イブ・スクスさんに挑戦!
目を覚ました時には、すでに色々な話が飛び交っていた。
「おい、これからどうするんだよ?」
隣でイビキをかいているトーテムポールに小声で訪ねる。
この時代の記憶には、もう用事がないって聞いていたのだが……。
「仕方がねぇだろ? こんな人前で転移が出来るかよ」
「……やっぱ、バレたら不味いのか?」
「少なくとも、元の時代には帰れないだろうな。既に手遅れだが……」
手遅れとか言わないでほしい。
「まぁ、小せぇことは気にすんな。変わると言っても、城の形が少し変わるぐらいだ」
「お、おう……」
それは果たして小さいのか? 規模が分からん。
「っで? これからどうするんだよ? 明らかに俺を戦闘要員に数えての作戦会議だぞ?」
と言うより、俺が寝ている目の前で会議を開くか? 普通?
「これ以上の干渉は不味い。出来ることなら、すぐさまこの場を離れたいところだがな」
仕方ない。
「おい、どこに行く?」
俺が立ち上がったところで、会議に花を咲かせていた連中は黙り混み、俺の方へと一斉に視線を向ける。
俺は、どこかの王様か? こんな注目はゴメンだ。
「トイレだよ……」
「ふむ。それなら、おい!」
「はっ!」
クサリさんは、側に遣えていた男の兵士を呼びつけると、顎で俺に付き添うように指示を出す。
……トイレに行くのに、付き添いは要らねぇんだけど。
とにかく、今はこの兵士と1対1の状態だ。
兵士には悪いが……ここで気絶させれば、逃げる時間が稼げるだろう。
「……ごめん」
「はい? うぐっ!?」
腹に一撃を入れて、その場で崩れ倒す。
「色々と訳ありなんだよ」
俺は、兵士を横に寝かせ、その場を離れ――
「おい! そこで何をしている!?」
えぇー……。
「バレるの早くないか?」
白い目で俺に槍を突き付けている兵士を睨む。
「すまないが、得体の知れない人物を野放しに出来ないからな」
俺を見つけた兵士の後ろから、平然と現れる大人っぽい女性。
クサリさん……あんたかよ。
この時代のクサリさんは、とんでもなく用心深い。というより、俺へのマークがきつい。
「悪いんだが、俺にも用事があるんだよ。だから、解放してくれねぇかな?」
「無理だ」
まぁ、そうだよな。
「そもそも、あの魔獣に対抗する手段が我々にはない。神器の数も、扱える人間も限られているからな。だが、お前はどうだ? 神器はおろか、棒切れ1つも持たずに魔獣を殺した」
今更だが、遠距離攻撃で何とかすれば良かったかもな。本当に今更だが。
「でも、俺1人が加わったところで、大きく状況は変わらねぇぞ?」
「大きく変えてもらう必要はない」
反論する俺にクサリさんは、悲しげな表情で訴えてくる。
「目に見えないほど小さな変化でもいい。とにかく、現状を変えたいのだよ……」
「……………………トイレに行かせてくれ」
「あぁ」
今度は信用したのか、誰も付き添わせずに1人で向かわせてくれた。
「なぁ、1つ聞いていいか?」
個室に入り、小声でトーテムポールに訪ねる。
「なんだ?」
「もし、俺がこの場にいなければ、どうなっていたんだ?」
あくまでも「もしも」の話だが。
トーテムポールはそれぞれの顔を渋らせては、俺の質問に答える。
「まず、クサリは死んでいたな。次に、お前がこの世界に来ることはなかった。あとは……」
意外とはっきり言いやがるな。
「そうだな。あとは、この世界に人はおろか、生物が居ない星になってただろうな」
「……そうか」
まぁ、なんとなくイメージ出来たけどな。
「……どうせお前のことだ。この時代のクサリを助けたいと考えてるんだろ?」
「……あの顔をみせられたらなぁ」
背格好とか、顔の輪郭とか、色々と違うけど……本当に困っているときの顔だったしなぁ。
「お前、チョロいんだな」
「うるせぇよ」
俺はトーテムポールに軽くチョップして、個室を出た。
「っで……俺は、何をすればいいんだ?」
大広間に戻ると、開口一番に俺は、クサリさんに訪ねる。
「まずは本部を取り返す。そのためにも、お前の力が必要だ」
クサリさんは、部屋の中央に広げられた地図の1ヶ所を指差して、俺に返答する。
「ここが攻撃の拠点になっており、武器防具の管理もされている。奴等に対抗するには、ここの奪還が先決だ」
指差されていた箇所にバツ印をうつクサリさん。
更に続ける。
「ここの奪還後は、そのまま東に進軍。本体と合流して魔窟を潰す……!」
「魔窟ってなんだよ?」
俺は、クサリさん達に聞こえないように、行きを漏らすような声でトーテムポールに訪ねる。
「魔力を吸う魔獣がいただろ? アイツ等の巣のことだ」
「基本的には、世界と世界の狭間に出来るんだけど、陸地に出来ているみたいね。……かなり侵食が進んでいるみたい」
1段目、2段目と話を進める。
「侵食って……このまま放置するとどうなるんだよ?」
「ざっくり言うと、片方の世界が消滅するわよ?」
ざっくりというか、サックリ言いやがったな。コイツ。
その後も、クサリさんを先頭に会議は進んだ。
結局。俺は、拠点を取り返すところまでは手伝うということで作戦に組み込まれた。……わけなんだが
「絶対、そのあともズルズル利用されるだろうなぁ……」
神器でしか対抗できない魔獣に、素手で殴り飛ばしているんだ。
そんな奴を利用しない。なんて事は無いはずだ。
「拠点を制圧したら、速攻で逃げるか」
最悪。目処がたてばフェードアウトすればいい。
そして、拠点奪還への作戦が開始された。




