初めての説得に挑戦!
俺 棚部 亮は、クサリさんとともに『聖女』から『聖女の娘』に『聖女の管理する領土』を侵略しないように説得するように頼まれたので、『聖都フィノ・ベルン』の裏側にある丘へと向かっていた。
……どうでもいいけど、「聖女、聖女」ってややこしいな!
簡単に言うと、娘の侵略を止めることが、聖女からの頼み事だ。
ただ、聖女の娘は、10歳になるらしいが、滅茶苦茶強いらしい。だから、戦闘をしないように話し合いで穏便に済ましたいところだ。
なんせ、俺は、この世界に来てから一度も戦闘で勝利したことがないから不安でしょうがない。
……実際は、起きたらベッドの中なんだけどな。
聖女の情報だと、丘の辺りに盗賊団がいるらしい。そして、その盗賊団を退治した上に手下にしたのが、聖女の娘らしい。
「クサリさん、正直、説得すら無理な気がするのですが。」
不安が顔に出ているんだろうなぁ。俺自身すら、顔を見ずともわかる。
「大丈夫です。魔王様が、気絶すれば、きっと聖女の娘であろうと勝つことができるでしょう!」
…………いやいや、気絶したらダメでしょ!
ベッドの上で事後報告とか、もう要らないから!!
「はぁ~。」
俺はもう、溜め息をつくことしかできなかった。
なんだかんだ話ながら、目的の丘付近までやって来た。辺りは、俺の足首ほどの高さの草花で覆われている。
5月くらいの気温だからだろうか。青々とした草花だ。
木々もまばらに立っている。その林を少し進むと洞穴が見えてきた。
いかにも盗賊団が、隠れ家にしそうな洞穴だ。
……いるって聞いていないと、気にせずに通りすぎちゃうかもな。
洞穴の入り口から、少しだけ左に位置する茂みに身体を隠す俺とクサリさん。
「どうしよか?このまま乗り込む?」
「いいえ、魔王様。屋内戦は、なにかと障害が多いですから、ここから初級魔法を放ち、中にいる賊を外へと出しましょう。」
かなり、過激な提案をされた。
けど、少し心苦しいので提案された方法でなく、別の案を俺が提案し、実行に移した。
「盗賊団に告ぐ!貴様らは、完全に包囲されている!武器を捨て!おとなしく投稿しなさい!!」
俺の提案は、俺が大声で盗賊団を呼び出すことだ。
これには、2つの理由がある。
1つは、話し合いがしたいからだ。
穏便に済ませたいのに攻撃をくわえたら話し合いの雰囲気すらなくなってしまう。だから、話し合いをするために声で呼び出す。
もう1つは、……俺が、今叫んでいるセリフを言ってみたいがためだ!
「魔王様!何を言っているんですか!?」
…………そりゃ、こんなセリフで、出てきても話し合いにならないのは、分かっている。けど、
「一度でいいから、言ってみたかったんだよ!!」
「っと犯人は、供述しており、盗賊団との話し合いは、出来なくなった様です。以上現場からでした。」
…………犯人扱いされちゃったよ!
あと、クサリさんもリポーターがやりたかったんだね。少しだけ、満足そうだ。
「うるっさぁーーーい!!!」
突然の大声に俺とクサリさんが、驚く。
……そりゃ、人ん家の前でその家に向かって叫んでいたら、迷惑だよな。
反省しつつも目的の相手が、出てきたのでOKでしょ。
「何なのよ!あんた達は!!」
金髪を頭の少し後ろで2つに分けて結んでいる。いわゆる、ツインテールって髪型をした女の子が、洞穴から出てきた。背は、俺の腰より少し高いくらいだ。
腰に剣をぶら下げている。
「お前が、聖女の娘だな?」
「お前じゃない!あたしの名は、カルラ・ブレアス・ピトアよ!!」
両手を腰に当てて、小さな胸を張っている。
…………俺でも勝てるんじゃないだろうか?
