった。
上半身だけ起こしてみたが、かなり辛い。まだ、身体中が鉛のようだ。
「うっ……うーん!」
凝り固まった体を伸ばす。
皆は、何処だ?…………まぁ、いいや。二度寝しよ。
そう思い、掛け布団を着て、もう一度横になる。
「ドーラ、お前が、良いなら止めはしないが…………本当にいいのか?」
「もう!良いって言ってるじゃない!何度目だと思ってるのよ!!しつこいと嫌われちゃうんだよ!」
…………なんか、騒がしいなぁ。
「うっ!わ、分かった。これ以上は、もう何も言わん。」
会話が終わったのか、急に静かになったと思ったら、誰かが入ってくる。…………俺の様子でも見に来たのか?
まぁ、狸寝入りするけど。
「ま、ま、…………魔王様とひ、ひと、ひとつになるでござる!」
「誰だよ!」
お、思わず飛び起きた。
そして、キョトンとしているドーラと目があった。
「なんだよ、ドーラか。『ござる』って語尾だから、思わずツッコミ入れちまったよ。」
「ま、ままま、まま…………プシュー!」
「ど、ドーラ!?」
突然、頭から煙を出したドーラ。ど、どうしたんだよ。
「ドーラ?おーい?起きろー。」
ドーラの目の前で手を振ってやる。
「はっ!ま、魔王様!!今の話って……どこから聞いてた?」
うん?確か、
「ひ、ひと、ひとつになるでごさる!って所は、聞いたな。」
「な、なんだ~。全部じゃないのか!よかったよかった!!アハハハ!!!」
な、なんだか、凄いテンション高いなぁ。まぁ、低いよりは、いいけど。
「ところで、他の皆は?あと、ケマリ狩りは?」
「皆って、オルちゃんとスパインのこと?その2人は、救護班に加わって、みんなの怪我の手当てをしてるよ!」
そうか。あの2人が、借りに出ていないなら、もう終わったのかな?
「ケマリ狩りも一通り終わったから、もう少ししたら、みんな帰ってくるよ!」
「そうか。」
なんだか、結構走ったなぁ。体力がかなりついたと思っていたけど、最後の最後で倒れちまったな。
思ったよりついていないのか。…………鍛えないとな。
そんな決意をしていたら、横でドーラが、モジモジしていた。
「どうした?何か用事があるなら、行ってきていいぞ?」
「……あ、あのね!私!魔王様についていこうと思うの!!」
「あぁ、そうか。…………へぇ?」
ついてくる?え?なんで?
困惑している俺に行っていいかどうかを催促してくる。
「ねぇえ?…………もしかして…………ダメ?」
うっ!ドーラが、上目でシュンとしてくる。
「分かった。」
「えぇ!?ホント!?本当にいいの!!?」
「あぁ。ただ、戦闘になったら守りきれる自信は、無いからな?」
今の俺、めっちゃ弱いからなぁ……。
「うん!分かった!!」
やったー!やったー!って大はしゃぎしている。……本当に分かってんだろうか。
「あっ!魔王様、起きたんだ!」
オルとスパインさんが、部屋へと入ってくる。
「おう、お疲れさん。ケマリ狩りは、完全に終わったのか?」
スパインさんが、クスクス笑いながら言う。
「えぇ。魔王様が、オネンネの間にね。」
……オネンネ言うなよ。ほとんど、気絶だろ?あんなの。
「ところで、ドーラ。何かあったの?凄いはしゃいでいるけど?」
「フフーン!私、ドーラは、魔王様の奥さんになりました!!」
はぁ!!?そんなことは、一言も言っていないぞ!!
「ど、どう言うこと!?ねぇ!魔王様!!」
オルが、俺の胸ぐらをつかんで聞いてくる。
く、苦しい。
「し、知らん!ドーラ!お前は、ついてきたいって言ったじゃねぇか!?」
ドーラは、突然話を振られて、キョトンとしながら応える。
「うん?そうだよ!」
「なら、なんで俺の奥さんになるんだよ?」
「へぇ?一緒についていくんだから、奥さんじゃないの?」
うん?竜族の間では、そうなのか?
「これは、きっと勘違いね。ドーラ、ちょっとこっちに来て。」
スパインさんが、ドーラを連れて部屋を出ていく。
……その間中、オルに胸ぐらを捕まれたままだった。
「と言うわけで、解決したわよ。」
スパインさんが、ドーラとオルの勘違いをきちんと解いてくれた。
ドーラの言う奥さんは、野球で言うところのピッチャーとキャッチャーの関係だった。
竜族の間では、乗り手と竜を夫婦の関係に例えるらしい。
竜族も乗り手も男同士の場合でも、女同士の場合でも言うらしい。
オルに捕まれて少し赤くなった胸を擦りながら、ドーラに再度確認する。
「念のために言うが、戦闘になったら守りきれる自信は、無いからな?」
「うん!それでも行く!」
どうやら、決心出来ているみたいだ。
「それじゃ、魔王様。帰りますか。」
「そうだな。……予定より、長居してるけど、大丈夫か?」
すると、スパインさんとオルが、ニヤリと笑った。…………非常に嫌な予感がする。
後ろから、肩をポンと叩かれる。振り向くと、ドーラの顔があった。
「大丈夫!飛べば、直ぐだよ!」
……………………やっぱり。
魔王城に着いた俺は、真っ白だった。




