初めてのリゾート地に挑戦!
「まーおーうーさーまー!!」
俺、棚部 亮は、『ガルナ』を出発して、5日ほど馬車に揺らされて、落として欲しい勇者領リストに載っている領地『ジェムナ』を満喫していた。
……間違ってはいない。俺も海パンをはいているし。
『ジェムナ』は、海が近くにあり、リゾート地として栄えている領地らしいのだが……。
「つっかまえった!」
胸の辺りにフリルが付いているビキニを着たカルラが、後ろからハグしてくる。
「いや……捕まえたじゃねぇよ。」
そう、こんなとこで遊んでいる場合じゃないはずなんだが。
「まぁまぁ、魔王様。今までのご褒美ということで、いいではありませんか。」
サンサンと注がれる太陽の日差しをビーチパラソルで遮って、白い木製のベンチの上で水着姿のクサリさんが、このリゾート地を満喫していた。
「クサリさんまで……あと2日でしょ。」
そう、勇者領の国王から力試しとして言い渡された期限まで、あと2日しか無いのである。
「大丈夫です!魔王様とあたしの力があれば、『ジェムナ』どころか、大陸全部を魔王領にできます!!」
いや、『できます』じゃねぇよ。
「こんなのんびり遊んでいていいのか?」
「魔王様。どちらにせよ、隊員Mと隊員Kが戻ってこなければ、することもありませんので。」
隊員MとK……。
カルラを隊長としてその部下という設定で動いている2人だが。
「いや、隊員MとKって『ママ』と『国王』だろ!?」
「ち、違います!!マ、隊員Mと隊員Kは、全然別人です!!!」
『ママ』って言いかけてるじぇねぇか。
カルラの母親は、姫騎士領のトップ『聖女』をしている。
こっちは、わかる。親バカだから、何がなんでもついていくとか言い出したんだろうなぁ……。
しかし、
「なんで『国王』までいるんだよ!!」
そう、俺に同盟の話と力試しを課した、勇者領のトップ『国王』までカルラとともに行動している。
勇者領の人間が、勇者領を落とすことは出来ないとか何とか言っていた気がするんだけどなぁ。
「こ、『国王』なんかいないよ。」
そっぽを向きながら答えるカルラ。……分かりやすいなぁ。
「って言うかよ。リストのほとんどをカルラ含めた3人で落としてきたんだろ。」
人間離れしているとしか言えない事だが、なんと、ここ10日で『ジェムナ』以外の領土を落としてきたのだ。
「うん!魔王様、誉めて!」
「あぁ、すごいすごい……。」
テンションが、下がりつつも、カルラの頭をゴシゴシ撫でる。やられている本人は、少し嬉しそうだが。
「魔王様、カルラ様。どうやら、戻ってきたようですよ。」
そう言って、クサリさんは、20階くらいありそうな円筒の建物の方を指す。
全面って訳じゃないが、途中からガラスで出来ている。
なんでも、観光客用の宿泊施設だとかで、結構な値段の割にお客さんの予約でいっぱいいっぱいだとか。
「ただいま戻りました!カルラ隊長!!」
「うむ。お帰りなさい、マ、隊員Mと隊員K。」
また始まったよ……。
素性がバレ無いようにとの配慮らしいけど、
「服装は、そのままで、フルフェイスのヘルメット被っているだけだもんな。正体バレバレだろ。」
「もう!魔王様!正体もなにも、隊員Mと隊員Kだもん!」
だもん!じゃねぇからな。
未だに接点が分からない国王もとい、隊員Kが、カルラの前に出る。
「隊長!こんな貧弱そうな男、ここで切り捨ててしまいましょう!!」
じょ、冗談じゃねぇ!
「こら!隊員K!魔王様になんて事を言うの!」
「はっ!失礼しました!!」
カルラに向かって敬礼する隊員K。
……ノリノリだな。
だが、何が気に入らないのか、隊員Kは、俺に対して殺気を放ってくる。
……後ろからザックリやらねぇよな?
「そ、それより、偵察はどうなったんだ?」
期日まで、あと2日をきっている状態だ。さっさと終わらせたいものだな。
「こちらが、城内部の見取り図です。」
そう言いながら隊員Mは、パンフレットを取り出して、カルラに渡す。
「あ!沖に出て魚釣りが出来るだって!!」
「何の偵察してきたんだよ!?」
遊ぶ気マンマンだな!おい!
「違う違う。カルラ隊長、ここです!こ・こ!」
隊員Mは、カルラが広げているパンフレットのしたの方にある建物内部の案内図を指差す。
「この建物、ここには記されていないけど、地下があるらしいの。」
「その地下に領主が居るのですか?」
クサリさんの問いかけに首を縦にふる隊員M。
地下にいくのか。
「あまり、派手な戦闘は出来ないわね。」
カルラの言う通りだ。
地下で大暴れでもして、壁の一枚でも壊したら、ペシャンコだな。
想像して青くなる俺をよそに隊員Kが、告げる。
「カルラ隊長!魔王が、思いっきり大暴れすれば良いのではないでしょうか!」
な、なに言い出すんだ!?
「さすれば、魔王もろとも城が落ちます!」
城を文字通り、落としてどおするよ!?
「お前!ただ、俺を殺したいだけだろ!?あぁん!?」
思わずチンピラみたいな態度を取るが、殺されそうな計画をたてられてるんだ、これくらいしょうがないだろ。
「だめよ!魔王様1人だけじゃ!あたしも行く!!」
いや、計画事態止めてくれよ。
「だめです!カルラ隊長まで行かれては、計画が、実行出来ません!!」
「するなよ!」
い、いつまで、こんな話をしてれば、いいんだ?
