初めての魔界に挑戦!
本編です。
あと、1本投稿します。
国王からの力試しから、約1ヶ月。相変わらずの人材不足で、魔王領は、てんやわんやしていた。……俺は、ボンヤリしていたけどな。
そんな中、魔王城の書斎で魔法関連の本を読んでいたときだった。
「魔王様。シェリーから、連絡が来ました。」
クサリさんが、1枚の紙をもって書斎に来る。
「なんだって?」
「はい。向こうの準備が出来たそうなので、魔界へ来るようにとのことです。」
あれ、迎えに来るみたいなこと言っていなかったか?まぁ、いいか。
「魔界へって、馬車か何かあるのか?」
「いいえ。飛びます。」
へぇー。魔界へは、飛んでいくのかぁ…………。
「飛ぶ!?」
「はい。魔界への門をくぐって、ビュンと。」
「へ、へぇー。……なんか、ファンタジーだな。」
「はい、ファンタジーなので。」
よ、良かった。ここで、飛竜に乗りますみたいなこと言われたら、……俺、行く気を無くすところだったぞ。
つ、ついでに聞いておこう。
「クサリさん、竜とかっているのか?」
「はい、存在しています。数は、かなり少ないですが。」
いるのか。いや、竜は問題じゃないんだ。問題なのは、……高いところが苦手なんだよ…………俺。
「あぁ、そうでした。魔王様。向こうで竜と遭遇した場合は、気をつけて下さい。」
「な、なんで?」
狂暴だからか?
「いえ、理由は…………知らない方がいいです。」
狂暴だからではないことは、分かった。……そうとう、危険なんだろうな。
「まぁ、肝に命じとくよ。それで?門は、どこにあるんだ?」
するとクサリさんは、この部屋に備わっている暖炉を指差す。
「アレでございます。」
「いや、アレ……暖炉だろ?」
「はい。暖炉です。」
……もう一度、聞いてみる。
「門は?」
「ですから、アレです。」
さっきと全く同じ方向を指差す。
「暖炉だよね?」
「はい、暖炉です。」
「もしかして、暖炉……兼…………門……なのか?」
「そうでございます。暖炉をくぐって頂ければ、魔界側の魔王城に移動できます。」
「……ここは、○グルの世界か。」
まぁ、柱に突っ込むより、マシだな。
「くぐるだけでいいのか?」
俺の問にクサリさんは、首を横に降る。
「薪を組んで、火をつけた上で、くぐります。」
……火に突っ込むのか。
「わ、分かった。それじゃ、早速準備してくれるか?」
「はい。」
クサリさんは、薪を取りに裏山へと向かった。
俺はというと、
「……どっからどう見ても、……暖炉だな。」
暖炉を眺めていた。アレに火をつけて、その中に突っ込むのか。
……いや、自分で自分に火をつけるのは、大丈夫なんだよ。最初は怖かったが、今は問題ない。
ただ、……突っ込むのか。
「ただいま戻りました。」
3分足らずで戻ってきたクサリさん。手には、小さい枝のようなものを4、5本持っているだけだった。
「そんだけで足りるのか?」
「はい、十分です。ただ、少しだけ魔力を込める必要があるため、少々遅くなりました。」
いやいや、全然早い。
「早速、準備します。」
クサリさんは、暖炉の前で枝を円錐形に組んでいく。そして、組んだ天辺に、魔法で火を灯す。焼き芋が、かろうじて出来そうなくらいの小さな焚き火が、暖炉に完成する。
特におかしい色をしているわけではない。普通に赤っぽい、オレンジかな?炎をあげている。
「準備できました。あとは、くぐるだけです、魔王様。」
速いなぁ。あと、手軽だな、魔界へ行くのって。
「それじゃ、魔界にいっている間、こっちの事は、任せる!」
そう言い残して俺は、暖炉へと突っ込んでいった。
暖炉をくぐった先は、赤い絨毯が敷かれた部屋だった。それ以外に、結構大きい木製の机と革製のソファーみたいな椅子が置かれているだけだ。
振り替えると、そこにあったのは暖炉でなく、立派な門だった。ただ、……。
「これって……壁……だよな?」
門が壁に埋まっている状態だった。……いや、おかしい事を言っているのは、分かっている。何て言うか、壁から門が飛び出てる?浮き出ている?ってな感じだ。
「はい。これが、人間界の魔王城とここ、魔界の魔王城とを繋ぐ門でございます。」
へぇー。……なんで向こうは、暖炉も兼ねてるんだよ。ちょっと怖かったからな。…………うん?
