初めての城攻めに挑戦!
俺 棚部 亮は、……物陰に隠れていた。
「いたか!」「いや!こっちには、来ていないぞ!」
「どこに行きやがった!!」
「探して、殺せ!!」
だ、誰か~!た~すけてくれ~!!
族長の家のリビングでここ何日か城攻めのための作戦を練っていた3人。
……ちなみに俺は、外で新技の練習中だ。
「……作戦会議中に少しでも強くなってよるよ!コンチクショー!!」
腕や足だけに魔力を送り込む練習とその状態をどれだけ激しい動きをしても維持できるようにと走り込みをしている俺。
……ホント、疎外感が半端ない。
「おぅ。よくやってるな。」
作戦会議が終わったのかリビングから出てくる師匠こと族長のトビー。
「……作戦会議の方はいいのか?」
「あぁ。一区切りついたところだ。明日の早朝に仕掛ける予定だ。」
城攻めと聞いていたのに早朝からなのか?
こう、月夜に紛れて……みたいなのを想像していたんだが。
「なんで早朝からなのかって顔をしてるな。」
「まぁな。普通は、深夜とかじゃないのか。」
どっこらせとおやじ臭い声とともに家の近くにある切株の上に腰を下ろすトビー。
「本来ならそうしたいのだが、深夜になると警備が増加する。それでも、行くメリットがあるが、……尋常じゃない量の警備だからな。」
「……そんなにいるのか。」
「まぁ、まだ1日ある。それまでに完成して見せろ!」
「言われなくたって、やるっての!!」
話し中でも維持できるようになってきたのは、だいぶ成長した証拠だろう。
「……久しぶりに組み手をしてやるか。」
「おっす!」
ガジーにコテンパンにされてからもう4日が過ぎた。
あの時の悔しさは、今でも忘れられない。
「よし!どこからでもかかってこい!!」
いつも以上に気合が入っているように見えるトビー。
ここ2、3日は、『ガルナ』の調査のためしっかりとした組手をしていなかったからなのか?
「うっしゃ!全力で行くぜ!!」
全身の魔力を高める。ここ数日の組手である経験を得た。
魔力の流れを読まれるのは、体中にめぐる魔力が偏ることが原因だ。
なら、偏らないほどの大量の魔力を体中にめぐらせてやればどうなるか。
「ほう。魔力の流れを読みにくくしたか。」
「ついでに『水の羽衣』!」
『炎の鎧』に似ているが、少しだけ違う。……と言っても属性が、火から水になった程度だけどな。
「新技の調子も良さそうだな。よし、こい!」
コイツの性能チェックは、……木にしかした事ないんだよな。
10メートルくらいの距離を腕を高く振り上げながら一気に詰める。
「『水の剣』!」
振り下ろした時に腕から水の刃を伸ばして斬撃を当てに行く俺。
「おう!斬撃系か!」
今まで拳を使った技しかした事なかったからな。……これが使えるようになるまでが大変だった。
さすがに斬撃は、避けるために動くだろ!
……なんか目的が違っている気がするが、気にしない。
「なんの!『威圧』!!」
うぐっ!動きが!
水の刃と言っても15センチくらいの短い短刀だから、かなり接近しないと当たらない。
……もっと長くしないとな。けど、
「コンチクショー!!!」
全身の魔力を跳ね上げる。
「まだ上がるか!」
少しづつ腕が、下げられていく。もう少しで、
「まぁ、こんなゆっくりなら」
俺の腕をもって軽々なげようとするトビー。……ですよね。
「ほらほら、どんどんかかってこい!」
結局、師匠は一歩も動かずに俺の体力切れで終わった。
一度も動かすことが出来なかったな……。
「それで、結局俺はどうすればいいんだ?」
あと8時間ほどで出発する3人に俺のみの振り方を聞く。
最後の最後まで修行しかしていなかったからな。……ぼっちで。
「う~ん、そうだな。」
「族長。コイツは、ここで待機でいいんじゃないか?」
ガジーが、トビーに提案するが、どうやらトビーの中では、違う考えがあるらしい。
「よし!別働隊としてお前には、動いてもらおう。」
「「「はぁ?別働隊?」」」
トビーの予想外の提案に見事に3人がハモル。
「ガジーと俺とクサリで城の内部で暴れまわるから、お前は、奴隷の開放を優先してくれ。」
「いやいや、俺はろくに城の内部を覚えてねぇけど。」
そういうと、トビーが城の地図を俺に渡す。
「……ホントにコイツだけでできるのか?」
「はい、私だけでもついていた方がよろしいのではないでしょうか?」
心配する2人の意見も首を横に振るだけのトビー。
……クサリさんとガジーでは、心配する内容が違う気がするが、俺自身も不安であるため、何も言えない。
「おめぇらは、心配性なんだよ。大丈夫だ。仮にも魔王だぞ。」
「……それ、俺が言うべきセリフだけどな。」
ガハハハと笑うだけのトビーにそれぞれ別の意味で心配になる3人であった。
「あと7、8時間で出発になるんだ。それまで各自体を休めておけ。」
事実上の解散宣言をトビーがしたので、しぶしぶながら体を休めることにした。
ここ数日間お世話になっている2階に用意された客間で、城攻めの準備を俺なりにしていた。
解散してから30分くらいがたった時に閉じられていた扉がノックされる。
「いいですよ。」
クサリさんが、扉を開けて入ってくる。
……まぁ、この家でノックをするのがクサリさんだけだったからな。
「少しよろしいでしょうか?」
「あぁ。」
俺の返事を聞くと、扉の近くにあった椅子に腰を掛けたクサリさん。
……俺以上に別働隊の心配をしているのだろうな。
「別働隊の件ですが、本当によろしいのでしょうか。」
「まぁ、俺も不安だけど、師匠が大丈夫と太鼓判を押したからな。何とかするよ。」
「ですが!」
クサリさんもわかっているんだろう。この別働隊を作る必要があった理由と別働隊の危険性を。……俺よりも。
「必ず生きてここに帰りましょう!」
……それ、死亡フラグって奴じゃねぇ?
