初めての……
ど、どうしてこうなった?
目が覚めるとベットの上だった。……正直、そこは、あまり問題じゃない。今は、この部屋の様子だ。
大部屋に俺を含めて、8人いる。
「あんたね!あたしだって、あたしだって……。」
俺が寝ているベッドの脇で、カルラは、銀髪の肩にかからない程度の髪形の娘と何かを話していたようだ。
「嫌!オルは、絶対になるの!」
銀髪の娘は、オルって言うらしい。見た目からカルラと同じくらいの年かな?
その娘とカルラが、何かになりたいらしく、それで言い争っているらしい。
そもそも、オルって誰だよ。いや、この娘だけじゃない。見知らぬ顔が、あと2ついる。
「まったく、くさりは頭が固いんじゃないの。」
部屋の隅の方で、見知らぬメイドさんが、クサリさんに説教をしている。
「貴方の胸よりは、柔らかいと思いますが?」
「なんですって!」
訂正。説教じゃなくて舌戦だった。
クサリさんと全く見覚えのない、ついでに胸もないメイドさんが、言い争っている。
「それにしても、あんた。何していたのよ?」
この部屋に唯一のテーブルで聖女が、知らない男性と話している。
「あぁ?……魔界の平定に……ちょっと。」
「嘘だね。」
「おいこら!タヌキ!すぐさま、嘘つき呼ばわりすんじゃねぇよ!」
「なら、本当に魔界の平定をしていたのかい?」
「ひゅーふゅーふー。」
…………聖女と国王と口笛の吹けない男が、なんだか、談笑しているし。
誰でもいいから、状況を説明してくれないだろうか?
「俺は、2代目魔王のガスター・デモンだ。」
背丈は、俺と同じくらい。銀髪のセミロングの男が、自己紹介する。ちょっと、偉そうだな。イラッとくる。
「私は、シェリーです。シェリー・サタンです。」
クサリさんと同じメイド服を着ている。胸は……言わないでおこう。
「オルです!」
印象は、カルラの銀髪バージョンってところかな?元気が有り余っている感じだ。
うん?2代目?空耳じゃないよな?
「今、……2代目って……。」
クサリさんが、淡々と告げる。
「先代の魔王様です。」
「はぁ………………あぁあ!?」
え!?2代目ピンピンしてんじゃん!!
「な、なんで!?死んだから、俺が呼ばれたんじゃないの!?」
「勝手に殺すな、アホ。」
っちょっと待てよ。この事実に驚いているのは、……俺だけか?
国王は、……知っている感じだな。聖女も同じく。
クサリさんは、もちろん知っているはずだし、…………。
「ってか!クサリさん!なんで教えてくれなかったの!?」
すると、クサリさんは、2代目魔王を睨み付けて、
「これを2代目魔王と認めたくないからです!」
語気を強めて言った。
「初代魔王様のお力で、大陸のほとんどを魔王領にしたものを…………魔王城でグータラぐーたら…………全く働きもしないで、1日中ゴロゴロしてばかり、…………。」
……怒りと愚痴がにじみ出ていた。というより、愚痴になっていた。
「うるせぇ!その分、今頑張ってんだろうが!」
ガスターの反抗的な態度が、クサリさんの愚痴に火をつけた。
「どの口がおっしゃってるんですか!?いいですか!事前から頑張っていたのでしたら、こんな、まわりくどい事をせずともすんだかもしれません。それを貴方は、惰眠を貪るだけで、…………」
……あと、1時間くらい続きそうだな。
クサリさんとガスターを放置して、残りのメンバーと俺は、現状の確認をすることに。
「魔王君は、どこまで記憶があるんだい?」
国王の問いかけに記憶を遡る。
あーと、確か、
「魔法を使う機械兵と戦っていた時くらいか?はっきりしているのは、そこだな。」
俺の発言に、各々が驚いている。……何かあったのか?
「そこまで遡るのか……。思ったより、何ていうか、うん。」
いや、「うん。」じゃねぇだろ。
「何でもいいが、あの機械兵は、倒したのか?」
「いや。逃げられた。」
はぁ?逃げられた?この面子でか?