「お久しぶりです、3代目魔王様。」
声がする方を向くとシェリーさんがいた。
「あぁ、お久しぶりです。」
……全く、気配を感じなかった。
「メイド隊って皆、気配を消せるの?」
クサリさんの部隊は、全員できる。ただ、意識しないと出来ない人もいる。……無意識の人が、一番困るけど。
「そうですね……隊長は、全員できたと思います。隊員も得意不得意の差はありますが、全員できたと思いますよ。」
……へぇー。ってことは、俺が一番気配を隠せないのか……。
「まぁ、あえて気配を消さない人もいましたが。」
「……消せるんだよな?」
「少なくとも、私は見たことないです。」
消せない言い訳じゃないの?と思う俺だった。
シェリーさんに魔王城の案内をしてもらった。正直、驚いた。
部屋の数は、20を越えていて、どの部屋もかなりの広さがある。風呂場も、床が畳張りになっていた。
……ここは、日本か?と思ったが、そんな感想も吹き飛んでしまうほどだった。うん、城。魔王城だと思った。……外観は、見ていないけど。
様々な部屋を案内してくれたシェリーさんが、扉の前で立ち止まる。
「これから約1年間、魔王様には、こちらの部屋で過ごしていただきます。」
そう言って、シェリーさんは、扉を開く。
俺の部屋は、結構広かった。1LDKにクローゼットとかが備わっている。リビングにあたる部屋は、15畳くらいある。
「さ、さすが、魔王って感じだな。」
内装しか見てねぇけど。
「人間界の魔王城もここまでとは言わないけど、……もう少し……なぁ……。」
「仕方がありません。初代魔王様の言いつけで、あまり大きなものを建てないようにとの事ですから。それに、大きいと大きいなりに不便ですからね。」
まぁ、掃除する人にとっては、小さい方が楽だよな。
「お風呂は、先程のお風呂場でお願いします。また、洗濯物などもお風呂場で。」
……なぜだろうか?風呂について、細々と言われている気がする。
……臭うのか、俺?自分の腕などを嗅いでみるが、特に臭いと思わない。
「どうされました?」
「いや、俺って臭う?」
自分では気づかないだけかもしれない。だが、シェリーさんは、臭いませんよ。と言ったのでとりあえず、一安心する。
「それでは魔王様。魔界の代表に挨拶をお願いします。」
俺の部屋から、1つ階を上がって、東側の一番奥にある部屋を目指して歩く。
「魔界の代表って言うと……シェリーさんのお母さん?」
「そうです。そして、初代魔王様の奥方様です。」
……やっばい!めっちゃ緊張してきた!
シェリーさんは、俺に構うことなく先を歩く。ヤバイヤバイ!!な、なんて挨拶すればいいんだ!?は、ハロー?とかか!?だ、大丈夫だよな!?
緊張でガチガチになっている俺を見て、隣でクスクス笑うシェリーさん。いや、笑い事じゃないから!!
「この部屋が、代表の書斎になります。普段は、この部屋か3階の居間におられます。」
だ、ダメだ!めっちゃ、帰りたい!!
「心の準備が出来次第、扉の中へどうぞ。」
「当分、出来そうにないので……帰っていいですか?」
シェリーさんは、満面の笑みで
「ダメです。」
俺に釘を指した。ですよねー。
諦めて、気を引き締めて、ノックする。
「はーい。開いてるわよー。」
明るい声で入室許可が帰ってくる。
勢いよくドアを開くと……目に強烈な痛みが走った!
「め、目がぁぁぁあああ!!!うをぉぉぉおおお!!!!」
痛い!洒落にならないくらい痛い!!
「代表、初対面の相手にイタズラはお控えください。」
「もう、シェリー。何度言えば気が済むの?お母さんとか母上とか、言ってみなさいよ。なんなら、ママでもいいわよ。」
うをぉぉぉおおお!!激痛のせいでうずくまっている俺を、放置して、話をする2人。ほ、放置ですか!?
「だいたい、あなたもソレを盾に使ってたでしょ?」
初対面でソレ呼ばわりかよ!と心の中でしか突っ込めなかった。
くそ!全然見えねぇ!!
「お、おい!いきなり何すんだよ!!」
「そこは、壁よ。」
…………。こ、こっちか?俺は、右を向く。
「ふざけるなよ!こっちは、緊張してたんだからな!」
「私に申されましても、やったのは、真後ろの代表ですから。」
…………。回れーー右!心の中で号令をかけて、体を180度回転させる。
「めちゃめちゃ痛かったんだからな!」
「プ、……ご、ごめんね…………プフフ!」
笑いながら謝ってきたよ。イラッとするな!
俺の回復(主に視力)を待ってから、ちゃんと挨拶をする。
「ごめんなさいね。いやーいいストレス発散になったわ。」
「頼むから、程々にしてください。」
シェリーさんが言うには、ドッキリとかサプライズなるものが、シェリーさんの母親、リリンさんのストレス解消法兼趣味なんだとか。……迷惑にも程がある。
「えーと。確か、私から政治について学びたいって話よね?」
「は、はい!今は、クサリさんや他の人に代行してもらっていますが、いずれは、きちんとした「あぁ、いい。そういうの要らないから」って、……はい。」
け、結構考えたんだけどな。不完全燃焼気味の俺を無視して、真顔になるリリンさん。
「あのね。国の運営が、1人で出来るわけがないの。もちろん、全く出来ない訳じゃないわ。現に出来ていた人物もいる。けれど、長年続いた国は、1人でなく、皆で政治をしていたわよ。まずは、そこを理解しなさい。」
まるで、母親のように厳しくも優しく、最初の指導を受けた。
「それじゃ、私の秘書として動いてもらうわよ。明日からよろしくね。」
……あれ?パシられる?
「いや、戦いの特訓もするって…………。」
「そっちも大丈夫よ。24時間戦い続けられるでしょ。」
…………それの何が大丈夫か、説明をしてほしい。栄養ドリンクでも飲めっていうのか?




