三代目魔王様に挑戦します。
お久し振りです。
早速ですが、本編の続きをどうぞ!
「ま、魔王様?」
どうしたのでしょうか?
以前よりも、どこか冷たい感じがしています。
こんなに沢山の死体を見ても、何とも思っていないのでしょうか?
「うん?どうかした、クサリさん。」
「い、いえ、……なんでもありません。」
他の皆さんもどうやら、魔王様の異変に気づいているようですね。
「うん?あっそ。……とりあえず、下に行く階段を見つけようぜ。」
以前の魔王様ならば、この死体の山を見て、何らかの反応を示したはずです。それが、こんな、……こんなに冷たくなれるもの……なのでしょうか。
「…………はい。」
何かあると見て間違いないようですね。
魔王様を先頭に9階の探索をしましたが、どこも死体の山からの臭いと油の臭いで凄いことになっています。
今にも鼻がもげてしまいそうです。
「機械兵の作られ方について、言及した事もあったが、……言っていた内容と全然違うな…………ここは。」
国王様が、あごに手を当てて、唸るように吐き捨てますが、
「言及した時には、何と?」
「すべて、機械の部品で出来ているとか、鉄や油で出来ていると言っていたよ。」
「あながち、間違いじゃねぇかもな。」
私と国王様の話に魔王様が、何か思うことがあるのでしょうか。
「と言うと?」
国王様は、魔王様に問いかけます。
「この、死体も機械兵のパーツって言いたかったんじゃねぇの?流石に、製造者本人じゃねぇから、合っているかどうか分からんけど。」
…………なぜでしょう。しっくり来るのですが、魔王様が、そんなことをおっしゃるなんて。
「…………。」
「どうしたんだよ。」
「いや。別に何もないよ、魔王君。」
険悪な空気が立ち込めているのは、周りから発せられる腐乱臭のせいでしょうか。
「ちょっと!そんなとこでにらめっこしていないで、さっさといきましょう!……鼻が、もげそうよ。」
……何気にきついことを言いますね、聖女様は。
「そうだね。」
険悪なムードの状態で、先に進むも、階段らしきものも、怪しい場所も見つかりません。
このまま、集団でかたまって探すよりもバラバラに探した法がいいということになり、散って探すこと10分。
「魔王様ー!階段を発見しました!」
カルラ様が、この険悪なムードをぶち壊してしまいそうなほど、明るく元気な声で、階段の発見を告げる。
「そうか。なら、さっさと行こう。」
……まぁ、そんなに簡単に壊れは、しないようですね。
「ねぇ、クサリん。」
カルラ様が、私のスカートの裾を軽く引っ張り、不安そうな目で私を呼び止めます。
「はい、何でしょう?」
「魔王様って、あんなに怖かったっけ?なんだか、昨日と様子が違う気するの。」
「それは、私も思っていました。昨日と言うよりも、領主の部屋で戦う前と後で、様子が違います。…………まるで、……。」
「クサリん?」
もしかして、…………別人……なのでしょうか?
今まで、魔王様が、気絶してから別人のようになった事が、度々ありましたが……。
ですが、気絶した様子は、全くありませんし、なにより、いつもなら5分か、長くて10分くらいで寝てしまうはずなのに今も眠る様子もなく、先頭を歩いていますし……。
「カルラ様。他の2人に今から言うことを内緒で伝えてください。」
「な、なに?」
一か八かの大きな賭けですが、
「地下10階に降りて、広い場所に出たら…………」
「で、出たら……?」
私は、今一度、この大きな賭けに出るための覚悟をして、カルラ様に告げる。
「魔王様に攻撃を仕掛けます。」
「だ!「声が大きいです。」…………大丈夫なの!?」
「いえ、何とも言えません。」
そう、確証なんかない、ただの賭け。もし、いつも通りの魔王様なら、私は、もう…………。
「ですが、様子を確かめるためです。覚悟は、出来ています。」
「クサリん……分かった。伝えてくる。」
カルラ様は、他の2人にこそこそと伝える。
話を聞いた2人は、本当にいいのかと、こちらを向きましたが、私は、頷くだけでした。
「う~ん。特になにもないな。」
10階に降り、30分ほど歩き回り、特別開けた場所に来ました。
こんなにも早く、来るなんて……。ですが、覚悟は出来ています!
