初めての竜族に挑戦!
リリンさんから頼まれ事のため、竜族の里に行く準備をしていた。なんでも、里は山奥にあるらしく、途中まで馬車で移動して、山道を歩くらしい。
「それにしても、竜かぁ。ちょっと楽しみだな。」
いかにもファンタジー世界って呼べるモノの1つだろうからな。
「お使いじゃなく、観光とかだったら、もっとゆっくり出来るんだけどな。まぁ、仕事だから仕方ない。」
ちょっと早いけど、もう寝よう。なんせ、明日の早朝にここを出るらしいからな。
俺は、ベッドへと入った。
翌朝。
まだ外が暗いうちに目が覚める。……早く寝た事が、原因でない。
原因は、俺以外にベッドに潜り込んでいる人物がいるからだ。
「スー…………ピー…………スー…………」
なんで、俺のベッドにオルがいるんだよ!
俺は昨日、何をしたかを思い出す。風呂に入って、部屋に戻ってからは、今日の準備をして…………うん。1人で寝た。確かに、1人でベッドに入った。
それなのに、何故か銀髪の少女が、俺の隣で寝ている。
「スー…………ピー…………スー…………」
気持ち良さそうに寝ている。おいおい!こんなシチュエーション、ゲームだけにしておけよ!ど、どうすりゃいいんだよ!!
本来なら、俺1人が、そーっとベッドを出ればいいのだが…………右腕をしっかりとホールドされている。
ならば起こせばいい?…………嘘か本当か分からないが、オルの寝起きは、とんでもなく危険らしい。
2代目魔王でもあり、このオルの(自称)保護者でもあるガスターは、オルを起こしたときに………………瀕死の状態まで追い込まれたらしい。
う、嘘であって欲しいが、もし本当なら、俺は、ここでサヨウナラする可能性がある。なんせ、2代目魔王が瀕死の状態だからなぁ。
つまり、俺は詰んだ。
「た、助けてー。」
小声で叫んでも、誰かが来る訳じゃない。
「うっ……うーん…………。」
「っ!!?」
「スー…………ピー…………スー…………」
は、はぁー。マジでビビった。いや本当に起きたと思った。
起きてもらう分には問題ないが、…………寝起きの状態で勝ち目があるのだろうか?…………俺に……。
トントン。
「っ!!?」
突然、扉をノックされる。おいおいオイオイ!!今は、本当に洒落にならないんですけど!!
「魔王様。もうそろそろ、出発の準備をして完了させてください。遅れてしまいます。」
し、シェリーさんだ!頼む!頼むから、静かに入ってきて!
「失礼します。」
扉を開けて、普通に入ってきた。
いやー、助かったよ。そして、現状を理解していないシェリーさんは、俺と横に寝ているオルを見て、一言。
「昨夜は、お楽しみでしたか?」
「違う!!」
何でそうなる!?
そして、俺は、はっと気づく。今まで静かにしていたのは……何のためだったのかを。
「う~ん。うるさい。眠い。」
バキッ。…………あっ、右腕に激痛がはしった。
「いっっっってぇええええ!!!」
おかげで、もう一度寝そうになった。
「ごめんなさい。」
「いや、もういいよ。回復魔法もかけてもらったし。」
今、スパインさんと俺とオルの3人で馬車に乗っている。
何で俺のベッドに寝ていたのかをシェリーさんから聞いた。ってか、知っていたなら、何であんな反応するだろうな?母親の影響か?
何でも、オルが、俺についていきたいと言い出したらしい。それを自称保護者であるガスターが止めた結果、家出をするように俺の部屋へと来たということだ。
ちなみにだが、ガスター達の部屋も魔王城に用意されている。そんでもって、ガスターは、その部屋でゴロゴロしているんだとか。ニートか。
「パパなんか知らない!」っと本人は、言っている。……何で俺のところに来たのかは、全く教えてくれない。
そんでもって、俺が仕事だからダメと言ったのだが、意外なことにシェリーさんがオーケーした。
「保険としては、十分でしょう。」
と言っていたが、誰の何に対する保険なんだろうか?オルの壁役になれと言うことか?
