姉に挑みます!
魔王様と別れた私は、リリアーデと共に魔界側の魔王城、その書斎へと来ていた。
「……私が封印を解いちゃったのよね」
リリアーデは落ち込んでいるようだ。
あのイタズラが大好きなお転婆娘が、ずいぶんとしおらしい態度をとっている。
「後悔しているのか?」
「後悔……というよりも、情けないって感じかしら」
情けない……か。
「自分が撒いたたねだと言うのに、私じゃ力不足。魔界の女王になったと言うのに、尻拭いすらさせてもらえないなんて……」
「それを言うなら私もだ。……もっと力があれば」
あの状態のクサリには、文字通り、手も足もでなかった。
会心の刃は、いとも簡単に止められた。
閻魔はさらに強いだろう。
「落ち込んでいても仕方がない。まずはメイド隊を叩き潰すとしよう」
「……それなんだけど、メイド隊ってどこに向かったのかしら?」
「なに? お前が指示していたんじゃないのか?」
「基本的にガスターが指示を出していたのよ。私なら、手元において守りを固めてるわよ」
「…………探すところからなのか」
探索は苦手だというのに。
「二手に別れる?」
「そのケガでか?」
私は魔王様の元に戻るだけだろうが、リリアーデは違う。
簡単な治療は行ったが、万全ではないのだ。
まともに動けるとは、とうてい思えない。
「じゃあどうするの?」
「……大陸の魔王城に顔をだしてみよう。クサリの隊が残っているかもしれん」
いきなり魔界から出ることになるが、これは仕方がない。
それに、魔王城同士なら、備え付けのゲートですぐに行来ができる。
「分かったわ。ただし……!」
「お、おいっ!?」
書斎の暖炉の側でゲートの準備をしていると、リリアーデが背中から魔力を注いでくる。
「私の魔力を別けておくわ。向こうも安全とは言い切れないだろうし」
「何を言っている? お前も……」
リリアーデが魔力を渡してきた理由が分かった。
「私はお客さんの相手をさせられるみたいだから」
書斎の中央で魔方陣が形成されたからだ。
紋様の形状と水色の魔力。
「隊長クラスなら鎌の奴だな……」
名前は忘れたが、確か、デスイーターとかいう種族だったはずだ。
「あんたよりは、私の方が戦えるでしょ?」
今の私では、物理の効かない相手では苦戦を強いられる。
それが魔王七つ道具を持つ相手なら、なおさらの話だ。
だが、怪我の具合を考慮すれば、
「私も残った方が良さそうだな」
「……足引っ張らないでよ?」
「誰が」
そんな冗談を口にしていると、魔方陣は光をよりいっそう強め
「先手必勝っ!」
召喚されると同時に、私は攻撃を仕掛ける!
「『黒剣』!」
闇属性の魔力をまとわせた一撃は、両手の平で挟み取られた。
「あ、危なぁ~」
「葵ちゃん!?」
誰だ?
本調子とは言えないが、それでも私の一撃を簡単に止めたこの女は……どこの誰だ?
リリアーデは知っているようだが。
「やぁ、おひさぁ~!」
剣を平手で受けたまま、リリアーデに挨拶をする女。
本当に誰なんだ?
「クロ。その子は魔王ちゃんのお姉さんよ」
「……………」
魔王様の姉?
姉…………。
「大変申し訳ございませんっ!!」
ことの重大さに気付いた私は、その場で即座に額を床に擦り付ける。
ま、魔王様の姉だと……!?
魔王様の身内に刃を向けたと言うのか………!?
「もう死ぬしか方法が「いやいや、いきなり重たいからっ!?」……」
「そんなことより。葵ちゃんがどうしてここに?」
完全に魔方陣が消え去り、そこには魔王様の姉様と、鎌を持った黒色ローブの女が残る。
「メイド隊の人に送ってもらったのよ。ほら、大陸も魔界も大変だろうからさ。助っ人ってことで、ね?」
ローブの女はメイド隊の隊長格だろう。
「手に持っているのは強欲の鎌ね? となれば、あんたは」
鎌を持った女は、ローブを剥ぎ取り素顔を見せ、
「デスイーターのイタコなのデス」
――キラーン。
「なんだ? 今の音は?」
「それと……そのポーズはなに?」
チョキを左目の横に添えるポーズをするイタコとかいう女。
ポーズはともかく、さっきの音はなんなんだ?