そんな言葉をクサリさんから聞いてしまった事に少しだけ、不安が増す俺であった。
太陽がまだ登っていない時間帯に『ガルナ』付近まで歩を進めていた4人。
「それじゃ、ここからは、別行動だ。お前の仕事は、奴隷を見つけ次第、ここまで奴隷を連れてくることだ。敵との交戦には、気を配れよ!」
「間違っても奴隷にケガがないようにしろよ!」
「魔王様……。」
心配しすぎだろ。……特にクサリさん。
「お前らこそ、さっさとトップを倒して来いよ!」
その言葉を最後に俺は、3人と別れた。
『ガルナ』の作りは、円筒状に城壁が建てられており、東西南北にそれぞれ大門が1つずつ備わっている。城壁の高さは、おおよそ5メートル。そんなに高くないけど、問題は、高さでなく横幅にある。
城壁が、1枚だけでなく3枚備わっているのだ。つまり、3重の円を形作る城壁に守られているのが、『ガルナ』という領地だ。
「俺が、中に入るためには……」
一応、奴隷解放のためのプランは、昨日の段階で練ってある。……練ってもらっているというのが正しいけど。
お、あったあった。
この城壁には、抜け穴が用意されている。っていうよりも作ったといった方が正しいけどな。……ガジーが。
抜け穴は、城壁につき1つずつあり、1番外の城壁は、北西のあたり、今俺がいるところ。
2番目の城壁は、東北東のあたりに、3番目、1番内側の城壁は、南のあたりに用意されている。
なんで、こんな風にずらしてあるのかというと発見を遅れさせるためらしいけど、
「入る方も出る方も大変じゃねぇか。」
ちなみに、クサリさんたちは、外側から順に南門、東門、北門と突破してく手筈になっている。
……別働隊の俺のことを考えてのことだろう。
「おっと、2つ目と。」
周囲に敵がいないことを確認しながら進んでいくと、2番目の抜け穴が見つかった。
それを潜り抜けたとたんに、10人くらいの集団に囲まれる。
「あ、どうも~。」
「どうも。……侵入者発見!侵入者発見!」
な、なんでいるんだよ!!……と、とにもかく、突っ込む!
「構えろ!」「魔王が来たぞ!」
これ以上、兵士を呼ばれてたまるか!!
「20パーセント!『剛打』!!」
ドンっと吹き飛ぶ2人の兵士。…………2割の力で吹っ飛ぶのか。
「総員構えろ!」「2人やられたぞ!」「仲間の敵!!」
……まだ、死んでないと思うけどな。
「かまっていられるか!『剛打連拳』!!」
剛打を連続で打ち出す。魔力の制御とかであまり数は打てないが、今のところ6、7発くらいなら問題なく打てる。
1発で1人か2人が吹き飛んでいき、周囲にいた兵士は、全員壁に叩きつけられて伸びている。
「に、逃げるか。」
俺は、そそくさとその場を逃げ出した。
それで、冒頭に戻るわけだが。
「くっそー。あと100メートルくらいなんだけどな。」
最後の抜け穴まで100メートル。その間に兵士15人前後が、うろうろしている。
「い、今のうちに地図の確認と」
そう思って地図を広げてみるが、
「な、なんじゃこれ!」
大事な地図が、穴ぼこだらけになっていた。……役に立たねぇ。
結局、探し回る必要になった。なら、ちょっとでも騒ぎを大きくしますか。
「コンチクショー!!」
俺は、大声を上げながら最後の抜け穴まで走り出した。
「いたぞ!」「総員構えろ!!」「うおぉぉぉぉぉおおおお!!」
「『剛打連拳』!!」
壁にぶつかっては伸びる兵士たち。……穴を塞がないようにしないとな。
「まだまだまだまだ!!!」
わらわらと出てくる兵士たちに気合を入れなおす俺。……マジで、たくさん出てくるんですけど。
切がねぇな……。一度拳を引っ込めて、
「『炎の鎧』!」
弓を引く格好をして、聖都で一度だけ使った魔法を発動する。
「『フレアアロー』!」
穴のある方向に向かって火矢を放つ。……3本も。
「な、なんか進化してるんですけど!!」
1本だけ放ったつもりが、前方に3方向に飛んでいき、着弾時に火柱を上げる俺の魔法。
……俺がレベルアップしたからなのかな。
「あいつ!魔法を使うぞ!!」「勇者を呼べ!!」
やべぇ!撃ち漏らしが何人もいる!
