再び、太古の魔獣に挑戦!
「このっ!」
飛び上がった魔獣に拳をぶつける。
しかし、ゴワゴワした毛皮に衝撃を吸収された挙げ句、魔力を微量に吸いとられる。
おかげで、『炎の鎧』も解けちまったし。
「『轟小砲』!!」
両手を当てて魔力を叩き込む。
「ガルッ!?」
体が宙に浮いたことに驚いたのか、短く吠える獣。
ただ、これも大したダメージは無さそうだ。魔力の無駄遣いみたいなもんだな。
「右から来るぞっ!」
「分かってるっ!」
俺の腰ほどの太さを持つ木すら、簡単に斬り倒す爪。それが、右前方から降り下ろされる。
「爪切りくらい、自分でしやがれっ! 『轟打』!!」
両腕の魔力を限界まで高め、左腕で爪を反らし、右腕で挟むようにして爪を殴る。
ガリガリと音をたてる爪。小さなヒビは入ったみたいだが、折ることは出来なかったか。
「大丈夫か?」
「これぐらいなら問題ない」
反らしたときに左腕を引っ掛かれたみたいだ。血がダラダラと流れていた。
「単純にあと4回も同じことをするのか……」
4回で済むかどうかも怪しいが。
「大丈夫かっ!?」
突然の掛け声。その声の方へと視線を向ける。
「クサリさんっ!? なんでっ!?」
「私の名はクサリではない。イブ・スクスだ」
「……っで、なんで来たんですか?」
突然の自己紹介をされた俺は、再度訪ねる。
「どこぞのバカが、魔獣相手に苦戦してるようだからな。加勢に来ただけだ」
この時代のクサリさんって、かなり口が悪いなぁ……。
「それよりも、あと数分は粘れよ」
「数分な。それ以上は無理だぞ?」
事実、右腕一本で戦うことになるんだからな。
「ふんっ。自慢ではないが、私は冗談すらろくに言わないのだよ」
「……だろうなっ! 『剛打』!!」
飛び掛かってきた魔獣に一撃を入れて、追い返す。
相変わらず、毛皮が邪魔してダメージは無さそうだ。
「あの分厚い毛皮がなんとかなればなぁ……あ」
「どうした?」
「いや……なんとかなるかも知れねぇっと思ってな」
戦闘では1度も使ったことがなかったんだよなぁー。だから、完全に忘れていた。
「『風の羽衣』!」
「……呆れた青年だな。自分に属性付与するなど、バカのすることだ」
「まぁ、見てろって」
俺は屈伸をするようにその場で膝を曲げて、前の方へと倒れていく。
普通に歩くことが出来ないからな。うさぎ跳びをすれば、上に上に上がっていくだけだし。
地面と平行に移動するには、今みたいに前に屈みで勢いをつけるしかない。
「向こうからこれば、かなり楽なんだがな……」
とはいえ、1度でかなりの距離を移動できるようになった。日々の成長を感じるよなぁ~。
「おいっ! 上から来るぞっ!!」
「分かってるっ!」
俺は高跳びをするみたいに背中を地面に向ける。
空を見上げた形になったところで、正面には獣が爪を降り下ろそうとしていた。
握り拳に魔力を溜め込み、空いている脇腹へと叩き込む。
拳には無数の鎌鼬が渦巻いており、剛毛な毛を刈り取っていく。
ただ。こいつは、それだけに留まらなかった。
柔らかい鶏肉みたいな感触を指で感じると、一気に魔力が破裂しようと膨らみ出す。
俺は、魔力の勢いに逆らうどころか、背中を押すように一気に新技の名前と共に、魔力を解放させた。
「『風神・轟打』!!」
四方に爆発するように、風の刃が辺りへと飛び散る。魔獣の内臓も無事では済まない。
俺は、『風の羽衣』によって無傷だ。
「オォォォォオオオ!!」
肉片を散らかしながら、咆哮する魔獣。まるで、最後に力一杯煌めく蝋燭のようだ。
とにかく……
「なんとか倒せたな……」
「あぁ! おいっ!?」
クサリさんに唖然とされながら、俺はその場で気を失った。