「葵の姉さんに教えてもらった、魔女っ子のポーズと専用の音デス」
――キラーン。
「鬱陶しいな」
「そのポーズもイラッと来るわね」
「お二人がなんと言おうとも、私はこのポーズをやめる気はないデス」
――キラーン。
本当に鬱陶しい。
「まぁまぁ。それよりも、亮は? 霊界に向かった?」
「なんで知ってるのよ?」
その場で決まった話であり、閻魔の動向でも追わなければ分からない情報をするりと口にする葵様。
「いやぁ~ちょっと秘密。それより、二人はメイド隊をおとなしくさせるのよね?」
本当に、どこまで知っているのだ?
「シェリーちゃんは大陸の魔王城で、クサリさんは亮と一緒に霊界。イタコっちは私と行動を共にしてるから、水晶と太刀と杖ね」
水晶はゴーレム族の娘で、太刀はアカネのことだろう。
ゴーレムの方は知らんが、アカネは私が隔離している。
おとなしく言う事を聞くかどうかは知らんが、いつでも呼び出すことは可能だ。
杖は……
「杖は誰が持っているのだ?」
今思えば、杖の形状すらよく知らん。
その問いに、リリアーデは言う。
「確か大陸の南の方だったかしら?」
「なんだ? そのうろ覚えな感じは?」
「あの人……杖を貰ったと同時に魔界を出て行ったから。不定期に届く手紙の住所で覚えているのよ。ここ数十年は手紙すら来ないけど」
「ならその人を連れてきてよ。っと、その前に」
そういう葵様は私の背中に手を当てて、
「葵様? なにをぉぉおおおおおおっ!!?」
無理やり魔力を注がれた。
おかげで変な声を出してしまったぞ。
「うーん……さすがに生身の体じゃないから、もっと入ると思ったんだけどなぁ~」
「ね、ねぇ? 葵ちゃん。なにしたの……?」
軽く引いているリリアーデは、葵に問う。
その問いに答えられるよりも早く、私は自身の体の違和感に気づく。
「……体内魔力がとんでもないことになっているんだが? 何をしたのだ?」
「その通りよ? クロノワールさんの魔力の上限値を、今の八倍くらいにしたのよ」
「「………………」」
魔力の上限値を引き上げてくれたことには感謝するが……
「突然やるのはやめてもらえるだろうか?」
心臓に悪い。
「そもそも、一時的とはいえ、他人のステータスを引き上げるなんて「一時的じゃないわよ?」……はい?」
「だから、一時的じゃなくて、半永久的によ? 私が死ぬまで、クロノワールさんの魔力値は八倍の状態だから」
「「………………」」
あ、ありえない。
「半永久的に上限値を引き上げた状態って……葵ちゃん。あなたって何者なのよ? 魔王ちゃんのお姉さんにしては、規格外にもほどがあるわよ?」
「うーん……今は秘密かな? それよりも、リリンさんも。ほら、背中を貸してちょうだいよ」
軽い抵抗をしているリリアーデの背後に回り込み、私と同じような悲鳴を上げさせた葵は、
「それじゃあ、私とイタコは大陸に行ってくるわね」
「行ってくるのデス」
――キラーン。
まだ鳴るのか。この不愉快な効果音は。
そして、魔法陣を展開した二人は、私たちを残して消え去った。
「リリアーデ」
「私も知らないわよ? 魔王ちゃんの身内ってことは聞いてたけど」
魔王様よりも規格外ではないか。
「それよりも……どうしましょ。私の魔力、とんでもないことになってるんですけど……?」
「それを咎められる前に逃げ出したという考えに行き着いてしまうのだが……」
リリアーデの魔力値は、もともとの状態でも私より遥かに大きかった。
葵様に八倍にされたことにより、リリアーデの三倍程度になったのだが……
「以前の二十倍って……これ、私が放てる最大魔力の魔法を二週間は打ち続けられるレベルよ?」
いろいろと規格外すぎて、あの人には二度と会いたくないと思ってしまった。
なんの努力もしないで急激な成長を遂げるってのは、ある種のチートだと思うんですよね。
こんな感じで、文章力とか、アイデア力とかが上がればいいのに……
いや、そんな都合のいいことなんて、ないですけどね?




