初めての拠点奪還に挑戦!
「全員! 撤退っ!!」
クサリさんの号令で、俺を除く兵士たちが下がっていく。
魔獣が飛び出てきたからな。
今のところの対抗策は、俺が相手になることだけ。
「というか……今思えば、よくこれだけの人数が生き残っているよなぁ…………」
俺と言う対抗策以外となれば、神器と呼ばれる武器防具の類いのみ。しかも、扱える人間が限られてくる。
「頼んだぞ、棚部!」
「了解!」
クサリさんから激励された俺は、地面を強く蹴って魔獣の目前へと躍り出る。
右手を引いて、魔力を込め、
「『剛打連拳』!!」
魔獣の顔面、前足、腹部と殴っていき、一体の魔獣をフルボッコする。
「よし! 全員、突撃!!」
魔獣がピクリとも動かなくなったところで、クサリさんは突撃命令を出す。
兵士たちが唸りをあげながら、砂上に建つ真四角の建物へと攻めていく。
俺は反対方向に歩いては、日除けとして設置されたテントで一休みだ。
一応、作戦の要だからな。バテて力が出ない。なんて事になったら、大惨事に一直線だ。
「棚部」
「おう? なんですか?」
テントで寝転んでいた俺は、クサリさんに呼ばれる。
「お前は一体、何者なんだ?」
1年くらい前にもクサリさんに聞かれたなぁ……。
まぁ、目の前にいるクサリさんは、クサリさんじゃないらしいし。
「……ちょっと特殊な人間…………だな」
前回はボケて白い目で見られた覚えがあるからな。
「………………そうなんですか」
あ、あれ?
何で白い目で見られてるんですかね?
「まぁいいや。それよりも、これが終わったら解放してくれるんだよな?」
「棚部はしつこいな……。ちゃんと約束しただろ?」
あんまり宛に出来ないんだよなぁ……。
それに、俺が周りの空気に流され無いようにするための保険でもある。
「それに、神器があの中あるのだ。それだけでも回収できれば、後はこちらだけでなんとかなる」
なんとかなってくれれば……いいんだけどなぁ…………。
うまく言い表せられないが、大概、残念な結末が待ってるんだよなぁ……こう、順調な時ってのは。
「で。見事に大当たりって訳か……」
拠点を取り返した俺達は、早速武器庫を捜索した。
いや、しようとしたってのが正しいな。なんせ、手をつけるまでもなく、酷い状況だと理解できるんだから。
「よもや、神器が壊されていたとは……!」
冷静に言っているクサリさんだが、顔色は最悪だ。
「神器は修復できるのか?」
「いや。我々魔界の人間では、閻魔様を除いては無理だ」
そういや、この時代に『魔王』は居ないんだったっけか?
首を折って項垂れているクサリさんには悪いが……こっちはこっちの都合がある。
「そんじゃ「まて」……なんだよ?」
クサリさんに別れを告げようとしたところで、ずぅーっと黙っていたトーテムポールが止めに入る。
「神器が壊された事実は、オルの記憶にない」
「……つまり?」
「魔獣の時と同じだ。オルをバラバラにした奴の仕業に違いない!」
はた迷惑な奴だな。ちょっとイラっと来たぞ。
「それじゃなにか? 神器の修復をしないと、オルを探しに行くのは不味いって事か?」
俺の問いに トーテムポールは、黙って頷いた。3つともが器用に縦に動いたぞ。
「だとしても、誰が修復するんだよ? 俺は、まともに工作なんてできねぇぞ?」
「工作の必要なんか要らねぇよ」
は?
「神器の修復は、我々がする。お前は、誰にも見られないようにカモフラージュをしてくれ」
あぁ……そういうこと。
トーテムポールの姿や声は、俺にしか分からない。
そんな状況で、壊れた武器が修復されようものならば、大騒ぎになるだろうな。簡単に想像がつく。
「分かった。クサリさんを説得する……!」
まぁ、これは後で気が付いたんだが……俺って、交渉事も苦手なんだよなぁ……。