そっちの方が、衝撃的だけどな。
「……で、その後、どうなったんだよ?」
「機械兵を逃がした後、僕らは、地下10階を目指して降りた。」
その後も、国王から、地下の様子や俺のことを聞いた。……正直、信じられなかった。
機械兵のパーツとして、大量の死体が使われていたこと。
俺が、とんでもない魔法で、国王や聖女を追い詰めたこと。
……俺が、……クサリさんやカルラを……殺そうとしたこと。
「それで、間一髪、僕らを助けてくれたのが、彼らだ。」
国王が、俺を止めた人物を指す。
「いいですか?日頃からコツコツやっておけば、後々、大変な目に会わずに済むのですよ!それを貴方は、……」
……まだ、説教が続いていた。
説教を受けている方が、俺を……俺達を助けてくれた事が、一番信じられない。
「まぁ、2代目魔王として過ごしていた時は、本当にろくでなしだったものですから。はぁー。」
シェリーとかいうメイドさんも菜にか思う所があるのか、溜め息をついている。
「シェリーさんも魔王メイド隊の1人なんですか?」
「えぇ。魔王メイド隊第3部隊の体長よ。私の部隊の隊員は、魔界にある私の家にいるわ。」
「マカイ?」
何それって顔で見ていたら、補足説明をしてくれた。
「この世界には、魔界と人間界、神界の3つで構成されているの。あなたは、異世界から召喚されたから、よく分からないかもしれないけれど。」
うーん。魔界は、日本でもファンタジーもののゲームや小説を読んでいれば、なんとなく分かるけど。神界の方は、天国とか天界みたいに考えればいいのかな?
「まぁ、似たようなものね。私やクサリは、魔界の出身なの。初代魔王様の部下として、この人間界に進出してきたのよ。」
へぇーと感嘆の声を上げる俺。
周りは、なんとなく知っているのか、余り驚いていない。
「あんた。なかなかやるわね。」
「ふん!オルは、高スペックなのですよ!!」
……一部は、聞いてすらいないけどな。ってか、まだ言い争っていたのか?
「それで、シェリーさんも魔王七つ道具を?」
「えぇ。私は、盾よ。」
盾ですか。……そういえば、魔王七つ道具って他に何があるんだっけ?
「これからどうするのよ?」
一通りの話が済んだところで、聖女が今後について切り出した。
「どうするって言われてもなぁ。……どうするんだ?」
俺もピンと来ていないため国王にパスする。
「2代目魔王君の話が本当ならば、神界と全面戦争になりえる。」
…………え……。
「おい。何の話だ?全面戦争って。」
あぁ、ごめんと軽く謝りながら、国王が説明する。
「神界と人間界が、全力で戦争をするらしいんだ。」
……軽いな!おい!!
「な、なんでまた?」
国王が頭をかきながら、俺を指さす。
「魔王君。君が原因らしい。」
「はぁ?俺が?」
全く、何の事か分からなくなってきた。俺って何かしたか?……いや、それ以前に神界の存在すら今知ったばかりだけど。
「詳しくは、知らない。それと、全面戦争と言っても、まだ先の事らしい。」
「先って……どれくらいだよ。」
結構重要だ。……正直、激戦続きでヘトヘトだから、休みたい。
「1年くらい先らしい。」
な、なんだ……。1年もあるのか。安心した。十分休養できる。
「もうすぐじゃないの!?」
へぇ?そんなに早いか?
俺が、キョトンとしていると聖女が俺を睨み付ける。
「あんたね、他人事じゃないのよ。あんたの所が、一番ピンチなのよ。分かってる?」
「はぁ?ピンチって、なんで?」
はぁーと全員から溜め息が出る。
「魔王君。君のところで自分の領土を守れる人材は、どれだけいるんだい?」
そう言われて、計算する。
「メイド隊とクサリさんと俺で……17人…………。」
「それって、戦える人数よね?政治は、どうするのよ?」
はっ!そ、そうだ、国を運営するわけだから……。
「日本に帰りてぇーー。」
今から、1年で何とかしろと?…………どうやってだよ。
「戦力は、心配ないわよ。」
俺が悩んでいたら、シェリーが言う。
「魔界の兵士をこっちに呼べばいいのだから。」
「…………マジ?」
「マジよ。ただ、政治はどうにもならないわよ。魔界の政治は、お母様が担っているから。」
うん?お母様?そんなに凄い人なのか?
「彼女の母親は、初代魔王様の奥方様です。」
愚痴もとい、説教が終わったのか、クサリさんが話に加わる。
ガスターは、……ボロ雑巾のようにぐったりしていた。
「って!初代魔王の奥さん!?なら、父親は!?」
「はい。初代魔王様です。」
いやいやイヤイヤ!なら、2代目魔王もシェリーさんがやるべきでしょ!なんなら、今からでも俺と交代でしょ!!
「残念ですけど、魔王になる気は、まったくありませんよ。」
「ど、どうして?」
「大変そうですからね。それに、メイドとして、陰から誰かを支えるのも悪くないと思いますので。」
………………いや、マジで大変だからね?
