初めての先輩に挑戦!
「はい、これ!やり直し!!」
「は、はい!」
俺は、魔界の魔王城で紙の印刷をしまくっていた……。
「いや!なんでだよ!これが、秘書の仕事か!?パシりの間違いだろ!?」
魔界に来てからもうすぐ、1ヶ月経とうとしていた。それなのに、印刷の仕事ばかりだ。まぁ、他にもやることはあるけど。
「印刷は、下っぱ君の仕事だから、頑張って。」
「…………はーい。」
先輩秘書であり、シェリーさんを隊長とするメイド隊第4班の副隊長でもあるスパインさんに肩を叩かれながら励まされる。
ちなみに、スパインさんは、ベアータさんと同じくアラクネ族で、脚が6本ある。
「下っぱの気持ちが分からない上司ほど、嫌なものはないからね。」
俺は、まだ社会人経験がないからよく分からないが、少なくともスパインさんは、そう思うらしい。
「はい!ほんじゃ、これもついでにヨロシク!」
印刷機の上にドサッと紙の束が、置かれる。
……アッレー?おかしいなぁー。仕事が増えたぞぉー。…………はぁー。
俺は、溜め息をつきながらも、印刷用の魔道具を自分の魔力で動かし続けるのであった。
それにしても、日本にあるモノを、全く同じゃないが、結構見る。
例えば、今俺が動かしている印刷機。
最新式の自動で指定した枚数分をコピー出来る訳じゃないけど、それでも、結構便利だ。まぁ、印刷中は、動けないのと体内魔力をガリガリ消費していくから、普通なら交代しながら印刷をするらしいが。
例えば、街中の街灯。
電気やガスではないが、大通りでは、かなりの数が設置されており、それこそ、車が走っていれば日本の道路と大差ない。自動車みたいなものを1台だけ作ったらしいが、印刷機同様、走っている分だけ体内魔力を消費していくらしいので、街中には1台もない。
作られた1台は、魔王城の展示室に眠っているとの事。
シェリーさんに聞いたのだが、この魔界にあるモノは、ほとんどを初代魔王が考案、あるいは、作成したらしい。自動車もその1つだとか。
……初代魔王は、日本人だったのか?そんな疑問が浮上するが、それは分からないらしい。
シェリーさんの母親で初代魔王の奥さんでもあるリリンさんも、どこ出身のどんな種族か、知らないらしい。
「まぁ、考えても答えは、でねぇか。」
……そして、印刷は、まだまだ続く。あと何枚あるんだよ、ちくしょー。
印刷が終わり、スパインさんにオーケーをもらったら、もう昼を過ぎていた。
「お昼まだでしょ?行ってきていいわよ。」
「そんじゃ、行ってきます。」
スパインさんらに行ってらっしゃいと見送られ、いつもの定食屋さんに向かう。
「こんちわーす。日替わり定食、ご飯大盛りで。」
「おう!今日は、遅かったね!」
ここの定食屋は、魔王城から徒歩5分くらいのところにある。
ちなみに、秘書としての仕事場は、魔王城の1階部分にある。
この定食屋さんだが、下町にあるような、なんというか、懐かしい?まぁ、濃い味付けの料理に白いご飯という、俺としては、最強のタッグなんだが、……とにかく、うまいんだよ!
「はい、お待ちどうさん。仕事頑張ってね!」
ここの従業員のおばちゃんが、定食を運んできた。
「ありがとう。いただきまーす!」
今日は、鯖味噌定食だ。割り箸を割り、鯖味噌を一口食べて、ご飯を掻き込む。…………最高……。いや、もう何も言えねぇ。
俺は、ひたすらモリモリ食べた。
「ご馳走さまでした!いや、いつもうまいね!」
「おう!ありがとよ!」
鯖味噌定食の代金450ゴールドを払い、仕事場へと戻る。
「ただいま戻りました。」
「お帰り。今日は、鯖味噌?」
な、何で分かったんだろ?
「顎に味噌ついてるわよ。」
そう言われて顎の辺りを触ると少しだけ濡れていた。
「ほら、これ使いなよ。」
スパインさんにティッシュをもらい、ソレでふく。こんなとこに口は、ないんだけどな。見事にティッシュが、茶色くなった。
「ありがとうございます。」
「いいわよ、ティッシュくらい。それより、次の仕事よ。ちょっと、ついて来て。」
言われて、スパインさんの後ろをついていく。2階3階と上がり、東側の奥の部屋……リリンさんの書斎まで来た。
スパインさんが、扉をノックする。
「代表、連れてきました。」
「入ってちょうだい。」
「失礼します。」
扉を開いて、中へと入る。……今日は、何もないんだな。
「な~に。何か期待してた~?」
「何も期待してねぇから!」
リリンさんは、ニタニタ笑いながら問いかけてくる。……いや、本当に何も期待してねぇからな!
「程々にしないと、逃げ出しちゃいますよ。」
スパインさんが、苦笑しながら注意してくれた。ホント、優しい方だな。同じアラクネ族であるベアータさんには、ぜひ、見習ってもらいたい。
「大丈夫よ。鬼ごっこだと思って、全力で逃げ惑ってもらうだけだから。」
こ、怖いことをさらりと言うなぁ。……逃げちゃダメ、絶対。
「まぁ、いいわ。それより、これとこれを届けて欲しいんだけど、頼めるかしら?」
そう言いながら、リリンさんは机の上に2つの物を置く。
1つは、赤色の壺で、もう1つは、木枠でなんか、包丁とか入ってそうな箱だ。
「分かりました。竜族の里でしょうか?」
エエそうよと、スパインさんの質問に肯定するリリンさん。……何が入ってるんだろうか?
「中が気になる?」
「はい、めっちゃ。」
リリンさんの事だから、イタズラが満載なナニかって感じがするんだよなぁ。
そんな疑いの目で2つの物体を見ていると何故かスパインさんが、答えてくれた。
「壺の方は、漬け物で、木枠の方は、以前借りた『竜刀』って包丁よ。」
つ、漬け物と包丁……。なんで、包丁を借りたんだ?
「その包丁何だけど、結構切れ味が凄くてね。どんなに硬いものでもスパスパいけるのよ。」
へぇー…………なんで、包丁を借りたんだ?って答えになってないよな。
「試供品として渡されたんだけど、要らないから返すってことよ。頼んだわよ。」
そう言われ、届け物を持って書斎を出ていく。
「そう言えば、クサリさんが竜に気を付けるよう言っていたけど、どんな感じなんですか?」
う~んと悩みだすスパインさん。…………なんか、行きたくないなぁ。
「まぁ、会えばわかるわよ。」
そ、そうですねー。
「あ、そうそう。ここから竜族の里まで往復で3日かかるから、明日の朝までに準備しておいてね。」
はーい。と返事をして、与えられている仕事に戻った。
……ちなみに、世論調査の集計だ。パソコンが欲しい!
魔界修行編といったところでしょうか?
当分の間、魔界での話を書いていきます。
お楽しみに!




