初めての実験に挑戦!
はいは~い。まだまだ続きます。
検診でお医者さんが、怪訝そうな顔をするととんでもなく不安になるよね。
そんな感じの不安を覚えた俺 棚部 亮は、クサリさんからの次の言葉を待っていた。
「この世界の生物は、少なくとも1以上の魔力値を持っています。成人男性であれば、平均値として7から8ほどあるはずなのです。」
「もしかして、以上に高いとか……。」
希望的観測だけど、恐る恐る聞いてみる……。
「いえ、魔王様の魔力値は、『0』でした。」
…………どうゆうこと?生物じゃないの?俺……。
「何かの間違いかと思いましたが、2回も検査をして同じ結果でした。それ以外の値は、おおむね『人間』と判断されますが……。」
「魔力値だけが、異常……か。計測不明とかじゃないの?」
「いいえ。もし、計測不明である場合は、数値でなく『不明』となりますので。それに、今回のように0が結果として表れることは、…………。」
クサリさん!黙らないでよ!!口を閉じちゃった……。そして、
「……すこし実験をしたいと思います。」
人体実験って、なんだかよくないと思うんだよね……。
――――――――――
書斎の隣の小さな部屋に移動してきた。この部屋の中央には、木製の椅子が置かれている。
壁一面には、何かの機械だろうか?ケーブルが何本かぶら下がっていた。
中央の椅子に座るように言われたので、座って待っているとクサリさんが赤色の把手が付いたケーブルと黒色の把手が付いたケーブルを渡してきた。
「これは?」
「液体状の魔力にえるための機械です。」
……どこから得るのかな?
それと、液体状って?
「魔力も他の物質と同じように、気体・液体・固体の状態があります。この世界での魔力は、電気やガスなどのライフラインに欠かせないものの一つであります。ですが、気体状の魔力では、持ち運び・運用に不便ですから、より運用のしやすい液体状に変換しているのであります。」
へぇー。魔力にも気体や液体があるんだ。
「また、固体状の魔力にするための技術が、あるにはあるのですが、ライフラインに役立てることが困難なのです。」
「それで、この機械の説明はなんとなくですが、分かりました。それをどうすれば?」
「赤い方を右手で握ってください。」
言われた通りに赤い方を握る。
「黒い方は、左手で触ってください。」
「握らなくていいの?」
「はい。また、体調を崩された場合は、すぐに、手を放してください。」
体調を崩す可能性があるんだ……。少し、怖くなってきた。
「それでは、触ってください。」
俺は、恐る恐る黒い把手を触ってみる。
………………。
なんともない……。
「お加減はいかがでしょうか?」
……いかがもなにも、
「なんともないですけど……。」
「そうですか……。もう、放してよろしいですよ。」
クサリさんが、項垂れている。
……なんか、悔しいな…………。
「……少々、お待ちください。」
クサリさんが、2色の把手を持ってケーブルのあった壁際に戻っていく。
…………俺への期待が大きかっただけ、ショックも大きいんだろうな……。
疲れてきたのだろうか。弱気になってるなー。
そんなことを考えてると、
「魔王様!」
「っ!なっ、何ですか?」
クサリさんが跳ぶように戻ってきた。
「もう一度、これを握ってください!」
「は、はい!」
あまりの勢いに少したじろいでしまう。いったい何があったのだろうか?
クサリさんは、俺に把手を預けてから、すぐに壁際に移動した。
俺は、赤い把手を握ってから、
「黒い方を触りますよ。」
と、クサリさんに知らせる。
「お願いします。」
クサリさんからGOサインが出たので、黒い方を触る。
「…………なんともないもんなぁ。」
今回も特に体調を崩すことは、なかった。
「魔王様!黒い方を放してください。」
放すように指示が出たので、触るのをやめる。
すると、クサリさんが液体の入った金属質のカプセルを抱えて戻ってきた。
「魔王様!液体状の魔力が検出されました!!」
……?どういうこと??
「この機械は、2色の把手を握った方から魔力を吸収し、液体状に変換して貯めるためのものなのです」
「つまり?」
「魔王様は、魔力値ゼロですが、魔力を持っているということになります!」
「…………。」
思考が追い付いてこない……。
えっ……。魔力が検知できないのに魔力を持ってるの?
俺の体ってどうなってるの……。それと、『魔力を吸収する』って説明聞いてないですけど……。
訳も分からず悩んでいると、クサリさんが不気味な笑みを浮かべている。ちょっと怖い。
「かすかにですが、希望が見えてきました。魔王様!」
「は、はい!」
「残り2週間あります。その間に戦えるように特訓します!!」
不気味な笑みを浮かべたまま、メイド長による俺の強化プログラムがスタートした……。