でも、人を支えるのもいいって言う彼女には、好感持てるなぁ。
「政治の面は、シェリー。貴方のお母様に指導を願えば宜しいのでは?」
クサリさんの提案に首をかしげるシェリーさん。
「うーん。聞いてみなければ、分からないわね。ちょっと聞いてくるわ。」
そう言って、シェリーさんは、通信用の魔道具を借りにフロントへと向かった。
「政治の指導を受ける受けないに関わらず、兵士調達のために魔界へ行かなければなりませんね。」
その一言に、ボロ雑巾と化していたガスターが、話に加わる。
「まぁどうせ、このアホには、魔界に来てもらうがな。」
「まぁ、兵士の調達も必要だし、政治の方もなんとかしたいしな。」
「いや、そういう意味じゃねぇよ、アホ。」
……さっきから、なんで俺をアホ呼ばわりしてんだ、こいつは。
「お前は、全然弱いんだよ。だから、魔界で鍛える。」
え?……マジで?
俺が硬直している間にも、ガスターが続ける。
「弱いから、回りを危険な目に会わせたんだよ、お前は。」
「ガスター!」
突然、国王が怒鳴る。ビックリした……。突然だったのもあるけど、あんな国王が怒鳴るなんてな。
「その話は、さっき伝えた。……だから、もういい。」
ガスターに対して、これ以上言うなよと釘を刺しながら、椅子に座る国王。……まだ、俺が知らない何かが、あるんだろうか?
「チッ。分かったよ、言わねえよ。……これだから、あまちゃんは。とにかく、このアホには、今以上に強くなってもらう必要がある。だから、魔界で鍛える。以上だ。」
俺が、特訓することは、揺るがないらしい。
「どのくらいの期間を費やすのですか?」
クサリさんがガスターに質問する。
「ギリギリまでだ。……おっと、クサリ。お前は、付いてくるなよ。」
「な、……なぜですか?」
頭をかきながら、呆れたように質問に答える。
「……こっちの領土は、誰が面倒見る気だ?」
「そ、それは、私のメイド部隊が……。」
物理的に不可能だとクサリさんも分かっているんだろう。
メイド隊は、15人。それに対して領土は、79箇所。しかも、領土にも大小があるから、1人でどうにかなる領土と、そうでない領土がある。
「クサリさん。」
「……はい。」
クサリさんの顔をしっかりと見る。
「クサリさんは、魔王領をお願いします。」
「で、ですが!」
「大丈夫です!ちゃんとパワーアップしてきますから!」
この1ヶ月間、なにかと一緒に行動したパートナーみたいな存在だから、心配なのも分かる。けど、
「俺は、このままじゃ、ダメだと思うんですよ。だから、……強くなってきます!」
「言うじゃねぇか、アホの癖に。」
…………また、アホ言いやがったな、コイツ……。
「分かりました。ですが、少しだけ、時間をいただけますか?」
「まぁ、今すぐはこっちも無理だな。向こうの準備もいるしな。……そうなると、1ヶ月くらいだな。それでいいか?」
ガスターが出した期限にはいと返事をするクサリさん。……1ヶ月後に魔界へ特訓かぁ。
俺が、不安がっていると、シェリーさんが戻ってきた。
「問題ないそうです。むしろ、覚悟しておくようにとの事だそうです。」
う、うゎー。マジでかぁ。
「話はもう、いいかな?」
国王が、全員を見渡して言う。俺も含めて、全員がうなずく。
「あぁ、俺からはもうない。後は、任せる。」
ガスターは、オルとシェリーさんを連れて部屋を出ていく。
「準備が出来たら、魔王城に向かう。それじゃな。」
そう言って部屋の扉を閉める。
「それじゃ、あたしらも1度本領に帰るわ。1週間も留守にしていたんだから、何かと山になってそうだけど。」
聖女も椅子から立ち上がり、カルラを連れて部屋を出る。
「魔王様!また、会えますよね?」
「あー、いつかは、分からねぇけど、必ずな。」
カルラは、お辞儀をして、扉を閉めた。
「では、僕も。……政務そっちのけで来たから、お小言が大変だろうけど。」
お前……それでも国王かよ。
「魔王君。とにかく、同盟の事だが、おめでとう。そして、ありがとう。」
「こっちこそ。」
「次も戦場で会うかもしれないが、その時はよろしく頼むよ。」
「…………出来れば、味方でな。」
俺の冗談に(割りと本気だけど)ハハハっと笑い、部屋を出ていく。
残されたのは、俺とクサリさんだけだ。
「では、魔王様。」
「あぁ。帰るか!」
俺らも1ヶ月ぶりの魔王城へと向かって、部屋を出た。
次回は、短編をやります。
その後は、魔界で修行します。
お楽しみに!