まぁ、詳しく教えてくれなかったのでその辺は、分からないが、竜族の里までオルを含めて3人で行くことになった。
馬車に揺られること6時間。
「ここから、山道を歩いていきます。」
馬車から降りて、体を伸ばす。その度にポキポキと関節が鳴る。馬車の中は、窮屈でないにしろ、同じような体勢で座っていたので、身体中が凝り固まっている。
「や、やっとついた~。」
オルは、馬車に長時間揺らされて、ダウン寸前だった。乗り物酔いって感じでなく、退屈で仕方がないって感じで、ダレテいただけなんだけどな。
「ここから、4時間ほど歩きます。」
うへぇーと約1名が、不満げに声をあげる。
「まぁ、ハイキングだと思って、頑張れ。」
「オンブして!」
…………はい?
「いやいや、ちょっとは、頑張ろうな?」
「いや!オ・ン・ブ!!」
……これが、だだっ子モードか。
こっちに来たとき、シェリーさんにオルの事を少しだけ教えてもらった。
何でも、ガスターは、オルのご機嫌取りに励んでいたようで…………要は、甘やかされて育ったわけだ。
その結果、このだだっ子モードが発動すると、自分の意見を通すまで、騒ぎ立てるらしい。
「分かった分かった。1時間だけ歩こう。そのあとは、オンブしてやるから。な?」
ちょっとでも歩かせるため、条件を提示する。
「うー!……約束だよ!!」
渋々ながら承諾するオル。本当に何でついてきたんだか。
「魔王様、あれが、竜族の里です。」
ゼェーハァー……ゼェーハァー……。も、もう死にそう。
「頑張ってー魔王様!」
背中から声援が来る。……応援するくらいなら、歩いて頂けませんかね?
結局、30分くらいで、またもやだだっ子モードになり、3時間半もオルをオンブした。おかげで、脚が棒のようだ。
「あ、そうそう。里に入るときは、気を付けてくださいね。襲ってきますから。」
ま、マジですか。今の俺なら十分な抵抗すら出来ずに喰われるんじゃねぇの?
「とにかく、行こうー!」
………………背中に小さい悪魔がいるよ。
里の入り口まで来たものの、襲われるどころか、竜っぽい生物すら見当たらない。
「な、なんだぁ。大丈夫じゃないですか。」
スパインさんが、俺を脅かそうとしたデマか。そう思って油断していた。
「魔王様!」
スパインさんの声が聞こえたのとほぼ同時に左脇腹に衝撃が来る。
「ぐふぅっ!」
衝撃に耐えきれず、オルを背負った状態で民家に突っ込む。咄嗟に体を捻ったため、オルには怪我がないようだ。
「大丈夫!?」
オルから声が、かけられる。
「あぁ、なんとかな。」
……右肩に違和感があるだけ、とは言えなかった。
「オル、悪いが降りてくれないか?」
オンブしている状態だと、両腕が使えない。そのため、降りるように声をかけたのだが……
「許さない……魔王様に怪我させた…………許さない!」
「お、オル?」
突然、オルがブツクサ言い出した。ちょ、ちょっと怖い。
「魔王様!大丈夫!?」
スパインさんが、敵を警戒しながらこっちに来る。
「大丈夫です!それより、敵は!?」
「あー…………。敵……じゃないのよ。」
うん?でも、吹っ飛ばされたけど。
「竜族の子供なのよ。」
「分かった!よそ者は、出て行け的な。」
「いやー、違うかな?どっちかって言うと、歓迎されてる方。」
た、タックルが歓迎の意を表すのか!?
「『バインドチェーン』!」
突然、地面から光沢を放つ、銀色の鎖が表れ、1匹の生物を捕らえる。っと言うより、クサリさんの特技じゃねぇか!?それ!!