「なぁ、皆。どうしたんだ?なんでさっきから黙ってるんだよ。」
「魔王様。」
「うん?なに?」
「『バインドチェーン』!」
魔王様を捕らえようと放った私の鎖は、あろうことか、魔王様をすり抜けて、捕らえることが出来なかった。
「おいおい、クサリさん。いきなり攻撃って、酷いじゃないか。」
「魔王様。……いえ、偽者!本物の魔王様は、どうしたのですか!?」
すると、ゆっくりと、偽者は、こっちを振り向きました。
「『俺が、本物に、見えないのか?』」
……声にこのような表現は、どうかと思いますが、どす黒い、人間のものと思えない声で……。
「魔王様を返せ!」
カルラ様が、デュランダルで貫こうと、突進の構えをする。
「『カルラ、酷いじゃないか。俺は、本物の魔王だぞ。』」
またしても、先程と同じ、人間とは思えない声を発しています。
「違う!あなたは、魔王様じゃない!!『猪突』!」
デュランダルを脇に挟み、魔力を込めた足でダッシュし、放った一撃は、カルラ様を飛び越えるようにして、簡単に避けられてしまった。
「跳んだのが間違いだったわね!『投槍』!」
魔力を腕と槍に込めて、相手に投げつける技ですね。矢より重量がある分、威力が桁違いです。
「『姫騎士領とは、同盟を、結んだはずだがな……。』」
空中で回避する術を持たないと思われる偽者。
ですが、確実に胸を突き刺したであろう槍は、偽者を通過し、天井に刺さっていた。
「もしかして、『ファントム』を使っているのか!?」
国王様が、術の名前を言う。
『ファントム』。闇属性上級魔法に属する、対象に大量の魔力を纏わせ、実際の位置や大きさなどを惑わす術。
「無詠唱で、そんなのをあんなに巧みに使えるものなの!?」
聖女様の言う通りですね。動かない物に対して、この魔法を行使しても、せいぜい、障害物の位置や大きさを変えて、相手の妨害や狙撃の障害にするくらいのはず、ですが。
「何にせよ、デュランダルだけ避けて、あとは、全く避けなかったんだ。……デュランダルが、有効なのは、間違いないだろう。」
「そうね。なら、カルラ!」
「はい!ママ!!」
偽者が、着地して何もしてこないうちに、カルラ様を呼ぶ聖女様。いったい、何をするのでしょうか?
偽者を警戒しながら、聖女様達の様子を確認すると、……何かの作戦を立てているようですね。なら、今の私が出来ることを!
「偽者!私が……魔王様筆頭メイドのこの私が、相手になります!」
「『筆頭メイドなら、なんで、本物だと、分からない。』」
「3代目魔王様のお体!お返し願います!!『アンリミテッド』!」
くぅ!まだ、体にかなりの負担が掛かりますが、以前よりも闘えそうです!
「行きます!『ディメンション』!」
身体中に巻かれていた鎖を解き放ち、この部屋全体に鎖を張り巡らせる。
これで、相手の位置を今まで以上に、正確に計り、攻撃にかかる時間も大幅に削減されます。
「『本気で、殺るんだね。……だったら、手加減なしだ。』」
偽者は、その場から一歩も動かずに詠唱を始めました。
いったい、何を考えているのでしょうか?まるで、攻撃してこいと言っているかのように無防備になっています。
「何を考えているか、分かりかねますが、……全力で行きます!『チェーンスパイク』!」
偽者の足元から5本の鎖を突き刺すように、勢いよく上げる。
『ディメンション』のお陰で、攻撃速度と威力がかなり増しています。詠唱中ですので『ファントム』も使えないはず!
「これで、どうですか!」
「『……慈しみ、悲しみ、嘆き、怒り、憤怒の魂を……』」
な!?
