久しぶりに全力で挑んであげる。
聖女様視点での戦闘です。
あたしは、アリアナ・ブレアス・ピトア。姫騎士領で聖女をしているのよ。
今は、魔王領のメイドとその魔王領のトップである3代目魔王の正体を暴こうと、バシバシ攻撃をしているところを高いところから見物中。
あたしの親衛隊『バルキュリア』が、水属性中級魔法を決めたとこまでは、よかったんだけど……。
「なんなのよ!あれは!?」
水で覆われた闘技場を凍らせてしまったのよ!あの魔王は!!
火属性を除く魔法は、どの属性も効果が薄いって聞いたのに。
そもそも、半径500メートルの水たまりを凍らされるなんて、馬鹿げているのよ……。
「さぁ……私にもわかりません。」
…………まったく、とんでもないものを召喚したんじゃない……。
「……久しぶりに、あたしも力試しをしましょうかしら。」
本気を出せる相手は、かなり限られているから、こんな機会は、あまりないのよね。
「聖女様?」
あたしのつぶやきが、聞こえたのかしら?
不安そうに『バルキュリア』の伝令が、聞いてくる。
「大丈夫よ。あたしが行って、避難ができるだけの時間は、稼いであげるから。全員を退避させてちょうだい。」
あたしは、準備を整えて行く決心をした。
「……それじゃ、行きますか。」
「あの状態の魔王様と戦うおつもりですか?」
「えぇ。そうよ。」
「私も行きましょうか?」
メイドも手伝いを申し出てくるけど、どうしようかな。
まぁ、……考えるまでもないわよね。
「お願いしようかしら。同盟も結んだことですし。縄を解いてあげて。」
「はい!」
伝令役が、メイドの縄を解いて、準備を整える。
「足手まといにならないようにね。」
「私のセリフです。」
同盟を組むわけだし、初めての共同作業ってことで。
あたしは、メイドの共に氷漬けにされた闘技場の中央に向かった。
「これはこれは、メイド長。処刑されそうって伺っていましたが、どうやら何かの勘違いをされていた様子ですな。」
闘技場を氷漬けにした張本人が、メイドに向かって声をかけてくる。
処刑を妨害しようと突っ込んで行った魔王と全然様子が違う。体を覆っていた炎は、バルキュリアたちの中級水魔法で消えたんだと思うけど。
見た目は、飛び出していったときの魔王となんら変わっていない。けど、雰囲気が違う。
これが、聴いていた魔王だけど、魔王でないってやつね。
「応えていただけますかな?メイド長さん。」
警戒をしながらも、メイドが事情を簡単に説明する。
「……現在の魔王様が、どの程度の強さであるかを知るために公開処刑をすることにしたのです。」
「ふむふむ、なるほど。ならば、ご期待に添えるように貴方達と本気で戦えばよろしいのですね。いやー、よかったよかった。赤は、かなり自慢げに話すものでしたから。一番最初に呼ばれたのは、俺だ、だとかなんとか。赤は、なんだかんだ…………。」
ぶつくさ言いながらも、闘気が、徐々に上がっていくのが分かる。
あたしらは、いつでも戦えるように構える。
「……それでは、始めましょうか。」
キンッ!!
突然の金属音とともにメイドが、魔王の拳を鎖で防いでいた。魔王の拳は、氷で覆われている。
あたしの目でも追いつけないなんて!
「速い!」
これは、本気の本気を出さないといけないようね。
「我との盟約を果たせ!!『グングニル』!!」
あたしは、姫騎士領の技術の一つである『マニフェス』で、相棒を呼び出した。
『我、盟約により主の愛を受けしものの武具と課す。』
相棒の久しぶりの文言が、懐かしく感じるわ。
あたしの背丈の1.5倍の長さ、250センチの金色に輝く槍を顕現させる。
柄から先端までをまるで、杭のような槍『グングニル』。1発でも先端で刺させば、魔力と体力を瞬時に奪う凶悪な槍。これならば、いくら馬鹿げた魔力の持ち主でも、瞬時に殺せる。
あたしは、顕現させた武具を魔王に向けて構える。
「あれは、相当の使い手のようですな。メイド長よりも厄介ですな。」
メイドと打ち合っている魔王に注目されたみたいね。
なら、全力で戦うのみ!!
「行くわよ!!」
全身に適度な量の魔力を流し込む。魔力による肉体強化を施しながら、全速力で魔王に槍を突き出す。
……1発でも刺されば、あたしの勝ち!!
「なかなかの練度ですが、まだまだですな。」
そう言うと、魔王は、回転をしながら、槍の先端でなく、柄の分部を左手で弾き、右手の拳を打ち出してくる。
「『剛打』!でしたかな。」
っ!危ない!!
あたしは、ギリギリのところでしゃがんでかわす。頭上で魔王の拳が、ビュン!と風切り音をさせる。
やられっぱなしじゃいけないわよね!!
「『天光』!!」
槍を引き寄せて、しゃがんだ位置から相手の頭上を狙いすまして、鋭く槍を放った。
「おっと。」
上半身を軽く後ろに逸らすだけで避けられてしまう。けど、
「『天戟』!!」
槍を引き寄せながら、下へと叩きつけるように振り下ろす。
「まだまだ。」
魔王は、バックステップでさらに後方へと下がる。
今ね!
「『聖光・三点突き』!!」
あたしは、後方に下がった魔王の鳩尾、額、腹部の3ヶ所をグングニルで突く。
「これが狙いでしたか。しかし、まだまだですな。」
「嘘でしょ!グングニルで突いて、まだ生きてるなんて!!」
いや、違う。
刺される前に手でガードしていたようね。
「……化け物ね…………。」
「いやいや。これでもギリギリ戦えているだけですよ。一撃でももらえば、即ダウンです。」
「なら、動けないように縛らせてもらいます。」
メイドの声とともに魔王の足下から鎖が、出てきて魔王を十字架のように縛り上げる。
「これはこれは。ピンチですねぇ。」
「これで、終わりよ!!」
あたしは、槍を魔王の胸に刺そうと突きだした。
けど、あたしの槍は、魔王に届かなかった。
「……何てやつなの!?」
あたしを凍らすなんて!!
メイドの方もどうやら身動きがとれないようね。
「貴方達は、本当にお強いので『コキュートス』を発動させました。命までは、取りませんので安心して下さい。」
こんなの使われて、安心なんかできないわよ!
文句の一つも言うことができない。なんせ、口まで凍らされているんだから。
「あと数秒で私は、眠りますので、後の事はよろしくお願いします、メイド長さん。」
それを最後に魔王は、死んだように眠ったわ。
ほんと、何なの…………。