いい加減話を進めたい……。
偵察から帰ってきた2人を含めた5人で、敵地のリゾートホテルで夜を明かすことに。
「いや!なんでだよ!!」
「何がだい?魔王君。」
「なんで、敵地のど真ん中で寝泊まりするんだよ!?」
俺と国王もとい、隊員Kの組み合わせとカルラとクサリさん、それから、聖女もとい、隊員Mの組み合わせで1部屋ずつ借り、寝泊まりすることになった。
「敵とは、僕のことかな?」
あ、ある意味で敵だけどよ。
「なんで、今日の段階で攻めないんだよ?」
俺は、真面目なトーンで問いかける。
「あぁ、ここは、少しだけ特殊でね。表向きは、リゾート地なのだが、裏では、人造人間の研究をしているんだ。」
「じ、人造人間!?」
俺は、ゴクッと喉をならす。
「目的など詳しい事は、分からないが、大方、僕の暗殺や姫騎士領や魔王領への侵略を目論んでいるんじゃないかな。」
じょ、
「冗談じゃねぇ。そんなこと、させるかよ。」
俺の怒りに賛同するように国王が頷く。
「あぁ!もちろんだ!だが、今は、今出来る事をしようじゃないか!!」
そう言うと国王は、荷物をもって椅子から立つ。
「さぁ!魔王君も!用意をしたまえ!!」
よ、用意って何の?
まさか、今から地下へ攻め混みますみたいなことじゃねぇよな?
俺の心の声が聞こえたのか、国王が行き先を告げる。
「お風呂に行こう!!」
……敵地……なんだよな。…………ここ。
この建物は、高さ23階建てで6階より上は、全部客室となっている。
目的の大浴場は、5階にあり、俺たちの部屋は、13階にある。
「それにしても、結構ハイテクだよなぁ。」
高さ20階を階段で登り降りすることを考えると登る前から疲れてしまいそうだが、なんと、エレベーターのような乗り物が、建物内に設置されている。
『ベーター』という乗り物は、乗っている人の魔力を少しずつ吸収して動かしているらしい。
さすがに速くはないけども、この世界で日本にあるモノが見られるとは、思ってもいなかった。
そんなこんなで、大浴場まえまで来たのだが、
「あ!魔王様!!」
女性グループもちょうど入浴をしようと大浴場に来たらしい。
「魔王様達も入浴ですか?」
「あぁ。そうだよ。」
「か、カルラ。もう少し声を小さくしてくれ。」
え?なんで?って顔をしてくるので、説明をする。
「いや、ここって敵地だからな。魔王ってバレたら戦闘開始だろ?」
「なら、大丈夫ですよ!あたしと魔王様がいれば、ここの敵なんて、モブみたいなものです!!」
げ、元気いいな……。
「それより、魔王様。」
体をクネクネさせながら、恥ずかしそうな感じで、
「覗かないでくださいね。」
「覗くか!」
そんなちっこい体に興味はねえから!
また、俺の心の声が聞こえたのか、今度は、聖女が、こっちを睨み付けてくる。
「興味ないとは何?あたしの娘に女の魅力が皆無だと言いたいのかしら?」
す、すごいプレッシャーをかけられている。
お、俺は、何も言ってねぇのに!!
「え、冤罪だぁ!!」
ひと悶着あったものの、男女に別れて浴場へと入っていく。
「ま、魔王君!本当にいいのかい!!」
国王が俺の両肩をガシッと掴んで、俺に説得を迫っている。
……いや、もう脅迫かな?
「覗きとかどうでもいいよ。1人でやってろ、エロ国王。」
日頃のストレスもこの際だから言ってやった。
「本当にいいんだね!この先に女風呂が待っているのに!!」
「いや、パラダイスのあとは、地獄が待っているからな。」
だいたい、女風呂をパラダイスと訳すなよ。
「見損なったぞ!魔王君!君は、仲間じゃなかったのか!?」
「覗き仲間になった覚えはねぇよ!」
「もういい!君にはがっかりだ!!」
それを最後に国王は、タオルを腰に巻いた状態で女と男を分け隔てる柵へと向かっていった。
……ここって敵地だよな?徐々に不安になってきたぞ。
予想通りに国王は、女性グループからご、説教をされていた。
……ボコボコだったな。
翌日。力試しを始めてからちょうど1ヶ月がたった。
いや、経とうとしているが、正しいか?
まぁ、なんにせよ、今日が最終日であることに代わりがない。
「そんで、どうやって攻めるんだ?」
俺、クサリさん、カルラ、隊員M、隊員Kの五人が、男性グループの寝泊まりした部屋で作戦会議をすることになり、集合したわけだが、
「「「正面突破!」」」
カルラと隊員達が、声を揃えて言う。
俺とクサリさんは、もう唖然とするだけだった。
「ま、マジで言ってるのか!?」
「はい!魔王様とあたしの力でガツンと行きましょう!!」
ガツンって……。
「それでいいんじゃないかしら?」
「カルラ隊長の言う通りだ!ついでに魔王だけ、討たれればもう文句なしだ!!」
……未だ昨日の風呂の事を根に持ってるのか?
「はぁ……。まぁ、この人選ならば、少々の問題など……問題にすらならないかもしれません。」
早々に諦めたのか、クサリさんは、3人の意見に賛同し始める。
「……まぁ、そうだな。」
むしろ、隊員Kが、俺に襲いかかってきそうな気がするけどな。
「それじゃ!出発!!」
カルラの元気な声で部屋を出る5人。
目指すは、地下にある領主の部屋だ!