「なぜ!?確実に串刺しにしたはずなのに!?」
「くさりさん。」
私は一度、『アンリミテッド』状態から通常に戻り、国王様のもとへ行く。
「国王様!『ファントム』は、詠唱中でも使えるのですか!?」
私の問いかけに首を降る国王様。なら、なぜ?
「恐らくだが、『ストックマジック』だろう。」
「『ストックマジック』?」
全く、聞き覚えのない単語に首をかしげる。
「一度発動した魔法を、ストック……発動したままに出来るんだ。だから、『ファントム』を発動した状態で、別の魔法を詠唱することが出来るってわけだね。」
な、なんてことですか!?
「それじゃ!打つ手無しじゃないの!!」
聖女様の言うとおりですね。……本当に無敵では、ありませんか。
「本来ならば、かなりの魔力を消耗するはずだからね。『ファントム』と何か別の魔法詠唱なんてできるわけがないけど……。魔王君は、いったい、どれだけの魔力保有量をなんだい?」
「……ゼロです。」
魔力値も、魔力保有量も、魔力供給量も……魔力に関係する数値は、すべて『ゼロ』。
「つまり、『測定不能』でなく、『ゼロ』という数値が出たということだね。」
私は、国王様の言っていることに、ただただ、首を振る。
「……魔力切れを狙いたいところだけど、それは、無理そうだね。」
聖女様が、1度戦ったことを思い出してか、作戦を提案する。
「眠るまであたし達で、何とか持ちこたえるとかは?」
「でもママ……。あたしの時には、1時間近くアレに似た状態だったよ。」
「あの状態の魔王君を1時間も持ちこたえるのは、物理的に無理だね。」
そう言って、魔王様は、天井や壁を指さす。
「あたし達なら、問題無いけど……さすがに、無理そうね。」
そんな会話の最中、ろくな作戦も出ずに会議を打ち切らなければならない事態になった。
「ねぇ……あれ……何かな?」
カルラ様が、偽者の方を指差して、私達に問いかける。
指差された方を向くと、複数の黒い塊が、何かの形になろうとして動いている。
「アレって!?」
「あぁ。間違いないだろうね。」
聖女様と国王様は、なにか知っておられるようですね。
「『デッド・スペース』だね。」
「そ、そんな!?その魔法は、闇属性最上級魔法じゃないですか!?」
驚いている間にも、黒い塊が人の形へと変化を遂げていた。
「ねぇ!クサリん!『デッド・スペース』って!?」
「自身の周辺にある、死体や死骸に仮初めの肉体を与えて、自分の兵にする闇属性最上級魔法です。……発動中は、術者の魔力を極端に消費し、その間に自分も死んでしまうことが多いですが……。」
魔王様の魔力量ならまず、死なないでしょう。
そして、最悪な事に、
「ここの階には、死体がゴロゴロ転がっていたね。」
そう、この魔法に必要なモノが、上の階にも山のようにあります。
「全く嬉しくない状況ね……。」
「魔力切れは、期待できない。眠るまでの時間も定かでない。デュランダルの攻撃を除いて、ダメージが与えられない。……どうする?」
どうする?とおっしゃられても……。
「なら、あたしが決める。」
カルラ様が、真剣な眼差しで偽者を睨む。
「あたしが、魔王様を取り返す!」
カルラ様が、デュランダルを構える。
「なら、あたし達は、雑魚のお相手かしら?『グングニル』!」
聖女様が、グングニルを顕現させ、黒い塊に対して構える。
「やれやれ。かなり豪華な面子で雑魚を狩るのか……。けど、僕も本気で行こうじゃないか。……先代の意思を次ぐ剣よ!今、現代の王の名の元に現れよ!『エクスカリバー』!!」
初代魔王様を倒した、国王だけが、持つことを許される時空剣エクスカリバーを抜き放ち、聖女様同様、黒い塊に対して構える。
「くさりさんは、カルラの補助を!」
「はい!この命に代えてでも、魔王様を取り返します!『アンリミテッド』!!」
「『俺を、殺る気か、……なら、全力で、潰すだけだ!』」
「行くよ!クサリん!!」
「はい!」
私は、カルラ様と一緒に偽者から、魔王様を取り返すために、全力で駆け出した。