「あー、魔王様は、知らないんっだっけ?オルちゃんの事。」
俺が驚いている横で、スパインさんがオルについて話す。
「オルちゃんはね、魔王七つ道具を全部出現させることができるの。」
「ぜ、全部!?」
「ただ、オルちゃんの体内魔力は、かなり低いから使うことが出来ないんだけど……魔王様の魔力を吸いとったみたいね。」
す、吸われてたのか。未だに魔力値ゼロだが、魔法使いたい放題だから、吸われていることが分からなかった。
「『ギルティブレード』!」
オルはというと、何もないところから太刀を出現させ、捕らえた竜を切り殺そうとしていた。
「オル!」
無意識で『炎の鎧』を発動し、オルの前に壁のように立ちはだかる。だが、気づいていないためか、オルの身長の2倍ほどの大きさの刃が、俺をめがけて降り下ろされる。
「っ!!」
俺は、恐怖で目をつぶった。しかし、斬られることはなかった。
恐る恐る目を開けると、俺の顔から50センチくらい離れたところで刃が、止まっていた。
「ふうぅー。全く、無茶するねぇ。」
スパインさんが、何かを引っ張っている格好で、呆れてる。
「オルちゃん!!」
「はっ!!私、何を……。」
スパインさんの呼び掛けで、正気に戻るオル。いや、ホント、死ぬかと思った。気が抜けたせいか、腰が抜けちまった。
俺が、地面に腰を落とすのと同時に、俺の後ろでボフッと音がする。
「怖かったよー!!」
プニョン。
背中に特別柔らかいものがあたる。…………これは、もしかして……ラッキースケベ?
「うぇーん!」
泣きながら、俺の背中に抱き付いてくるプニョン。だ、ダメだって!そんな!お、女慣れしていない男に、この刺激は!!
「殺す!フー!殺すー!!」
……オルがジタバタしていた。スパインさんが止めていなかったら、俺、死んでたな。
「うー。ごめんなさい。ドーラは、お客さんが来て、嬉しくなっちゃっただけなの。ごめんなさい。」
プニョンもとい、竜族のドーラは、俺ら3人に対して、ヘッドバンキングのごとく、頭を上げ下げしていた。……頭の上げ下げにつられて、特大のスイカが揺れていた。って、ダメだって!
「魔王様、感想をどうぞ!」
「背中が天国だった。って!何言わせるんだよ!」
スパインさんの悪ふざけに感想を述べちまったよ。
「ムッ!」
ゲシ!
オルに脛を蹴られる。い、いたいんですけど、オルさん。
「あ!そうだ!」
そう言って、ドーラは、包み紙を渡してくる。何だこれ?
「魔王様、それね、ここの特産なのよ。甘くて美味しいのよ。」
へぇー、竜族の里の特産品かぁ。そう思いながら、包み紙を開ける。中には、飴玉のようなものが、入っていた。
「どれどれ。」
1個まるごと、口の中に入れる。
パチパチと炭酸ジュースでも飲んでいるかの刺激と甘味が、口の中に広がる。広がったと思ったら、もう、口の中には何もなかった。
「溶けるの、はや!」
「それ、溶けてるんじゃなくて、気化するんですよ。」
ドーラが、特産品について語る。
「始めにシュワ!と来て、その時に気化するんですけど、その刺激と勢いで砂糖の甘さが口の中に広がって!そう!例えるなら、甘味の爆弾です!そんでもって、空気を食べている様なものなので、何個でも!気づいたら、100個を越えていたなんて事もあるんですよ!!」
うん、分かった分かった。相当、自慢したかったのか、両手をブンブン振り回して、大きなジェスチャーをとる。
「それにしても、あなた1人だけですか?他の竜の方は?」
「あー……他の皆は、裏山に行っています。ここに居るのは、女性や子供だけです。」
男総出で裏山に行くなんて、何かあったのだろうか?
「魔王様、お使いは?」
オルが、服の端を引っ張りながら、本来の目的を告げる。
「そうね。ドーラ、これとこれね。長老に渡しといてちょうだい。」
「はーい。こっちは、リリンさんの漬け物ですね!あっ!こっちは、竜刀じゃないですか!?長老が、まーた貸してたんですね!」
中身を確認するドーラ。……この娘の性格から、包丁を持たせるとブンブン振り回しそうに感じるのは、俺だけだろうか?
「とりあえず、お使いは終了ね。それじゃ、詳しい話を聞かせてくれる?」
「うん!立ち話も何だから、家に行こう!」
そう言って、先頭を歩き出すドーラ。
俺はこのあと、クサリさんの竜に気をつけての意味を勘違いしていたことを知ることになる。
巨乳キャラ登場です!
…………そんだけです。次回もお楽しみに!




