大陸同盟の危機に挑戦!
「前衛っ! いったん下がれっ!!」
「下がれって! どこに下がればいいんだよっ!?」
混乱が混乱を呼んでいる。そんな激しく乱れた戦場は、聖都フィノ・ベルンの城門から十キロも離れていない地域まで迫っていた。
「ねぇ、イタコっち?」
「なに、葵っち?」
混乱している兵士らを誘導しつつ、私は疑問を意気投合したメイドにぶつけてみる。
「いつになったら聖女様に会えるのよ? 亮の指示でコッチに来てるはずでしょ?」
鎌を振り回すデスイーターなるメイドは、敵を屠りながら言う。
「世界美食巡りじゃないデス?」
「それはアンタのことでしょ……」
私達は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で、混戦の中を待つことにした。
「くっ!?」
「ちょっとっ! 前に出すぎよ!?」
矢を膝に受けた国王を援護するように、私は槍を突き出す。
突き出された矛先は、神界の兵士をかすめるだけ。致命傷には程遠い一撃。
けど、この槍には、傷を与えた相手の魔力を奪う力がある。かすったような一撃でも、敵は地面に倒れて動かなくなった。
「そう言うけどね……わざわざ兵士を犠牲にするにも、いかないだろう?」
前方に視線を向ければ、いまだに交戦している兵士は数百といる。その兵士らの後ろには、二百か三百か……倍を越える敵兵の数。
助けるのは困難とはいえ、見捨てるのは後味が悪い。
「だからって! 今あんたが倒れたら、後ろに逃がした兵士らも道連れになるのよ?」
魔界で合流した時には、すでにボロボロ。剣を振れっていうのがあまりにも酷い命令に聞こえるほどだった。
そんな体調でありながら、すでに十分以上も戦っている。
「……分かっているよ」
本当に分かってるのかしら?
私には焦っているようにしか見えない。
「……そりゃ、バケモノみたいな奴等が、敵味方にいれば焦るでしょうに。でもね」
そんなのは、私が魔王討伐の旅に出たときから思っていたことだ。
敵もバケモノ。私の仲間もバケモノ。バケモノがバケモノを退治する。そんな旅に放り込まれたのよ。
その上、私も人間とは大きくかけ離れたバケモノになってしまった。
「バケモノ……か」
鼻で笑うように呟く国王。
「なによ?」
「いや……なんでも、ないよっ!」
少しは冷静になったのか、今度は放たれた矢を剣で叩き防ぐ。
「こんなところで、へばっているわけにも、いかないねっ!」
「だからって、あんまり跳ばすと、最後まで持たないわよっ!」
周囲の敵を切り刻みながら、少しずつ兵士を後方へ逃がしていく。
沢山の兵士を助けるには、スピードも必要だけど、後ろに抜けさせないように気を張る必要もある。
「後ろは任せるわよっ!」
それだけを伝え、私は槍を握りしめ前に出る。
「……分かった」
短い了承を受けたところで、両脚に魔力を流し込む。魔力による筋力強化。それにより、通常よりも速く、力強く地面を駆けることが出来る。
そして、槍を体の側で力強く握り、固定する。
「『猪突猛進』!」
娘の得意技を使い、直線上にいた兵士らを吹き飛ばす。
両サイドは無傷だが、そいつらは後ろの国王が倒す。間違いなく倒すはず。
「なるべくまとまって! 後方に退きなさいっ!」
「あ、ありがとうございます! 聖女様!」
「ご武運を! 聖女様!」
次々と口にしながら、傷付いた体を引きずってでも退避していく兵士達。
今までは崇められるだけだったんだけど……
「たまの戦闘も、悪いもんじゃ無いわねっ!」