「あんた達こそ、どこの誰よ?」
カルラの問いにクサリさんが、応える。
「お初にお目にかかります、カルラ様。私は、クサリ・スクスと申します。隣の方は、3代目魔王様であられる棚部様です。」
「棚部 亮だ。聖女からカルラを呼び戻してこいって依頼を受けた。」
こっちの紹介が終わると、カルラは、疑り深そうに睨んできた。
「魔王が、ママの頼み事を受けるなんて、おかしくない?」
……まぁ、おかしいよな。
「姫騎士領と魔王領は、同盟を結んだため、聖女の依頼を受けたのでございます。」
クサリさんの懇切丁寧な説明を聞いても、疑いの目を向けられたままだった。
俺も、相手の立場なら疑って当然だけどな。
……魔王っぽくもないし。
「…………まぁ、いいわ。どうせ帰る気もないし。それよりも、もうすぐママのいるところを攻め落とすの!だから、邪魔しないでね!!」
帰る気なしか……。どうしようかな?
俺が悩んでいると、クサリさんが声をかけた。
「なぜ、聖都を侵略するのですか?」
「…………いいわ!特別に教えてあげる!!」
カルラは、また、両手を腰にあてると、まるで壮大な計画でも語るような声音で聖都に侵略する動機を言った。
「ママと遊ぶためよ!!」
…………へぇ?
遊ぶために侵略するのか!?
「そんなことのために侵略しなくてもいいだろう!?」
俺の発言にカルラは、怒った口調で言い返してきた。
「そんなことってなによ!ママはね、ほぼ365日、ずーと働きづめなの!!だから、あの領土さえ無くなればママは、あたしと楽しく遊ぶことができるのよ!休むことができるのよ!!」
…………そんなことを考えていたんだな。だけど、なおさら止めないといけない気がしてきた。
「すみませんが、そんな話を聞いては、なおのこと止めなければなりません。」
どうやら、クサリさんも同じ気持ちのようだ。
「いいわ!止めれるものなら、止めてみなさいよ!!」
カルラの激怒とともに距離を一気に詰めてきた!
「『硬』!」
ゴンッ!と鈍い音が聞こえたが、身体中に魔力を送り込みなんとか防御する。
「かたっ!」
「女の子に暴力を振るいたくないが、無力化させてもらう!『剛打』!」
なるべく腹部を狙う。間違っても、顔は、狙わない。
内心でそう思って攻撃を仕掛けるも、すべて避けられてしまう。
一度、体制を建て直すためだろう。
カルラが、俺との距離を大きくとった。
仕掛けるなら今だ!
「クサリさん!」
「はい!『バイン』」
俺がクサリさんに鎖で動きを封じてもらおうとしたときにシュッ!と風を切りながらクサリさんの足元に矢が打ち込まれた。
「お嬢!加勢に来ましたぜ!!」
30人ほどの男達が、洞穴の入り口から出てきた。
「あんた達!準備はできたの!?」
「あと少しだが、問題ねぇ。それよりも、2対1とは、卑怯じゃねぇか!あぁん?」
……まるでヤクザみたいだな。
「2対1じゃねぇと勝てねぇんだよ!察しろよ!!」
「魔王様。私が、あの男どもを黙らせておきますのでその間にカルラ様を。」
…………へぇ?
「いや!無理だから!!死ぬよ、俺!!」
俺の抗議も虚しく、クサリさんは、親指を立てて
「グッドラック!」
爽やかな笑顔で告げてきた。
…………無茶苦茶いい笑顔だったよ。
「こうなったら自棄だ!!『炎の鎧』!!」
技名を言うのと同時に身体中に炎を灯す。
何回も繰り返し練習したので火が、要らなくなったのだ。
「なに!?焼身自殺でもする気なの!?」
「しねぇよ!」
いや、突然火だるまになれば驚くだろうけど。
「まぁいいわ。こっちも奥の手を始めから出していくから!!」
そう言うとカルラは、剣を目の前に両手で構えると詠唱を始めた。
「『あたしの前に広がる壁を壊しなさい』!きなさい!『デュランダル』!!」
げっ!!ヤバイのを呼び出されちまった!
「いきなりそれは、無しだろ!」
交渉は、決裂した。
相手の武器は、何でも切り裂く伝説級の武器『デュランダル』。斬られれば、即死の上に防御も無意味。
さらに、クサリさんの加勢も無し。
…………あれ?俺の負けが確定してねぇか!?
説得に失敗した3代目魔王。
はてさて、どうなることやら。
今週から、夏休みなのですが、いろいろと予定を埋めてしまったため更新速度が、多少落ちるかもしれませんが、頑張りますので首をながーくして、お待ちください。