俺は、慌ててもう一度構えて火矢を放つ。
「30パーセント!『フレアアロー』!」
今度は、魔力調整をした魔法だ。……よかった、1本だけになった。
余計なところに飛んでいくとただでさえ命中精度が悪いのに余計に悪くなる。
……まぁ、俺自身が弓矢なんてやったことないのが問題なのだが。
最後の抜け穴を潜り抜けると兵士の数が、グンと減った感じがした。
抜け穴の周囲であんなに凄まじい戦闘をしたのに、兵士が1人も見当たらない。
「よし、今のうちに奴隷を見つけて……」
歩を進めようとしたときに、矢が足元に向けて放たれた。
あ、あぶねぇ……。
「お前が魔王だな。」
声のする方を向くと、勇者っぽいのが1人いた。
……いや、服装とかは、まともなんだけど、セリフがな……。
「まるっきり、悪役じゃねぇか。」
小声でつぶやくと、ふっと笑って腰にある剣を構えだす勇者。
「お前の方が悪役にふさわしいがな。」
……聞こえてたのか。
俺は、呆れながらも構えを取る。……前回の勇者とは、目的が違うから生き残るためには、初めから全力で、かつ、魔力調整をしっかりとしないとな。
「いくぞ!」
「『水の羽衣』」
勇者の声と同時に水を体に纏わせる。防御力って面では、『炎の鎧』の方が優秀なんだけど、斬撃にはどっちもどっち。むしろ『水の剣』が出せるだけ、こっちの方が良かったりする。
キンッと金属音がする。※片方は、水です。
火花が飛び散る。※片方は、水です。
「なかなかいい剣を持っているな。……情報にはなかったな。」
「み、水なんだけどな。」
「まぁいい。他にも賊がいるようだからな。……早めに決着をつけてやる。」
仮にも魔王との戦闘なんだから、もっと雰囲気を退治にしてほしいなぁ……。
まぁ、こっちもチンタラしてられないんだが。
「『三段突き』!」
……勇者ってそれしか知らないのか?
「見飽きたから、他の技でも使えよ!!『氷冷・三段突き』!」
……まぁ、そこまで難しい技じゃないからな。覚えちまったよ。
お互いの剣先が、それぞれぶつかり合う。
「くっ!」
決めるつもりで放った技を同じ技で防がれることに苦痛の顔に歪む勇者。
「なら、これでどうだ!『十字弧線』!」
一度距離を取った勇者が、上下に斬撃を飛ばす。すげぇな!斬撃が飛んできたよ!
さすがファンタジーだな。だが、
「『水の盾』」
左手を勢いよく前に突き出す。すると、直径1メートルほどの円形の文字通り、水の盾を出現させる。
出現させた盾で、飛んできた斬撃を防ぐ。
「どうした!もう終わりか!」
俺の挑発に頭が来たのか、次の技を繰り出そうと構える勇者。
まぁ、出させねぇけどな!
「『アクアショット』!」
右手を拳銃の形にして、放つ。水系統の初級魔法『アクアショット』を放つ。
……さすがに動いている敵には当てられないが、狙った場所に充てられるように特訓にした。
威力の調整も魔力で行っているので、ガス銃並の威力がある水鉄砲みたいだ。
「ぐっ!」
構えていて無防備になった腹を思いっきり攻撃され、勇者の顔が苦痛にゆがむ。
……これって最後まで気を抜かずに行けば……。
「舐めやがって!『猪突撃』!!」
やけくそ気味に突っ込んでくる勇者。その体には、魔力を纏わせており、カウンターを狙おうにも弾かれてしまうだろう。
……まぁ、1週間くらい前の俺ならって話だが。
「フルパワー!『水冷・剛打』!!」
水をまとい、魔力調整をしたうえでフルパワーの得意の拳を突き出す。
一度だけ、木に対してこれをしたが、……木が消し飛んだ。
勇者の突撃と俺の拳がぶつかり、ドゴンっとすごい音と衝撃を周囲に放つ。
俺は、『水の羽衣』を解除した。勇者との戦闘は、終了した。
「ふー。俺の初勝利だな。」
勇者は、壁にめり込んでいる状態で気絶していた。……たぶん生きていると思う。
先を急がねぇと、また兵士たちが、わらわらと集まってきちまう。
俺は、城の位置を確認するとそこへと走り出した。
新技が、いっぱい登場しましたね。
次回は、クサリさん視点の予定です。
お楽しみに!




